「九条の会・わかやま」 220号を発行(2013年5月24日付)

 220号が5月24日付で発行されました。1面は、「九条の会」よびかけ人がアピールを発表、日本モデルを捨てるのはアメリカに言われるからだけ(孫崎享氏①)、九条噺、2面は、憲法で平和が守られているから平和に暮らせる WBS和歌山放送・特別番組「憲法を考える」 ②(冨山信彦弁護士)   です。

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[本文から]

「九条の会」よびかけ人がアピールを発表

 5月17日の朝日新聞は「改憲の動きが強まる中、『九条の会』の呼びかけ人のうち、作家の大江健三郎さん、澤地久枝さん、憲法学者の奥平康弘さんが17日、都内で記者会見を開いた。『安倍首相のねらいは96条を突破口にした9条改憲。自民党改正草案では戦争をする国の体制づくりをすすめようとしている。絶対に許せない』とのアピール文で、危機感を訴えた」と報じました。アピールの全文をご紹介します。

九条の会のみなさんへ

2013年5月17日 「九条の会」よびかけ人一同

 2004年6月、私たちは「九条の会」を発足させ、「日本と世界の平和な未来のために、日本国憲法を守るという一点で手をつなぎ、『改憲』のくわだてを阻むため、一人ひとりができる、あらゆる努力をいますぐはじめること」をよびかけました。これに応え、全国各地、各分野に7000を超える「九条の会」が結成され、それぞれが創意あふれる運動を展開してきました。私たちはみなさんのこの間のご努力に心から感謝し、敬意を表します。しかし私たちは今、その努力を飛躍的に強めることが求められる重大な局面を迎えています。
 安倍内閣・自民党は小選挙区制という極端に民意をゆがめる選挙制度の力で得た虚構の多数を背景に、改憲に向けて暴走しはじめました。安倍首相はその入り口として憲法96条をとりあげ、現在衆参それぞれの3分の2の賛成とされている憲法改正の発議要件を過半数に緩和するとしています。これが、時々の多数派のつごうで憲法を変えられる状況をつくりだし、立憲主義を破壊するものとなることは明らかです。
 しかも安倍首相の真のねらいは、96条改憲を突破口に、9条改憲につきすすむことにあります。
 すでに自民党は「日本国憲法改正草案」を作成し、第9条については、自衛隊を国防軍として個別的・集団的自衛権の行使やアメリカの組織する多国籍軍への参加を可能にするよう改変しています。また、軍法会議の設置や軍事秘密保護法の制定、首相による非常事態宣言の発令など、「戦争をする国」をめざした体制づくりを全面的にすすめようとしています。
 同時に安倍首相は、憲法の明文改憲が実現する以前にも、憲法の解釈変更によって「憲法9条のもとでは許されない」とされてきた集団的自衛権の行使を可能とし、海外でアメリカと一体となった武力行使をおこなおうとしています。
 私たちは憲法9条の精神を根本から否定する明文・解釈両面からのこうした企てを絶対に許すことはできません。そのため、全国の「九条の会」のみなさんに、あらためてつぎのことをよびかけます。
◎全国の「九条の会」は明文・解釈両面からの改憲攻撃について学習と話し合いをおこない、その成果をふまえ職場・地域の草の根から改憲反対の世論をつくり、安倍内閣や改憲勢力を包囲しましょう。
◎「九条の会」の輪をもっともっと大きくし、ゆるぎない改憲反対の多数派を形成しましょう。
◎ブロックごと、都道府県ごとの交流集会を開き、お互いの経験に学びあい励ましあいましょう。その成果をもって「全国交流・討論集会」(11月16日、於・東京)に参加しましょう。

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日本モデルを捨てるのはアメリカに言われるからだけ

 5月11日、「5月の風に We Love 憲法 5・11県民のつどい」がプラザホープ(和歌山市)開催され、孫崎享氏が「領土問題と憲法9条~国際紛争の平和的解決のために~」と題して講演されました。その要旨を3回に分けてご紹介します。今回は1回目。

