「九条の会・わかやま」 35号を発行(2007年5月20日付)

 35号が5月20日付で発行されました。1面は、国民投票法成立・たたかいはいよいよ本番、和歌山弁護士会の憲法60周年市民集会(5月11日)、憲法九条を守るわかやま県民の会の憲法集会(5月12日)、九条噺、2面は、元朝日新聞大阪本社編集局長で木津九条の会の長谷川千秋氏による「07年憲法世論調査報道を読む①」(「九条の会」メルマガから)、日本国憲法はGHQの押し付けではない―NHKスペシャル「日本国憲法誕生」が検証 です。
    ――――――――――――――――――――――――――――――
[本文から]

国民投票法が成立
 たたかいはいよいよ本番

 憲法改正の手続きを定める国民投票法案が、14日の参院本会議で採決され、自民、公明両党の賛成多数で可決・成立した。
 民主党の鳩山幹事長は11日、記者会見で「安倍首相は誠に愚かな選択をした。これからの憲法の議論にどのように暗い影を落としていくか計り知れない」と語った
 共産党の志位委員長は「国民を全くないがしろにした暴挙だ。なぜ最低投票率を設けないのか。国民の1割台、2割台の賛成で憲法を変えてしまって良いのか」、社民党の福島党首は「はらわたが煮えくりかえる思い。国民、憲法、民主主義に対する冒涜だ」と批判した。

    ----------------------------------------------------------

5月の風に We Love 憲法
守ろう9条 いま、憲法のとき
 名古屋大学教授・浦部法穂氏が講演

 5月12日、「憲法九条を守るわかやま県民の会」主催の講演会が「ビッグ愛」で開催され、浦部法穂教授が講演されました。浦部教授の講演の大要は次のとおりです。

 安倍首相は今の憲法でその立場を保障されている。憲法を変えると言うなら、首相も国会議員も辞してからやるぺきだ。
 日本国憲法の平和主義の原点は前文の「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」というところにある。それを実現するために、9条で戦争を放棄し、戦力を持たないと決めたのである。
 戦争とはどんなものか。多くの人は「自分は守ってもらうぺき立場」と考えているが、軍隊というものは決してそういうものではない。近代の戦争は「国民を守る」とか「自由と民主主義を守る」とかの名分のもとで、資本の利益追求・拡大のために行われている。軍隊が自分たちを守ってくれると考えるのは「お人好し」の考え方である。自主憲法制定というのは、つまるところ「9条を変えて、軍隊を持つ」ということであり、日本国民の命さえアメリカに売り渡すことだ。
 「自衛隊が存在する」のもひとつの現実であるが、「国連を中心に平和な環境をつくろうという動きが大きく進んでいる」のもまたひとつの現実である。現代の安全保障とは、国家を守るというのではなく、地球温暖化、人口問題、伝染病、食糧問題等々から人間ひとりひとりを守ることである。後者の場合には軍事力は何の役にもたたない。日本国憲法の平和主義は、アメリカの世界支配には役立たないが、後者の現実に重要な指針となっている。世界の問題解決にぴったりであり、今の時代にこそ現実的な意味を持っている。

    ----------------------------------------------------------

和歌山弁護士会が憲法施行60周年記念市民集会
憲法って何やねん!どうすんねん!

 5月11日に和歌山弁護土合主催の市民集会が県民文化会館で開催された。
 第1部は、吉本興業の海原やすよ、ランディーズと由良弁護士のトークショー「憲法って何やねん!」。 第2部はビデオレターの上映で、「九条の会・わかやま」よびかけ人の月山和男氏、牧宥恵氏、6月2日に来和される品川正治氏も登場。第3部は和歌山弁護士会会員による討論「憲法どうすんねん!」。討論に参加された「九条の会・わかやま」よびかけ人の月山桂弁護士は、今の憲法を、制定当時の日本人は誰も押し付けとは思っていない。押し付けと言いながら、今、アメリカの強い要請で改憲を言うのは矛盾。撞着論である。9条2項を変えて自衛軍を認めると、これを利用する勢力が軍と癒着し、軍国主義に向かう恐れがある。環境権などの新しい権利は認める必要もあろうかと思うが、軍隊の足跡は環境破壊そのものであり、軍隊を認めながら、環境を言うのはおかしい。9条改正と別の発議にしてほしいと主張された。

