『日本文学史序説』を書こうと思った動機は、敗戦の前は日本国中「鬼畜米英」と言っていた。ところが敗戦になると、アメリカ一辺倒にがらっと変わった。また、戦前の日本は全体がピラミッド型に作られていて、その頂点は天皇で、神様だった。ところが人間宣言があり、天皇は象徴で、人間だということになった。これは大きな変化だ。それが大した摩擦や抵抗がなく、割にスラスラと変わった。どうして一晩で、そういうことがスラーっと変わるのか、日本人の心はどういう仕掛けになっているのかという疑問があったので、それをはっきりさせる必要があると考えたわけだ。
その後、加藤さんは日本文学のみならず、絵画、造形美術、建築など、世界の文化と比較検討することによって、形あるものの中から、それを生み出した日本人の心を客観的に取り出す仕事を続けた。加藤さんは日本文化の雑種性に着目した。日本文化はもともと仏教、儒教をはじめとして外来のものを深く吸収して成り立ってきた。
雑種文化についての議論は、普通、雑種文化は悪いというイメージがあるが、それをいいものに転化しようと、それが仕事ではないかということだ。雑種を純化しようというのは、私が批判したように、第一にできない、無理にしようとすると損害が起こるだけだ。純化するには2つのやり方があり、日本式にして、なるべく西洋的な要素を追い出す。それは非常に偏狭で狂信的なナショナリズムになるだけで、現実に全然合わない。西洋崇拝者は日本的なものを捨てて、みんな西洋化しようとする。どちらも第一に非現実的、第二に思想として幼稚かつ有害だ。狭いナショナリズムか、外国崇拝だから。唯一の解決方法は、雑種文化を認め、純粋化しようという意図を捨てること。熱狂的で狂信的なナショナリズムを捨て、西洋崇拝をやめて、日本人は日本なりに、自分で雑種文化をいいものにするしか手はない。もし何か日本が将来に向かって明るい展望を持つとすれば、それは雑種文化を積極的なものに転化することだ。
加藤さんはあらゆる角度から日本のあり方を問い続けた。
「これほど見事に徹底した自己中心主義とおまかせ主義の組み合わせは、世界の大国の中でもめずらしい。日本語で国際的と言う時には、しばしば対米関係を意味する。その用法に従えば、国際的責任を果たすというのは、実は米国の要求に応じるということであり、国際的孤立を避けるとは、日米関係の摩擦を避けるということになろう。日本政府にとっての湾岸危機とは対米問題に過ぎないのかもしれない」
(90年10月・夕陽妄語「湾岸危機と日本の対応」より)
(日本政府は)簡単に言えば、国際的な体制、多数意見に従うという態度をとったと思う。その上で今何が出来るかと考えた。体制順応習慣が強いと、それは現在のことに関心が強くて、過去や未来との関係において、現在の行動を定義するということが少ない。だから、過去の事実、ことに不快な事実を正面から見る習慣がない訳だ。それが一番基本的な問題だと思う。
文学は人生または社会の目的を定義するために必要だ。文学は目的を決めるのに役立つというより、文学によって目的を決めるのだ。目的を達成するための手段は技術が提供する。今は科学技術の時代だが、手段と目的を混同しない方がいい。科学技術がいくら発達しても、目的は決まってこないと思う。社会にとっても、個人にとっても。
(姜) 人間的な価値観を文学は引き受ける。文学は人生および社会の目的を決めるんだという。人間のあずかり知らない様々な力、例えば戦争とか、現在の経済的な破綻とか、いろんな出来事が起こるが、そこに人間が生きてきたということの証が一点でもある限り、文学はそこを見つめて、多くの人に伝える力を持っていると言う。普遍性を語る思想家が同時に文学を拠点にしたところに、加藤さんは稀有な現代的意味があるのではないかと思う。古典だけでなく、今起きていることについても非常に鋭敏な感覚を持っていなければ、ああいうことは出来ないと思う。(つづく)
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国民投票法 近づく施行
なし崩し的に事務作業を進める政府
07年に強行採決された国民投票法は、来年5月18日に施行を迎えます。しかし、国民投票法案が可決された参院の委員会では、①成年年齢(18歳)に関する公職選挙法、民法等の法制上の措置の完了、②低投票率により憲法改正の正当性に疑義が生じないよう、最低投票率制度の意義・是非についての検討、③公務員等及び教育者の地位利用による国民投票運動の規制の基準と表現の検討、など18項目の付帯決議が付いており、これらはほとんど検討もされず、積み残したままになっています。
