澤地久枝さん ①
三木睦子さんは、いろいろな人生経験を経て、若い時から戦争否認の気持ちを強くもち、九条の会の初めから亡くなられるまで、きっちりとした生き方を示されました。
三木さんは、敗戦1カ月前の昭和20年7月、家族の一人は生き延びてほしいと、徳島の三木武夫さんのお母さんに長女を預けようとした。睦子さんは背中に長男を負い、4歳の長女の手をひき、夫の武夫さんは持てるだけのものを持って旅へ出ます。日本中空襲ですから、鉄道が破壊されて線路などない。枕木伝いにずっと歩き、列車が走っているところはかろうじて超満員の列車に乗り、ともかく徳島の三木邸についた。五右衛門風呂に長女を入れると、4歳の子は気丈に「戦争が終わったら迎えにきてね」と言う。しかし父である三木さんは娘の体を洗ってやりながら手ぬぐいで顔を拭いて涙を隠したというのです。東京に帰っていく両親は明日もわからない、と思ったでしょうね。睦子さんは、戦争はなんてひどいのだろう、一日も早くやめなければ、という気持ちがふつふつと湧いたというのです。戦後67年、ずっとそういう気持ちをもって生きてきたのです。
07年6月ですが、三木さんは九条の会の学習会に行っています。どうしても言わなければならないことをもっていたのです。それは戦争中に、陸軍が後ろで糸をひいて日本の政治を動かす大政翼賛会があって、総選挙がありますが、大政翼賛会の推薦を受けないで選挙をたたかって勝った人のなかに三木武夫さんがいます。話は、その非推薦議員の中にいた安倍寛という人です。安倍寛のことを、三木さんはどうしても若い人たちに言いたかった。戦争がだんだんひどくなってきた時に、安倍寛さんは早くに奥様を亡くされてご飯の支度をする人がなく、夜ふけて、特高につけ狙われながら、夜陰に紛れてやってきて、「奥さん、何か食べるものはないですか」と言われたというのです。三木さんは、この人は本当に食べるものに困っている。しかもご自分は特高につけ狙われながら、平和のために、戦争をなくすために安倍寛さんは三木武夫さんと夜中にひそひそと話をして、そして話を終えると「じゃ」と言って闇の中に消えていったというのです。三木さんが伝えたいのは、かつて総理になった安倍晋三氏について、マスコミはなぜ母方の祖父の岸信介の縁ばかりいうのか。父方の祖父の安倍寛という、戦争をしてはならないと骨身を削った人がいたことを知るべきなのです。三木睦子さんの思いは、よく伝わってきました。そういう語り手でした。
最後まで頭は明晰で、話が上手で、政治家の妻として信念もって演説をしてきた人だと思いました。そういう三木さんを失った痛手を思います。
最近テレビのニュースで、アメリカの海兵隊と日本の陸上自衛隊が、グアムの海岸を使って島嶼奪還作戦をやっているのを見ました。何か顔に塗っていてアメリカ人か日本人かわからない。でも、島嶼を奪い返す作戦をアメリカと一緒にやる必要があるのですか。自衛隊が国外に出ていくことも憲法違反なのに、出ていったら、こういうことまでやるのかと非常に腹をたてて見ました。新聞がカラーであのすごい顔を報じたら、みんなぎょっとするでしょうが、やりませんね。(次号につづく)
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【九条噺】
少し前、朝日新聞に嘉手納基地の近くに住む女性のことが載った(8月2日)。大阪で生まれ、7歳で広島に引っ越し、13歳の時、町工場で原爆に遭い、母親や兄妹を亡くした。父の故郷の奄美に帰ったが、その父も急逝、ひとり沖縄に渡って働き生きてきた。被爆者手帳のことは被爆後38年も経た83年に友人に教えられようやく取得したという。かなり遅いが、しかし沖縄の被爆者自体が当初は〝埒外〟におかれた▼沖縄で初めて被爆者の存在が明らかになったのは63年、石垣市の女性が名乗り出てからで、最初の手帳交付も原爆医療法施行10年後の67年だった。厚生省(現厚労省)というところは、〝申し出がないと決してやらないお役所〟らしい。だから何も知らない多くの被害者が置き去りにされる▼朝鮮人被爆者の場合はもっとひどい。広島・長崎で約7万人の朝鮮人が被爆して、爆死者は約4万人。生存者約3万人のうち終戦後に帰国した人が約2万3千人(「被爆者援護法裁判資料」)。しかし韓国原爆被害者協会の調べでは、在韓被爆者数は推定1万3千人余、北朝鮮は1千人余。うち協会登録者は韓国で2千人余、北朝鮮では被爆者健康手帳の保有がわずかに1人となっている(99年4月)▼要するに、どの調査人数もまだまだ「推定」の域を出ず、多くの被爆者が援護もなく病気で苦しみ、或いは「難病で死亡」とされてきた。こうして無理な「徴用」・強制連行が招いた悲劇は未だ続いているのである。(佐)
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21世紀先取りの日本国憲法を全ての公務員に実現させよう
11月3日の「第9回憲法フェスタ」で関西大学法学部教授・吉田栄司さんが「改憲派は憲法を変えて日本をどんな国にしようとしているのか」と題して講演されました。その要旨を3回に分けてご紹介しています。今回は3回目で最終回。
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