「九条の会・わかやま」 154号を発行(2011年1月22日付)

 154号が1月22日付で発行されました。 1面は、いま9条を広げています コスタリカの青年弁護士ロベルト・サモラさん、9条「改正」容認40%超 静岡新聞世論調査、九条噺、2面は、改憲発議要件「緩和」を狙う;安倍元首相「改憲」大連立に言及;自民・有志議員 発議要件緩和案を発表、なぜいま衆院比例定数削減か? これとどうたたかうか―改めるべきは小選挙区制―小沢隆一さん④ です。
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[本文から]

いま、9条を広げています
コスタリカの青年弁護士 ロベルト・サモラさん

 1月19日、コスタリカの弁護士・ロベルト・サモラさんが、エルおおさか(大阪市)で講演し、コスタリカでの経験に照らせば、9条の素晴らしさがいっそう実感できると発言、世界に広めていこうと訴えました。
 サモラさんは03年、コスタリカの大統領が米英のイラク攻撃を支持したのは常備軍の永久禁止を規定した憲法12条に違反し、平和に対する権利、中立宣言、国連制度を侵害すると裁判所に訴え、裁判の結果、コスタリカは「有志連合」から外れることになりました。さらに07年には、核燃料と原子炉の製造・建設を、目的を問わず許可した大統領の決定は、平和に対する権利や健康な環境への権利を侵害すると訴えて、許可の無効を勝ち取っています。その他、武器の売り込みを許す自由貿易協定(FTA)やコスタリカ内の麻薬取締りを名目とするアメリカ軍の活動についての訴えも現在最高裁などで係争中です。コスタリカでは、憲法違反のみを理由に最高裁に訴えることができます。
 サモラさんは、こうした活動を行うのは、「それは私の権利で」「法制度がそれを許し」「私に信念がある」からだといいます。そして、最高裁から睨まれ、法律事務所の経営も困難になったり、電話やメールもすべて盗聴されて、危険に身をさらすことも多いが、そんな犠牲はあっても、正しいことをすること以上の幸せはないと言い切ります。
 サモラさんはいま、訴訟弁護士活動とともに、「平和や非武装をテーマとした講演・報告活動」「核兵器に反対する活動」「平和憲法および(日本の)憲法9条を広げる活動」などに取り組んでいます。
 サモラさんは、講演のなかで、「憲法9条」と「日米安保条約」の関係について、「日本国憲法は自衛隊もアメリカ軍の駐留も許さず、常設の戦力を持つことを禁止している。日本の最高裁は砂川事件の判決で『9条が言う戦力』は日本の戦力であり、アメリカ軍は日本の戦力には当たらないとした。この判決のキーポイントはここで、『自国戦力・他国戦力』云々の問題は日米安保に理由付けをするためのものでしかない。それがこの最高裁判決の一番大きな間違いだと言える」と語りました。サモラさんはさらに、「平和憲法、9条の精神を広げるためには、私たちが活動していることを続けていく以外にないと言いたい」と述べました。

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9条「改正」容認、40%超
静岡新聞世論調査


 1月4日付静岡新聞は、「県民800人を対象に行った『日本国憲法に関する意識調査』で、平和主義を掲げた9条について、『改正』すべきとの回答が前年より約3ポイント増え、5年ぶりに40%を超えた。集団的自衛権の行使を認めるかどうかの質問では、容認する人がわずかに上回った。沖縄・尖閣諸島をめぐる日中間の領有権問題、北朝鮮の韓国に対する砲撃などが相次ぎ、日本の安全保障に対して生じた県民の不安感が、改憲と集団的自衛権行使の容認の割合を押し上げたとみられる」と報じています。  9条への対応では、「厳密に守る」は前年比3.2ポイント減となり、04年に調査を開始してから最低、「これまで通り、解釈や運用で対応」はほぼ横ばいとしています。
 集団的自衛権は、「憲法改正で行使」「解釈変更で行使」を合わせた容認派は5.7ポイント増で、最も低かった08年末の27.4%と比べ、10ポイント増え、「行使を認めない」をわずかに上回り、容認派が多くなったのは、05年以降で初めてとしています。
 非核3原則は、法制化を含めて今後も堅持すべきとしたのは78.8%と大多数ですが、前年比4.9ポイント減となっています。
 武器輸出3原則は、堅持が多数派ですが、「議論自体は必要」が32.2%となっているのも要注意です。
 いずれにしても、すでに「改憲世論は減る一方という状態ではなくなっている」ということは、間違いないのではないでしょうか。

