「九条の会・わかやま」 112号を発行(2009年9月17日付)

 112号が9月17日付で発行されました。1面は、寺島実郎さんが「核の傘論」批判、「アメリカばんざい」上映会、九条噺、2面は、近畿ブロック集会準備すすむ、書籍紹介『言葉と戦車を見すえて』、自民党の『提言・新防衛計画の大綱について』の問題点④ です。
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[本文から]

「核の傘論」への拘泥は新しい世界秩序に噛み合わない
    日本総合研究所会長 寺島実郎さん


 『文芸春秋』10月号に日本総合研究所会長・寺島実郎氏の論文が掲載されています。その中から「核の傘論」に関する部分をご紹介します。

 これまでの日本の外交政策は世界がG2化している現状を見据えるどころか、冷戦型の世界認識から脱却することができないまま、アメリカとの一体化だけを進めてきたと言わざるを得ません。その象徴が麻生外相時代に謳いあげた、「自由と繁栄の弧」の構想でした。
 皮肉な見方をすれば、ネオコン時代のアメリカと共鳴して中国とロシアを包囲しようとする「価値観外交」とも受けとれます。いずれにせよ、冷戦型思考から一向に脱せなかった、日本の国際感覚の限界を如実に表していたと言えるでしょう。
 この8月に出された、政府の「安全保障と防衛力に関する懇談会」の報告書の内容にも同じことが言えます。集団的自衛権行使を可能であるとすべきとし、武器輸出3原則の緩和などを求める内容ですが、要は日米で連携して北朝鮮の脅威、ひいては中国の脅威に向き合おうという昔ながらの冷戦型思考の産物です。
 「核の傘論」についても同様です。7月にカート・キャンベル米国務次官補が来日し、北朝鮮の核ミサイル脅威の増大に対する協議が行われました。「核の傘論」というのは核保有国に先制攻撃をさせないために、こちらも核を持っておけば相手は核兵器使用を踏みとどまるだろう、というロジックの核抑止論です。これこそまさにソ運とアメリカが睨み合っていた冷戦時代の産物です。
 しかし、アメリカ側から「結局日本はアメリカの核の傘の中にいる存在だろうが」と言われてしまえば日本は「そうか」と腰が引けてしまう状況が未だにあるのです。
 大切なのは、米国の無謬性を信じて運命を預託することではなく、主体的に外交の枠組みを脱冷戦型に進化させることです。しかも、このアメリカ自身が「核の傘論」から一歩抜け出るような構想を掲げ、世界秩序の構造転換を図ろうとしています。オバマ大統領の語り始めた「核なき世界」論です。
 本家のアメリカが変わろうとしている中、日本がまだ「核の傘論」に拘泥していくことは、21世紀の世界秩序形成に全く噛み合っていません。

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アメリカばんざい crazy as usual

「沖縄からアメリカへ」

2005年「Marines Go Home~辺野古・梅香里・矢臼別」を完成させたドキュメンタリー作家藤本幸久は、沖縄で出会った米兵から感じた「彼らはどこから来たのか?何故兵士になったのか?そしてどこへ行くのか?」という疑問を追い求め、 2006年10月から2008年4月にかけ、計7回のべ200日間のアメリカ取材・撮影を重ね、この作品を完成した。

日 時:2009年10月17日(土)
    第1回上映  13:00~ (約2時間)
    藤本監督講演 15:15~ (約1時間)
    第2回上映  16:30~ (約2時間)
会 場:和歌山市民会館小ホール
入場料:一般 前売 1,200円(当日 1,500円)
    学生 前売  800円(当日 1,000円)
    小学生以下無料
主 催:9条ネットわかやま
協 賛:第9条の会わかやま、九条の会・わかやま
連絡先:トライ法律事務所(℡:073-428-6557)

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九条噺

 過日、上田清司埼玉県知事が県議会本会議で、〝国歌斉唱〟の時起立しない教員がいるとの質問に、「国歌・国旗が嫌なら教員を辞めればいい」と答弁したとか。咄嗟に5年ほど前のことを思い出した。 園遊会で東京都教育委員の米長邦雄永世棋聖が、天皇に「日本中の学校で国旗を掲げ、国歌を斉唱させることが私の仕事」と得意げに発言した時、天皇は「やはり強制になるということではないことが望ましいかと」とやんわり応じて当時話題になった。東京都教委が同様の理由で教職員を大量処分した年の秋だったと記憶する▼この問題の根はそれほど単純ではないようだ。例えば、上田知事は昨年教育委員の選任に際し、かつて日本がアジア諸国を侵略した歴史的事実を否定し、〝従軍慰安婦〟や〝南京虐殺〟もなかったなどと強弁する「新しい歴史教科書をつくる会」の副会長を推薦したが、今般の発言も、ゆがんだ歴史観で憲法第9条まで葬り去ろうとする人々とどこか気脈を通じるところがあるようにさえ思う▼だから今、茨木のり子の詩を心して読み返す。「愛されてひとびとに/永くうたいつがれてきた民謡がある/なぜ国歌など/ものものしくうたう必要がありましょう/おおかたは侵略の血でよごれ/腹黒の過去を隠しもちながら/口を拭って起立して/直立不動でうたわなければならないか/聞かなければならないか/私は立たない 座っています」(「鄙ぶりの唄」から)(佐)

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近畿ブロック交流集会準備進む!

