「九条の会・わかやま」 213号を発行(2013年2月25日付)

 213号が2月25日付で発行されました。1面は、総選挙の結果にかんがみてのアピール①(奥平康弘さん①)、原発、憲法9条 ― あきらめずに問い続けよう(赤川次郎さん)、九条噺、2面は、「96条改憲」先行論が改憲策動の新たな「切り口」に(小沢隆一氏 ③)、安易な解釈変更 許されぬ(元内閣法制局長官 阪田雅裕さん)、安保法制懇再開 集団的自衛権行使容認狙う   です。

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[本文から]

総選挙の結果にかんがみてのアピール①

 「九条の会」事務局は1月28日、安倍内閣の登場によって憲法をめぐる情勢は極めて緊迫しており、全国の九条の会の活動を一斉に活性化させたいと、新たな重大な情勢にあたって寄せられた呼びかけ人からのメッセージを発表しました。順にご紹介しています。今回は2回目。

奥平康弘さん ①

 過ぐる総選挙の過程で自民党は、かつてないほどあからさまに憲法改正を選挙公約のなかに組みいれて国民にアピールしていた。自民党はこれより先すでに1999年、衆参両院をリードして憲法調査会を設置する国会法改正を行ない、07年には憲法改正のための手続を定める国民投票法を制定し終っていた。そして両院に設けられた憲法審査会も形だけのものとはいえ、活動をはじめている。
 客観的にいって、「憲法改正提案、いつでもいらっしゃい。対応する準備手続は、ほとんど出来ています」といわんばかりの状況であったのだ。そういう状況を前提として今度の総選挙が実施されたのであり、そしてそんななかでの自民党圧勝であったのだ。ぼくはふつう「危機」ということばをつとめて使わない人間であるのだが、こんどばかりは日本国憲法の「危機」が迫っていると感ぜざるを得ない。
 圧勝の選挙結果を背景に、安倍氏らは「国防軍」構想などなど勇ましく進軍ラッパを吹き鳴らしたものの、公明党を与党として抱え持たないと国会運営はままならないという政治事情に制約されて、進軍ラッパのほうは、ややトーン・ダウンした気配がある(「自由民主党・公明党連立政権合意」には「憲法審査会の審議を促進し、憲法改正に向けた国民的な議論を深める」とだけあって、実体を欠いたメッセージになっている)。
 いずれにせよ、安倍首相はその在任期間中のいつか、どんな形かで、憲法改正へ駒を進める挙に出るに違いない。従来のいきさつから見て、改正のポイントが第9条に置かれるのは疑う余地がないが、自民党結党以来の「自主憲法制定」党綱領の方はこの際一先ず保留しておいて、ともかくも彼らがねらう憲法全面改正という一大プロジェクトを実現するために、その一階梯として、憲法第96条第1項第1文「この憲法の改正は、各議院)の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない」(傍点─引用者>このHPでは下線)
 ―― この規定だけの変更をもとめるという改正を目論むことになりはしないか。すなわち「総議員の3分の2以上」の代わりに「総議員の2分の1以上」に要件を緩和することのみを掲げる改正案である。(つづく)

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原発、憲法9条 ― あきらめずに問い続けよう

赤川次郎さん

 ――「日本を取り戻す」と自民党が言うならば、福島の人に故郷を取り戻させるのが先決だと主張されています。
 「日本を取り戻す」というのはたぶん尖閣諸島や竹島のことだと思いますが、原発事故が起きると、尖閣どころじゃない。日本を取り戻すといくら言っても、放射能は聞いてくれない。
 安倍首相は愛国心という言葉が好きだけど、本当に愛国心をもっているならば、原発なんか日本に置いておけない。だって日本に住めなくなってしまうじゃないですか。
 経済界の人たちも、原発をなくす過程で新しい産業を興していく方が長い目で見れば利益になると、発想を転換してくれないと、日本は世界に追いつけなくなります。
 ――自民党は「国防軍」の創設も主張しています。
 いまどき、そういうことを言う人がいるのは悲しくなります。
 憲法9条が現実的な課題になってきました。自分は書くことしかできないわけですが、デモをしても無視される、訴えが選挙に反映されないと思うと、むなしくなると思いますが、それが向こう側のねらいです。いくらやってもダメだと思ったら負けです。
 やはりあきらめないことです。戦争はいやだという人はたくさんいます。9条は変えない方がいいという人は多数です。原発をすすめ9条を変えようとする政党の人たちを、あらゆる選挙で落としていくことです。
 原発問題であれだけの盛り上がりがあったのも、身近な命の問題を肌で感じたからです。9条でも同じだと思います。人の命を大切にすること、あとに続く世代を守ることなど、人間としての基本的な立ち位置を深く考えるときです。(全国革新懇ニュース2013年2月346号より抜粋)

