「九条の会・わかやま」 274号を発行(2015年06月13日付)

 274号が13日付で発行されました。1面は、「九条の会・わかやま」連続講座「戦争をしない国をいつまでも」、世界遺産も9条も戦争のない世界を希求している(江川治邦さん)、自衛隊に出来ないことがほとんどなくなる戦争立法(金原徹雄さん)、九条噺、今 私たちは歴史的な時点に立っている(小森陽一氏 ②)  です。

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「九条の会・わかやま」連続講座
戦争をしない国をいつまでも


 5月31日、「九条の会・わかやま」は「連続講座『戦争しない国をいつまでも』」第1回を開催しました。当会呼びかけ人・江川治邦さん(元和歌山ユネスコ協会事務局長)が「ユネスコ世界遺産と憲法九条-その通底するもの」、金原徹雄さん(憲法9条を守る和歌山弁護士の会会員)が「どこをどう変える安全保障関連法案~その問題点は何か~」と題して講演をされました。その要旨をご紹介します。

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世界遺産も9条も戦争のない世界を希求している
江川治邦さん

 世界遺産は民族のアイデンティティーを代表するもの、世界から見たら顕著なものが1つの側面。もう1つは人類共有の財産、普遍性、この2つを兼ね備えていることが世界遺産の条件だ。
 ユネスコは世界遺産に選ばれたものは異文化間対話を進めてほしい、国際理解を進めてほしいという。人類共有の遺産だから国際協力で保護してほしい、保護の過程で平和共存につなぐことを認識してほしいと考えている。
 改憲派は日本国憲法9条を変えるために、その前段階として環境権を憲法に入れようと言っている。しかし、戦争こそ命を奪い、文化財を破壊する。最大の環境破壊は戦争だ。ユネスコはそういうことをしてはいけないということを世界遺産で教えようとしている。
 文化財の国際保護で相互理解をしていくことが何故必要なのか、ひとつは正しい歴史認識をすること、民族を越えた連帯性、美意識の共有、これらは人類共有の遺産として守っていかねばならない。そのためには戦争はしてはいけない。そういうことで平和の文化を創造していく、異文化間に通底する世界観を育成していくことを世界遺産はねらっている。
 憲法9条の顕著性は戦争をしないことに収斂される。我々から見れば当り前だが、世界の国々の憲法からすれば非常に顕著な存在だ。普遍性は、日本国憲法は人類普遍の国際平和を希求していることだ。日本国憲法9条は世界文化遺産、世界記録遺産、ノーベル平和賞に値する価値を持っている。
 どこでユネスコと通底しているのか。ユネスコ世界遺産は平和を希求し、不戦による平和構築をめざしているが、憲法9条も戦争を放棄し、諸国民の公正と信義に信頼して平和を構築したいとしている。諸国家ではなく諸国民とする日本国憲法だが、国境を意識しない、国境を越えたところにある人々と連帯して世界平和を構築していきたいということと、ユネスコの心の中に平和の絆を設けていってもらいたいということが通じていると思う。
 ともに戦争のない世界平和を希求するということだから、我々は強い日本を目指すのではなく、世界の人々と分かち合う日本でなければならない。そういうことが日本の国家の品格を保つことになる。

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自衛隊に出来ないことがほとんどなくなる戦争立法
金原徹雄さん

