「九条の会・わかやま」 208号を発行(2012年12月20日付)

 208号が12月20日付で発行されました。 1面は、第4回「呼びかけ人懇談会」開催 九条の会・わかやま、今 一人ひとりの意思と勇気が試されている(澤地久枝さん②)、「憲法9条」正念場 改憲派・自民党大勝、九条噺、2面は、国家安全保障基本法案とは ①  です。

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第4回「呼びかけ人懇談会」開催
九条の会・わかやま

 12月2日、ホテルグランヴィア和歌山で、第4回「九条の会・わかやま」呼びかけ人懇談会が開催されました。呼びかけ人4名、事務局員5名の9名が出席しました。
 事務局から、05年9月の会の発足以来の活動をまとめた「『九条の会・わかやま』の7年間」や、資料「自民党・日本国憲法改正草案と問題点」、当会紙の1号から206号までを収録したCD―Rをお渡しし、懇談に入りました。
 「自分の兵隊体験とその時の気持ちと、『軍隊で国を守らねば』という今の風潮とが同じではないかと心配する」「小さい頃の経験と郷愁が戦争に駆り立てるのではないか」「この会も関心を持つ人だけでなく、もっと多くの人に広める必要がある」「特に日本の若い人は、戦争を知らず、アジアでやったことを知らないままでアジアに行くから摩擦を生んでいる。尖閣などの領土問題の背景にそれがあるのでは」などの意見・感想が出され、特に若い人や関心が薄い人たちに9条、平和についての興味を広げて行くことが課題だということに懇談が進みました。
 「自民党・安倍総裁などの改憲の動きに緊急に対抗することと、生涯学習のような息の長い平和学習を展開することの両方が必要ではないか」「憲法の大切さ、戦争の悲惨さを幅広く学ぶ講座を立ち上げてはどうか。少人数でもいいから、カリキュラムをこの会として提供してはどうか」「講演会のようなイベント的なものもいいのではないか」「地域の9条の会が元気になる交流会もいいのでは」という声もありました。事務局で具体化を進めていきたいと思います。

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今、一人ひとりの意思と勇気が試されている

 「九条の会」は9月29日、「三木睦子さんの志を受けついで 九条の会講演会 ― 今、民主主義が試されるとき」を開催しました。呼びかけ人の大江健三郎、奥平康弘、澤地久枝の3氏が講演されました。講演要旨を「九条の会ニュース164号」から、順にご紹介しています。今回は6回目で最終回。澤地久枝さんの後半部分です。

