「九条の会・わかやま」 170号を発行(2011年8月8日付)

 170号が8月8日付で発行されました。1面は、9条改憲派が日本の原子力政策を推進した(小森陽一さん ①)、自民党「日本再興・自民党中長期政策体系」発表、九条噺、2面は、原発に終止符を打たない限り核兵器は絶対になくならない(アーサー・ビナード氏 ③)、DVD紹介「九条の会講演会」未来世代にのこすもの 私たちは何を「決意」したか、3面は、福島第1原子力発電所の『巨大人災』にあたって(福島県九条の会)   です。

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[本文から]

9条改憲派が日本の原子力政策を推進した

 7月30日、和歌山商工会議所で「9条ネットわかやま」主催、「九条の会・わかやま」「憲法9条を守る和歌山弁護士の会」協賛の講演会が開催され、約300名が参加しました。「九条の会」事務局長・小森陽一さんが「新『現代日本の開化』と憲法9条 ─夏目漱石 和歌山講演から100年目に考える─」と題して講演されました。講演要旨を4回に分けてご紹介します。今回は1回目。

小森陽一さん ①

 1911年8月15日、夏目漱石は「現代日本の開化」という講演を和歌山で行った。明治のスローガンは「文明開化」と「富国強兵」。何故「文明」を取って「開化」なのか。「文明国」とは欧米列強のことで、日本はぎりぎり植民地化されない「半開」だった。その「文明」が取れたということは、1911年は「文明国」に日本がなった年だということだ。「安政5カ国条約」以来の不平等条約が改正され、関税自主権を獲得した。日本はようやく「文明国」「1等国」の仲間入りをしたという意識が蔓延する中で、1等国などと喜んでいていいのかと、欧米列強が進めようとしていた植民地主義的な帝国主義国に日本がなる文明開化を、和歌山の講演で鋭く批判した。
 1等国とは戦争をする権限を持った文明国、完全自主権を持った主権国家で、この文明国同士が日本に開国を迫ったのが1853年。明治新政府は直ちに条約改正をしなければならなかった。条約改正の一番の要は戦争が出来る国家になるかどうかだ。清国に宣戦布告できたのは、その直前にイギリスと不平等条約を解消して、イギリスから開戦を認められたからだ。その時イギリスはロシアの南下政策と対立しており、ロシアはシベリア鉄道を開通させ、南満州鉄道とつなぎ、大連に出ようとしていた。1895年、日本は日清戦争で奪った遼東半島を、独・仏・露の3国干渉で返還させられた。日本は1902年日英同盟を結び、1904年、ロシアのアジアでの南進を阻止するとして日露戦争を仕掛けた。1911年には日本は英・米・独・仏と新条約を結び関税自主権を列強から回復して、一人前の国、1等国になった。
 これは戦後の日米安保体制の下でアメリカがイラク戦争に日本を巻き込もうと、湾岸戦争以降9条改悪の企みが出てきて、9条を守る運動をやってきたが、そういう意味では100年前の漱石が生きた時代と今の時代のあり方は極めて類似している。逆に言えば、3・11が起きた今、100年以上の単位でこの国が歩んだ道は正しかったのかを、漱石の100年前の危機意識に基づきながら考え直し、3・11以降をどう歩むのかということに向き合うことが必要と思う。
 今も何等国という考え方で国の問題を考える人たちが日本の原子力政策を進めてきた。憲法9条を変えようとする勢力の責任者・中曽根康弘氏だ。4月26日の朝日新聞で自慢話として本音で、「戦後日本の最大の問題はエネルギーだった。着目したのが原子力だった。そこは先見性だ。エネルギーと科学技術がないと日本は農業しかない4等国家になる」「衆院予算委員会に、突如2億3500万円の予算を提案し成立させた。事前に一般に分ると、無知の妨害が起こる可能性もあった。一部の新聞やジャーナリズムは『中曽根が原爆を作る予算を作った』と大騒ぎした」と語っている。こういう考え方を持っている政治家が日本の原子力政策を推進した。53年7月の朝鮮戦争休戦でアジアも冷戦に入った。この中でソ連とアメリカが核兵器の増産体制で冷戦を維持していくには核兵器の材料が不可欠で、原発は、発電でお金を儲けながら核兵器の原材料を作る核兵器材料工場なのだ。「核」と「原子力」という言葉を使い分けているのは日本だけだ。英語では同じ「nuclear」だ。3・11以降も自慢げに話している勢力が同時に憲法9条を変え、自衛隊を軍隊にしようと言っている勢力だ。ちなみに自衛隊が創設されたのは同じ54年だ。憲法9条を作ったにも拘らず、日本列島がアメリカのアジアの軍事的な拠点にされていくというのは45年8月15日以降の日本のあり方だとすると、3・11以降は、「戦後」ではなく「災後」で考えるべきだという人もいる。大江健三郎さんは「アメリカの核の傘を信じてそれに頼ろうと考えてきた勢力と原発は安全だと言い続けて原子力政策を推進してきた勢力は一体のものだからこそ、この2つの安全神話を打ち破ることが問われている」と言われている。日本が何故無謀な戦争をするに至ったかを考えるには、100年前の漱石の和歌山講演を改めて考え直すことが大事なのだろうと考える。(つづく)

