「九条の会・わかやま」 32号を発行(2007年4月30日)

 32号が4月30日発行されました。1面は、朝日新聞3月26日夕刊に紹介された、品川正治氏の主張、6.2品川正治講演会の案内、そして「九条噺」。2面は、「経済人は平和に敏感でなければ」と説く三井物産戦略研究所所長・寺島実郎氏のインタビューと、同氏著書『寺島実郎の発言Ⅱ 経済人はなぜ平和に敏感でなければならないのか』の書評です。
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[本文から]

国民を忘れ、おねだりは見苦しい
 朝日新聞が「御手洗ビジョン」に異を唱える品川正治氏を紹介

     3月26日付け朝日新聞夕刊は、安倍首相の「美しい国」作りに呼応した財界の将来構想「御手洗ビジョン」に、「民主導といえども、所詮は財界の利益。財界は国民が主権者ということを忘れている」と異を唱える品川経済同友会終身幹事の主張を掲載している。他紙読者のために全文紹介します。 (見出し=編集者)

 その日、安倍政権と財界の関係がくっきりと見えた。
「日本ではまだ個人献金は定着していない」「銀行も企業市民として…」昨年12月19日、三菱東京UFJ銀行頭取の畔柳信雄(65)は全国銀行協会会長として会見し、政治献金の再開を語る。
 ゼロに近い金利しか払わず、納税もしていない銀行が献金を考えたのは、財界総本山の日本経団連から求められたからだった。
 しかし、その日夕、首相安倍晋三(52)はテレビカメラの前で話した。「銀行からの献金は国民の理解を得られない」。はしごを外され、銀行界はぶぜんとする。
 経団連会長、御手洗富士夫(71)の持論は「国際競争カの強化、産業の底上げ」だ。法人税率を引き下げ、労働法制を緩和してほしいと政府や自民党に働きかけていた。銀行献金の曲折には、権力者と商売人の「越後屋・お代官さま関係」が見える。年が明けて経団連は、将来構想、「希望の国日本」と呼ばれる「御手洗ビジョン」を発表。
 御手洗は序文にこう書いた。
 「私は66年から89年まで、米国で過ごした。アポロの月面着陸に代表される偉業から、二ユーエコノミーまでの時期だ」。レーガン大統領の「強いアメリカ」が人々を勇気づけ、企業減税、規制改革などが空前の繁栄につながる。「改革を実現する道筋を記すことが 本ピジョンの狙いである」。
 経済成長を第一にする自民党幹事長中川秀直(63)の「上げ潮戦略」とぴったリ一致する。日の丸、君が代や憲法改正では、安倍の「美しい国」に波長を合わせた。
 そんな御手洗経団連の姿に「こんなにまで政権にすりよっていいのか」と異を唱える財界人がいる。品川正治(82)経済同友会の終身幹事。「頼んだことを実現してもらおうと、おねだりしているようで見苦しいね」
 一兵卒として中国戦線に送られ、部隊は壊滅、九死に一生を得て復員した。中学教師をしたあと日本火災海上保険に入り、社長、会長に。戦争は人や国家を狂わせる。それが骨の髄までしみている。
 「米国は問題を解決するのに軍事行動も辞さない。戦争を放棄した日本と価値を共有する国ではない」
 レーガン政策は成長を高めはしたが、貧富の差を深刻にした。日本のめざす道ではないと品川は思う。
 安倍を指南した小泉純一郎(65)の政権は、市場原理で国に活カをもたらそうとした。オリックス会長の宮内義彦(71)が「企業活動を自由にする」規制改革の切り込み隊長だった。だが、格差は拡大したのでは?「経済人は専ら成長路線、分配は政治の仕事。ただ成長を阻害するような分配の仕方はよくない」
 規制があるから利権が生まれる。政府の審議会を足場に官と戦った。「メディアに情報を漏らして、つぶしにかかる官僚さえいた」。だが、規制緩和を自分の企業に役立てたとの批判もあぴた。逆風にげんなりしたこともある。安倍政権になり、御手洗とともに経済財政諮問会議の民間議員になったのは丹羽宇一朗(68)。伊藤忠の社長時代は経営再建に忙しく、会長になって財界活動にのめり込む。
 「小泉さんがやり残した公務員制度や医療などが改革の本丸になる」。安倍を「郵政の小泉さんを上回る改革者になれる」という丹羽には、天下りを封ずる「人材バンク」が当面の主戦場だ。
 ウシオ電機会長の牛尾治朗(76)は歴代内閣のご意見番だった。小泉時代、規制改革では宮内と、諮問会議では竹中平蔵(56)と気脈を通じた。長女は安倍の兄の三菱商事中国支社長、安倍寛信(54)の妻。「いま表面に出ることは遠慮したい」と牛尾はいう。
 旧制三高の先輩の品川は、同友会で代表幹事となった牛尾を専務理事して支えた。いま「藤原道長の心境だろうね」と冗談めかす。品川は、財界の勢いを「おごりだ」とみる。「民主導といっても、しょせん業界の利益。経済は国民が主権者だということを忘れている」
 品川の批判をどう思うか、記者会見で御手洗に聞いた。
 「価値観が違う人と議論しても、神学論争になるだけです」。