    ----------------------------------------------------------

【九条噺】
 上坂冬子氏が5月2日付朝日新聞の「60歳の憲法と私」の中で「惨めな時代を思い出させる今の占領憲法を日本の憲法として認めることはできない」と述べている▼氏はまず24条の「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し」に、「親を無視していいのか」とケチをつける。「親の許し」を得られればいいが、得られない時は当事者の意思に従うのは、当然のことではないか▼氏は「9条を金科玉条のごとく押し頂く気持ちも分らない」「永世中立国のスイスにだって軍はある」「9条を掲げていれば平和に貢献できるなんて、とんでもない話だと思う。そんなことを本気で信じる人は夢多き人たちだ」と言う▼氏は「惨めな時代を思い出させる」と言うが、本当に「惨めな」思いをしたのなら、その矛先は「惨めな」思いの原因をつくった人に向けなければならない。A級戦犯の、思想的にも系譜的にも血筋を引く安倍政権の改憲策動にこそ向けなければならないと思う▼自衛の手段として「軍隊」を肯定するのも否定するのもそれぞれの国民が自主的に決めることであって、スイスを持ち出して云々するのもおかしな話だ▼かつて、細川首相が「日本が誤った侵略戦争を行った」と発言したとき、「何と粗雑にして迂闊な発言であろうか」と批判した氏の時代錯誤は今も、何も変わっていないようだ▼「9条を守れという人は「夢多き人」だそうだ。「平和国家・日本の建設をめざす夢多き人」大いに結構ではないか。 (南)

    ----------------------------------------------------------

07年憲法世論調査報道を読む①

長谷川千秋氏(元朝日新聞大阪本社編集局長・木津九条の会)
9条維持は多数派である

     日本国憲法施行60年の今年の憲法記念日に当り、日本のメディアが実施した世論調査結果に関する長谷川千秋氏の寄稿を、3回に分けて、「九条の会」メールマガジンより転載します。

 1年前、私は、マスコミ報道をよく吟味しよう、調査データをよく読めば、最大の特徴は 「一路改憲へ」の動きが止まったことにある、と申し上げました。今年は、そのことが誰の目にも明らかになりました。改憲問題の焦点は九条ですが、どのような設問がなされようと、報じられたほとんどすべての憲法世論調査で「九条維持」の声が多数であることが明確になったからです。
 全国紙で最初に調査結果を発表したのは読売新聞でした。同紙は1994年秋、独自の全面改憲試案を発表するなど長年にわたって改憲キャンペーンをはり続けています。4月6日付朝刊で示された調査結果は、憲法全体の改定の是非について「改正派が昨年比9ポイント減った。3年連続のダウンだ」と同紙社説が嘆く数字になりました。97年調査以来という半数割れの46%です。それだけではありません。同紙は9条問題で新しい設問を用意しました。戦争放棄の第1項と戦力不保持・交戦権否認の第2項のそれぞれについて改定の必要の有無を聞いたのです。笞えは、▼第1項「必要ある」14.0%、「必要なし」80.3%▼第2項「必要ある」38.1%、「必要なし」54.1%。どう聞いても9条維特派が過半数となりました。
 読売新聞の調査結果に示された民意に注目し、いち早く詳しく紹介したのは「しんぶん赤旗」(4月7日付)でした。しかし「しんぶん赤旗」の見方が突出していたわけではありません。その後、次々に発表された世論調査結果も、前年比で多少のデコボコはあるにせよ、基本的には読売新聞の調査結果と同じ傾向を示しました。共同通信の調査結果を報じた信濃毎日新聞は4月19日付社説で「憲法世論調査 9条堅持の民意は明白」とうたいました。地方紙の中には県単位で独自の世論調査を行ったところもありますが、「憲法と安保」の矛盾が集中する沖縄では、沖縄タイムスの調査で、憲法全体でも改定不要派が46%と「必要ある」派43%を上回る結果が出ました。
 集団的自衛権について、読売新聞調査で「これまで通り、使えなくてよい」と答えた人が50%で昨年比7ポイント増、共同通信調査でも「今のままでよい」が54.6%に達したこと▼朝日新聞調査で、自民党の新憲法草案にうたわれた「自衛軍」について尋ねたところ、「自衛軍に変えるぺきだ」18%に対し「自衛隊のままでよい」が70%にもなったこと―なども、ごり押しで改憲への道を急ごうとする安倍首相と自民党政治への痛打となっています。(次号へつづく)

