「九条の会・わかやま」 248号を発行(2014年6月6日付)

 248号が6日付で発行されました。1面は、安倍首相 集団的自衛権行使容認の範囲をますます拡大、「国民安保法制懇」設立、憲法9条の息の根を止める「国家安全保障基本法」(半田 滋 氏 ③)、九条噺、2面は、書籍紹介、3面は、何が何でも集団的自衛権という看板が欲しい安倍首相(柳澤 協二氏 ②)  です。

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[本文から]

安倍首相、集団的自衛権行使容認の範囲をますます拡大

 安倍首相は5月28日の衆院予算委員会の集中審議で、周辺有事の際に邦人を輸送する米輸送艦の防護について、外国の民間人を輸送する米艦、米国が借り上げた第三国船の防護にも広げる考えを示しました。自・公両党協議で、集団的自衛権の行使容認を含む15事例を示していますが、15事例のうち5事例が米軍艦船を自衛隊艦船が守るという「米艦防護」に集中していることが大きな特徴です。今回これに新たな事例が追加されて7事例になるものです。事例は、集団的自衛権行使容認ありきの想定ばかり、いずれも「非現実的」との指摘が相次いでいます。集団的自衛権の行使が必要だとする事例を政府が示せば示すほど、逆に必要のなさがますますはっきりとしてきています。安倍首相は「海外で戦争する国」になるということを隠し、何が何でも集団的自衛権行使に道を開きたいようですが、その論理の破綻は明らかです。

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「国民安保法制懇」設立

 5月28日、憲法解釈変更による集団的自衛権行使容認に批判的な内閣法制局長官経験者や憲法学者らが、安保法制を考える懇談会を発足させました。安倍首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)に対抗して、会の名称を「国民安保法制懇」としました。
 29日の毎日新聞は「国民安保法制懇」について次のように報じています。  「改憲派の憲法学者、小林節・慶応大名誉教授は『憲法をハイジャックするもの』、孫崎享・元外務省国際情報局長は『米軍の傭兵のような状態になる』と批判した。メンバーは両氏のほか、内閣法制局長官を務めた阪田雅裕、大森政輔両氏、第1次安倍政権で官房副長官補を務めた柳沢協二氏ら12人で、一部が参院議員会館で記者会見した。今年夏にも報告書をまとめる。
 安倍首相は午前中の集中審議で、『実際に武力行使するかは高度な政治的決断だ』と釈明した。この発言に対し、小林氏は『法的規制がないに等しい。〝おれに任せろ〟ということか』と批判した。元長官の大森氏は『首相の判断の誤りを防ぐ人たちが内閣に集まっているとは思えない』と突き放し、首相の諮問機関『安保法制懇』の報告書について、『結論ありきで、まさに牽強付会(けんきょうふかい=こじつけ)。理由づけも実にひどい』と酷評した。元長官の阪田氏は、『集団的自衛権を巡り、全員の意見が一致しているわけではない。だが、日本のかたちを変える大きな問題であり、行使するには十分な国民的議論が必要で、憲法改正を経て国民に覚悟を求めなければならない、という点で全員が一致した』と、設立経緯を説明した。過去にイラク大使館に勤務した孫崎氏は、政府が集団的自衛権の行使容認や法整備が必要とする15の具体例について、『他の対応で可能なものばかり。自分の経験から見ても、あえて集団的自衛権の検討を急ぐ緊急性がない』と一蹴した」。

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憲法9条の息の根を止める「国家安全保障基本法」

 4月25日、和歌山市で青年法律家協会和歌山支部の憲法記念行事「憲法を考える夕べ」が開催され、東京新聞編集委員/論説委員・半田滋氏が「集団的自衛権のトリックと安倍改憲」と題して講演をされました。その要旨を3回に分けてご紹介しています。今回は3回目で最終回。