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自民党、「日本再興・自民党中長期政策体系」発表
原発稼働維持、集団的自衛権行使、非核3原則否定、等々


 自民党の「国家戦略本部」(本部長・谷垣総裁)は7月20日、中長期的な政策に関する報告書「日本再興・自民党の中長期政策体系」を発表しました。「今後の具体的な政策立案のメルクマールともなるべきもの」としており、具体的な政策はこれに基づいて出されるものと思われます。私たちに看過できない数多くの問題を含んでいます。

原発の稼働維持

 福島第1原発事故の収束の目処も立たないのに、原発推進への反省はありません。
 「今後のエネルギーのあり方については、・・・電力の安定供給のシステムを再構築しなければならない」とし、「当面の危機への対応として、電力の安定供給を維持し、国民経済の悪化・産業空洞化を防ぐためにも、①省エネ推進、②既存原発稼働維持、③火力発電の効率化・増強、④再生可能エネルギーの普及、の4つをベストミックスで進めることが不可欠である」と、原発の稼働維持を掲げています。
 原発は、一旦放射性物質が外部に放出されたらそれを抑える手段はありません。ですから、原発を含んだ「ベストミックス」などという考え方は成り立ちません。

外交・安全保障政策では

 集団的自衛権行使の是認、武器使用基準の緩和、非核3原則の否定、武器輸出3原則の骨抜きなど、「従来タブーとされてきた安全保障上の諸課題について、組織や制度の改革を法令の整備も含めて行う」と、タブーに挑戦する姿勢を示しています。
①日米安全保障条約を基軸とする日米同盟の強化
②国際の平和と発展のために、財政的、技術的、人的貢献
③スピーディーな情報集約と意思決定が可能となるよう国家安全保障会議の常設
④集団的自衛権の行使を認め、公海における米艦防護、弾道ミサイル防衛の実施
⑤PKO活動への積極的参加。武器使用を国際基準に合わせる。駆けつけ警護及び国連のPKO任務への妨害排除のための武器使用是認。国際的平和活動の一般法制定
⑥非常事態に際して、憲法を含め必要な整備の実施
⑦防衛力を、「質」「量」ともに必要な水準の早急な見直し。適切な人員と予算の強化。新たな防衛計画の大綱及び中期防衛力整備計画の策定
⑧南西諸島防衛(尖閣、与那国、石垣、宮古)のために自衛隊の駐留等により強化
⑨非核3原則は、核兵器を積んだ艦船等の寄港を容認。「非核2・5原則」への転換
⑩普天間等の懸案を着実に処理。日米防衛協力の推進
⑪武器輸出3原則の精神を堅持しつつ、米国を始めとする特定の先進民主主義国との間で、我が国の技術の活用
⑫国連PKOへ人的貢献

