由良登信さん②
日本経団連は「希望の国、日本」という提言で2010年代初頭までに憲法改正の実現を目指すとしている。多国籍企業化した大企業は地球規模で展開しており、政情不安定になると自衛隊に来てもらって、投下した資本や経済活動を守ってもらわねばと思っている。経団連の中でも国内で生産して国内で経済活動を展開する企業はこんなことを望んでいない。今、経済界でも二極分化が進んでいる。
アメリカのアーミテージ氏は集団的自衛権の禁止は日米同盟の制約となっていると言っている。ただ、ここに来てアメリカは、特に対中国政策については力でねじ伏せるものから経済協力はするという方向が強まっている。アメリカの対中国貿易額は日本を上回り、アメリカ国債の保有額は中国が世界一で、互いに投資し合う関係になっている。ところが安倍氏は尖閣問題では「物理力しかない」と言っており、アメリカにも安倍氏は問題だとする声が出始めている。対中国政策では違っているが、地球レベルで言うとアーミテージ氏の言ったことはまだ生きている。
集団的自衛権行使は、アメリカが戦っている国に自衛隊が一緒になって武力行使をするということだ。自衛隊員が殺し、殺されることになる。自衛隊を辞める隊員が続出するのではないかと思うが、日本の若者の貧困化が深刻になっており、隊員の供給源はある。集団的自衛権が解禁されれば、憲法9条は有名無実化し削除するのと同じだ。
集団的自衛権行使をどのようにして実現しようとしているのかだが、ひとつは憲法改正、もうひとつは解釈改憲、法律による改憲だ。憲法に反する法律は無効だと書いてあるのだから、法律で憲法を変えることなどできない。だから、これは「憲法があってもやってしまえ」という、法律の形を取るが違憲無効な形で突き進むクーデターのようなものだ。それを今やろうとしている。
自民党憲法改正草案では9条の章名を「戦争放棄」から「安全保障」に変え、2項を削除する。2項削除がこの改正草案の核心だ。国防軍を保持し、法律の定めるところにより、国際的に協調して行われる活動、公の秩序を維持する活動、国民の生命・自由を守る活動も行うとしている。「法律の定めるところ」では無限定になり、多数党が決めたら国防軍は何でもできることになる。これは憲法が国会や政府を縛らないことになる。
国際的に協調して行われる活動は国連軍ではなく、多国籍軍も含む。公の秩序を維持する活動は治安出動だ。国民に銃口が向けられることも考えられる。国民の生命・自由を守る活動は政情不安定になれば日本人の生命を守るという口実で世界中どこにでも行くということだ。おまけに国民に国と郷土を守る義務を課し、機密保持に関する法律を作り、軍事法廷も作る。領土保全も義務付ける。緊急事態(有事)には総理大臣が全権限を掌握し、総理大臣が内閣に作らせた政令は法律と同じ効果を持つ。国会停止だ。実質的に総理大臣に権限を集中して国会を通さないで法律を作り、それに地方自治体も従え、国民も協力せよと書いている。完璧に戦争をする国へ計画を進めるものだ。
今、国会は衆参とも改憲派が3分の2を占めている。議員数では非常に危ない。国民が国民投票で否決する状況になれば怖くない。9条改憲反対の国民は今も過半数いる。戦争に向かう秘密保護法反対の声が高まり、今9条を守れの世論は急速に広がる可能性がある。6割ほどになれば憲法改正は言えなくなる。国民投票で否決されたら政権は飛んでしまい、二度と改憲案は出せなくなるだろう。(つづく)
----------------------------------------------------
【九条噺】