半田 滋 氏 ③

 今のオバマ政権はアフガン戦争、イラク戦争の借金で手が一杯だから、海外での戦争はしないだろうが、2年後に次の大統領が武力行使を言い出すかもしれない。その時に日本が集団的自衛権行使ができるようになっておれば、アメリカの若者100人が死ぬところを80人で済ませ、日本の若者20人がその穴を埋めてくれればアメリカの負担は軽くなり、戦費も軽くなって財政的にも助かる。そう考えると今回オバマ大統領が集団的自衛権行使を歓迎すると言った理由がよく分かる。将来的にアメリカが戦争しやすくなるフリーハンドを日本から貰ったと考えればいい。今の北朝鮮を見ているとそんな可能性があるのではないか。つまり、日本が憲法解釈を変えることによって、戦争の危機が迫ってくるのではないかと心配している。
 今後の段取りは、安保法制懇が連休明けに集団的自衛権の行使を解禁すべきという2回目の報告書を出す。これを基に自・公で話し合い、今国会中に憲法解釈を変えるという閣議決定をしたいというのが安倍首相の狙いだ。閣議決定だけでは自衛隊の活動に何の実効性ももたらさないので、秋の臨時国会では自衛隊法を他国の領域の防衛にまで広げるよう変える、周辺事態法を朝鮮半島で自衛隊が活動できると読めるように変える、というように法律をたくさん変えていかなければならない。
 自民党が野党の時の12年7月に「国家安全保障基本法案」を作った。これは自民党が政権を取ったらこんなこともやるというロードマップの役割も果たしている。例えば、3条では「特定秘密保護法」を作ることを一昨年に予定していた。6条の「安全保障基本計画」は昨年12月に作った「国家安全保障戦略」だ。「積極的平和主義」もこの中に出てくる。安倍首相が言う「積極的平和主義」とは武力を使ってでも平和をもたらす、即ち、「平和の前に戦争あり」というものだ。「安全保障会議設置法改正」が書かれているが、これが「日本版NSC」だ。12条の「武器の輸出入等」は4月1日に実施した「武器輸出3原則」廃止だ。今の安倍政権は野党時代に考えていた安全保障政策の法律の中身を巧妙にひとつひとつ、ジグソウハズルを埋めるように実現させている。そして、4条には国民の責務として国防の義務を課している。12年4月に自民党が「自民党憲法草案」を発表した。為政者のために国民が命まで捧げつくすという中身だが、その前文に書かれていることと同じだ。今徴兵制はない。それは憲法18条に奴隷的拘束や苦役は免れると書かれているからだが、「非正規社員より自衛隊の方が給料はいい。自衛隊のどこが奴隷的なのか。むしろ幸運ではないか」と言い出しかねない。9条ですら読み方を変えようというのだから、他の条文なんて簡単だ。10条は「国連憲章に定められた自衛権の行使」と書いている。国連憲章は個別的/集団的自衛権を認めているが、国連が適切な措置を取るまでの間と、例外的に認めるものだ。東西冷戦時代に集団的自衛権行使で様々な国で戦争が行われてきた。ベトナム戦争、旧ソ連のチェコ侵攻、アフガン侵攻はそれぞれの宗主国による西側、東側の囲い込みとして集団的自衛権の行使を行ってきた。国連が集団的自衛権を認めたことによって世界が不安定になった。11条は「国連憲章上定められた安全保障措置等への参加」とある。国連は加盟国の平和と安全を乱す国に対して経済制裁や武力制裁をすることがある。武力制裁の典型は91年の湾岸戦争だ。多国籍軍は91年から11年のリビア空爆まで9回も編成されている。2年に1回の割合だ。昨年もシリアに対してアメリカが空爆しようとした。安保理でロシアが拒否権を発動するので勝手にやろうとした。11条は「安全保障措置等」と「等」が入っているので、国連の安全保障措置でなくてもいいということだ。昨年のオバマ政権のシリア空爆に賛成し、我が国が「国家安全保障基本法」を制定しておれば、日米でシリア空爆をやったかもしれない。この法律ができれば、まるで憲法9条は何も禁止していないのと同じことになる。ドイツのワイマール憲法はナチスの「全権委任法」によってその息の根を止められた。憲法9条は「国家安全保障基本法」が制定されれば息の根が止められる。ナチスと同じ流れになろうとしている。
 そこで、どうすればいいのかだが、残念ながら国政選挙は2年間ないし、仮に1カ月後にあったとしても、内閣支持率の高さから安倍政権が圧勝するかもしれない。今日この会場に来ていない人たちが心配だ。多くの国民は安倍首相がこの国を悪くするのを何故喜んで見ているのか。多くの国民に対して「実は憲法解釈を変えたら、自衛隊は海外に戦争をしに行くことになる。具体的にはアメリカが将来朝鮮半島で戦争をする時に自衛隊が出て行くかもしれないし、自衛隊を辞める隊員がいたら今度は徴兵制が敷かれて、あなたの息子が行くことになる」ということを伝えていかなければならない。(おわり)

