「九条の会・わかやま」 195号を発行(2012年6月30日付)

 195号が6月30日付で発行されました。1面は、「和歌山市ひがし9条の会」が第5回総会開催 、急速に強まる改憲派の動き 丸山哲(まるやま・さとる)弁護士、5月の風にWe Love憲法 憲法を限りなく壊す「壊憲」が進んでいる(名古屋大学名誉教授・森英樹氏 ④) 、九条噺、2面は、森本防衛相 敵基地攻撃能力の保有を主張  です。

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[本文から]

「和歌山市ひがし9条の会」が第5回総会開催

 6月17日、東部コミュニティーセンター(和歌山市)で「和歌山市ひがし9条の会」が第5回総会を開催しました。
 オープニングは、日野のぞみさんのアコーデオン伴奏で、その時々の社会情勢が歌に大きな影響を与えていることを感じながら、戦争前後の時期に歌われた童謡をみんなで歌いました。主催者挨拶で古田光明さん(生協病院医師)は、現憲法でも集団的自衛権は認められるとの持論を持つ森本氏が防衛大臣に就任し、自民党改憲草案では天皇は元首に、自衛隊は国防軍になっている。情勢を学び運動を発展させようと訴えられました。
 総会では経過報告と活動方針が提案されました。署名活動の時に北朝鮮のことがよく出てくるが、自衛隊の位置付けについてどう考えるのかとの質問があり、昨年の夏休みに開催した「紙芝居と花火の夕べ」は良かったので、他でも出来たらいいのにとの意見もありました。
 続いて、「改憲派の動きと9条をめぐる情勢」と題して丸山哲弁護士の記念講演が行われました。(講演要旨は別掲)(石垣保さんより)

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急速に強まる改憲派の動き
丸山 哲(まるやま・さとる) 弁護士

丸山弁護士は、今年4月、自民・たちあがれ・みんなが憲法改正草案などを出し、5月31日の憲法審査会で憲法9条の改正に関する各党の見解(自民・きづな・みんな・国民新は改正に賛成、公明・共産・社民は反対、民主は党としての意見がまとまっていない)が出された。憲法記念日には、読売新聞は「自民党の憲法改正草案を妥当とし、民主党は憲法改正に及び腰」と批判した。毎日新聞は「憲法論議は避けられない」としながら、自らは「論憲」の立場とした。産経新聞は「現憲法では立ち行かないので新しい憲法が不可欠」としたと、最近の改憲派の動きを指摘しました。3月の読売新聞世論調査で、この半年で「憲法改正賛成」が11ポイントもアップしたのは警戒すべき事態だと述べ、また、橋下大阪市長は「9条がなかった時代には、皆が家族のため他人のために汗をかき、場合によっては命の危険があるかもしれないが、負担せざるを得ないとやっていた」と発言し、維新八策で改憲発議要件を3分の2から過半数に緩和し、改憲をやりやすくしようしている。大阪維新の会の動きも注意して見ておく必要があると指摘しました。
 最近の改憲の口実になっている「地震などの緊急事態への対応」と「中国・北朝鮮の脅威」については、
①地震などに対応するために憲法の改正が必要か?
 原発事故が広がったのは憲法に欠陥があったからではない。今の法律を上手く使い、迅速に対応しておれば、これほど被害は広がらなかった。今ある法律を上手く使うことが大事で、憲法改正の必要はない。
②中国や北朝鮮は脅威か?
 中国は空母を持ち、外国への作戦がとれる兵力を持っているが、未開発地域での開発に力を入れており、日米との貿易も拡大している。北朝鮮は、100万人の兵士のほとんどは陸軍で、海軍や空軍の装備は古く、動かす燃料すらない状態で訓練も出来ておらず、近代戦は戦えない。ノドンミサイルは半径5㎞以内に命中する確率が50%と精度も極めて悪い。このような状況で日本を攻撃するだろうか。
 日本の取るべき道は、日米安保の解消をめざし、近隣の諸国と手を取り合って進むのが良いのではないかと締めくくられました。(石垣保さんより)

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5月の風に We Love 憲法
憲法を限りなく壊す「壊憲」が進んでいる