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【九条噺】

 関東大震災から今年で90年。M7・9(東日本大震災9・0)だったが震源が首都圏に近いこともあり、被災者は約190万人、死者・不明者も10万人を超えた。しかも震災による被害にとどまらずに、とんでもない虐殺事件が勃発した。混乱のさなか、朝鮮人が「暴徒化した」「井戸に毒を入れた」「不逞鮮人が随所で蜂起」などというデマがかけめぐった。やがて情報の信憑性をめぐって官憲や軍部で疑念が生じ、第1師団が検証の結果虚報と判明した。しかしその時はすでに軍・官憲・自警団により多数の朝鮮人が虐殺されていた。正確な被害者数は不明だが、吉野作造の調べで2613人、大韓民国臨時政府の機関紙「独立新聞」調べで6415人等となっている▼日韓併合(1910年)のなか、日本軍に仕事も住居も奪われた多くの朝鮮人が職を求めて日本に逃れ住むようになった。夏目漱石が「余は支那人や朝鮮人に生まれなくって、まあよかったと思った」(「満州日日新聞」)と述べているように、当時は日本を代表するような知識人ですらこの程度だから、あとは推して知るべし。多くの朝鮮の人々は劣悪な環境のもと、差別や蔑みに耐えての暮しを強いられた。その土壌の上に震災があり、デマの氾濫と虐殺があったのである▼一昨年の「3・11」の場合、勿論虐殺はなかった。しかし、福島県・郡山の朝鮮学校は高校無償化から外され、放射能測定器も借りられなかったという。だが、小さな話と思いたくはない。(佐)

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「96条改憲」先行論が改憲策動の新たな「切り口」に

 昨年末の総選挙で再び改憲派・安倍政権が発足しましたが、現在と改憲に突き進もうとした07年当時を比較すると、9条や平和をめぐる現在の情勢には特有の難しさが浮かび上がってきます。東京慈恵会医科大学教授・小沢隆一さん(「九条の会」事務局)が『月刊・憲法運動』に書かれていますので、その要旨を4回に分けてご紹介しています。今回は3回目。

小沢隆一氏 ③

 第三に、以上のような総選挙後の政党配置のなかで、改憲策動も新たな「切り口」や「手法」で進められることが予想される。
   安倍氏は、総選挙直後の12月17日の記者会見で、「最初に行うことは(憲法)96条の改正」と述べて、国会での憲法改正発議要件の緩和を先行させることに意欲を示した。そこには、自民・維新・みんなの党などの改憲構想の中で「最大公約数」である論点から「先行」させて、「圧倒的多数」の力で改憲機運の動きをともかくも作り出そうという狙いが透けて見える。従来から9条の明文改憲には慎重な姿勢を取ってきた公明党も、こうした「入り口」ならばむげには断り難いということなのだろう。明文改憲の最初の「試し切り」が、本当に「96条改憲」という形になるのかどうかは、現時点では予断を許さないが、ともかく各党の改憲への熱を冷まさないための話題としては、格好の素材と考えられたのであろう。
 また、12月25日に締結された自民・公明両党の連立合意では、「憲法審査会の審議を促進し、憲法改正に向けた国民的な議論を深める」とされ、憲法審査会を舞台とした改憲論議がすぐにスタートできる条件が揃いつつある。そのなかでは、11年からの審議のなかで、「論点整理」程度に止まってきた改憲手続法のいわゆる「宿題」、すなわち18歳投票制の導入に関わる法整備、投票呼びかけ運動の公務員や教員に対する規制の整理・調整、予備的な国民投票に関する検討などの議論と法的措置が具体的に進められることも視野に入れる必要がある。船田元氏や葉梨康弘氏など07年の改憲手続法の衆院での審議の中心となり、09年に落選した議員たちが返り咲いてもくる。憲法審査会は、改憲機運の盛り上げと、改憲手続法の「宿題」問題の実務的な詰めの両方を担うだけの陣容を整えて運営されようとしている。(つづく)

