「九条の会・わかやま」 31号を発行(2007年4月20日)

 31号が4月20日発行されました。1面は、「九条の会」憲法セミナー(京都・3月17日)の参加手記、そして「九条噺」。2面は、ドキュメンタリー映画「戦争をしない国 日本」の鑑賞記と若者たちへ一見の勧め、6月2日に和歌山で講演する品川正治氏の著『九条がつくる脱アメリカ型国家』の読後紹介です。
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鶴見、有馬両氏 9条の心熱く語る
 「九条の会」憲法セミナー(京都)に参加して

     「九条の会・わかやま」事務局 南本 勲

    3月17日、立命館大学で開催された「九条の会」憲法セミナーに参加しました。鶴見俊輔氏(哲学者、九条の会よぴかけ人)、有馬頼底氏(臨済宗相国寺派管長、金閣寺・銀閣寺住職)が講演しました。

 私は戦争で人を殺したと思っている

鶴見俊輔氏 (哲学者・九条の会呼びかけ人)

 鶴見俊輔氏は「自分という根拠に立って」というテーマで次のように語った。
 私は常に自分を探すというテーマを求めている。私は自分がやったことを、ごまかし、正当化する誘惑にとらわれる。それを排除する自信がない。したがって、私は、戦争に係わる自分がやったことを振り返りたい。
 1941年秋、米国にいた。ハーバード大学で、シュレシンガー教授、都留重人と3人で日米戦争になるかを議論した。他の二人は、負けることが分っている戦争をするはずがないという。だが、自分は違っていた。自分の育った環境から「日本は戦争をする気になっている」と思っていた。交換船で日本に帰ることになった。それは愛国心からではない。自分は必ず日本は負けると思っていた。国が負けることがはっきりしている戦争に国民を突っ込もうとしている ときに、自分だけが米国で飯を食べていていいのかという、同胞感からであった。日本に帰り、海軍でドイツ語通訳をした。そのときポルトガル領ゴアの黒人を殺せという命令に会った。自分にその命令がきたのではなかったが、自分にくる可能性もあった。もし、それが自分にきたのなら自分はどうしていたか。恐怖心に負け、命令に従っていたことは充分にあり得る。私は戦争で人を殺したと思っている。自我はゆれる。私は常に自分自身を告発することを理想としていきたい。戦争が終り、一人の米国の友人が「アメリカはゆっくりと全体主義になる」と言った。そんなことはないだろうと思ったが、2001年の9・11から、予言は当たったと思っている。
 「私は今『九条の会』呼びかけ人をしているがこれは栄誉であると思っている」と話しました。

 必ず来る。世界中に「9条の国」

有馬頼底氏 (金閣寺・銀閣寺住職)

 有馬頼底氏はプッシュ大統領夫妻が金閣寺に来たときに、「世界が平和でなければいけませんね」と言ったら「YES」と言ったというエピソードも披露しながら、次のように語った。
 禅の目的は「生と死を乗り越える」ことだ。「生と死」はたった二つの事実であり、その間にある現実の毎日のことは次々に消えていくものであり、だからこの二つをしっかりと見つめていくことが大事だ。仏教には「五戒」というものがある。社会生活をする上で最低限のルールであるが、その中で「不殺生戒」がもっとも大事だ。お釈迦様は生まれたときに「天上天下唯我独尊」と言ったといわれるが、そんなことを言う訳もないのであって、それは産まれたときの産声のことである。それは、誰に犯されることもない人権が生れたという人間宣言なのである。生れたときの純真無垢な人間性が濁ってくるのは煩悩によるのであって仏教の最終目的は煩悩を取り払い本当の人間性に目覚めさせることである。人間は死ぬことによって煩悩から解放されて自由を獲得するが、できれば生きている内にそうなった方がよいと考えるのが仏教である。仏教では「すべて存在するものには命が輝いている」「すべて存在するものは仏なのだ」と考える。輝いている生命を奪っていいわけがない。仏が仏を殺していいわけがない。だから、「不殺生戒」が最も大切なのだ。最たる悪行は戦争なのだ。唯一「戦争をやりません」と言ったのが日本だ。今、日本では「国民投票法案」で、どうのこうのと言いながら、これを変えようとするバカがいる。それは戦争の道を開いているだけだ。必死で守ってきた9条を崩していいはずはない。9条を世界中の国が採用しないと戦争はなくならない。仏教の慈悲の精神でないと救われない。
 9条の心を全世界の国が採用してほしい。私はそのときは必ず来ると信じている。目を覚ました日本人は憲法9条を守り、「九条の会」をもっともっと日本中に広げたい。それが世界の平和につながる。できるのは日本人だ。みんなでがんばりたい。と話しました。