学校での「国旗掲揚・国歌斉唱」義務化

 「学校における式典等での国旗の掲揚、国歌の斉唱の義務化のため、都道府県条例に委ねるのではなく、所要の法律を制定する」と、法律で強制する姿勢を示しています。

新・教育基本法に合致した教科書検定と採択方法改革

 「教科書検定をしっかり行うとともに、教職員組合の意向に左右されてしまう現在の採択方法を改革すべきだ」としています。

「報告書」の詳細は下の自民党のHPを参照して下さい
http://www.jimin.jp/policy/policy_topics/112141.html

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【九条噺】

 先日、驚くような裁判があった。旧日本軍に駆り出されて戦死し、靖国神社に合祀された韓国人の遺族ら10人が、国と靖国神社に対して合祀の取り消しなどを求めた訴訟の判決で東京地裁は請求を棄却した▼高橋裁判長は棄却理由で「(合祀によって)我慢すべき限度を超えて人格権が侵害されたものではない」などと述べたが、例えば、原告の10人の中には、サイパンで戦死したと日本政府にみなされて、生きながら合祀手続きをとられた金希鐘さん(86)もいた。しかし裁判長は、原告のことをろくに調べもせずに、しかも現に生きているその人が見守る中でかかる合祀を是とする判決を下したのであり、まったく、お粗末としかいいようがない▼もちろん、遺族らの怒りはそれにとどまらない。そもそも不当な植民地支配のもと、大切に育てた子どもたちを力ずくで奪い取り、「日本兵」として侵略戦争の最前線に駆り出して、死んでも遺族に詫びようともせず、さらに、断りもなく一方的に「英霊」として靖国神社に合祀していることそのものが理不尽で、許しがたいのである▼ところで、国や靖国神社がいう「英霊」という言葉は要注意だ。例えば、「沖縄でガマに避難していた住民らが日本軍に追い出されて死亡した時も『壕提供の栄誉』により『英霊』とされた」など、とんでもない話も少なくないからだ。所詮、戦争は人殺し。「英雄」も「英霊」もないのである。(佐)

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原発に終止符を打たない限り核兵器は絶対になくならない

 7月9日、和歌山地域地場産業振興センターで核戦争防止和歌山県医師の会主催の平和講演会が開催され、詩人・アーサー・ビナード氏が「夏の線引き ― アメリカからピカドンを見つめて ― 」と題して講演されました。講演要旨を3回に分けてご紹介しています。今回は3回目で最終回。

アーサー・ビナード氏 ③

 核は本質が見えれば見えるほど国民は離れる。大量虐殺にしか役立たずメリットは何もない。でも、「原発は技術の最先端」と偽って売り込み、金をうまく使って、秘密主義を使い、みんなを騙すと儲かるということだ。日本、アメリカ、フランスは核兵器を手放したくないようだ。ドイツは脱原発の法律も成立し、それは核兵器はいらないと言っていることだ。イタリアはベルルスコーニが核兵器を欲しがり、国民投票で原発再開を企んだが、福島の事故で95%が脱原発に賛成し原発に終止符を打った。中国が核兵器を手に入れたのは、ソ連から原子炉を貰ったからだし、インドはカナダから貰った。
 我々が生き残るためには核兵器と手を切る以外にはない。核兵器を保有していると必ずまた使われる。核兵器と核燃料のつながりを見抜いて、両方に終止符を打たない限りなくならない。「核廃絶と言い、平和利用は残す」というのは、世紀の4大詐欺に引っ掛かった幻想に過ぎない。原発に終止符を打たない限り核兵器は絶対になくならない。原発は核兵器維持のためのカムフラージュだ。日本は長崎型原爆を何百発も作れるプルトニュームを既に持っており、あり過ぎて困っている。でも、原発を止めたら核兵器しか残らない。核兵器しか残らないと、彼らには50年代のまずい状態に戻る。
 「核兵器は悪かもしれない。しかし、『平和利用』はそれに反論できる。核そのものが悪いのではなく、『平和利用』と『軍事利用』がある。いいこともあれば、悪いこともある」というペテンを続けるためには原発を続けなければならない。日本の原発54機が全部止まって廃炉になると、核は軍事利用しか残らない。この誤魔化しが出来なくなり、核廃絶の道がいよいよ本格化する。アメリカ、フランス、日本の原発同盟は実は核兵器の維持のための同盟であって、エネルギーのためにやっているものではない。
 これから気をつけなければならないのは、原発を推進している人たちは、事故が起きた現在、最終処分場は立地決定と言って喜んでいるに違いない。各地の核のゴミは福島に集めようと。今は口が裂けても言わないが、ほとぼりがさめたら、市民が参加できないような形で、決まったかのような形で出てくる。だから、出てくる前に阻止して、福島が貧乏くじを引かないような市民運動も必要だ。
 90年代に入ると4大詐欺の4番目が出てくる。それはCO2詐欺だ。原発は最初から嘘で塗り固められ、経済的にも破綻し、エネルギー政策だと言うが、実は軍事政策の隠れ蓑でしかない。そこで、CO2説が必要になってきた。90年代にはどんなにカムフラージュしても原発は終りつつあった。何とか原発を続けて核兵器の隠れ蓑を維持するために考えられたのが、地球温暖化のCO2説を利用して、「原発はCO2を出さないから環境に優しい」という真っ赤な嘘だが、巧みに作られた嘘が出てきた。「発電時にCO2を出さない原発は地球温暖化防止の有効な手段のひとつです。原発の燃料はリサイクルできます。限りある地球の資源と安定したエネルギーを次世代に残すために、エネルギーの未来を考え続けます」。これがCO2詐欺のあらましだ。どこが巧みかというと「発電時に」というところ。ウラン採掘、濃縮、原発建設、燃料棒の製造では大量のCO2を排出する。「湯沸し」が始まるとCO2排出が止まるが、また使用済み核燃料の運送、冷却など様々なところで、さらに原発を廃炉にする時にも大量のCO2を出す。福島のような事故の場合は放射能とともに大量のCO2も出す。これが4番目の詐欺だが、これから私たちが気をつけなければならないのは、彼らは原発という核兵器の隠れ蓑を簡単に手放さないはずなので、手の込んだ5番目の詐欺に引っ掛からないようにして、原発を廃炉にして、核兵器廃絶の流れをつくらなければならない。市民が大きな流れをつくらなければ核から手を切ることは出来ない。(おわり)