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   希望へのメッセージ <憲法問題講演会>
財界リーダーが直言する「これからの日本」
 「戦争・人間・憲法9条」
講演 品川正治 経済同友会終身幹事・国際開発センター会長
6/2 プラザホープ4Fホール  (午後2時開演・入場無料)
「憲法9条を守る和歌山弁護士の会」「九条の会・わかやま」

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【九条噺】
 「素粒子」は言う。「正体見たりの安倍流。国民投票法案の採決を強行。国論二分の安保を強行採決した祖父の血かね。」(4.13「朝日」夕刊)「なるほど」と思いつつ両者の違いを考えてみる▼60年当時高校生の小生らは、担任の同意のもとに、社会科の授業やホームルームを討論会に変え安保の是非を熱く語り合った。京都の田舎町だったが、町中に「安保」があった。しかし「祖父」は、圧倒的反対の世論に対して「声なき声を聴く」と称し て強行におよんだ▼ひるがえって、その「孫」はどうか。同日夜のABCテレビ報道ステーションでゲストの辻信一明治学院大学教授は「うちの300人の学生たちで、この法案の中身を知っているのはわすかに6名程度だった」と語ったが、明治の学生に限った話ではあるまい。つまり、「強行採決の血を引く孫」は、内容が国民の間に殆ど知られていないことを 承知でコトに及んでいるのだ。ここには「祖父」にない薄気味悪さ、卑劣さもみてとれる▼この夜、キャスターは「我々メディア側にも責任がありますね」と、とりあえず「自省」してみせた。しかし、全国各地で繰り広げられてきた「改憲手続き法案反対」の運動も、日弁連をはじめ名だたる団体の声明なども含めて殆ど無視してきて、強行採決の後にようやく法案の問題点をいくつか指摘するだけというパターンが常態化していることこそ悲しい。「孫」は「祖父の血」を受け継いだが、60年当時のジャーナリストたちの「血」は継ぎ手を失ったようである▼草の根の「九条の会」の広がりは、次第に与党会派にも影響をもたらしつつあると聞く。各紙のアンケートの変化も無縁ではないと確信する。希望はやはり「九条の会」にある。(佐)

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経済人は平和に敏感でなければならない

     少し前ですが「革新懇ニュース」が三井物産戦略研究所所長寺島実郎氏のインタビュー記事を掲載しました。「非軍事産業で経済大国に発展した日本」というスタンスは品川正治氏と同じではないでしょうか。財界サイドにあってその発言は注目です。皆さんに紹介しましょう。

三井物産戦略研究所所長
  寺島 実郎 さん

 結論が出たイラク問題

 イラク戦争について私は一貫して「不合理で、不必要な戦争だ」といってきました。アメリカのイラク攻撃が差し迫っているといわれたときも私は、日本はイラクへの武力攻撃を支持しない、国連の武力行使容認決議があっても、憲法で「紛争の解決手段としての武力を用いない」ことを国是とする日本の原則を貫くべきだと主張してきました。ちなみに私は国際活動のなかで、憲法の立場を説明したさい、それで「軽蔑すべき国だ」というような評価を安けたことは一度もありません。いま、アメリ力自身、昨年11月の中間選挙で与党共和党が敗北し、国民もブッシュ政権のイラク政策はまちがいだったとの結論をだしました。世界のなかで現在、イラク戦争が 「正しい戦争だった」などという国はまずあリません。こう したもとでブッシュ政権はいま、イラク戦争をなんとか肯定しようとして「みんなの批判も分かるがサダムフセインの専制体制を崩したことは世界の安定によかった」という論理をもちだしています。しかし、このロジックに日本政府は参画できません。なぜなら、日本はサダム体制下のイラクと、国交関係どころか友好関係さえ結んできたからです。そこで日本では、イラク戦争をどう正当化するのか。「北朝鮮問題などを考えると、アメリカが日本を守っているから、アメリカについていくことが正しかった」と、国益としてアメリカを支持したのだという議論が浮上している。しかしイラクでは少なくとも5万人から15万人という 人が死んでいる。日本の国益のためならあの人たちは死んでも仕方がなかった」といえるのか。途方もなく危険な論理です。