澤地久枝さん ②

 防衛省に防衛大臣までできてしまったと思ったら、防衛省は次々と汚職です。防衛予算はすごく大きいですから。戦闘機などをつくるときに入札をする。AとBの2つの組織が競争しているときに、AにBが出したプランを流す。そうすると相手がいくらで入札するかわかる。だから、ずっと同じ会社が防衛省の発注を受けている。そしてちゃんと見返りが斡旋した自衛官にいく。とくに防衛費・軍事費は、必ず腐敗するんです。
 戦前も、日中戦争の発端から無条件降伏まで、軍事予算は年度で切り替わりがなくずっと続いています。そして軍人たちの得たものは、何に使ったか一切問われませんでした。私が知っている範囲でも、2・26事件で一度は反逆的なことをしたとして禁固何年の判決を受けた人たちが、東条内閣を批判する雑誌を出していた。このお金はどこから出るのかと別の記録を見ていたら、たとえば主だった青年将校の一人の尋問調書には、その日関東軍司令部に行ってなにがしの金をもらったという、そのなにがしというお金が、戦争中のことですが、私には信じられない天文学的な数字でした。そのお金で、当時許されない政府批判の載っている雑誌を出しているのです。軍隊、軍事力がもっている性格は、戦争に負けたから、自衛隊に形を変えたからといって改まっていません。
 この間の2つの政党のリーダーを選ぶ選挙を見ていて私は、日本という国はこんなにダメな国かと思いました。去年3月11日とそれに続く原発事故のとき、日本は最低と思ったけれども、もっとひどいです。沖縄のことなど何も言わない。オスプレイの問題も何も言いません。それから福島を中心とする被曝した人たち、原発は今後どうするかということに触れている候補者はいないではないですか。そして消費税の値上げは、民主党だけでは決められなくて、自民党が寄り添って決めた。何もほかのことを決めないうちに消費税をあげるという、この国が民主主義の国だということを、私には信じられません。
 自衛隊がどんどん防衛予算をとって、いまや世界何番目かの軍隊になっていることは9条違反どころではない。私の気持ちでは自衛隊はゼロにしたいです。そういうと「震災のときに役にたった」という。でも税金で養い、組織的に訓練されている健康な日本人男女の集団が、たとえば地震などの時に出かけていって、無償で働く。丸腰でです。それを任務としてやる集団に変えたらいい。そういう集団ならば、たとえばよその国で天災が起こったときに、派遣できるではありませんか。
 いま、アメリカは無人爆撃機を作って、アメリカ本土でコンピューター操作をすると、その爆撃機はたとえばアフガニスタンに行って爆弾を落とす。人工衛星で見ていて人口が密集しているところを狙ってやるが、実際には、そこにいたのは軍隊ではなくて、結婚式だったということがある。そういう無人の爆撃機をつくって、まだやめると言っていません。そういうアメリカと手を組んで、日本は戦争をやろうとしている。
 加藤周一さんが96年の朝日の「夕陽妄語」に書いていらっしゃる。だんだん、日本は良くない方向に行っている、その土台にあるのは日米安保条約ではないか。52年に布かれ、60年に改定されたが、日米安保条約にはいま日本人が望んでいることなどは入っていない。一部の人たちは、アメリカの核の傘の下にいることで日本は経済発展したという。だが90年代にソビエトは崩壊し、冷戦はなくなった。日本がアメリカの意向にくっついたままでいいことはあるか、と加藤さんは問うています。2つの道がある。1つは現状を推し進め、1つは根底から考え直して独自の国づくりをやる。後者は非常に困難だが、困難な道を選んだ先に明かりがさしているのではないか、と。
 日本が本当の意味での民主的な国家として、市民が市民らしく生きていく、さらにすべての命を大事にする国にするために、一人ひとりの意思と勇気が試されていると思います。(おわり)

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「憲法9条」正念場、改憲派・自民党大勝

 12月16日に投開票が行われた総選挙で、自民党は公示前の118議席から294議席に増え、民主党は230議席から57議席に激減しました。比例区での自民党の得票率は27.6%です。これが民意を表すと仮定して定数480に掛けると132議席程度にしかならないのに、294議席にもなるのは、小選挙区制という民意を歪める選挙制度から来るものです。公明党の31議席と合わせて325議席、67.7%で、自公政権が復活する見込みです。
 自民党は、集団的自衛権行使を認める「国家安全保障基本法案」の国会提出と、憲法改正を選挙公約に掲げています。現に安倍総裁は16日夜のインタビューで、公約した憲法改正について「まず、96条の(衆参両院で3分の2を必要とする)改正規定から変えようと考えている」と語っています。
 自民党が、日本維新の会(54議席)、みんなの党(18議席)などの改憲勢力と手を組めば、366議席にもなり、定数の3分の2を超え、76.3%にもなります。憲法9条が正念場を迎えています。私たちの一層の奮闘が求められています。

