「九条の会・わかやま」 157号を発行(2011年3月5日付)

 157号が3月5日付で発行されました。1面は、日米同盟の揺らぎから出てきた「新防衛大綱」(西晃氏①)、米 集団的自衛権行使と9条改憲を露骨に要求、【九条噺】、2面は、「医療生協・九条の会」第6回総会&学習交流会、民主党 憲法審査会規程を提案、来年4月までに自民党憲法改正原案とりまとめ です。
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[本文から]

日米同盟の揺らぎから出てきた「新防衛大綱」

 2月25日、和歌山市勤労者総合センターで「憲法9条を守る和歌山弁護士の会」が講演会を開催。西晃弁護士(大阪弁護士会)が「日本の安全保障と日米同盟再考」と題して講演されました。その要旨を3回に分けてご紹介します。今回は1回目。

 日米安保条約(日米同盟)という、日本とアメリカの軍事的な同盟関係を基盤とした安全保障政策が続き、それを全世界的な規模に展開していく過程で、実は一方では同盟関係の中で「歪み、揺らぎ」が生じている。これをどう捉え、日本の安全保障をどう考え直すかということが今日のテーマである。
 沖縄米軍基地問題・普天間基地「移設」問題、鳩山氏「抑止力は方便」発言の余波、尖閣諸島帰属を巡る中国との軋轢、北方領土返還を巡るロシアとの軋轢、北朝鮮の延坪島砲撃事件、こういう問題となる幾つかの事象(不安定要因)を導き出す力の変動をどう見るのか、これらの事象を巡る核心部分で胎動しているものは何かを見ることが大事だと思う。
 日本が日米同盟の下で安定的に軍事関係を運用・実践してきて、対立構造が明確であった冷戦構造の下では一定の安定性があった。しかし、冷戦構造が壊れ、アメリカの力の相対的低下、新興国の力の上昇の中で、抑え込まれていた矛盾があちこちで浮かび上がってくるという構造的変化が今起っている。これら日米関係の揺らぎは日米同盟の危機だという捉え方がある。中国などがこの揺らぎの隙を狙って軍事力を背景として覇権的な行動をとろうとしているという評価があり、これが日米同盟強化の論調の基礎になっている。政府にもその観点から日米同盟を見直す方向の議論が出てきている。その大きな現れが「新防衛大綱」だ。
 「新防衛大綱」が言っていることは、防衛力のあり方、何を防衛の中心に据えるかの基本的な考え方の転換である。従来の日本の考え方は、日本の脅威になりそうな国を想定してそれに対抗する戦力を持つという「対抗的防衛力」という考え方を採らず、国土を守る必要最小限度の防衛力を持ち、それによって地域の紛争に巻き込まれたり、防衛上の空白状態にならない状況に置くために必要な防衛力、「基盤的防衛力」を保持するという考え方を採っていた。この考え方から「動的防衛力」へ転換しようというのが今回の「新防衛大綱」のポイントだ。「動的」とは「機動的」という意味で、「各種事態に対し、より実効的な抑止と対処を可能とし・・・安全保障環境の改善のための活動を能動的に行い得る動的なものとしていくことが必要である。このため即応性、機動性、柔軟性、持続性及び多目的性を備え、軍事技術水準の動向を踏まえた高度な技術力と情報能力に支えられた動的防衛力を構築する」と書かれている。「動的防衛力」は不安定要因はどこから来るかという方向を予測して、そこを事前にいち早く対応しようという考え方である。今後5年間の防衛予算規模は年間4.8兆円、陸海空各自衛隊は北から南西部への展開を重視、島嶼(とうしょ)部への陸上自衛隊の配備、潜水艦の増強、那覇空港への2個航空団の配備、移動警戒レーダーの全域への配備などが計画されている。攻められたときの対処より、如何に将来的脅威を軍事力で未然に防ぐかを重視し、同盟国アメリカと緊密な連携強化を随所にうたっている。米軍再編とともに自衛隊が海外展開し、米軍と一体で行動する流れを押し進めるものである。これと合わせるような形で1月21日に向う5年間の米国との「おもいやり予算」を含む特別協定を締結し、5年で1兆円を提供する合意をした。民主党は3年前に特別協定に反対したはずなのにである。
 日米同盟の危機という視点からアメリカへの追随が続いてきている。決め手になっているのは、米軍と自衛隊による麻薬的響きを持つ「抑止力」に依拠して相手国の行動を止めようという形になっている。問題解決の手法は、軍事力を背景とした交渉力に依拠することを思想的基盤にして、米軍再編支援強化・自衛隊の海外展開・防衛力の機動的展開を図るという流れになっている。これと歩調を合わせアメリカでは2月8日、「国家軍事戦略書」が発表され、自衛隊の海外展開と海外における協力を歓迎するとされ、日米が呼応する形で世界情勢に立ち向うことになっている。日米同盟の危機という観点からものを見る人は、こういう形で日米の同盟強化をすることが中国・ロシア・北朝鮮・沖縄問題を解決する根本的な方策であると考えている。(つづく)