「憲法9条は」



「集団的自衛権は」



「武器輸出3原則は」

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【九条噺】

 昨年の秋、『パンとペン 社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い』を読んだ。そのさなかに、著者の黒岩比佐子さんが膵臓がんで亡くなられたことを知りとても驚いた。何しろまだ51歳である。それでよけいにおろそかに読んでは申し訳ないように思い、いつにもまして丹念に読んだ。「あとがき」に「あとひと息というところで、膵臓がんを宣告され」「抗がん剤治療を開始」したとあった。まるで命を搾り出すように書かれた労作なのだと思った▼この本は、日露戦争を経てやがて日中戦争へと向う激動の時代を生き抜いた社会主義者・堺利彦の生涯を描いている。なかでも、自由と民主、非戦平和を唱える人々を一網打尽にするために国家権力がデッチあげた「大逆事件(1910年)」以後、つまり、「冬の時代」ともいわれる困難な時期の堺利彦の活躍に焦点をあて、社会主義運動家たちが生き抜くための「売文社」設立をはじめ、多彩でユニークな活動の詳しい紹介を通して、彼のしたたかで人間味あふれる姿を描きあげている▼堺利彦の死去(1933年)に際して、長女真柄は謝辞の中で「日露戦争非戦から今日の世界大戦の危機をはらむ戦争反対まで、皆さんの『棄石(すていし)』となり、『埋草(うめくさ)』ともなって働きたいと父は申していました。どうぞ父を『棄石・埋草』として戦争反対運動の糸口に」と述べた。憲法9条はまさにかけがえのない多くの「棄石埋草」の上に花開いたのだ。(佐)

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改憲発議要件「緩和」を狙う
安倍元首相が「改憲」大連立に言及


 1月8日付産経新聞は、安倍晋三元首相がCS番組の収録で、「憲法と選挙制度を変えようという2点だけを半年間だけ一緒にやろうということはあり得る」と、憲法「改正」などに限定した民主党との大連立構想の可能性に言及したと報じています。「民主党政権の中には社会党の人もいるし、中身についての改正は無理だが、3分の2(の賛成が必要な改憲条項)を2分の1にすることに限って改正しようということはできるのではないか」と指摘したと言います。これは、国会の改憲発議要件を自分たちに都合がいいように民主・自民で「クーデター」的に改め、改憲への道をつけようというものです。

自民・有志議員、発議要件緩和案を発表

 1月14日付毎日新聞は、「自民党の有志議員6人でつくる政策集団『のぞみ』代表の山本有二氏が14日、記者会見し、憲法改正の発議要件を衆参両院それぞれ総議員の『3分の2以上の賛成』から『過半数の賛成』に緩和する改憲案を発表した。改憲に前向きな超党派の議員連盟を3月中に設立し、通常国会に共同提出したいとしている」と報じています。

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なぜ、いま衆院比例定数削減か? これとどうたたかうか
―― 改めるべきは小選挙区制 ――


 『月刊憲法運動10年12月号』に東京慈恵会医科大学教授・小沢隆一氏(「九条の会」事務局)の学習会での「なぜ、いま衆院比例定数削減か?これとどうたたかうか ―改めるべきは小選挙区制―」と題する「報告」が掲載されました。要旨を4回に分けてご紹介しています。今回は4回目(最終回)。

小沢隆一さん ④
4.小選挙区制は「ムダ」の温床比例代表制こそ「ムダ」が少ない(2)