近年、世界中の人々に最も大きな励ましや勇気と希望をもたらしているのはこの女子学生ではないか。マララ・ユスフザイ(16)。女性の権利もまったく認めないタリバーン勢力が大勢を牛耳るパキスタンで、マララは父親に影響を受けてよく学び、読書の大切さを知り、女子教育の権利にも目覚めた。さらにそれをブログなどで訴えつづけ、マララの名は海外でも広く知られるようになった。しかし一昨年秋、マララは通学途中にタリバーン武装勢力に襲われ、頭を撃たれて倒れた▼マララはイギリスに搬送されて奇跡的に快復し、その後は活動の場をさらに広げ、「学校に行けない子に1冊の本と1本の鉛筆を」「全ての子どもたちに教育の機会を」などとよびかけてきた▼昨年、国連はマララの誕生日7月12日を「マララ・デー」と定めた。その日、マララも演説した。「マララ・デーは女性の権利のために声をあげるすべての女性たち、すべての少年少女のためにある日です」「『ペンは剣よりも強し』というのは本当です。今こそ声を出して言うときです」「私たちはすべての政府に子どもたちへの無料の義務教育を確実に与え、すべての政府がテロリズムと暴力に立ち向かうことを求めます」「自分たちの言葉の力を信じ、教育という目標で連帯しましょう。1人の子ども、1人の教師、1冊の本、そして1本のペン、それで世界は変えられます」等々。いやぁ、素晴らしい演説だった。(佐)
----------------------------------------------------
国家安全保障基本法案の危険性①
自民党は12年7月6日に「国家安全保障基本法案(概要)」を発表し、13年11月と12月に成立した「日本版NSC設置」法と「特定秘密保護法」に続き、戦争ができる体制づくりをめざしてこの基本法案を成立させようとしています。この法案の危険性を自由法曹団の「国家安全保障基本法制定に反対する意見書」などから要約してシリーズでご紹介します。今回は1回目。
①集団的自衛権の行使を全面的に認める
第10条1項は、「国際連合憲章に定められた自衛権の行使」として、「我が国、あるいは我が国と密接な関係にある他国に対する、外部からの武力攻撃が発生した事態」に自衛権を行使するとしています。
これは07年に「安保法制懇」が提言したいわゆる「4類型」に限らず、憲法9条違反の集団的自衛権行使を全面的に解禁するというものです。これまでアメリカが集団的自衛権を口実に行ってきた他国への違法な侵略戦争や干渉に、日本が参加することになってしまいます。
また、この法案は明らかに憲法9条違反ですから98条により無効です。このような法律を定めるためにはまず、憲法改正が必要です。それでもあえて基本法を定める背後には、そこに「憲法改正の露払い」としての役割を期待していると思われます。基本法を定めて憲法違反を既成事実化し、解釈改憲をしたうえで、最終的に憲法の明文を改正しようという意図があります。
②多国籍軍や有志連合による戦争や武力行使に参加する規定を置いている
第11条は、「国際連合憲章上定められた安全保障措置等への参加」として、「国際連合憲章上定められた、又は国際連合安全保障理事会で決議された等の、各種の安全保障措置等に参加」するとして、国連による武力行使のみならず、イラク戦争のような国連無視の有志連合方式による戦争・武力行使にも、日本が参加することを言明しているものです。これは政府の「海外での武力行使や他国の武力行使と一体化した活動はできない」という従来の憲法解釈を投げ捨ててしまうものです。
③自衛隊の存在を認め、交戦権の行使を認める
第8条は、「陸上・海上・航空自衛隊を保有する」とした上、「自衛隊は、国際の法規及び確立された国際慣例に則り…行動する」と規定しています。
憲法9条2項は「戦力の不保持」を定めていますが、これは政府が「自衛のための必要最小限の実力で、戦力ではない」と言い繕ってきた自衛隊の存在を公認するとともに、「交戦権の否認」をも死文化させるものです。
国際法規は、今も侵略戦争の放棄だけにとどまっていますが、日本国憲法は国際法規の上を行き、9条2項で「戦力の不保持、交戦権の否認」を掲げて、一切の戦争を否定して、非戦・非軍事の平和主義を体現しています。それにもかかわらず、この第8条は、戦力に該当する自衛隊の存在を公認するとともに、その行動規範を憲法9条2項の水準に及ばない国際法規に引き下げ、自衛隊を他国と同じような軍隊へ変質させ、交戦権を行使しようとするものです。(つづく)
|