岩本 智之 氏 ②
福島では、1~3号機は運転中、4~6号機は定期点検中だった。1~3号機はほぼ同じ経過をたどる。こういう事態が起ると原子炉を緊急に停止させる。しかし、内部に大量の放射性物質があり放射線が出て、それが熱に変わるので温度がどんどん上昇する。従って「冷やせ」で、とにかく水を緊急に注入して冷やさなければならない。ところが非常用炉心冷却装置の電源が途絶えたため働かなくなった。そして「閉じ込めろ」の、放射性物質が外に出てくるのも抑えられなかった。こんな事態で関係者に求められることは、「隠すな」「嘘を言うな」「過小評価するな」の3つだ。しかし、実際に行われたのは、「隠す」「ぼかす」「遅らせる」だ。メルトダウンという非常事態が起っているのに日本国民には2カ月間も隠していた。そのために初動態勢に乱れが生じ、国民もどこへ逃げればいいのか分らないという状態に追い込まれた。まるで大本営発表のように国民を騙してきたと言わざるを得ない。
火力発電と原発には決定的に違うところが2つある。火力は燃料の供給を止めれば直ちに止る。供給の度合いを変えると出力を変化させることができる。原発は原子炉の連鎖反応は止められるが、内部の熱の発生は止らないので、強制的に冷やす以外にない。また、火力は燃料を外から供給しているが、原発は数年分が装填されたままだ。ここが大きな違いで単純に同じだとは言えない。日本の原子炉は沸騰水型と加圧水型があるが、どちらが安全か、効率的かは一概に言えない。
今回の福島は14~15mの津波が押し寄せた。元々この場所は標高35mの丘だったが、GE社は海水を汲み上げることが困難だと、わざわざ10mまで削らせた。そこで大津波が来てもせいぜい5・7mだということにしてあった。実際の波は14~15m、たぶんもっと駆け上がったと思われる。非常用のディーゼル発電機をタービン建屋の地下室に置けということだった。アメリカの人は地震、津波の怖さを知らず、竜巻が怖い。だから竜巻にやられないように地下に置けということになった。これが悲劇の根源をなした。発電所は原発にせよ維持・運転するために、冷却水の循環、放射線・温度・圧力などの測定、データの集約、照明などに電気が必要だ。その電気は自分で発電している電気を使うわけにはいかない。原子炉の安全性に関るし、年に1回定期点検のために止めるので、そのために外から電気を送り込んできている。今回はその送電の鉄塔が地震で倒れた。地下のディーゼル発電機が作動したが、後にやってきた津波で破壊され、非常用炉心冷却装置が働かなかった。そのため燃料が2~2.8千度にまでなった。原子炉は停止しても10秒後には約18万KWの熱が出てくる。10日経っても6千KW、家庭用ヒーターの1万台分ぐらいの熱が発生する。熱が発生したままだと原子炉内の温度が上がりすぎて溶けてしまう。そうならないように水を強制的に循環させるのだか、そのシステムが壊れてしまった。それをステーション・ブラックアウトと言い、まさに地獄の状態だ。原子炉内の燃料は空焚き状態になり、燃料はジルコンの管に入っているが、ジルコンは1千度を超えると水と反応して水素ガスを発生させる。水素ガスが溜まるとちょっとした火花で爆発を起す。これが水素爆発で、最も恐れるべき事態のひとつだ。温度がどんどん上がると水は蒸発し、水蒸気の圧力で原子炉は破壊されてしまう。ベントとは水蒸気を逃がしてやることだが、同時に大量の放射性物質を外に出してしまうことになる。4号機も燃料は抜いてあったが、燃料プール室の水の循環が止まり、ついに爆発に至った。国会に提出したこの事態に対応するマニュアルは全て真っ黒に塗りつぶしたものだったが、その後しぶしぶ提出した資料にはステーション・ブラックアウトの想定はひとこともなかった。津波にやられたというが、津波が来る前に原子炉本体、特に蒸気を送る配管に重大な損傷が起っていたようだ。だから津波だけが原因とは決して言えない。(つづく)
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【九条噺】