 5月19日、プラザホープ(和歌山市)で「憲法9条を守るわかやま県民の会」が「5・19県民のつどい」を200人の参加のもとで開催し、名古屋大学名誉教授・森英樹氏が「憲法をめぐる攻防の新段階 - 橋下・維新の会と財界・米国の思惑 -」と題して講演をされました。その要旨を4回に分けてご紹介しています。今回は4回目で、最終回。
名古屋大学名誉教授・森英樹氏 ④

 こうして醸成される改憲の土壌を、どう冷静な目に市民的に変えていくのかという大変な課題が私たちの前にある。ミサイルが発射されたら死者が出る。怪しからんといって報復をすれば、また相手の国民を殺すことになる。命を奪い合うことをやめることが憲法の原点であったはずだ。ミサイルを撃ってきたらどう反撃するかばかりを議論するのではなく、ミサイルを撃たせないために政治はどう汗をかくのか、東アジアの対話外交こそ最重要課題だ。民主党は最初、東アジア共同体を言い始めたが、今や一切言わず、対決ばかりが持ち込まれている。これをどう解き明かすかが大きな課題だ。
 明文改憲の動き以外に、もうひとつの大きな動きは「壊憲」の動きだ。明文改憲を待っておれないと、憲法を限りなく壊す「壊憲」が進んでいる。民主党は当初「壊憲」にも抑制的であったが、内外の圧力に敢えなく屈し、自民党と基本的には変わらない「壊憲」の道も歩み始めた。その典型が10年末の新防衛計画大綱と中期防衛力整備計画だ。大綱にはこれまで「基盤的防衛力」という9条を意識して規制がかけられていたものを捨て、「動的防衛力」という不気味な新方針を打ち出した。「基盤的防衛力」は防衛力を「専守防衛」に限定した抑制的概念だった。「動的防衛力」は抑えるための論理でなく、文字通り動くための論理であり、憲法から見れば9条違反の武力による威嚇だ。「敵」を初めて明示した大綱で、「北朝鮮は不安定要因、中国は地域国際社会の懸念事項、ロシアは軍事活動を活発化させ要注意」という言い方で、3カ国を名指しで「敵」とした。「敵」との軍事的対決場所も明示し、西南地域を重視、「離島」への自衛隊配備を意図している。それをこの度のミサイル発射事件であっさりとやってのけた。「有事」とは「無事でないこと」。地震から大戦争に至るまで「無事でないこと」を全部取り込み「シームレス」につなぐというやり方を打ち出してきた。これを実現するために11年から5年間の「中期防衛力整備計画」は総額24兆円ベースで決定した。震災復旧・復興財源が大問題になっている時にである。ある試算では原発事故を除いた生粋の震災復興が24兆円だそうだ。この金額の奇妙な一致は怒りを伴って問題にすべきだと思う。
 この新大綱が出てきた背景にはアメリカの新しい動きがあることも付け加えたい。昨年11月16日に、米海兵隊2500人をオーストラリアに配置することを合意した。昨年末にはイラク戦争の終結が宣言された。米軍需産業が求める軍事的緊張の場を中東から東アジアにシフトする気配である。日本の軍事政策の変化は明らかにこれに呼応している。普天間を辺野古に移すこととパッケージになっている。普天間の移転先は辺野古以外に嘉手納も示唆するが、沖縄の負担は変わらない。そして嘉手納以南5基地が「返還」されるがバランスは非常に悪い。これが沖縄分離60年、沖縄復帰40年の実態である。
 沖縄には「命(ぬち)どぅ宝」という有名な言葉がある。今、日本は一言で言うとアメリカの51番目の州と同じだと位置づけられている。こうした方向に膨大な予算を投入することを震災復旧・復興で困難を極めている今、庶民や被災者や大量の被曝者を一層苦しめてやっていいのかが問われるべきだと思う。なお、日米共同声明はTPP推進とともに原発推進での協力も盛り込んでいる。アメリカとタイアップして日本を原発大国にしようというのがこの共同声明の基本だ。チェンジの期待を集めて政権交代に至った民主党政権だが、やはり、軍需産業や大企業の枠組みを越えることはできないで、今日の体たらくになっている。軍事的緊張の可能性としてはイランのホルムズ海峡の封鎖の可能性が問題になっている。さらに、憲法があるから厳しく規制してきた武器輸出3原則の事実上の撤廃ということも起っている。これは憲法の精神で武器輸出は慎む、生産設備も輸出しないと決め、これで武器輸出は事実上全面禁止になった。これをあろうことか野田政権が崩した。昨年末、あっさりと事実上廃止に等しいことを閣議了解という軽い手続きで決めた。イギリスとは早速この4月武器共同開発に合意してスタートした。
 もう一度憲法の原点に立ち返りたい。メディアは軍事費問題にほとんど触れない。こんな狭い日本でF35戦闘機という航続距離の長い戦闘機を保有すること自体が、専守防衛に反することになる。1機150億円という買物だ。思いやり予算は今後5年間で1兆円を支払うという新しい協定を震災直後の昨年3月に国会で民主・自民・公明などが決めてしまった。このように膨大な軍事費を投入することを、震災復旧・復興で困難を極めている今、庶民や被災者を苦しめてまでやっていいのかという憲法の原点を、消費税増税議論にぶつけていく必要がある。「軍事費を削って福祉に回せ」という「軍・福」運動を、復旧・復興の「復」にも当てはめて、新しい「軍・復」運動にもつなげる必要がある。この2つを結びつけた運動こそ、憲法の原点に立ち返った命と暮らしを守る突破口になると思う。(おわり)

