「九条の会・わかやま」 40号を発行(2007年7月15日付)

 40号が7月15日付で発行されました。1面は、日野原重明聖路加国際病院理事長と小池晃共産党政策委員長の意見、九条噺、2面は、楠本熊一さん(当会よびかけ人・和歌山県立医大名誉教授)の「異見」、朝日新聞和歌山版「わたしの『美しい国』」に載った月山桂さんの意見、山口二郎北大教授の「安倍首相に感謝?」です。
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[本文から]

95歳・私の証 あるがままに行く 日野原重明さん(聖路加国際病院理事長)
国民投票は改憲阻止にも

 明治生まれの私は、日中戦争から太平洋戦争まで青春時代の殆どを戦火の中で過ごしました。大学生の時にかかった結核のため徴兵検査では丙種となり徴兵は免れました。その後、太平洋戦争の地獄を医師という立場で体験することになります。
 東京大空襲下で傷ついたたくさんの被災者が、私が勤務する聖路加(せいるか)国際病院に運ばれてきました。薬品もなく、大やけどを負った人たちが、次々と私の目の前で死んでゆくのです。この時に目にした悲惨な光景は、その後も私の脳裏に焼き付いて離れません。兵士以外に、大人から子どもまで民間人の死者が出る戦争の現実を見せつけられてきた医師として、どうしても、日本が軍隊を持つことに同意できないのです。
 憲法問題についてはこのコラムでも、これまでに繰り返し話題にしてきました。しかし、平和憲法をめぐる状況は私が恐れていた以上に、悪い方向に向かっているようです。
 安倍内閣は、日本国憲法を改めようとしています。米国と共存するために、自衛軍の名のもとに普通の軍隊を復活させようとしているのです。
 そのための足がかりとして、改憲の是非を問う国民投票法を今国会で成立させました。これには、平和の衣の下に鎧(よろい)が隠れていると見ざるをえません。
 憲法を変えるかどうかを最終的に決める力を持つのは、首相でもなく、国会でもなく、国民のみであるべきことは明らかです。国民投票は改憲専用の道具ではなく、改憲を退けるための道具にもなることを、われわれはよく心得るべきではないでしょうか。法が施行されるまでの3年間に、このことは、もっと国民の間で議論されるべきであります。
 国民投票が行われる前に、みなさんにぜひ、現憲法を心して読み返してほしいのです。そして、日本を再び戦争に引き入れる危険のある憲法改正を阻止するための国民運動を展開してほしいと思います。
 最近は、わかりやすく伝えようと、憲法をミュージカル化した公演もあります。しかし、太平洋戦争を経験していない日本人が4人に3人という中で、ひとごとのように思う人の多いのも現実です。私たち高齢者にできることは、残り少ない戦争体験者として、つらい記憶を、戦争を知らない世代に根気よく語り継ぐことだと思うのです。
( 6月9日付朝日新聞より)

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【論考】 集団的自衛権  小池晃さん・共産党政策委員長
行使容認は米の要請 護憲の値打ち上がる

 ――共産党は集団的自衛権の行使を認めていませんね。
 集団的自衛権というのは、米国のベトナム戦争のように侵略戦争を正当化するために使われる言葉だ。同盟国への攻撃に対して自衛隊が海外で反撃することは、憲法を横から読んでも、斜めから見てもあり得ない。
 ――安倍首相が設置した有識者懇談会は行使容認が大勢のようです。
 完全な八百長試合だ。政府見解をつくってきた内閣法制局をヒール(悪役)に仕立てるやり方もおかしい。懇談会で議論している4類型は、米国から求められたものばかり。改憲を待たずに米国の要求に応える道がないかを探っているのだろう。これでは押しつけ憲法どころの話ではなく、押しつけ解釈改憲だ。
 海外派兵に踏み切った小泉前首相ですら、日本の上空を通過する弾道ミサイルへの対応について「他国に飛行する弾道ミサイルに対処することは考えていない」と答弁している。安倍首相はそれを認めようというのだから、傍若無人ぶり、見境のなさが出ている。
 ――今こそ護憲だと。
 飛行機で隣に座ったある大企業の幹部は「中国残留孤児や従軍慰安婦の問題もある。戦後レジームからの脱却などと簡単に言ってほしくない」と話していた。改憲してもいいと思っていた人たちの中にも、安倍政権に改憲させていいのかという危機感が広がっている。護憲の値打ちはむしろ上がってきていると思う。
 ――与党の公明党も集団的自衛権の行使容認に反対しています。
 公明党は「平和の党」という看板でカムフラージュしながら、最後は自民党と一緒になって教育基本法改正案や防衛省昇格法案なども通してきた。集団的自衛権の行使容認や改憲も進める役割を果たすのではないか。
 ――では改憲阻止のためにどうしますか。
 共産党は国会での議員数は少ないが、国民の多数が賛成しない限り改憲はできない。私たちは国民の中に改憲に反対する多数派をつくる。参院選で我々の議席を増やすことが、改憲のたくらみを打破する強烈な打撃になることを訴えていきたい。
(6月15日付朝日新聞より)

