2012年3月11日第1版第1刷発行
編著者:森英樹、白藤博行、愛敬浩二
発行所:日本評論社
価 格:1900円+税
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言葉「公共の福祉」「公益及び公の秩序」
自民党の憲法改正草案は、現憲法の「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」に変更しています。この2つは似たように見えますが、「似て非なるもの」です。
憲法13条は「すべて国民は、個人として尊重される」と規定しています。「個人の尊重」を根本価値とする人権ですが、絶対に制限されないわけではありません。このことを憲法は「公共の福祉」という言葉を使って表しました。12条には「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ」とあります。「公共の福祉」とは、「社会のの秩序や平穏という公共的な価値のために、個人はわがままを言ってはいけない」とか「多数の人の利益になるときには、少数の人は我慢すべきだ」というように、「社会公共の利益」で個人の人権を制限できるということを意味しません。それでは、「個人が最高だ」とする個人の尊重の理念に反してしまいます。個人が最高の価値であるなら、その個人の人権を制限できるものは、別の個人の人権でなければなりません。つまり個人の人権を制限する根拠は、別の個人の人権保障にあります。
社会生活の中では、ときに、「ある人の表現の自由vs別の人の名誉権やプライバシー権」のように、人権と人権は衝突します。そしてその衝突の場面においては相手の人権をも保障しなければなりませんから、自分の人権はその限りで一定の制約を受けることになります。すべての人の人権がバランスよく保障されるように、人権と人権の衝突を調整することを、憲法は「公共の福祉」と呼んだのです。決して「公益及び公の秩序」とか、「多数のために個人が犠牲になること」を意味するものでもありません。
「自由及び権利は、公益及び公の秩序に反してはならない」と言ってしまえば、明らかに個人の価値は「公」の下だということになります。「公益及び公の秩序」とは、憲法の基本的価値である個人の尊重を、「公」という曖昧でかつ権力者による恣意的な解釈が可能なものによって、低位に置こうとするものであると言わなければなりません。(法学館憲法研究所所長・伊藤真氏の解説を要約)
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自民党の憲法改正草案の問題点①
自民党は4月27日、新たな憲法改正草案を発表しました。
9条を「戦争放棄」から「安全保障」に変えて、「自衛」戦争を容認し、「国防軍」という名の軍隊の保持を明文化しています。また、「公益及び公の秩序」を守るためには国民の自由や権利が制約されることを盛り込んだ、人権より秩序優先の極めて問題の大きい改憲案です。
早稲田大学教授・水島朝穂氏は、ホームページで、その問題点を解説されています。また、日本体育大学准教授・清水雅彦氏の解説「自民党『日本国憲法改正草案』の内容と問題点」での指摘も含めて、それらを分りやすいように一覧表にまとめて、2回に分けてご紹介します。今回はその1回目です。
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