 21世紀の世界は国際法理と国際協調で

 日本がアメリカの「力の論理」を無批判に許容していくならば、アメリカがつくりだす「有事」に際限なく巻き込まれていきます。米軍再編問題でも、たとえば東京・横田に米軍の中核基地ができることは、アメリカの世界戦略に日本が巻き込まれることを意味します。日本はアメリカとの関係を大切にしながらも、適切な距離感と主体性を保つことを模索すべきです。イラク戦争からの3年半が日本に大きな教訓を残しているからです。「目には目を、歯には歯を」的な力の論理が挫折していくプロセスを私たちはみてきました。
 冷戦型、相対峙する構図のなかに日本をもっていく選択肢は正しくありません。21世紀の新しい世界秩序は、世界の核廃絶に向けてのルールや環境を守るルール、国境を越えた組織犯罪を処断する国際刑事裁判所構想の推進など、国際法理と国際協調の仕組みで粘り強くつくりあげていくことが重要です。
 日本の多くの経済人は同時テロの9・11(01年)からイラク戦争への流れを、ある種の計算高さでアメリカのシナリオについていき、日本政府の方針を支持しました。
 しかし経済人はだれよりも平和に敏感でなければならない。戦後60年間、曲がりなりにも平和安定的な環境のなかで生きることができたからです。また、平和産業に徹して、今日の経済国家をつくりあげてきたことに、戦後日本の経済人の誇りがあります。
 このことに思いを致して、平和や繁栄を享受する側から、次の世代にそれらを残していく側に自分の立ち位置を転換しなければいけない。それがこんどの本のタイトルに込めたメッセージです。私自身、時代の観察者であるよりも時代への関与者として発言していかねばならないと感じています。    (見出し=編集者)

▼てらしま じつろう 三井物参戦略研究所所長。1974年北海道生まれ。米国三井物産ワシントン事務所長を経て現職。著書に『新経済主義宣言』

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【書評】
 「軍事力なき経済大国」 こそキラリと光る
  『経済人はなぜ平和に敏感でなければならないのか・寺島実郎の発言Ⅱ』

 俗論の横行するマスコミ、論壇で軸足がぶれない論客として、寺島実郎氏の発言は異 彩を放つ。団塊・全共闘世代に属する寺島氏は学生時代に「右翼秩序派」と呼ばれたが いま「対米追随派」と真っ向から対峙する。ブッシュのイラク攻撃の間違い・小泉政権の「無気力な追随」、マスコミ・知識人の思考停止への根源的批判は半端ではない。
 ――ブッシュは、9・11テロを「戦争」と独断し、米国を「力の論理」に陶酔する偏狭な国に変貌させた。イラク戦争は「アメリカの世紀」の最終章を語る出来事として歴史に位置づけられることになろう。我々が得た最大の教訓は、世界秩序は国際法理と国際協調のシステムによって制御されねばならないということである、と断じる。
 21世紀の世界史における日本の役割について ビジョンと政策を政治家たちに問う。 戦後60年の歩みを踏まえ「軍事力なき経済大国」こそキラりと光ると結論。それゆえに経済人は、時代潮流の方向性に関して決して沈黙してはいけないし、責任を感じなければならない。
 こうした構想力は生半可な体験、見聞で得たものではない。渋沢栄一の研究、三井の大先輩・石田礼助の見識と生き様、鈴木大拙への傾注ほか多くの先達から学び 進化を遂げたものである。
 さらに日本のマスコミ、知識人、経済人への失望感と怒りも並大抵ではない。たとえば「悲しむペきことに、経済人の知的座標軸であるべき、日本経済新聞も、…思考停止ともいうべき、状況の中で、イラク戦争を支持し 日本政府のイラク派兵に至る政策も無批判のまま支持した」と。沈黙する進歩的知識人に対しては「9・11とかイラク攻撃だとかの瞬間に脳味噌の芯を振り絞って議論し、学んできたこと、それを集約してどうスパークさせるのかが問われる瞬間がある。どうして日本のアカデミズムで名をとどろかせた人たちが かくも沈黙し虚弱なのか」と。寺島氏が高校時代の恩師に言われた「愁嘆場にきても微動だにしない知力を身につけるのは容易ではないぞ」の言葉の響きは重い。

(東洋経済新報社・1600円)
 (ジャーナりスト588号・阿部裕より転載)

   
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(2007年5月2日入力)
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