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【九条噺】

 とてもありがたいことに、近代文学について気軽に勉強できることになった。与謝野晶子の研究家としても知られる松永直子さんを拙宅に招いて、月に一度「近代文学学習会」をおこなうことになったのである。で、第1回が「平出修の仕事」である。平出修については、当コラムでもすでに「大逆事件」に関わる弁護士として紹介したところだ▼平出修は小学校教師の時に、露花と号して短歌や評論等を頻繁に投稿、のちに新詩社に加入して『明星』にも発表するようになった。このころ徳富蘇峰や与謝野晶子との親交もあったと思われる。平出はさらに、法律家に必要な学問もはじめ、5年後にはキッチリ弁護士の資格も得ている▼ところで徳富蘇峰は大石誠之助と友人関係にあり、大逆事件の前年も新宮に大石を訪ねている。その大石らが「大逆事件」という、ありもしない事件の冤罪で多数逮捕されるという事態が生じたために、平出修にも弁護人の一人となるよう依頼した。こうして平出修は逮捕された人たちのうち、高木顕明と崎久保誓一の二人の弁護を担当することになったものである▼平出修はその後、石川啄木の葬儀の世話をして、幾編かの小説を発表したのち自らも骨瘍症を発病し、36歳で他界した。益々の活躍をと期待する才能がかくも早くと思わざるを得ない。与謝野晶子が平出修について詠んでいる。「わかれしをきのふとおもひなほけふを君とかたりし日かととまどひ」(佐)

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書籍紹介 『日本は戦争をするのか』
─ 集団的自衛権と自衛隊

安倍総理の悲願といわれる集団的自衛権。武器輸出解禁や日本版NSCの創設、国家安全保障基本法をめぐる議論などを背景に、今日本が急激に変わろうとしている。政府で何が議論されているのか。それはリアルな議論なのか。自衛隊はどう受け止めているのか。長年日本の防衛を取材してきた著者による渾身の一冊。
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著 者:半田 滋
発 売:2014年05月20日
発行所:岩波書店(新書)
定 価:本体740円+税

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書籍紹介 『亡国の安保政策』
─ 安倍政権と「積極的平和主義」の罠

「積極的平和主義」を掲げ、日本版NSCの設置、秘密保護法の制定、そして、集団的自衛権の行使容認へと舵を切った安倍政権。その裏で歴史認識をめぐり近隣諸国との軋轢は増し、靖国参拝により米国までが「失望」した。隣国の軍事的〝脅威〟を煽り、理念独走の安保政策がいかに「国益」を毀損するのか、正面から検証する。
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著 者:柳澤 協二
発 売:2014年04月24日
発行所:岩波書店
定 価:本体1400円+税

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何が何でも集団的自衛権という看板が欲しい安倍首相

 5月17日、「5月の風に We Love 憲法 5・17県民のつどい」がプラザホープ(和歌山市)で開催され、元内閣官房副長官補・柳澤協二氏が「海外で戦争する国にしない~安倍首相の集団的自衛権容認に異議あり!~」と題して講演されました。その要旨を3回に分けてご紹介しています。今回は2回目。