しかし、与党からは付帯決議に法的拘束力がないので、「このまま国民投票になっても問題はない」との声も出ているといいます。総務省は、投票までの流れを紹介する小冊子を500万部印刷し、3月下旬から各自治体に配ろうとしています。さらに、国の09年度予算でも、改憲のための国民投票実施に向けた準備のために46.9億円を組んでいます。この内、46.2億円は、全国の市町村に対して、国民投票実施のための基礎データ整備等を委託するものです。従って、全国の自治体でも必ず関連予算が提案されますが、額も少なく、目立たないので、一般市民はもちろん、議員でも、改憲のための重要な予算だとは気づかないのではないかと危惧されます。和歌山県では、橋本市のように単独で既に予算化したところもありますが、大半は県の市町村課でとりまとめ、のちに市町村に振り分ける予定だといいます。私たちの足元の自治体で、改憲への準備事務が気づかれずに進められようとしています。それぞれの自治体と議会に対して、改憲にくみしないよう要請を急ぐ必要があるのではないでしょうか。
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【九条噺】
当会の呼びかけ人でもある牧師・藤藪庸一さんから「白浜レスキューネットワーク」の会報が定期的に送られてくる。藤藪さんらの丹念な活動報告を拝見するたびにいつも頭が下がる思いがする。自ら命を断とうとする人々に正面から向き合い、そのかけがえのない命を守るために、コツコツと、身を削るように献身される姿が目に浮かぶようだ▼それにしても自殺者のナント多いことか。警察庁の発表によれば、10年前に年間3万人を突破して以来一度もその大台を下ったことがない。「自殺理由」もこの10年間に急増したのが「生活・経済的理由」。「死ぬほどの勇気があれば」と残念に思うが、拠るすべもなく不幸な選択にいたる厳しい現実があることにも目をむけたい▼それで思い出した。アメリカのアイオワ州立大学で、ある生物学者が30数センチ四方、深さ50センチほどの木箱に砂を入れて、一本のライ麦を数ヶ月育てたあと、その箱に張りめぐらされた根(根毛も含む)をすべて計測すると、根の総延長はナント1万1千2百キロメートルで、シベリア鉄道の1.5倍にも達したという。つまり一本のひ弱なライ麦ですらこれほどの支えが必要だったのだ。〝いわんや人の命は〟と、命の重さ・尊さに思いはいたる▼藤藪さんらの活動や、この研究も〝9条と25条〟を守り耀かせる活動でもぜひ生かしたい。(佐)
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日本の「海賊対策」は平和憲法にふさわしいやり方で
「いま、自衛隊を問う」をテーマにした学習会が18日、和歌山市・勤労者総合センターで開催されました。内藤功弁護士(元参議院議員)が「田母神問題・ソマリア沖への派兵を考える」と題して講演しました。
内藤弁護士は、ソマリア沖「海賊対策」について、「ソマリア現地の状況はどうなっているのか。イラク、アフガン、ソマリアはアメリカ中央軍が担当し、ブッシュ前大統領はテロ対策軍として活動させていたが、オバマ大統領はまだ見直しをしていない。自衛艦を派遣すると米海軍の指揮下に直接入るとまでは言えないまでも、軍事情報が一体化し、事実上の指揮下に入ってしまうことになる。また、海上自衛隊がソマリア沖に行くと言うが、航空自衛隊は物資輸送のために輸送機を派遣し、陸上自衛隊はジブチの海上自衛隊基地を警備する部隊を派遣する。3自衛隊が一緒にやるということだ。ジブチの米軍基地に海上自衛隊の哨戒機P3Cが駐屯し、活動するとなったら、米軍の要請で海賊監視に限らず、米軍と一体の作戦活動、捜索、救難、偵察、監視、艦隊護衛などの支援が求められ、これに従事することがないとは言えない。ソマリア派兵の本質は『海賊を口実にした、海外派兵の量的・質的・地域的拡大』として把握すべきである。自衛隊を先に出動させて、根拠法などは後からつくればいいという政治手法は、『出てしまった以上は仕方ない。今更引き返せないから、追認してください』という既成事実を押し付けるやり方で認めることはできない。我国の関与のあり方は、現地の状況に詳しいイエメンなどの沿岸諸国・近隣国の当局や国際海事局(IMB)、国際海事機関(IMO)などの要請をよく聞いて、日本国憲法にふさわしい対応をすべきである。ソマリアの「海賊」は打ち続く同国の不幸な内戦による混乱の結果である。平和憲法にふさわしい外交的、経済的努力(資金および技術協力など)がまず先行して検討されなければならない」と述べ、自衛隊の実態をリアルに語りながら、改憲勢力の危険な狙いを明らかにし、名古屋高裁のイラク派兵違憲判決を活用しながら運動を前進させようと訴えました。
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