表現の自由の研究者として知られ、憲法9条についても積極的に発言してきた、東京大学名誉教授の奥平康弘さんが、今月26日、東京都内の自宅で亡くなりました。85歳でした。>
奥平さんは、昭和4年、北海道函館市に生まれ、東京大学卒業後、東京大学や国際基督教大学の教授を長く務め、この間、表現の自由などについて研究してきました。また、憲法9条についても積極的に発言し、平成16年には、ノーベル賞作家の大江健三郎さんらと共に憲法9条を守ろうと呼びかけ、「九条の会」を発足させました。>
去年7月、政府が閣議決定した、集団的自衛権の行使容認に反対する立場から、「九条の会」のメンバーや、ほかの憲法学者らと共に、集会や記者会見などの場で発言を繰り返してきました。
奥平さんは、亡くなる前日にも、都内の集会に参加していたということですが、今月26日未明、急性心筋梗塞のため、都内の自宅で亡くなったということです。
「表現の自由の第一人者だった」
奥平康弘さんが亡くなったことについて、「表現の自由」を研究してきた一橋大学の堀部政男名誉教授は、「奥平さんは、表現の自由の研究において学界で指導的な役割を果たし、第一人者だった。表現の自由を守ることの意義を日本に広く紹介した功績は大きく、亡くなられたことは学界にとっても大きな損失だ。戦前生まれの憲法学者の多くがそうであったように、平和への思いが強く、憲法9条を守る立場で実践的な活動にも取り組んできた」と話しています。
「最後まで命ふりしぼり活動」
奥平さんが呼びかけ人の一人を務めていた「九条の会」の事務局長で、東京大学大学院教授の小森陽一さんは、「呼びかけ人の中で唯一の憲法学者として大きな役割を果たしてきたので大変残念だ。亡くなる前の日の集会にも参加していて、最後まで命をふりしぼり活動に当たっていた。憲法9条を守る立場から、つい最近も、『ことしが正念場だ』と言っていた」と話しています。
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「九条噺」
『季論21』という雑誌をご存知だろうか。哲学者の鯵坂真さんや教育学者の堀尾輝久さん、政治学者の渡辺治さんなど、そうそうたるメンバーが編集委員に名を連ねているが、あまりメジャーではないと思う。その最新号に浅井基文さんの「民意の底流」という論文が載っている。昨年暮れの総選挙結果の分析だが、ハッとする文に出会った▼「憲法改正は96条に従いさえすればできるのは間違いだ。現在の憲法はポツダム宣言を受諾し、その諸条項を誠実に履行するという国際約束の具体化の産物である。ポツダム宣言に違反する内容の憲法改正を行うことは連合国の了解なしにはできない」というのだ▼あまりにも有名なポツダム宣言。が、じっくり読んだことがないのに気づき、六法全書を取り出してみた。軍国主義勢力の除去、領土の局限、軍隊の解散、戦争犯罪人の処罰、民主主義傾向の強化、平和産業の維持、民主的・平和的な政府が樹立されたら占領軍は撤退する等、13項目からなる短い宣言だ。再び浅井論文。「日本の出発点は今日なおポツダム宣言・体制にあり、いわゆるサンフランシスコ体制にあるのではない」ということだ▼今年は戦後70年。「戦後レジーム」からの脱却を掲げる安部政権、「戦争する国」への逆戻りを許さないとする多くの国民の声。ポツダム宣言を受諾し、平和国家への歩みを世界に約束した70年前を、そしてその中心に9条があり続けたことを、今一度かみしめたい。(真)
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集団的自衛権行使容認に反対するアピールパレード
和歌山弁護士会が参加を要請
2月16日に和歌山弁護士会主催の「集団的自衛権行使容認に反対するアピールパレードが行われます。従来は「ランチタイム・デモ」として「憲法9条を守る和歌山弁護士の会」が主催していたものを、史上初めて和歌山弁護士会の主催で行われるものです。集団的自衛権行使容認に反対する方なら誰でも参加できます。
主催:和歌山弁護士会
2月16日(月)
12時00分 和歌山市役所前集合
12時10分 和歌山弁護士会長挨拶
12時20分 和歌山市役所前出発→公園前交差点→京橋プロムナード(終点)
12時40分 京橋プロムナードにて解散
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首相、国民投票は来夏の参院選後に
2月5日の朝日新聞は、「安倍首相は、憲法改正の国会発議とその賛否を問う国民投票の時期について、来年夏の参院選後が『常識だろう』との認識を示し、与野党の調整を進めるよう指示した」「首相が国民投票の実施時期に具体的に言及したのは初めて。自民党は衆参憲法審査会や政党間協議を通じて参院選までに改正テーマを絞り込み、憲法改正を最大の争点の一つとして掲げる見通しだ。早ければ16年末~17年前半にも国民投票が実施される可能性がある」と報じています。