柳澤 協二氏 ②

 オバマ大統領は安倍首相の集団的自衛権行使の検討を歓迎する(welcome)と言った。 アメリカの肩代りをしてくれるのだから、アメリカにとってはそれは有難いことだ。「welcome」は外交辞令で、本当に必要なら「necessary」と言う。
 05年頃アメリカはイラクとアフガンで泥沼にはまり込んでおり、あの頃の集団的自衛権はアメリカにとって非常に意味があり、本当の集団的自衛権を求めて、アメリカと肩を並べて戦う国になってくれということだった。イギリスは8千人を派遣し、300人が戦死した。日本もそういう意味でイギリスのような同盟国であってほしいという流れになっていた。しかし、オバマ大統領になり、対テロ戦争から手を引くことになって、そういう話は一切出なくなった。最近のアメリカは、「誰も住んでいない無人の岩のために俺達を巻き込むことはやめてくれ」と言う。これが率直な本音だ。
 集団的自衛権は、小さな国が力を合わせて戦うことだと言う。しかし、小さな国がいくら集まっても大きな国に軍事的に対抗できる訳がない。実際には集団的自衛権は、ハンガリー、ベトナム、チェコ、アフガンのように、大国が軍事介入することを正当化するものとして使われてきている。これは余りにも酷いというので、ある国が攻撃を受け、その国が助けてくれと明確に要請したというような要件が必要と国際法的に確立していっている。
 よく「日本も普通の国になるべきだ」という話があるが、「普通の国」とは何か。よその国に軍事介入する国は「普通の国」ではない。また、よく言われる例として、「隣を歩いている友達が殴られたら助けてやらなければいけない」というのがあるが、「そんな危ないところには行かないようにしよう」と言うのが本当の友達だと思う。そもそも日本は自分が殴られないために世界で一番強い国と同盟を結んでいる。日本は絶対に殴られない友達と並んで歩いているのに、何故こんな例え話が出てくるのか。これは先ほどの「一部の事実はあるが、どこかに大きな誇張や嘘が入っている集団的自衛権を説得する論理」だ。アメリカの抑止力が重要だと言うが、抑止力とは手を出したら倍にしてやり返すという力を見せることだ。1隻の船が抑止力ではなく、背後に控えている世界最大の軍事力が抑止力の実体だ。「アメリカの船が攻撃されたら」と言うのなら、「アメリカの抑止力はどうなったのか」と言わねばならない。
 アメリカに向かうミサイルのことだが、ミサイル防衛は、レーダーでミサイルの弾道を解析し、ブースターの燃焼が止まる地点を割り出し、そこに向けて迎撃ミサイルを発射する。レーダーで解析し始めた時はもう北極近くに行っている。それをイージス艦のミサイルで追いかけるのは無理だ。だからあり得ないということだ。グアムに向かうのなら、その時、在日米軍基地を放っておく訳がない。それは日本有事で個別的自衛権の範囲だ。船舶の臨検も言っているが、その対象が北朝鮮だとすれば、軍事物資などは船では運ばず、陸上の国境を越えて運ぶ。中国やロシアの許可がなければ北朝鮮は戦争なんて出来ない。機雷を撒かれたらも掃海艇を出すというが、掃海艇は自分を守る手段がない。有事にホルムズ海峡で自分を守れない掃海艇が緻密な掃海作業などは行えない。また、イランが機雷を撒くなどするはずがない。そんなことをするとイランの石油が売れないことになる。そんな状況の中で「機雷を撒かれたら」なんていい大人が言うかと思う。
 あり得ないシナリオを考えてエネルギーを使うほどバカな話はない。集団的自衛権の最悪のシナリオはミサイルや機雷ではなく、日本がそこに手を出すことによって日本が敵国とされて日本に犠牲が出ることだ。集団的自衛権によって抑止力が高まると言うが、危険も高まるということだ。その両面を国民に言わなければならない。国際貢献では他国の軍隊を守ると言うが、他国の軍隊は守るべきではない。軍隊はそれぞれが自分で守るものだ。民間人や避難民の保護は憲法解釈を変えなくても知恵でやれる。
 安倍首相は記者会見で集団安全保障はやらないと言った。これではっきりしたのは、安倍首相は何が何でも集団的自衛権という看板が欲しいということだ。だから、集団的自衛権ということで国民受けしやすいような事例で、限定的でも、必要最小限でも、何でもいいから、とにかく集団的自衛権に道を開いた首相として歴史に名を残したいということだ。しかし、一旦集団的自衛権の穴を開ければ無限に拡大していくのが本質だ。
 歯止めの話では、集団的自衛権行使6原則に、「同盟国」という表現ではなく「日本と密接な関係にある国が攻撃を受けた場合」となっている。「密接な関係にある国」の1番目はアメリカ、2番目は経済的にも政治的にも中国だ。それから韓国、ロシア、東南アジアの国々だ。中国を守るために集団的自衛権を使うなんて考えている訳がない。それならいい加減な言葉でその場凌ぎをするのではなく、きちんと説明せよということだ。「攻撃があった」というのは当り前。なくて仕掛けたら侵略になる。「日本の安全に重大な影響を及ぼす」は、地理的限定はなく地球の裏のことまで日本の安全に影響すると言う。全く歯止めにならない。「相手からの明確な要請」は当り前のことで、要請もなく行ったら侵略になる。「政府が総合的に判断する」は一番問題だ。日本は一度もアメリカの武力行使に反対したことはない。そういう国がアメリカの武力行使に対しては、行く方向で判断するに決まっている。「国会承認」「第三国通過の許可」も当り前。なまじこういう原則を言ったために、アメリカの要請は断れないことになってしまう。(つづく)

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(2014年6月8日入力)
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