「わたしは生活のために7人も女を殺して殺人罪で裁かれている。しかし、戦争で百万人もの人を殺した者は殺人罪にならず、それどころか勲章をもらって英雄になる。なぜなのでしょうか」というのは、映画「チャップリンの殺人狂時代」で主人公がはくことばだ▼このことばとともに思い出すことがある。1945年3月10日、米軍の無差別じゅうたん爆撃で東京は一面火の海と化し、一夜にして10万人以上の命が奪われた。このような焦土化作戦を立案し、実行を指揮したカーチス・ルメイ少将(当時)に対して、日本政府はのちに勲一等旭日大綬章を授与したのだ。それをニュースで知った時の驚きと怒りは今も消えない▼今から2500年以上も前、中国の墨子という思想家が同じようなことばを残している。「一人を殺さばこれを不義と謂ひ、必ず一の死罪有らむ・・・百人殺さば不義を百重し・・・、いま大に不義をなし国を攻むるに至りては、即ち非とするを知らず、従って之を誉め、これを義と謂ふ・・・」(「中国古典新書」明徳出版社)。当時の中国は戦国・戦乱の時代。墨子はその中にあって、ひたすら武力制覇の無駄や戦争の空しさを説き、平和の尊さを訴えてまわったという。墨子の思いは、当時こそ受け入れられなかったが、後世も途絶えることなく受け継がれ、今や多くの人々の切実な願いにも重なり合って現実味もおびてきた。(佐)
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憲法審査会で各党が意見を表明
新聞などの報道によれば、憲法審査会は衆院では11月17日、参院では11月28日にそれぞれの元憲法調査会長を参考人として招いて質疑を行い、その後各党が、憲法改正に対する考え方を表明しました。
衆院では、民主・山花郁夫氏は「震災復興が最優先だが、必要ないわけではない。民主党は結党以来、憲法議論を進めており、議論を行っていきたい」。自民・中谷元氏は「自民党の大義は、占領下で作られた憲法を改正することだ。新しい時代に対応できる憲法改正を実現したい」。公明・赤松正雄氏は「環境権やプライバシー権などを加える余地がある。加憲という立場だ」。共産・笠井亮氏は「憲法審査会が始動しなかったこの4年余り、国民が不利益を被った事実はない。国民は憲法の改正を求めておらず、審査会を動かす必要はない」。社民・照屋寛徳氏は「政治と国会が果たすべきは、憲法の理念を実現し、平和国家として歩む決意と道筋を示すこと。いかなる改憲の動きにも反対だ」。みんな・柿澤未途氏は「憲法は改正すべき。どのように改正すべきか、すべきでないかの議論が必要だ」。国民新・中島正純氏は「非常事態条項を憲法に設けることを議論することは、立法府に課せられた責務だ」と述べました。
参院では、民主・江田五月氏は「次の世代が憲法問題と真正面から向き合い、自由な議論ができるようにする責務を負っている」。自民・川口順子氏は「数多くの課題を抱える今だからこそ、国の形がどうあるべきか国民的議論を行うべきだ」。公明・魚住裕一郎氏は「時代状況も変化しており、付け加えるべき点があれば、加えるべきだ」。みんな・江口克彦氏は「憲法改正の要件に柔軟性を持たせるべきだ」。共産・井上哲士氏は「国民は『改憲』を求めておらず、被災地から聞えるのは『憲法が震災復興に生かされていない』という声だ」。たちあがれ・藤井孝男氏は「緊急事態で救援活動を行うため、基本的人権を制限する規定を設け、自衛隊を軍隊と明記すべきだ」。社民・福島みずほ氏は「憲法改正の審議が行われることに強く反対。憲法改正の手続法を抜本的に見直すべきだ」。国民新・亀井亜紀子氏は「日本が自主独立国家として主権を保つには、憲法改正が必要だ」と述べました。
共産、社民両党以外は改憲論議に前向きな姿勢を示しています。「ねじれ国会」で民主党が、国会対策のため自民党と一緒になって審査会を動かそうとする下で、改憲論議が一挙に進む可能性もあります。厳重な監視が必要です。
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書籍紹介『平和をつむぐ』
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