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米、集団的自衛権行使と9条改憲を露骨に要求

 2月10日付の共同通信によれば、アメリカ議会付属の議会調査局が今年1月にまとめた日米同盟に関する最新報告書で、「戦争放棄をうたった憲法9条に基づき、集団的自衛権は行使できないとする日本政府の解釈が、より強固な日米の防衛協力を進める上で障害になっている」との見方をあらためて強調していたことが分かったとのことです。
 アメリカ政府は、「北朝鮮の核搭載ミサイルが5年以内に米本土への『直接の脅威になる』(ゲーツ国防長官)と警戒している。報告書はミサイル発射などの可能性を念頭に、米国が攻撃を受ける局面でも日本は何の対応もできない」と懸念を示しています。「憲法と法的な制約」と題した項目で、日本側の幾つかの法的要因が日米協力の足かせになっていると指摘し、最も根本的な問題は「戦後の占領期に米国が起草し、『国権の発動』としての戦争を放棄して『交戦権』を禁じた日本国憲法9条だ」としています。さらに集団的自衛権についても、日本政府が行使できないと解釈していることが「密接な防衛協力にとって障害」と問題視しています。
 このように、アメリカは北朝鮮の核ミサイルを口実に、露骨に集団的自衛権の行使と9条改憲を要求しています。これらは8月の「新安保懇」提言、12月の「新防衛大綱」閣議決定、2月の「経済同友会」提言などと軌を一にするもので、日本をアメリカと一体となって世界で戦わせようとするものと言えるのではないでしょうか。

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【九条噺】

 例えば、働く人々が使い捨てられ、お年寄りの孤独死も跡を絶たない。そんなとき、農林漁業をも打ち砕く外交施策を「開国」の名のもと推進し、物騒な軍事基地すら頼みとする政権。あまりにもやりきれないことが多いがメディアは核心をぼかすことに腐心する。故に、先行きに不安を抱く人も多いに違いない。それでも、多くの人が「この人」の生き様を知って、大きな励みを受け、あるいは、〝あきらめるのはまだ早い〟と自らに言い聞かせているのかもしれない。「この人」とは、つまり聖路加国際病院理事長の日野原重明さん(99)である▼その日野原さんが新年にあたり「100歳からの10年間の活動計画」を発表された。「今まで日本になかったアメリカ式医学校を設立し」「『新老人の会』(自身が理事長)を拡大、憲法9条を守り武器を捨てた『平和の国』として世界に平和の心を伝える行動」、さらに「選挙権を18歳とする運動」や「10年後に米軍基地撤退を実現させる活動を展開」するのだという。10歳の小学生対象の「いのちの授業」(既に150校余で実施)や、「九条の会応援団」としての講演活動など、今も、多忙な日々だと聞く▼非力だが日野原さんの願いを繋ぐ道を地道に歩いていきたいと思う。「9条改正を笑 ひ云う議員/このちんぴらに負けてたまるか」(岩田正)という心意気も携えながら。(佐)