 中選挙区制に比べて、議員の「落選中」期間が長くなったことは、政治資金の取り扱いにも影響を与える。その間、議員歳費や立法事務費、公設秘書の給与は入らず、党や後援会組織の資金に頼らざるをえない。こうした「落選中の政治資金」のやりくりに事欠くようになると、不正なカネに手を出す議員が出てくる。鳩山前首相が母親から受け取った不正な政治資金の使い道の多くは、落選中の議員への配分であったそうである。また、政治資金を政党助成金に依存する政党が増え、依存体質が温存されることにもなる。11月12日の衆院倫理・選挙特別委員会で、各党が受け取っている政党助成金の残金を、政党本部と国会議員の政党支部の「基金」として総額44億円もプールしている実態が明らかになった。政党では民主党が最多の21億1754万円をプールし、全体の約半分を占め、各党の財政が、政党固有の財政収入で「単年度主義」的ではなく、国際的に比較して高額な政党助成金を「繰り越し」的に利用してまかなっていることがよくわかる。
 ところで、最近、議員定数削減問題に関連して、「ムダな議員が多い」という議論を耳にする。議員としてたいした実績もあげられず、次は落選し、政界から消えていくような議員が増えたことが、その根底にあるのではないか。また、小選挙区で自民と民主が競う場合、勢い「勝てる候補」探しに奔走し、浮動票を当てにした「目新しさ」を追求する傾向がある。国民が「最近、国会議員の質が落ちた」と感じているとすれば、それは、議員の定着率、再選率の低下や、候補者擁立の仕方にその一因があるのではないか。こうした状況は、選挙での「勝ち負け」、議席の大幅な変動が小選挙区制の下での政治のダイナミズムだと考える向きには、痛痒を感じないことかもしれない。しかし、政治のダイナミズムとは、本来、選挙での「勝ち負け」、それによる議員の顔ぶれの変化ではなく、選挙による変化が、行政を含む政治全体を動かして、国民が切実に願っている、例えば「普天間基地の撤去と名護への移設撤回」などの政策課題を実現することではなかろうか。この課題は、今年の5月28日の日米合意の廃棄なくしては成し遂げることができず、アメリカに対して断固とした態度で粘り強い交渉を行う必要がある。それには、世論と議会と政府・行政が一丸となった姿勢で臨む必要がある。政治の質は、このような課題を成し遂げることを通じて向上していくのであり、これこそ政治のダイナミズムであろう。
 比例代表制の場合は、各党が得票目標と立候補させるべき人数の予測を比較的立てやすく、議員とその卵である立候補者を計画的に養成でき、効率的でムダの少ない「少産少死」の選挙システムといえる。得票率と獲得議席との間にズレを生まない比例代表制は、民意を正確に反映すること以外にも、こうした特徴を持っている。比例代表制のもとでは、各党がその自前の政治資金でしっかりと養成した候補者を擁立して選挙戦に臨むことができる。政治活動経験の乏しい候補者を、目新しさによる当選可能性を期待して無理矢理擁立する必要はなくなる。論戦は各党の政策を競う形でたたかわされ、選挙結果は比例代表である以上、小選挙区制ほどの「激変」は起こりえず、各党の勢力が数パーセント単位で動くことになろうが、それでも選挙の結果国会に送りだされる議員たちは、みな各党が太鼓判を押す「エース」が揃うことになる。その彼らが議会での政治論戦を通じて渡り合い、また官僚層のトップにもにらみを効かせて勝手な振る舞いを許さない議員集団として活動する。これこそが真の意味での「政治主導」ではあるまいか。政党が用意した名簿順位に従わざるを得ない拘束名簿式比例代表制では民意の正確な表明とその反映がなお不十分であるというのならば、非拘束名簿式の採用やドイツのような選挙区と比例代表の併用制という選択肢も検討されてよい。
 このように、比例代表制の場合は、投入される資金が確実に役立てられる政治を構想することができる。衆議院の比例定数を削減して小選挙区制に純化していくことは、言語道断の暴挙以外の何物でもない。(おわり)

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(2011年1月23日入力)
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