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想定される「安全保障関連法案」とその問題点 ①
安倍政権は昨年7月1日の「集団的自衛権行使容認」の閣議決定を踏まえた「安全保障関連法案」を今通常国会に提出しようとしています。想定される「安全保障関連法案」の内容とその問題点について、「戦争をさせない1000人委員会」のHPに掲載されている飯島滋明・名古屋学院大学准教授の論考を要約して3回に分けてご紹介します。今回は1回目。
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1.7月1日の閣議決定、ガイドライン改定と「集団的自衛権」
7月1日の「閣議決定」では「憲法上許容される…『武力行使』は、国際法上は、集団的自衛権が根拠となる場合がある」ので、「実際に自衛隊が活動を実施することができるようにするためには、根拠となる国内法が必要となる」とされている。さらに改定予定の「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)に関わる14年10月の中間報告では「指針の見直しは…アジア太平洋を越えた地域の利益になる」「日米同盟のグローバルな性質」などとされている。
では、どのような法律が制定、改正、廃止される可能性があるのか。基本的な方向は、「地理的・時間的・空間的制約なしのアメリカとの軍事的一体化」「海外での戦争」「集団的自衛権行使」に必要な法律が整備され、その目的の歯止め、足かせとなる法規定は改正、廃止されることが想定される。
2.目的規定の改正
自衛隊法では「自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接及び間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる目的」とされ、防衛省設置法では、防衛省の設置は「我が国の平和と安全を守り、国の独立を保つことを目的」とされているが、「我が国の平和と安全」だけではなく、「地理的・時間的・空間的制約なしのアメリカとの軍事的一体化」「海外での戦争」という要求を満たす文言に改正され、さらに、「宇宙及びサイバー空間における協力」を含む規定に改正されることも想定され、防衛省・自衛隊は、海外で戦争するための組織という性格も有することになる。
3.アメリカのための国家総動員体制、武器使用へ
安倍政権は「集団的自衛権の行使が必要となる事態を『存立事態』とし、武力攻撃事態法や自衛隊法を改正する案を軸に検討する」という。武力攻撃事態法や自衛隊法、国民保護法などは、日本への「武力攻撃事態」の際、自衛隊に「防衛出動」が命じられ、自衛隊が武力を行使する可能性がある。「武力攻撃事態等」への対処の際には自治体、病院、NHKや報道機関、電気、ガス、輸送、通信などの「指定公共機関」そして国民が国に協力することが求められる。
「武力攻撃事態等への対処においては、日米安保条約に基づいてアメリカ合衆国と緊密に協力しつつ、国際連合をはじめとする国際社会の理解及び協調的行動が得られるようにしなければならない」と、武力攻撃事態等の際にはアメリカへの協力も求められている。
これらの有事法制の「武力攻撃事態等」が「存立事態」と改正されることで、日本が攻撃されてもいない「存立事態」の際にも自衛隊が武力行使を行い、自治体や指定公共機関、国民がアメリカの戦争に法的に協力させられ、国民の憲法上の権利・自由が制限され、「国家総動員体制」が構築される可能性がある。
93~94年の朝鮮半島核危機の際、アメリカは北朝鮮への武力攻撃を準備し、日本に空港、港湾施設、医療機関の使用、掃海艇の派遣、臨検などの協力を求めた。ところが日本には「有事法制」などの米軍支援体制が整っていなかったため、日本はアメリカの要求に応えることが出来ず、北朝鮮への攻撃をアメリカが断念する一因となった。その後、アメリカは日本に戦争支援のための有事法制の整備を求めてきた。小泉首相は03年に「武力攻撃事態法」などの「有事3法」、04年には「国民保護法」「特定公共施設利用法」「外国軍用品等海上輸送規制法」などの「有事7法」を成立させた。「安全保障関連法案」により、日本への武力攻撃事態等だけではなく、日本が攻撃されてもいない「存立事態」の際にもアメリカの戦争に全面的に協力させられる体制が作り上げられる可能性がある。
アメリカとの関係でその他の改正も想定される。自衛隊法の「弾道ミサイル等に対する破壊措置」の規定も、我が国だけではなく、アメリカに飛来する弾道ミサイルに対しても破壊措置を命じることができるような改正がなされる可能性がある。
さらに、自衛隊の武器などを守るための武器の使用に関する自衛隊法95条の規定は改正され、自衛隊にアメリカ軍の武器なども守る任務が付与されるだろう。(つづく)
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