孫崎享氏①

 憲法の精神が踏みにじられるのがTPPだ。TPPは農業や医療の問題も深刻なのだが、それ以上に日本の国のあり方を変えてしまう。 TPPには投資家が投資をした場合、その国の法律で予定された利益が上げられなければ訴えることが出来るというISD条項がある。法律はいろんな要素があり、企業の利益が最大限になることだけを目的としてできている訳ではない。生命の安全、健康の問題、所得格差や地域格差などいろんなことを配慮しながら法律は出てくる。この法律の上にISD条項が来て、法律を裁く。憲法では国会が国の最高機関であると決めているが、ISD条項が来たら「国会は最高機関だと言われるが、ISD条項による裁判の方が上だ」「最高裁は最終的判断を行うところだが、多国籍企業は不満に思ったらISD条項を使って覆すことが出来る」となる。TPPにメリットなど何もない。日本の対米貿易は過去15年間全く増えておらず、関税は2%ぐらいだ。アメリカは特許をものすごく強くやるので、薬価は一挙に1000倍になり、国民健康保険は潰れていく。今我々は医者に診てもらえなくて死ぬことに不安を持っている人はいない。TPPでそういう社会ではなくなってしまう。今アメリカでは年収350万円以下の人の30%以上が医療保険に入れない。貧富の差で早く死んでいく。TPPはそんな社会にしようとしている。今は、TPPであれ、憲法9条であれ、大変な時代に入ってきている。いつの時代よりもリベラル層が結集して止めなければいけない。
 日本の憲法は世界のどの国の憲法よりもいろんな権利が織り込まれている。多くの日本人は新聞宣伝で軍隊を持って戦える普通の国にならなければダメだ、世界から相手にされないと刷り込まれている。しかし、世界はそうではない。英国BBCの「もっと発言力を深めてほしい国は? どの国の生き方がいいか?」の質問で、06年のトップは日本。日本のモデルが世界で一番と世界中が見ている。それを我々は何故捨てようとするのか。アメリカに言われているからだけだ。何故アメリカに言われることを官僚も政治家も一生懸命にやるのか。それはポストを貰うためだけだ。「私はこれが正しいと考える。だからこの職に就いてがんばる」という考え方は日本の政治家、官僚からは消えた。これが一番深刻な問題だと思う。おかしいと思っても、日米関係を壊してはいけないというのがコンセンサス。「日米関係が重要だから、まあアメリカに付いて行けばいいのじゃないか」という考えが日本中を覆っている。しかし、日米関係で我々は本当に豊かになってきたのだろうか。これからも豊かになっていくのだろうかという部分を議論しないとこういう問題もうやむやになってしまう。
 日本では第2次大戦後、多くの人が飢えたが、「アメリカが助けてくれたから犠牲者が出なかった」というのがコンセンサスになっている。本当にそうか。昭和21~22年の日本の国家予算30%が米軍経費に回っていた。それが食糧に回れば何の飢えもなかった。それではあまりに酷いと減額要求をした人が大蔵大臣・石橋湛山で、公職追放になった。飢えのどん底にあるのに国家予算の30%が米軍に行ってどうなるのか。それをアメリカに言う。しかし首を切られる。石橋湛山は、「自分は首を切られてもいいが、次の、またその次の大蔵大臣が同じことすれば、向こうは諦める」と言ったが、次の人はそうはしなかった。これは今も続いている。(つづく)

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【九条噺】

 このところ、「ザイトクカイ」という団体が妙に〝元気〟である。今年2月、鶴橋(大阪市)の通称〝コリアタウン〟を異様なデモ隊が通った。日章旗や「竹島泥棒粉砕」「仇ナス敵は皆殺し」などのプラカードを掲げ、「朝鮮人を殺せ」と連呼し続けた。翌3月、今度は東京の新大久保でも同様のデモが繰り広げられ、先導車が拡声機でコールした。「新大久保のゴキブリの皆さんこんにちは!こちらは『全日本・社会の害虫を駆除しよう清掃委員会』のデモ隊です」「在日韓国人をテポドンにくくりつけ、韓国に撃ち込みましょう」。この、まるで狂気のデモを繰り広げたのが「ザイトクカイ」、つまり「在特会」(在日特権を許さない市民の会)である。06年に結成され、会員数は公称12000人という▼一昨年、東京お台場では「韓流ドラマ偏重止めろ」「フジテレビは韓国の手先か」と叫ぶデモ隊がフジテレビのビルを取り囲む騒ぎがあり、昨年は大阪・東京で、安世鴻氏の「慰安婦写真展」開催に際して、会場のニコンサロンに抗議と脅しの電話やメールが殺到、大阪は遂に中止を余儀なくされたと聞く。いずれも「在特会」がらみのもので、今後さらに多方面に広がりそうだ▼「在特会」をことさらに勢いづかせているのが安倍首相や橋下大阪市長らで、歴史的事実を無視して、「侵略」や「慰安婦」を事実上否定するような発言こそ彼らが最も喜ぶのである。(佐)