 正しい判断力を身につけよ

 若い人へのメッセージということで、鶴見俊輔氏は「『自分で決めること』が大切。戦争は最たる悪。国が強制してきても、これに抗する『悪人性』を自分の中に作ってほしい」と述べた。鶴見氏のいう「悪人性」とは「反抗精神」といったもののようだ。
 有馬頼底氏は「パカな大人のいうことを聞いてはいけない。若者が将釆の日本を決める。正しい判断力を身につけてほしい」と述べた。
 せっかく大学で開かれたのに、会場に学生の姿が少ないことが少し気がかりでした。

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【九条噺】
 安倍首相が「美しい国づくり企画会議」を設置し、4月3日に第1回会合をもった。世耕 補佐官は「国民に美しい国とは何かを考えてもらう運動だ」と言っている▼安倍首相が言う 「美しい国」とは何か。まさか、本紙23号の「美国(アメリカの中国語表記)」ではあるまい▼広辞苑によると「美しい」には「きれい」以外に「好ましい」「心を打つ」「潔い」といった意味もあるという▼安倍首相の政権構想「美しい国日本」にはいろいろと書いてあるが、決して見逃せないものに、「日米同盟の強化」「経済分野でも同盟関係の強化」「21世紀の日本の国家像に相応しい新たな憲法の制定」「教育の抜本的改革」がある▼これらは、アメリカの意図に沿って、軍事同盟関係を強化し、集団的自衛権を明文化し、グローバリゼーションの名の下でアメリカ型の産軍一体、弱肉強食、格差拡大の経済政策を日本で一層押し進め、仕上げに「海外で戦争できる」ように憲法9条を改悪し、それらに従う人づくりとしての教育の改悪を進めようというものであろう▼これらのどこが「美しい」のか。どこが「好ましく」「心を打ち」「潔い」のか。全国会議の有識者が「日本らしさ」とか「日本の美しさ」とかを抽象的に議論してみても、それは憲法9条改悪などの意図を「きれいごと」で覆い隠す役割を果たすだけのことではないだろうか。(南)

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若者へ、君達の未来のためにぜひ観てほしい
 ドキュメンタリー映画「戦争しない国 日本」を観て

      南本 勲 (九条の会・わかやま 事務局)

 ドキュメンタリー映画『戦争をしない国 日本』を観た。
 この映画は、どんな状況の中で日本国憲法ができたのか、日本国憲法に対して国家権力・日本国政府はどのように対処してきたのか、それに対して、日本国民はどのように立ち向かってきたのかを、戦前の1920年代から現在の安倍政権に至るまでの歴史の事実を映像で描いている。
 どのような歴史の事実が描かれているかを、主な項目をあげてみよう。
▼天皇に主権(大日本帝国憲法 教育勅語など)▼靖国神社▼中国侵攻の日本軍(満州国建国、上海爆撃、三光作戦など)▼日独伊3国同盟▼真珠湾攻撃▼日本軍侵攻の勢力図▼学徒出陣▼学童疎開▼強制連行▼敗退する日本軍▼日本全土に広がる空襲▼沖縄戦▼広島長崎への原爆投下▼ソ連の侵攻▼ポツダム宣言受諾▼GHQの5大改革▼労働組合、農民組合の結成、戦後初のメーデー▼新憲法公布▼教育基本法制定▼アジア各国の独立▼冷戦構造▼アメリカの占領政策転換「日本を全体主義の防壁に」▼ロイヤル文書(日本の再軍備、憲法「改正」要求)▼ソ連の原爆実験▼中華人民共和国建国▼朝鮮戦争▼警察予備隊創設▼レッドパ ージ▼戦犯容疑者復活▼朝鮮特需▼単独講和条約調印▼安保条約締結▼血のメーデー▼拡張をつづける米軍基地▼日本から切り放された沖縄▼保安隊設立▼日米相互防衛援助協定締結▼自衛隊成立▼ビキニ環礁水爆実験▼第1回原水爆禁止世界大会▼バンドン会議(平和10原則)▼日米安保条約改定▼新安保条約、国会で強行採決▼安保闘争▼砂川闘争▼三矢作戦発覚▼恵庭裁判、無罪判決▼ベトナム戦争▼ベトナム戦争に協力する日本政府と大企業▼核の持ち込みの密約文書▼沖縄返還運動▼核抜き・本土並み▼ベトナム反戦デモ▼アメリカのベトナム反戦運動▼憲法を生かす革新自治体の躍進▼増大する防衛費▼膨脹する軍需産業▼国連軍縮特別総会に世界から100万人▼中曽根首相靖国神社公式参拝▼中曽根・レーガン会談▼東西ドイツ統一▼湾岸戦争▼戦後初の海外派兵▼PKO法成立▼新ガイドライン締結▼9・11同時多発テロ▼アメリカに追随する日本政府▼有事法制関連3法可決▼アメリカにNO!を突きつける国連安保理▼イラク戦争を強行▼大量破壊兵器論争▼アメリカの勝利宣言▼自衛隊初の戦闘地へ派兵▼「九条の会」結成▼ハーグ平和会議▼世界に広がる9条の精神▼自民党圧勝、改憲の動き加速▼自民党の「新憲法草案」▼アメリカと財界の圧力▼日米安全保障協議委員会▼米軍再編の意図▼米軍による事故▼基地のない平和な沖縄を▼基地反対に立ち上がる人びと▼ブッシュ大統領と小泉首相▼アメリカの軍事介入の歴史▼アメリカに追随する小泉首相▼歴代首相の語録▼憲法「改正」をかかげる安倍政権
 この映画はまさに日本の近・現代史の歴史教科書である。項目を追うだけでも、どのような背景で9条を中心とする日本国憲法が制定され、「戦争をしない国・日本」がつくられたのか、何故、憲法を改定する動きが出て、「戦争をしない国・日本」が脅かされているのか、また、憲法9条は日本が世界と交わした反戦の約束だと言われるのは何故かなどがよく分る。
 「歴史に学ぶ」とは何か。「歴史に学ぶ」とは起こった事実を正確に掴み、その背景や原因をしっかりと分析し二度と過ちを犯さぬように手立てすることでなければならない。歴史に学ばずしてどうして未来が語れようか。
 今の若者たちは歴史を知らないとよく言われるが、それは、知らせてこなかったということであり、彼らは「知らないこと」を知らないのだろう。彼らが気づくためにも、若者たちにもこの映画を大いに広めなければならないと思う。
 「戦後60年、日本は戦闘でひとりの日本人も、ひとりの外国人も殺していない」と言われる。誇るべきことである。小泉前首相や安倍首相までが、そう言う。これは、解釈改憲が 進められ、イラクの戦闘地域に自衛隊が派遣されても、厳然と存在する憲法9条によって海外での戦闘が禁止されているからに他ならない。
 しかし「日米同盟は日本の基本戦略」などと言う彼らにそんなことを言う資格があるだろうか。戦後のアメリカの侵略は、中国、朝鮮、キューバ、ベトナムから、継続中のイラク、アフガニスタンまで20カ国にもなる。アメリカは「戦争をしつづける国」なのである。「戦争をしない国・日本」が「戦争をする国・アメリカ」と軍事同盟関係を結ぶなどという大 きな間違いを許してはならないことを、この映画は我々に教えている。