 戦争法案は分かり難い。理解できなくて当然だ。何故かというと、今回の法案は新しいものが1つ、残りは「平和安全法制整備法」という1本の法案にいろんな法案の改正点を羅列している。
 「存立危機事態」は7月1日の閣議決定の要件を「武力攻撃事態法」の中に放り込む「存立危機事態」と認定すると、自衛隊に防衛出動命令が出せるようになる。その根拠を定めたものだ。それを日本が攻撃を受けていないのに、何でもありの防衛出動命令を出せるようした。集団的自衛権が行使できないという理屈に真っ向から挑戦する規定だ。
 「周辺事態法は」97年のガイドラインを実行に移すために出来た法律だ。周辺とは我が国周辺の地域だ。朝鮮半島有事の場合に日本は米軍にどのような協力が出来るのかを決めている。この日本周辺を取り払い、第三国の領域内でもその国の同意があれば出来、「重要影響事態法」に名を変える。世界中、米軍のいるところどこでも、しかも、米軍だけでなく他国の軍隊も支援する。さらに、後方支援が出来るところは非戦闘地域の縛りを外し、現に戦闘が行われている現場でなければ支援が出来る。捜索・救助活動は戦闘地域でも出来るとしている。
 今の法律は出来ることの中に、弾薬の提供は含まれないとなっているが、提供出来るようにする。「重要影響事態」とは「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至る恐れのある事態等、我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」となっているが、意味があるのは「我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」で、その判断は時の政府がする。後方支援活動は兵站活動で武力行使だから、この活動を自衛隊の任務として認めること自体が憲法違反だ。
 アフガニスタンやイラクの戦争はアメリカの都合で戦争をしたのであって、日本の都合で始まったものではない。そうすると如何に「重要影響事態法」を全世界に展開できることにしても、日本の安全に関係がないというスキマができる。そのスキマをなくして支援をするためには「国際平和支援法」が必要となる。やることは後方支援活動とほとんど同じだ。国連決議が必要と一応は言っているが、国連加盟国に取り組みを求める決議でもよいと、ゆるやかなものになっている。問題なのは、従来の活動に加えて安全確保活動、駆け付け警護などが追加され、武器使用では任務遂行の武器使用を認めている。国連が統括する訳ではない、当該地域の国の要請での参加も追加している。これでは「重要影響事態法」とどこが違うのかが不明だ。
 武力攻撃に至らない事態への対処では国会の事前・事後の承認は必要なく政府の判断だけ、或いは現場の判断だけでできる。
 「切れ目なく」とはあらゆる事態に対応し、世界中どこへでも行けるということだ。この法案が通れば、自衛隊がアメリカ軍と一緒になって、先制攻撃をするのは無理だけれど、アメリカ軍が先に交戦しておれば政府の判断で出動が出来る。この法制ができると自衛隊ができないことはほとんどなくなる。
 今の状況は日本の若者がアメリカの尖兵となり命を落とすことを食い止めてきた憲法9条を無視し、世界中どこへでもアメリカ軍の言うところへ自衛隊を派遣する法制だ。これを阻止しなくてどうするのか。そのために世論をどのように喚起するか必死に考えよう。

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【第2回】 7月19日(日)
【第3回】 9月12日(土)
  いずれも、午後2時から 和歌山県JAビルで

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【九条噺】

 「痛快」というか「溜飲が下がる」というか、「事件」が起った。6月4日の衆議院憲法審査会に招かれた参考人の憲法学者、自民・公明・次世代の3党推薦の早稲田大学教授・長谷部恭男氏、民主党推薦の慶応義塾大学名誉教授・小林節氏、維新の党推薦の早稲田大学教授・笹田栄司氏の3人全員が、「安全保障関連法案は憲法9条違反」と明言したという。自民・公明・次世代推薦の長谷部氏までもが「憲法9条違反」と明確に述べた。政府・与党は法案への国民の理解がなかなか深まらないことに焦りを強めていただけに、ショックは大きいと報じられている▼長谷部氏は特定秘密保護法の積極的な推進論者であった。衆議院の特別委員会で自民党推薦の参考人として特定秘密保護法に賛成の意見を述べていた。自民党は「安全パイ」と思って推薦したのだろう。その長谷部氏までもが「憲法9条違反」と述べ、自民党内には「重要影響事態どころか、存立危機事態だ」との声も出ているという▼小林節氏は改憲論を唱える憲法学者だが、安倍政権の解釈改憲路線に対する批判は鋭い。笹田栄司氏は維新の党の推薦であり、どんな見解を述べるのかよく分からない中で「憲法9条違反」との意見だ▼審査会では公明党の北側一雄副代表が「違憲」批判に反論したが、長谷部氏は「『他衛』まで憲法が認めているという議論を支えるのは難しい」と明言したという。拍手喝采するとともに戦争法案を廃案に追い込む決意を新たにしたい。(南)

