安倍首相はまず憲法96条の改正をすると言い、批判の声があがると引っ込めました。そして自分と親しいグループに案を出させ、それを内閣で決定する、そして国会で承認する手続きをとるといいます。もともと私たちが、この前の選挙、さらにその前の選挙で政権に過半数を与えたことが、集団的自衛権が閣議決定され、法律となるという危機として迫っているのではないかと思います。
そして、いったん集団的自衛権なるものが現実に行使されるならば、日本人がアメリカ軍にくっついて、アジアで、あるいは別の場所で戦争をする、人を殺す、殺されることもある。そうなっても、政治家があるいは安倍首相が反省し、あるいはまちがっていたといって取り消すようなことは起らないと思う。かえって、政治家や安倍首相は集団的自衛権を行使しようとして国際的に働いて殺されたと言うと思います。集団的自衛権はこの国から動かせないものとなってしまう。そしてそれは安倍さんが忌まわしいものという戦後レジームが最後になることと私は考えます。
ところが10年前、加藤周一さんは、非常に大きい根本的危機が訪れようとしていることを彼の確実な世界観で見抜いていました。そして加藤さんは自分の文学の仕事をやめられたのです。夫人の矢島翠さんは「加藤の最晩年には大きな事件が次々に起り、むしろ実践活動に比重が移るようになりました。それはとても大きな変化でした。加藤がよくこれだけ動くようになったものだと横で感じておりました」と語っています。私も驚きを感じました。そして何度か加藤さんと九条の会でお会いするうちに、いま加藤さんは九条の会の仕事にすべてをかけておられると感じました。その加藤さんは九条の会が発足して4年後に去っていかれました。
自分は文学よりほかのことをしなくてはいけないと感じるようになりました。
加藤さんの言葉を引用します。「憲法を改正するのは戦争のためで、いきなり戦争をできるように、この国をするためです。…戦争の準備をすれば戦争になる確率が大きい。もし平和を望むならば戦争を準備せよではない、平和を準備したほうがいい。戦争を準備しないほうがいい」。「私たちの経験する歴史は、小さな偶然や、あるいは小さな、小さければ小さいほど自由な、決断の積み重ねであるほかはないのです。個人にとっては、個別の場合に応じる個別の自由を平和に向けて凝視するか、戦争に向けて凝視するかの問題になるでしょう。戦後60年、日本国の平和に向けた選択に憲法9条は大きく貢献してきました。今日そういう選択の自由を可能にした9条を改めて戦争への道を開けば、いずれ戦争か平和かの選択の自由そのものが失われるでしょう。平和な日本は、戦争か平和かを選ぶことができます。戦争をする日本では、戦争か平和かを選ぶことができません。九条の会は選択可能性の選択をよびかけているのです」。
07年11月の九条の会全国交流集会での加藤さんのあいさつです。「第一は、おそらく長丁場であるということを意識して運動をやるということ。今年だけ運動が活発なのでは駄目で、長く活発にやる。拡大した組織は、ゆっくり大きくなる。劇的に大きくならないけれど、ゆっくり確実に大きくなるのだということをはっきり意識しなくてはならない。これは大きな仕事だと思います。しかし、意識的にそういう方向に動くべきではないかと、私は思います」。「あまり抽象的なことばかりではなくて、すべての問題を日常性に結びつけなければいけないということですね。憲法を改正しよう、改憲をしようという勢力の政治的方角は、福祉の縮小であり、対外的な戦争の容認です。彼らはそういう方角に目標を切り替えようとしていると思います。我々は日常生活であらゆる手段をとって、それに対して反対する。教育について、年金について、何についても反対すべき政策が非常に多いけれど、それらは相互に関連しています。その相互に関連したもの全体に反対することが大切で、つまるところそれこそが憲法を守るだけでなく積極的に生かしてゆくことではないでしょうか」。これは今、集団的自衛権の問題があり、アジアの危機が大きくなっているときに発せられた言葉ではないのです。加藤さんが亡くなられる一年前の言葉です。そしてどうするか。加藤さんは言います。「これから先、大変だと思います。でもどうか皆さん、一緒にできるだけのことをしましょう。一緒にできることはかぎりなく沢山あるのです」。
そのように沢山のことは私にはできないかもしれません。しかし一つやりたい、それは今日、皆さんにお話することでした。
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【九条噺】
内閣官房のホームページに、集団的自衛権行使容認の閣議決定に関係し、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備についての一問一答」がある▼その問いのひとつに「自衛隊員が、海外で人を殺し、殺されることになるのではないか?」がある。その答えは「自衛隊員の任務は、これまでと同様、我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるというときに我が国と国民を守ることです」とある▼どうしてこれが「一答」と言えるのか。全く答えていない。「海外で人を殺し、殺されることになるのでは」と問うているのだから、まずYESかNOかを明確にしなければならない。答えはYESに決まっているが、まともにNOと言えないものだから、YESかNOかを一切言わず、よくわからない言葉ではぐらかしている。我が国の存立を守るため自衛隊員が海外で血を流すことになるということを、どうして率直に答えないのか。これを「子どもだまし」と世間では言うが、これでは子どもだって見破るだろう▼安倍首相はひとりよがりとはぐらかしがひどい。この「一問一答」は政権がやろうとすることをまともに説明せず、言葉の意味を歪曲して、屁理屈をこねて物事をごまかすという安倍首相の常套手段で出来上がっている。安倍首相らのこんなごまかしで若者が海外で殺し、殺されてはたまったものではない。(南)
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第3回「ランチタイムデモ」実施
8月6日、「憲法9条を守る和歌山弁護士の会」主催の第3回「憲法の破壊を許さないランチTIMEデモ」が行われ、厳しい炎天下110余名が参加しました。和歌山市役所から公園前交差点を経て京橋プロムナードまで、参加者は手作りのマイ・プラカードや横断幕を掲げて、「集団的自衛権の行使は許さない」とアピールを行いました。次回は9月9日の予定です。
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