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「国を変えようとする動き、看過できぬ」この情熱に感動
 品川正治著『九条がつくる脱アメリカ型国家』を読んで

      阪中 重良 (九条の会・わかやま 事務局)

 品川正治さんの講演会が、6月2日にプラザホープで計画されています。品川氏の著書「9条がつくる脱アメリカ型国家」(青灯社)を読みました。
 全編を通じて、著者の「9条は守らなければならない」の思いが、ひしひしと伝わってきます。品川氏は、「戦争を起こすのも人間ならば、それを止めようと努力できるのも人間」というのが自分の座標軸であり、それは自分の戦争体験から学んだと言います。
 品川氏は「アメリカは絶えず戦争の構えを崩さない国であり、絶えず武力で解決を図ろうとする国、一方、日本は、平和憲法を持つ国であり、絶対に戦争をしないことを国是としている国、日本とアメリカでは価値観が違う。いずれアメリカを問う時代がくるにちがいない。」また 「アメリカ型資本主義の骨格は軍産複合体だ。日本の経済は軍産複合体を形成せずに経済大国を実現しえた最高のモデルだ。いったい、どこに、この形を変える必要があるのか」と言います。
 前作の『これからの日本の座標軸』という本の中で「私は、三高の学生であったのが、陸軍のただの一兵卒として戦地に赴くことになった。」「精鋭の戦闘部隊に配属され、前線の戦闘で銃弾が体に4カ所、突き刺さるという戦争体験をした」という品川氏の記載があり、私は、なぜ品川氏が一兵卒として戦闘部隊に行くことになったのかと不思議に思っていたのですが、この本を読んで納得しました。それは、無二の親友が軍人勅諭を読み替えて大問題になり、三高の生徒総代であった品川氏が、校長に「三高の生徒総代として責任をとり、退 学して陸軍に一兵卒として志願させてもらいたい旨、軍に嘆願書を出したい。」と直訴したことを明かしています。品川氏の人間性の躍如たるところだと思いました。
 この本のあとがきで、品川氏は、「今、目の前にくり広げられる状況は、戦争を唆(そそのか)す言論であり、戦争の予兆のような政治の動きである。そして、憲法を「改正」して戦争の出来る国にしようとする策謀である。私は黙って見過ごすことはできない。この動きを停めなくてはならない。叫ぶだけでは戦争は停まらない。私の持てる力をふりしぼってでも、この国の形を変えようとする力に抗わなければならない。体力の衰えを百も承知の上で、全国を行脚説法を続ける」と気追の決意を述べられているのですが、私は、品川氏は、三 高生のときと同じく青年のような勇気と情熱を今も持ち続けておられる。そこに深い感銘を覚えました。

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(2007年4月21日入力)
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