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憲法で平和が守られているから平和に暮らせる
WBS和歌山放送・特別番組「憲法を考える」 ②


 5月3日憲法記念日の15時から20分間、WBS和歌山放送が「憲法9条を守る和歌山弁護士の会」の提供で特別番組「憲法を考える」(出演・冨山信彦弁護士)を放送しました。その要旨を2回に分けてご紹介しています。今回は2回目で最終回。

冨山信彦弁護士が出演

冨山さんと憲法との関わりは

 個人的な経験でいうと自分は戦争に行ったこともテロを受けたこともない。ところが、父親や祖父の代は戦争の時代だった。父親は海軍に行って、叔父は陸軍で廃人になってしまった。その人を見ていても、自分も軍隊に行けば同じようになってしまう可能性がある。小さなころから戦争や軍隊に対する嫌悪感を持っている。例えば、今も爆撃で娘が殺され父親が嘆き悲しんでいる海外の映像を見ることがあるが、同じような立場になればどうしようもないのではないかと思う。私は61年間平和に生きてきた。これも憲法が戦争放棄、軍隊を持たないと謳っていることによって守られてきたと思う。
 憲法は国の権力を規制するという意味がある。立憲主義というが、軍隊を持ったら使うことになるだろう。国家が戦争を遂行することを助ける形になるのではないかということで、軍隊を持つことには反対している。
 現実には自衛隊があり、改憲論議の中で戦力を持とうという議論があるが、自衛権行使の自衛隊と戦力とは違う。自衛隊は日本が攻撃された場合に自衛する。武器はあるが、相手が攻撃してこない限りは攻撃しない。そういう意味では自衛は意味があるが、軍隊を持って日本以外の土地で同盟している国が攻撃されたら攻撃するということまでは認められていないと思うし、それから、先制攻撃とかも軍隊ならばあり得る。そうしたら、日本は戦争に巻き込まれてしまう。それには賛成できない。戦力として自衛隊を認めると自衛隊の性質が変わってしまう。今のままの自衛隊は憲法に抵触する恐れはあるが、私は、自衛隊は直接憲法に抵触しないのではないかと思っている。

憲法が施行されて66年になるが、現代に合わないところは出てきているのか

 憲法は基本を定めている根本規定なので、それに基いた法律によって対応は十分にできる。だから憲法に環境権を規定しなければならないかというと、そういうものではない。環境保全の中で環境権を謳うことも可能だし、憲法の改正は必ずしも必要ではない。

和歌山でも憲法9条を守ろうという動きが活発なのか

 「憲法9条を守る和歌山弁護士の会」が弁護士の中にも作られているし、いろんな市民活動と連携をとって運動している。みなさんにアピールしたいのは、「ぶんだら踊り」に「九条連」を作り参加していること。飛入りもOKなので一緒にやりたい。

楽しい毎日も憲法があるから

 大袈裟になるかもしれないが、憲法によって平和が守られているから平和な暮らしが送れていると思っている。

県民へのメッセージを

 「憲法9条を守る和歌山弁護士の会」は憲法の問題を考えようということをやっている。各種団体から憲法についての講師の依頼に対して派遣もやっている。「ぶんだら踊り」や「アピール行進」もある。思想的に偏っている訳ではなく、「憲法を守っていこう」「憲法を考えよう」というみなさんに運動に参加してもらえればと思う。よろしくお願いしたい。(おわり)

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(2013年5月25日入力)
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