この夏、中村さんはアフガンに用水路を建設するに当たり、柳川や九州各地の水利施設を回り、伝統的な治水技術を学びました。300年にわたり脈々と受け継がれてきた水路。アフガンに作った用水路をこのように残すにはどうすればいいか。中村さんは模索していました。
中村さんが用水路建設を始めたのは7年前。この国は深刻な水不足に見舞われていました。豊かな穀倉地帯であったニングラハル州も田畑は荒地となりました。アフガンの平野部を潤していたのは標高4000m級の山々から流れる雪解け水です。しかし、1年中あった雪が夏には姿を消すようになり、井戸や水路が干上がりました。世界的気候変動が原因と考えられています。生きる術を失った多くの農民が仕事を求め都市部へ流れていきました。
水がないから、当然彼らは出て行かざるを得ない訳で、共同体は崩れる、家族を養うために軍閥の傭兵になる、治安が悪化するという悪循環です。みんなが安心して普通の農村生活、百姓は百姓で食っていくということをやらないと、アフガンは永久に良くならないというのが我々の考えの基礎にあります。
アフガンに平和を取り戻すにはまず何よりも農村の再生。中村さんが目をつけたのは旱魃の間も水をたたえるクナール川でした。この水を引き込めば乾ききった農地に緑を蘇らせることができます。中村さんは用水路を造る決意をしました。医師で土木の知識のない中村さんは、ゼロから河川工学を学び水路の計画を練り上げました。クナール川から引き込んだ水を乾燥地帯に誘導し、最終目的地カンベーリー砂漠を目指します。その距離25・5㎞。完成すれば毎秒6㌧の水を送り込める計画です。03年3月、水路建設が始まりました。工事の噂を聞きつけ多くの人が集まってきました。資材はツルハシやハンマーなど人力に頼る道具ばかり、掘削機やクレーンなどの重機は見当たりません。現地の人びとが自分たちの力だけで水路を維持できるようにしたい。中村さんはできるだけ機械に頼らない工法を選びました。利用したのは日本の伝統的な治水技術でした。そのひとつが「蛇籠」です。筒状の網に石を詰め、護岸造りに用いられました。コンクリートがない時代、「蛇籠」は治水の要をなす技術でした。工事には毎日600人が参加し、働いた人には日当が支給されます。こうした人件費や資材などの建設費用は、全額日本のNGO「ペシャワール会」に寄せられた寄付金で賄われました。
建設現場はテロ掃討作戦に向かうアメリカ軍の通り道となっています。着工から半年後突然現れたアメリカ軍のヘリコプターから機銃掃射を受けました。不安と緊張の中作業が続けられました。
春、クナール川の激流が建設現場に押し寄せ、作りかけの水路に流れ込み、苦労して積み上げた護岸が崩壊しました。翌日、壊れた護岸に住民たちが集まりました。「蛇籠」は網に石を入れれば簡単に補修できます。
工事開始から5年後、恐れていたことが起きました。アフガンの人々に尽くしたいと働いていた伊藤和也さんが武装集団に拉致され殺害されたのです。これ以上犠牲は出せない。中村さんは日本人スタッフを帰国させました。現地には中村さんただひとりが残り、陣頭指揮をとり続けました。
10年2月、水路は終着点のガンベーリー砂漠に到達、全長25.5㎞の用水路が完成しました。用水路の完成を祝う式典が行われました。岩だらけの大地と格闘した7年でした。用水路の周辺の風景は大きく変わりました。水路の護岸に植えられた柳の根が「蛇籠」の石を包み込み水の圧力から水路を守ります。何一つ作物を栽培できなかった場所に豊かな恵みが戻ってきました。用水路によって蘇った田畑は3500㌶。小麦とトウモロコシ27000㌧の生産が可能となりました。これは15万人分の食糧に相当します。水路の上流の村には、一度村を捨てた人が次々と帰ってきました。主食の小麦だけでなく、カブやニンジン、ダイコンなど野菜の収穫も始まりました。野菜を売り、現金収入を得る農民の姿も見られるようになりました。武器ではなくツルハシでアフガン人の暮らしを立て直す、その信念が実ろうとしています。(つづく)
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【九条噺】
政府は、朝鮮学校(高校段階)に対して「高校無償化制度」を適用するために、対象となる10校から適用申請を受け付けていたが、11月24日、北朝鮮による砲撃事件をうけて「(無償化適用審査の)手続きを一旦停止する」と発表した。政府は今春、「拉致問題」等を事実上口実にして朝鮮学校を無償化制度の適用外としてきたが、最近になって「(無償化制度の)適用に際しては政治・外交上の問題は考慮しない」という方針に改めて、申請があれば個別審査を経てすべて適用対象とする旨明らかにしたばかりだった。それがまたこの急変である。この政府のドタバタにふりまわされる朝鮮学校をたいへん気の毒に思う。そして、何よりも無責任な政府によって多くの在日の子どもたちの心が深く傷つけられているのではないかと危惧する▼「本国に直接影響を及ぼせない在日が、本国の状況で影響を受けるのは納得できない」「無償化が決まりかけて喜んでいた。政治家には本国の政治状勢と在日の教育はまったく別のものだということを理解してほしい」「『反日教育』というが、これでは子どもたちを日本に反感を持つように追い込んでいるのではないか」・・・。関係者や識者らの落胆・怒り・反感を新聞は伝える。「アレコレ理由をつけてまだ差別をやめないのか」とも▼この政権へのかかる思いは、普天間基地移転問題などを通して「米軍優先・県民無視の姿勢」を痛感させられた沖縄県民もまたしかりであろう。(佐)
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なぜ、いま衆院比例定数削減か? これとどうたたかうか
―― 改めるべきは小選挙区制 ――
『月刊憲法運動10年12月号』に東京慈恵会医科大学教授・小沢隆一氏(「九条の会」事務局)の学習会での「なぜ、いま衆院比例定数削減か?これとどうたたかうか ―改めるべきは小選挙区制―」と題する「報告」が掲載されました。要旨を4回に分けてご紹介します。今回は1回目。
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