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「医療生協・九条の会」第6回総会&学習交流会開催

 「医療生協・九条の会」第6回総会が2月19日、和歌山生協病院で開催され23名が参加しました。山本理事長の挨拶の後、DVD『どうする安保~日米同盟とわたしたちの未来』を視聴学習しました。
 田畑専務理事より10年度の活動報告が行われ、雑誌『通販生活』が取り組んだアンケートで「日米安保条約はそろそろ解消」の回答が過半数を超え、「武力を使わない安全保障をのぞむ」に4割以上の読者が賛成していることが紹介されました。参加者数が減ってきている住民過半数署名行動の参加を増やすこと、学習したことを大々的に宣伝し、引き続いて事業所単位で九条の会設立を目指すことが確認されました。
 意見交流では、職員からは昨年夏のピースキャンプ、辺野古移設反対住民支援行動参加報告会、原水禁世界大会参加者交流会の模様が報告されました。また、独自で取り組んでいる「青年職員意識調査」では、9条の中身をよく知らない人や選挙では日本の平和問題について考えていなかったなどの回答があったことが報告され、もっと広く知らせていきたいと決意が述べられました。支部からは「戦争体験者から次世代にどう引き継いでいくか」「組織態勢や平和問題を持続的にどうとりくむか」「『9条とくらし』『9条と医療』などについて軍事費とからめて社会保障費が削減されていることなど日常的な論議が必要」「安保問題をもっと身近な問題に」「署名行動など尻すぼみにならないよう活動強化が必要」などの発言がありました。
    11年度活動方針として以下の3点が確認されました。
①県民の会などの呼びかけに応えて、9条を守る住民過半数署名運動を推進し、核廃絶をめざす国際署名運動にも参加する。
②「支部」や「事業所」を単位に、組合員・職員を対象とした憲法学習・宣伝活動を進め、9条を守る他団体の学習企画なども積極的に紹介し、参加する。
③「支部」や「事業所」を単位とした「九条の会」づくり、地域や他の「九条の会」との交流・共同の取り組み進める。青年職員の平和運動と連携・共同した取り組みを相談する。

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民主党、憲法審査会規程を提案

 2月17日のNHKニュースは「憲法改正の議論を行うための憲法審査会について、民主党の参議院執行部は、今の国会の会期中に、審査会の設置に必要な規程案を野党側に提案することを目指しており、取りまとめに向けた党内の議論を進めることになりました。憲法改正の手続きを定めた国民投票法は、衆議院と参議院にそれぞれ憲法審査会を設置すると定めており、衆議院ではおととし審査会の規程が定められましたが、参議院では作られていません。これについて、民主党の参議院執行部は『去年5月に国民投票法が施行されたのに、規程がないのは不自然な状態であり、与党として対応する必要がある』として、今の国会の会期中に規程案を野党側に提案することを目指しています。そして、15日、党の参議院の役員会で、審査会の委員の数を45人とし、採決は出席議員の過半数で決するなどとする素案が示されました。民主党の参議院執行部は、素案を基に議論を進めることにしていますが、党内には憲法改正に慎重な議員もいることから、こうした議員の意見も聞いたうえで、憲法審査会の規程案の取りまとめに当たることにしています」と放送しました。
 民主党は09年6月の衆議院で規程案の議決に「断固反対」しました。ところが今回は強行採決された「衆院を踏襲する」、つまり「自公案でいく」と言っています。今回の民主党参院執行部の動きは、憲法審査会についても自民党と同じ立場になってしまったと言えるでしょう。

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来年4月までに自民党憲法改正原案とりまとめ

 2月14日付産経新聞の報ずるところによれば、自民党の谷垣禎一総裁は14日の記者会見で、サンフランシスコ講和条約発効による日本の独立回復から来年4月28日に丸60年になるのを機に、党の憲法改正原案をまとめる考えを明らかにしました。谷垣氏は「自民党は結党の第一の理由に憲法改正を挙げてきた。わが党として憲法改正案をまとめていかなくてはならない」と述べたといいます。
 国民投票法は、憲法改正原案は「関連する事項ごとに区分して発議する」と、個別発議の規定があります。谷垣氏は具体的な発議の対象について言及しなかったそうですが、自民党は明文改憲の意図を決して捨ててはいないことを示したものです。

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(2011年3月6日入力)
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