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DVD紹介「九条の会講演会」
未来世代にのこすもの 私たちは何を「決意」したか

《全150分》
価 格:1500円(税込)
送 料: 160円
申込み:九条の会事務局
  メール mail@9jounokai.jp
  FAX 03-3221-5076
  電話 03-3221-5075

 6月4日に東京・日比谷公会堂で開かれた九条の会講演会での講演を収録したDVDです。
 二重被爆者の「もてあそばれたような気がする」という現実認識を戦後の出発点にすべきだったと鶴見俊輔さん。澤地久枝さんは3月11日の大地震の後、炊飯器いっぱいのご飯を炊いておむすびを作った、それは無垢の幼きものにひもじい思いをさせたくなかったから。災害救助になぜ迷彩服か――我が物顔で出動する自衛隊と憲法9条の関係をシビアに問う奥平康弘さん。1999年に「小説家の想像にすぎない、といわれることは承知で、私は次の世紀の最初の4分の1に、この国で起りうる大きい原発事故のことを考えずにはいられません」と述べた大江健三郎さんが、まさに子どもらが放射能の脅威にさらされているいま語る、「決意」への思い。

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福島第1原子力発電所の『巨大人災』にあたって

福島県九条の会はこのたび、福島第1原発事故について、次の見解を発表しました。「九条の会ニュース」よりご紹介します。

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 福島県九条の会は、東日本大震災で犠牲となられた方々に哀悼の意を表するとともに、過酷な境遇におかれている地震や津波、ならびに原発事故の被災者に対して、心からお見舞いを申し上げます。
 とりわけ、原発『巨大人災』に関して、県九条の会としては、これを会の設立趣旨外の出来事と傍観者を決め込むわけには参りません。私たちは、日本国民がこれまで経験したことのない原発事故によって、ふるさとの町や村を追われ、日夜放射線による生命と健康の危険に怯えながら、日常的な生活を破壊されて、劣悪な環境のなかで避難生活を送っている人々を、身近に見ています。また、被災地九条の会の少なからぬ構成員が、その当事者になってもいます。私たちは、地元の会として、この悲惨な現実から眼を逸らすことは出来ません。
 それだけではありません。日本国憲法九条が依拠する「平和的生存権」=「恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利」の侵害という根本的次元で、戦争の惨禍と原発『巨大人災』とは共通のものがあります。それどころか、「安全神話」を振りまいて原発路線を突っ走った利権絡みの原発利益共同体と日本を再び「戦争のできる国」にしようとたくらむ改憲推進共同体とは、人的にも思想的にも太い地下茎で繋がっており、同じ土壌に根をおろしているのです。
 私たち福島県九条の会は、こうした状況を踏まえ、さしあたり、次のことを求め、その実現のために力を尽くす決意です。
●県民の生命と生活の危機の回避と、侵害された人権および日常の一刻も早い回復。とくに、こどもなど被曝弱者のいのちと健康を護る施策の早急な実施。
●東京電力および国による、県民がこうむった被害の迅速かつ全面的な補償。
●県復興ビジョン検討委員会が提起した「原子力に依存しない、安全・安心で持続的に発展可能な社会づくり」という基本理念の堅持と具体化。
●原発事故にいたる歴史的経緯の客観的な検証と、その社会的責任の所在の徹底的究明。

福島県九条の会は、九条を護り生かす活動を基本としながらも、右の目標達成のため、志を同じくする県内外の諸団体と連携して、行動したいと思います。県内各地の九条の会も、相互に連絡を密にして、これらを実現するため、創意ある取り組みを組織されるよう期待します。
 最後に、被災者のふるさとへの帰還と、被災地九条の会の再建とが一日も早いことを願うものです。
 2011年7月11日
福島県九条の会

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(2011年8月9日入力)
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