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【九条噺】

 劉連仁のことは茨木のり子の詩「りゅうりぇんれん物語」で紹介したことがある。彼は結婚して間もなく、自宅付近(中国・山東省)で突然日本軍に拉致されて日本に運ばれ、明治鉱業昭和鉱業所(北海道)で炭坑労働をさせられた。12時間労働、食事は饅頭1個、怠慢と見なされたら鉄棒で叩かれるような過酷な日々。45年7月に5人が脱走したが4人がすぐ捕まった。しかし劉連仁はその後12年7カ月間も北海道の山中を逃げ回った▼58年3月、彼は北海道石狩郡当別町の洞窟で地域の人たちに発見され、やがて札幌・東京を経て中国山東省の妻の待つ我が家に帰ることができたのである。この彼の〝奇跡の生還〟は、無事だったという喜びとともに、加害の歴史を直視して、「日中不再戦」の決意をもとに日中友好の大輪を咲かせるひとつの契機にもなったと思う▼劉連仁は87才で死去するまでに3回当別町を訪ね、町の人々と交流しあったという。02年、彼が発見された当別町の洞窟の近くに有志の寄付で劉連仁生還記念碑が建立された。この碑は著名な彫刻家丸山隆の遺作となった。洞窟(穴ぐら)が思い浮かぶような作品である。除幕式には劉連仁の子息もかけつけたという。以来毎年記念碑を囲んでの集いが行われている▼いたずらに〝中国脅威〟をあおる国民不在の〝政治ショー〟よりも、例えば劉連仁について想い、語り、明日の日中友好を語り合う方がよほど素敵ではないか。(佐)

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国家安全保障基本法案とは ①
憲法9条の制約を全て取り払うもの


弁護士・井上正信氏の論文「ここまで来た集団的自衛権憲法解釈見直しⅡ」の内容を要約してご紹介します。
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 自民党が国会に提出すると言っている国家安全保障基本法案とは、どのような法案なのでしょうか。それは、集団的自衛権の行使を禁止する憲法解釈を見直して、憲法9条の制約を全て取り払おうというものです。
 自民党が7月に発表した法案は「概要」となっていますが、条文の体裁をとっており、法案要綱のようなものです。この法案は、安保防衛政策を規定する国内法制の上位法になるという位置づけです。第5条で、この法律を実施するため「必要な法制上及び財政上の措置を講じなければならない」と規定しています。具体的な法制上の措置として、安全保障会議設置法改正、自衛隊法改正、集団自衛事態法、国際平和協力法案(=海外派兵恒久法案)を挙げています。
 国家安全保障政策は、脅威を特定し、それに対する政策を定めるものです。第2条が示す脅威は、「外部からの軍事的または非軍事的手段による直接または間接の侵害その他のあらゆる脅威」で、脅威を明確に特定していません。これでは、その時々の政権が脅威と定義すれば、何でも国家安全保障上の脅威となりかねません。しかも法案では、安全保障政策を遂行する上で、防衛、外交、経済その他の諸施策を総合して対応すると述べていますが、その中心は軍事的対応です。軍事力の役割や任務を、国家安全保障という幅広い国家目的の遂行のため、どこまでも拡大するという考え方です。軍事力を背景にした外交ということも視野に入れています。憲法の恒久平和主義は非軍事的な手段による安全保障の達成を求めています。たとえ、自衛のための軍隊保有を認めるとしても、その役割、任務は厳しく限定されなければなりません。法案は出発点から憲法9条、前文と相容れないものです。
 第3条は国及び地方公共団体の責務を定め、「国は、教育、科学技術、建設、運輸、通信その他内政上の各分野において、安全保障上必要な配慮を払わなければならない」と規定しています。科学技術は軍事技術に使え、建設は軍事施設の建設や武力紛争での被害復旧に不可欠。運輸は戦争に必要な物資、兵員の輸送に不可欠ですし、通信は現代戦の帰趨を左右する神経中枢です。教育を挙げていることも極めて重大です。教育は次世代の国民が軍事力を背景にした国家安全保障政策に進んで協力するように教え込むためです。第4条で国家安全保障に協力、寄与する国民の努力義務を規定していますので、教育はこれを保障するものになるでしょう。
 国の施策のすべての分野で国家安全保障への配慮を求めることは、あらゆる国内施策で、国家安全保障という目的が全てに優先することになります。これが実行されれば、日本の有り様が根本的に変わってくるでしょう。第3条は秘密保護法制定も義務づけています。(つづく)

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(2012年12月22日入力)
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