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安易な解釈変更、許されぬ

  元内閣法制局長官・阪田雅裕さん

 憲法は国家が守るべき規範を定めたもので、時々の政権が勝手に都合よく解釈するのは問題だ。憲法9条の下で集団的自衛権を行使できるということになれば、平和主義を掲げた9条はあってもなくても同じことになり、法規範としての意味がなくなる。
 自衛隊が海外で活動することは当初想定していなかったから、集団的自衛権の議論は起きなかった。湾岸戦争を機に国際的な活動に日本も協力すべきだという声が高まり、自衛隊のイラク派遣など新たなニーズに対応してきた。だが、集団的自衛権の行使は憲法9条に抵触するというのが、政府の一貫した考えだ。
 これまでも説明の仕方を工夫したことはあるが、言っていることは同じ。海外での武力行使が禁じられているということ。憲法9条の解釈については国会で何十年も議論が積み重ねられてきた。ある日、突然これまでの議論を「なかったことにします」ということが、議会制民主主義の下で許されるのか。
 集団的自衛権行使を認めるなら、解釈変更ではなく、国民の十分な理解を得て憲法改正すべきだろう。
 第1次安倍政権で設けられた懇談会が示した「4類型」の中には、集団的自衛権行使を前提とするものがある。「部分的ならよい」ということかもしれないが、憲法9条の下で部分的にしろ許容される集団的自衛権があるとは考えられない。(朝日新聞2月14日付)

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安保法制懇再開、集団的自衛権行使容認狙う

 政府は2月8日、集団的自衛権の行使容認に向け、第1次安倍内閣で設置された有識者会議「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」を約4年7カ月ぶりに再開させました。懇談会は07年4月に設置され、自衛隊の活動にかかわる4類型について、憲法解釈を検討。安倍首相が退陣した後の08年6月、福田内閣に報告書を提出していました。
 会合では、福田内閣以降、たなざらしとなっていた報告書を安倍首相に再提出し、従来の4類型のほか、テロ組織などへの対応に関する憲法上の問題点も新たに協議することを決め、懇談会としては「集団的自衛権行使を容認する基本認識を再確認した」とのことです。
 安倍首相は中国との領土問題での緊張などを踏まえ、日米同盟強化を目指していますが、夏の参院選の勝利を重視し、それまでは本音を隠し、比較的国民が関心を持ちそうな財政再建、「デフレ脱却」の方に全力投球と見せかけて、裏では有識者会議の「お墨付き」を得て、実際のところは、着々と準備を整えて、参院選挙後に一気に改憲を進める作戦のようです。
 憲法尊重擁護義務がある首相が、こうした懇談会を設置し、検討させること自体、憲法上大問題ですが、安倍首相の本音を見抜いて、お手盛りともいうべき安保法制懇の動きを監視し、早急に集団的自衛権行使を許さない活動を強める必要があるのではないでしょうか。

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 ── 4類型とは ──
 4類型とは、①公海上で行動をともにする米艦船への攻撃に自衛艦が応戦する、②米国に向けて発射された弾道ミサイルをMDシステムで迎撃する、③PKOなどでともに行動する他国軍への攻撃に自衛隊が救援のために駆けつけて武器を使用する、④海外で他国軍隊の前線への武器輸送などの後方支援の範囲を広げる、というものです。
 安保法制懇は08年6月、集団的自衛権の行使などを認め、4類型いずれも実行可能にすべきだとする報告書をまとめました。しかし、類型①、②は明らかな集団的自衛権の行使であり、③は海外での武力行使、④は外国の武力行使との一体化です。

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(2013年3月4日入力)
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