安倍首相の15日の記者会見を見て、最初は「やられた」と思った。集団的自衛権と関係のない話をしているのだが、「全く嘘ではいけないが、多少の真実を含ませながらその一部をうんと誇張するとか、多少嘘で味付けをする」というやり方で世論を誘導している。そういう形で世論形成をしていくのが典型的なポピュリズム政権のやり方だ。安倍首相は理性ではなく感情に訴え、説明パネルの避難する母子たちを運んでいるアメリカの船が襲われた時に助けないでいいのかと言う。それは助けない訳にはいかないとなる。それを突き崩すのは容易ではないが、如何に非現実的な話か正面から崩すのが私の仕事と思ってNHKでも話した。韓国に日本人は観光客も含めて10万人ほどがいる。朝鮮半島有事でも、今どき北朝鮮軍の動きは必ず情報で分かる。そうした兆候が出た時は韓国にいる日本人を民間機でどんどん帰す。軍艦は戦争が始まれば民間人を乗せるようなスペースはない。そういう意味でアメリカの軍艦で日本人を運ぶなどは全く現実性がない。そもそも北朝鮮がソウルを占領するような能力などあり得ないと専門家は考えている。朝鮮半島有事を考えること自体が非現実的だ。今政府与党は邦人保護のための武器使用権限を拡大しようとしているが、それも非合理的だ。自衛隊が武器を使用しながら、アルジェリアの人質事件のように海から1千㎞も離れた内陸の日本人を助けに行くとすれば、給油も出来ないし、民間人を運ぶことが正しい選択かを考えたら、それはやってはいけないことだ。だから、今の法律では警護の安全が確保されていることを前提に自衛隊は邦人輸送ができることになっている。今後は武器使用が拡大すれば警護の安全が必ずしも確保されていなくてもやろうと言う。まさにこのケースだ。これはアメリカの船だから集団的自衛権が必要だと安倍首相は言うが、本質はアメリカの船を守るのではなく、中にいる日本人を守るということだから、輸送手段がどこの国のものかは本質的な問題ではない。法律改正をするのだったら自衛隊が守れるようにすればいい。これは自衛権でも何でもなく、法律上は警察権だ。警察官職務執行法では犯罪が起きようとしている時に犯罪を制止すること、市民への危険を排除することは認められているし、正当防衛に該当する時は武器を使用してもいいことになっている。
「尖閣が危ない、北朝鮮からミサイルが飛んでくる、だから集団的自衛権」という話になっているが、それはおかしい。尖閣は日本の領土なのだから、それが侵略されたらそれを守るのは正に個別的自衛権だ。北朝鮮からノドンが飛んできたら日本を守るのは個別的自衛権だ。何故集団的自衛権が出てくるのか。確かに折よく南シナ海で中国が乱暴なことをやっているから、集団的自衛権で対応しないと日本も同じ目に遭うのではないかと言う。それならそれをきちんと理屈で説明しなければならない。それをしないで、脅威ばかりを強調する。オバマ大統領が来た時に、尖閣は日米安保5条の適用範囲だと言った。5条は日本防衛の条項だから、日本は個別的自衛権、アメリカは集団的自衛権で守る対象だと言っている。そういう当り前の論理的な話になっていない。
何故そういう話が出てくるのか。安倍首相は何がやりたいのか。まさか、アメリカの船を守りたいということではないだろう。何故アメリカの船を守るのか。たどり着いた私の結論は「やりたいからやるのだ」ということだ。安倍首相は04年に政治評論家・岡崎久彦氏との対談本『この国を守る決意』を出し、その中に「祖父・岸首相が60年安保改定でアメリカが日本を防衛する義務を書いてくれて安保の双務制を実現した。自分の世代には新たな責任があり、それは日米安保を堂々たる双務制にしていく。日米同盟は『血の同盟』でアメリカの青年が血を流すのであれば、日本の青年も血を流さなければ対等な関係は出来ない」と書いている。やりたいことはこういうことだ。だけど、日本の青年とは自衛隊だ。その頃、自衛隊はイラクに派遣され、宿営地に砲弾が飛んでくる状況で、自衛隊は必死の思いで一発の弾も撃たないで復興支援をやっていた。その時、政治家は隊員が一人でも怪我をしたら内閣が潰れるから何もするなと言う。つまり、これはアメリカへの付き合いでやっているだけで、政治がそれ以上のことを望んでいない。こういう状況の中で「血の同盟」と言っている政治家がいたのだ。(つづく)
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【九条噺】
沖縄の稲嶺進名護市長が5月半ばに訪米し、政府関係者や各界の人たちに沖縄の米軍基地、とりわけ普天間基地の辺野古移転問題について訴えた。米国務省のヘムシュ日本部副部長は「国と国の間で決めたこと」とつれない応対だったが、ジム・ウェッブ元上院軍事委員会委員は「自分は今でも辺野古移設は難しいと思っている」と回答。ケイトー研究所のダグ・バンドー上級研究員は「島の20%が70年近くも占拠されているのは明確な不公平だ。ワシントンと東京は真摯に向かい合わなければならない」と語った▼この問題で稲嶺市長が訪米するのは2度目になる。再度の訪米は、知事が態度を豹変させ、この案件を認めて埋め立てにも同意したからである。琉球新報社の世論調査でも、「知事の承認は公約違反」とみなす回答が72.4%になっている。一方で「辺野古移設反対」は73.6%に上っており、知事の理不尽さを物語る。稲嶺市長は、こうした世論調査にみる県民の総意がアメリカの各界にもさまざまな影響をもたらしていると実感したと語る▼沖縄の辺野古では漁協の一角にテント村が設置されてほぼ8年前から座り込みが続けられてきた。かつての沖縄戦では県民の4人に1人が亡くなった。戦後は、在沖米軍がベトナムで、湾岸戦争で、アフガンで、イラクで多くのアジア人を殺傷してきた。沖縄の人々は「戦争加担者であること」を拒否し、辺野古新基地建設に反対しているのである。(佐)
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集団的自衛権行使容認「反対」が「賛成」を圧倒
(朝日新聞世論調査)
朝日新聞は26日に全国世論調査結果を発表しました。安倍首相の憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認は「反対」が55%で、「賛成」の29%の倍近くになっています。憲法改正の手続きを経ず、内閣の判断で憲法解釈を変える首相の進め方については「適切ではない」は67%で、「適切だ」の18%を圧倒しています。また、集団的自衛権を行使できるようになったら、周辺の国との緊張が高まり「紛争が起こりやすくなる」は50%で、抑止力が高まり「紛争が起こりにくくなる」は23%です。アメリカなどの同盟国の戦争に巻き込まれる可能性が「高まる」は75%で、「そうは思わない」の15%を大きく引き離しています。
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