    ----------------------------------------------------------

日本国憲法は決してGHQの「押しつけ憲法」ではない
  NHKスペシャル『日本国憲法誕生』が検証

 4月29日に放送されたNHKスペシャル『日本国憲法誕生』は、日本国憲法の制定過程を、公開された国会の憲法改正案委員小委員会の秘密議事録から、GHQ草案作成に至った事情やGHQ草案に様々な修正が施され、「日本化」「土着化」と呼ばれる過程を経ていることを明らかにした。

GHQも感心した憲法研究会草案
 当初、マッカーサーは明治憲法を解体し、非軍事化と民主化という基本条件を満たす草案を日本政府がつくることを期待した。一方でGHQは、民間の高野岩三郎、鈴木安蔵たちの「憲法研究会」の「憲法草案要綱」を英訳し検討をした。GHQ民生局のラウエル中佐は「民間から提出された草案に感心しこれで大きく進展すると思った」と証言している。

戦争放棄は幣原首相の□から
 また、当時の幣原首相はマッカーサーとの会見の中で、「世界から信用を失ってしまった日本にとって戦争を放棄するというようなことを、はっきりと世界に声明すること、それだけが日本を信用してもらえる唯一の誇りとなるんじゃないだろうか」と述ぺ、2人は大いに共鳴したと報じている。ところが日本政府の憲法調査会の草案は天皇の統治権を変えなかったため、GHQは「極めて保守的である」として、民生局で草案づくりを開始した。その時に提示されたマッカーサー・ノートには「国権の発動たる戦争は廃止する。日本は紛争解決のための手段としての戦争、さらに自己の安全を保持するための手段としての戦争をも放棄する。・・・」と述ぺられていた。これは、幣原首相の思いを具体化したものと言っていいだろう。

草案つくりは 憲法研究会草案も手本として
 草案つくりは「憲法研究会」の「憲法草案要綱」も手本として進められ、GHQ草案が完成。これを受け入れて日本政府案を起草するように指示がなされた。マッカーサーの全面的支持を受けて「主権在民」「戦争放棄」を含む日本政府の「憲法改正草案」が発表された。

GHQの要求だけでなく、日本人自らの発案で
 1946年4月、戦後初の総選挙が実施されて開かれた、第90回帝国議会において「憲法改正草案」に対して、「国民主権の明確化」「生存権の追加」「義務教育の拡大」「9条の修正」「シビリアンコントロールの明確化」などの修正、追加が行われ、今の豊かな日本国憲法になっていったのである。
 NHKが報じるこれらの過程を見ると日本国憲法は、GHQの要求だけでなく、日本人自らの発案で実現したことがよく分かる。日本国憲法制定の経過は、決して薄っぺらな「押しつけ憲法」のようなものではないことを雄弁に物語っている。

    ――――――――――――――――――――――――――――――
(2007年5月19日入力・20日修正)
[トップページ]