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今、私たちは歴史的な時点に立っている

 5月23日、「5月の風に… 県民のつどい」が開催され、小森陽一氏(「九条の会」事務局長)が、「草の根運動で九条の無効化阻止するとき」と題して講演されました。要旨を4回(予定)に分けてご紹介します。今回は2回目。

小森陽一氏 ②

 「どこでも」が最大の狙いだ。「周辺」を取ってしまうから「周辺事態法」の改悪ということになる。騙し言葉に「重要影響事態」を使う。中身は「わが国の平和および安全に重要な影響を与える事態で米軍等を後方支援することにより、日米安保条約の効果的な運用に寄与することを中核とする外国との連携を強化し、わが国の平和および安全の確保に資する」だ。「影響」であり、実際に武力攻撃がある訳でなく、政府が勝手に影響があると判断すれば「重要影響事態」になる。米軍以外の外国軍隊をも支援する戦争支援だ。今まで自衛隊は「非戦闘地域」にしか行けなかった。これをなくし、自衛隊を世界のどこにでも、しかも「非戦闘地域」ではない様々な戦闘状態の後方支援に出すというのが「重要影響事態法」だ。
 「あらゆる軍事行動」に米軍とともに参加する。米軍の軍事行動を世界中で支援するために必要なのが、集団的自衛権の行使を容認することだ。従来は「わが国に対する武力攻撃が行われた場合」となっていたものを、「わが国と密接な関係にある他国に対する攻撃が行われた場合でも」と、昨年7月1日の閣議決定の文言がそっくり入れられているのが「事態対処法」だ。これは「武力攻撃事態等対処法」の改定で、03年の小泉政権の時に日本を戦争する国にする全体的な戦争法体制を国会で議論していたが、その有事法制の中心の法律だ。それまでになかった日本国全体が戦争体制に入った時に国民や地方自治体をはじめとするそれぞれが協力させられることを決めた戦争法体制が「武力攻撃事態等対処法」を中心とする有事法制だ。
 「武力攻撃事態等対処法」の中に何が取り入れられたか。03年のアメリカ、イギリスによるイラク空爆には、国連憲章ではやってはいけない先制攻撃を可能にする理屈が入っていた。イラクには大陸間弾道弾はないので、イラクのミサイルはアメリカには到達しないが、イギリスには到達するので、「イラクが保有する大量破壊兵器によってイギリスが武力攻撃されることが予測される事態を、武力攻撃が行われたのと同じだと見なして、アメリカとイギリスが結んでいる二国間軍事同盟に基づく集団的自衛権を先制的に行使する」と、これが理屈だ。嘘をついて国連憲章違反の「先制攻撃」つまり「侵略戦争」をした。小泉首相はそのような口実でアメリカとイギリスがイラクに国連憲章違反の先制攻撃をかけている時に、その理由になった「武力攻撃が予測される事態でも」という文言を入れたのが「武力攻撃事態等対処法」だ。「武力攻撃が実際に行われた場合」「武力攻撃が行われる直前の緊迫した事態」「武力攻撃が予測される事態」の3段階が入っている。こんな危険な文言を入れたのに、あの小泉政権下でも集団的自衛権行使は憲法違反だという立場だったから、この「武力攻撃事態等対処法」を中心とする有事法制は一度も使われていない。そこに安倍政権は昨年7月1日の閣議決定の項目をそのまま入れた。「わが国と密接な関係にある他国に武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求権が根底から覆される明白な危険がある事態」、これが閣議決定の文言で、これを「存立危機事態」と位置づけ、首相は自衛隊に防衛出動を命ずることができる。武力行使によって排除可能な対象を「存立危機武力攻撃」と定義する。これが集団的自衛権行使容認を入れたあらゆる軍事行動に出て行ける法体制だ。まさに「武力攻撃事態等対処法」を中心とする有事法制全体をこれで機能させることが出来るということだ。集団的自衛権行使は出来ないと言ってきたから使えなかった戦争法制をいつでも使える態勢にすることに本質がある。(つづく)

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(2015年06月03日入力)
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