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【九条噺】

 日米両政府は、米新型輸送機オスプレイの沖縄配備について沖縄県民の反発を和らげるため、まず岩国基地などに一時駐機して先行運用することも検討した。しかし「地元の反発」を理由に見送った。政府は本土の自治体が反対すればすぐ諦めるが、全県挙げて反対する沖縄にはためらいもなく押し付ける。「これぞ沖縄差別だ」と大城立裕氏は言う▼そして大城氏は、かかる「沖縄差別」は復帰以前から今日までずっと続いてきたのだと怒る。「差別」という用語がふさわしいかはともかく、いつも沖縄県民に大きな負担を強いる施策が歴代内閣によって進められてきたことも事実だ。そのため大城氏は復帰運動を進めながら「復帰は必ずしも沖縄に幸せをもたらすものではないかもしれない」とすら思ったという▼しかし、55年に米兵による少女暴行殺人事件(由美子ちゃん事件)が起きたとき、治外法権で沖縄には捜査権も裁判権もないことを知り、〝やはり復帰は必要〟と思い直したそうだ。ところが復帰後20数年を経た95年、またもや米兵による少女暴行事件が起きて、この時も治外法権と実質変わらないような現実をみせられ、大城氏は、沖縄は復帰しても依然憲法の外側にいると感じたという▼先日、宜野湾市でオスプレイ配備に反対する大規模な決起集会が行われ、基地撤去を求める県民の熱い思いが全国に発信された。大城氏らの思いの一方で、憲法を具現化する確かな力も着実に前進している。(佐)

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森本防衛相、敵基地攻撃能力の保有を主張

 時事通信は、「森本敏防衛相は6月19日、他国の弾道ミサイルなどの攻撃を防ぐための敵基地攻撃能力の保有について、『従来の専守防衛だけで全ての国家の防衛ができるのか』と述べ、『他の手段がないと認められる限り、敵の基地をたたくことは、国際法上もわが国の憲法解釈上も自衛の範囲に含まれる』と強調した」と報じています。
 ミサイル発射の準備段階で、こちらから攻撃して発射基地を破壊するという、一種の先制攻撃論です。政府は、自衛のために必要最小限度の実力を持つことは許されるとしていますが、必要最小限度かどうかは、その時々の国際情勢によって変わりますから、「自衛のために」と言ってしまえば、敵の基地を攻撃したり、場合によっては核兵器を持つことも憲法上は許されるという「論理」に繋がってしまいます。森本防衛相の主張は、「自衛のため」なら「なんでもOK」の暴論と言わざるを得ないのではないでしょうか。

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(2012年7月1日入力)
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