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【九条噺】
 関西経済同友会常任幹事・平岡龍人氏が6月13日付毎日新聞に改憲を主張し、「日本らしさを持つ契機に」と書いている。▼氏は現憲法は「日本人らしさを捨てさせ、日本を弱くする」という占領軍の思惑であり、その思惑通りに機能しているという。どこからそんなことが言えるのか。当初GHQは非軍事化と民主化を進めただけだ。日本政府がまともな憲法草案を作らないので、GHQで日本の民間の意見も取り入れ草案が作られたのだ。あいた口が塞がらないとはこのことか▼「前文の『諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した』という文言はひどい」「中国や北朝鮮のミサイルは日本に向いている」という。これは日本国憲法の平和主義の原点ではないか。中国や北朝鮮のミサイルをいつどこで見てきたのだろうか▼さらに、「『国民主権』で国の借金が膨れ上がり、『人権』で道徳が崩壊し、『平等』で若者が努力しなくなった」に至っては、もはや何をか言わんやだ。借金が膨れ上がったのは、自民党政権の大企業優遇の経済政策のためであり、道徳が崩壊しているのは国民ではなく、政府や大企業であろう。若者が努力しなくなったと言って、格差社会を一層推し進め、教育基本法改悪に象徴される教育改悪を進めようとしている▼氏は私立学校の理事長。これでは氏の下で、どんな教育が行われているのかと不安になるのは筆者だけではあるまい。(南)

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憲法九条についての私の「異見」
「九条の会・わかやま」呼びかけ人・楠本熊一(和歌山県立医科大学名誉教授)
①集団的自衛権は自衛権の範囲を逸脱している

 日本国憲法は前文の主旨と第九条とで世界の模範となる憲法であるといえる。その立派な憲法を変えようとする動きが政界にはある。嘗ての占領軍であったアメリカのお仕着せの憲法であるというのが主な理由らしいが、どんな形で憲法が制定されたのであっても、良いものは良いのである。憲法を改正しようとする議員の先生方は、憲法九条以外のところで憲法改正の理由を言っていないから、九条のみが改正の眼目らしい。集団的自衛権とかを持ち出して、自衛権の意味付けを拡大しようとしている。人間の個人に自衛権が自然法として存在するから、国にも自衛権があって当然である。しかし個人に集団的自衛権がないのに、国にだけ集団的自衛権があるのはおかしい。また、自衛の名の下に海外に武装勢力(自衛隊)を派遣するのもつじつまが合わない。それには個人の自衛権を考えてみると、よく分かるのではないか。まず、自分の身が危ないと考えられないのに、仲間が危険にさらされていると考えて、(時には早とちりする場合もあろう)仲間に敵対している相手を攻撃するようなものだ。だから集団的自衛権は自然法の言うところの自衛権の範囲を逸脱している。だから憲法九条の自衛権の中に集団的自衛権を含めるのは間違いである。しかし、憲法を改正したい輩は、堂々と海外に自衛隊を派遣して、戦闘にも参加させて、国際協力をさせたいらしい。国際協力しなければ、万が一にでも日本が侵略されたとき、或いは日本国の海外における権益が侵されたとき、国際連合軍(国連の軍隊)が日本を助けてくれないとか、或いは権益を譲ってくれないと言うのが憲法改正派の意見らしい。言葉を返せば、自分の国を自分達だけで護りきれないと言うのが本音であろう。海外における国の権益を外交手段だけで護りきれないと言うのが偽らざる所であろう。私は軍事専門家ではないので、この種の議論について何も言えないが、自分の国を自分達だけで守る工夫をすることこそ肝要なのではないか。外国における権益など棄てればよいのである。(つづく、見出し編集部)

