森英樹さん講演要旨②
気になることは、民主党政権の中に改憲のバネがまだ残っている可能性があるということだ。不安要素を見てみると、鳩山首相が根っからの改憲論者だということだ。05年の『新憲法試案』では「明治憲法・・の伝統を受け継ぐ」「天皇を元首とする」など自民党もたじろぐ右寄りの案だ。9条では軍事力の保持を禁止している第2項を「現行憲法の最も欺瞞的な部分」だと罵詈雑言を浴びせ、これを削除し、「自衛軍を保持する」と主張している。自民党案と全く同じだ。集団的自衛権については制限的という形容詞はついているが憲法上認めるように要求している。こうした構想は鳩山一郎のDNAだと自称している。小選挙区制を導入した上で改憲へという鳩山一郎の戦略を著書の中で賞賛している。このDNAがいつ動き出すか警戒は解けない。鳩山首相には自主防衛論があり、場合によっては独自にアメリカから離れて、核武装もして日本を一人前の軍事国家にすることによって、アメリカと対等になろうという考え方も潜んでいる。憲法9条に対しては一層攻撃的になる可能性がある。
もうひとつ懸念の小沢氏の「政治改革」の「衆院比例定数を80削減」の真意は、400議席を1人区200と2人区100の選挙区選挙にして、比例区を全廃して保守2大政党制をつくり、共産党・社民党を排除し、公明党の参議院党化を狙い、瞬間的な保守2大政党の大連立で憲法を変えてしまうのが、小沢氏の戦略だ。小沢氏の「国会改革」は自民党幹事長時代の『日本改造計画』に全部書かれている。これは国会を民主的な議論をする場ではなく、迅速な立法マシーンにしてしまうものだ。
民主党マニフェストでの憲法問題は、「足らざる点、改めるべき点を責任を持って国民に提案する」、「民主党が05年にまとめた『憲法提言』がもとになる」と書かれている。「憲法提言」には、「制約された自衛権」「必要最小限の武力行使」を明記し、「多国籍軍」も含む「国連主導の国際活動への参加」を可能とするよう憲法に位置づけると書かれている。必要最小限の憲法改正を考えている。
民主党政権が変わろうとしない根本問題は日米安保にある。日米安保は今「同盟」と言われている。「同盟を重視する」というとそれから先は思考が停止するのが日本の政治だ。民主党マニフェスト・3党連立合意でも「同盟」関係を認め、これを変える発想はまるでない。今は「日米は同盟関係」と言われるが、50年前の安保体制の下でさえ、日米関係を「同盟」と言うことが憚られた時代が長く続いた。日本は9条があるので、「戦争しないし軍事力は持たない」というのが建前だ。アメリカは戦争もするし、軍事大国そのものだ。日米が一体的な同盟関係になることなど、憲法9条から言えばあり得ないことだ。ところが安保条約に基づく在日米軍は今や中東まで行っている。これは安保条約違反だ。「日米同盟」の野放図な拡大が9条を中心とする改憲を促している。民主党政権に「日米同盟堅持」などと簡単に言ってもらっては困る。ここがチェンジしていないことが、すべての問題の根源にあると思う。普天間問題は「同盟」というカンヌキがかかっているため、「撤去」ではなく「移設」先探しになっている。普天間は海兵隊出撃基地で、「抑止力」ではなく「恫喝力」だ。「同盟」は危ないと見抜く絶好のチャンスだが、そういう機運が出来ていない。2月24日、沖縄県議会は全会一致で初の「普天間の県内移設反対」意見書を政府に送ることを決定した。沖縄と本土の住民の温度差は克服されていくのか、政府はまともに基地撤去に向かうのか、引き続き監視が必要だ。(つづく)
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【九条噺】
「長崎さるく」ということについて鈴木裕範先生(和歌山大学准教授)に教わった。「さるく」は「ブラブラ歩く」ことで、地域の理解には「遊・通・学」の3つの「さるく」が必要だという。「遊さるく」は地域のあちこちを散策しながら全体像とその概況を知る。「通さるく」は、地域の魅力あるところや食文化などに通じた人の案内で地域を詳しく知る。そして「学さるく」は、より専門的な大学の研究者などの指導で学問的にその地域について学び、あるいは研究する。つまり、一言で言えば「地域学」であり、長崎に限らず、地域への理解を深めていくために基本的に必要なことである▼ところが、現実には、例えば国の政治や平和に関すること、あるいは地域の政治の有り様などについて一家言あるひとでも、必ずしも地域の実情を充分把握しているとはかぎらないようだ。それどころか、例えば、「平成の大合併」問題のように、主に地域の将来に深く関わる問題を話し合う時でさえ、ややもすればその実情をまったく考慮しないで、合併の是非を論じ合うというようなことも少なくなかったようだ。和歌山でもともすればその傾向に流され気味だったと自戒する▼一体に、地域について知る、地域に暮らす人々を知り、交わるということは、何はともあれ必要なことだ。「遊さるく」で、例えば「戦争体験」を尋ね歩き、憲法9条の大切さについて論じ合うことがあっても大いによろしいのではないか。(佐)
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憲法の示す理想に近づけるのが憲法のあり方
「守ろう9条 紀の川 市民の会」第6回総会で、「憲法9条を守る和歌山弁護士の会」世話人・石津剛彦さんが「日本国憲法9条の原点を見直そう」と題して講演をしました。その要旨を2回に分けてご紹介しています。今回は2回目で最終回。
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