 9条の会近畿ブロック交流集会は、下の概要の通り準備が進められています。全体会での講師や分科会・分散会のテーマの選定などが進められています。
 和歌山県下の9条の会への第一弾のご案内は9月26日~28日頃になる予定です。
●時・所:12月13日(日) 関西大学
●参加者:近畿の「9条の会」会員
●参加費:1000円/人
●プログラム概要:
   10:00~12:00 全体会
   13:00~15:30 分科会・分散会
   15:45~16:30 全体会

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書籍紹介
『言葉と戦車を見すえて』
加藤周一が考えつづけてきたこと

知の巨人・加藤周一は、創作と評論の両分野で、多岐にわたる膨大な仕事を残したが、その基礎には日本と世界の政治状勢に対する強い関心と深く鋭い観察があった。本書は「プラハの春」を弾圧するためにソ連軍戦車がチェコの首都に侵入した1968年の事件についての鮮やかな論評「言葉と戦車」を中心に、1946年の「天皇制を論ず」から2005年の「60年前東京の夜」まで、著者が何を考えつづけてきたかを俯瞰できる27の論稿群を集成。ここには、たんなる学究の徒の貎ではなく、現実の政治と社会に対する透徹した思考と強靭な思想が屹立する。全篇発表時の初出より収録。

加藤周一 著
小森陽一/成田龍一 編
2009年8月10日 第1刷発行
価格:1400円+税
ちくま学芸文庫(筑摩書房)

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自民党の「提言・新防衛計画の大綱について」の問題点④
   「九条の会・わかやま」事務局 南本 勲


 武器輸出3原則の見直し

 「提言」は、「武器輸出3原則等運用においては、・・・国際的な技術レベルを維持するとともに他国との技術交流を維持するため、米国以外の企業との共同研究・開発、生産、や『武器』の定義の緩和等、更なる3原則の見直しが必要である」と、「武器輸出3原則」の見直しを求めています。
 政府方針は、「平和国家としてのわが国の立場から、それによって国際紛争等を助長することを回避するため、政府としては、従来から慎重に対処しており、今後とも・・・武器の輸出を認めない」(76年2月27日政府統一見解)としてきました。83年の米国への武器技術輸出、05年のBMD共同開発など米国への3原則の緩和という問題がありますが、「武器輸出3原則」は、憲法9条の理念である「戦争の放棄」「国際紛争の平和的解決」「武力行使・威嚇の禁止」を具現化したものです。「提言」は憲法の理念を真っ向から否定するものです。

 宇宙を軍事に利用

 「提言」は、「情報収集・偵察・早期警戒・測位・通信・電波観測衛星等の研究・開発」「即応性の高い打上げシステムの確保」「緊急事態における即応型情報収集システムの確保」など、防衛分野での宇宙利用を求めています。
 「宇宙開発」は、69年5月に衆議院で「平和の目的に限り、自主・民主・公開の三原則を遵守する」と全会一致で決議し、以来その精神を受け継いできました。ところが08年5月21日に成立した「宇宙基本法」はこれまでの立場を一転させ、「国家の安全保障」の名のもとに宇宙の軍事利用も可能にしました。「提言」は、「宇宙基本法」制定の目的はまさにこれであったことを証明しています。

 自衛隊派兵恒久法の制定

 「提言」は、「新しい安全保障環境の変化では、国際社会における共同対処・協力が求められており、・・・わが国への期待・要請が増加しつつある」ので、これまでは「特別措置法により対応してきたが、時間を要するとともに積極的・主体的に協力できない欠点」があった。そこで、「一般法を制定し、わが国の国際平和協力の理念を内外に示すとともに国際平和協力活動について一貫して迅速かつ効果的に取り組んでいくことを可能にする」ために、「一般法(恒久法)」を求めています。「国際社会の要請」と言いますが、イラクやインド洋など、全て「平和協力」や「国際貢献」の名目で軍事行動が行われたものです。「一般法」はいつでもどこにでも自衛隊を海外に派遣し、米軍と一緒になって軍事行動を実施するものです。

 弾道ミサイル防衛システム(BMD)の一層の強化

 「提言」は、「積極的に宇宙を利用した早期警戒衛星・情報収集衛星やミッドコースでの正確な撃破を追求する新しい地上発射ミサイルの研究開発」「イージス艦のBMD能力強化、PAC-3増強・レーダーの整備推進」「SM-3やSM-3改への拡充とTHAAD(終末高高度防衛ミサイルと呼ばれ、大気圏外で迎撃するミサイル)導入」と、「米国の攻撃力と日本の攻撃支援・補完力の調整」を求めています。BMDの能力や配備を一層ひろげ、アメリカに向かうミサイルの迎撃能力を向上させようというものです。

 自衛隊の質・量の一層の強化

 「提言」は、自衛隊の「縮減された人員と予算を適切に手当てし適正な防衛力に回復するなど、『07大綱』以降の縮減方針の見直しが急務であることを強く要請する」「わが国の防衛力整備に必要な防衛予算及び整備基盤の維持・拡充を行うべきである」とし、自衛隊の軍備の質・量の一層の増強を求めています。

 おわりに

 この「提言」は、北朝鮮の「ミサイル」発射や核実験などを口実に、09年末に改定を予定されていた「新防衛計画の大綱」への反映を狙ったものでした。今回の衆議院総選挙の結果、民主党政権の成立によって、それは困難になったと言えるでしょう。しかし、憲法を無視して、軍事優先をさらに推し進めようとする自民党に対しては、今後とも厳しい監視と警戒が必要だと思われます。(おわり)

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(2009年9月26日入力)
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