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わたしの「美しい国」  弁護士・月山桂氏(84)

 朝日新聞が7月7日付和歌山版で、「九条の会・わかやま」呼びかけ人・月山桂氏の「美しい国」に対する意見を大きく報じましたので、ご紹介します。

歴史直視 9条守れ   謝罪すべきところはする

 どの国にも歴史の中に恥ずかしい部分がある。安倍首相の従軍慰安婦などの歴史認識、靖国神社参拝からは、恥ずかしい部分を薄めることで「日本はきれいな国だ」と言いたいように感じる。それが首相の「美しい国」ならば、間違いだ。

     05年に設立された「憲法9条を守る和歌山弁護士の会」の顧問に就いた。9条保護を訴える  背景には、中央大学に在学中だった43年に学徒出陣で余儀なくされたという軍隊経験がある。
 まず所属したのは堺市の第34部隊という「輜重(しちょう)隊」だった。馬に食糧や弾薬を積んで運ぶのが仕事で、「馬部隊」と呼ばれた。馬を買うには10円かかるが、兵隊は1銭5厘程度の赤紙1枚で用意できるという意味で「お馬さんは10円、お前らは1銭5厘の赤紙」と完全に馬以下の扱いだった。
 行軍中の休憩も、私らではなく馬を休ませるため。馬の荷を下ろし、体をさすり、世話が終わった頃には休憩も終わる。人権もへったくれもなかった。
     馬部隊に嫌気がさし、軍の経理学校の試験を受けて合格。旧満州(中国東北部)の学校へ入  学する。44年11月に卒業し、日本へ戻った。
 戻ってきて所属したのが和歌山の第24部隊で、主計士官に就いた。米軍が本土上陸した際に迎え撃つための軍の陣地を構築するのが、部隊の主な仕事だった。(現在の和歌山、岩出、紀の川3市の境界にある)御茶屋御殿山を中心に山の中腹に塹壕(ざんごう)を掘った。
 でも、おかしいでしょう。本来は国民を守るべき軍隊が山の上に陣地を築き、民間人は国民義勇隊に徴用され、山の手前で「竹やりを持って戦え」といわれるのだから。
 つまり、軍隊のための軍隊でしかなかった。では自衛隊はどうか。いざというとき、本当に国民を守るのか。いったん軍隊が生まれると、軍国主義につながる可能性がある。だから、私は9条改正に反対する。本来は自衛隊もない方がいい。
      45年、中貴志の小学校で玉音放送を聞き、戦時中の抑圧から解放されることに喜びを覚えた。
 空襲を避けるため、電灯に暗幕をかける灯火管制は、明かりが届く1メートル四方のみしか自由がない。戦争による「抑圧」の象徴だと思う。
 また、人権も抑圧された。人権は普遍的な権利で、現在では外交の基本だ。ドイツは、アウシュビッツでのユダヤ人虐殺を世界に向けて謝罪して国際社会の信頼を得た。
 だが、日本では今もA級戦犯が合祀(ごうし)された靖国神社を首相が参拝し、外交を妨げている。歴史的事実を直視し、謝罪すべきところは謝罪することが、本当の「美しい国」として世界から認められることにつながるのではないだろうか。

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護憲派は安倍首相に感謝しなければ???
山口二郎さん(北大教授)

 安倍首相のいい点? うーん……憲法改正については、最近の世論調査を見ると「9条を変えるべき」という割合が減ってきている。これは安倍さんのおかげでしょう。彼が改憲を叫んでくれたおかげで、国民が憲法をまじめに考えるようになった。そして「あんなにおたおたしている政権に、改憲をやらせていいのか」と人々が思い出した。その意味で国民は健全だ。
 だから、護憲派は安倍首相に感謝しなければいけない。安倍さんありがとう、と言いたいですね。(7月1日付朝日新聞より)

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(2007年7月16日入力)
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