哲学者で評論家の鶴見俊輔さんは、大衆文化に至るまで膨大な知識に裏付けられた思想だけでなく、身をもって平和を追い求めた運動家でもあった。巨人の死去を知人らが悼んだ。
「広く深く、アメリカ文化に通じた人だった。集会の立ち話で、愉快に教えられた。『民主主義者』そのもの」。作家、大江健三郎さんはしのんだ。鶴見さんは護憲を掲げ、04年に結成された市民団体「九条の会」で、大江さんや故・小田実さん、井上ひさしさんらと共に呼びかけ人となった。
同会の事務局長を務める東京大学の小森陽一教授(日本文学)によると今年1月、呼びかけ人の一人で東京大名誉教授の奥平康弘さんが亡くなったときも、病床からでも運動に参加しようとする代筆のメッセージが寄せられるなど、最後まで会を気に掛け、財務面でも支え続けていたという。
1970年代まで大衆文学などアカデミズムの研究対象とならなかった分野に積極的にかかわった鶴見さんについて小森さんは「日本の社会と文化現象とをつなぎ、人間全体を研究する姿勢で人文科学を発展させた」と振り返りつつ、「戦争体験を思想化し、反戦平和を求めて生き抜かれた。大きな存在を失ったが、遺志を受け継いでいきたい」と誓った。
市民運動のリーダーとして、晩年まで民主主義の力を信じていた。07年、憲法改正を掲げ参院選で大敗した安倍晋三首相について、毎日新聞の取材に、「楽観はできないけれど、大衆の中に動きがあるかもしれないね。もう少し見てみたい」と語り、「民主主義は完全に成立することはない。追い込まれて盛り返す。そのパワーが重要なんだ」と話していた。知的なユーモアも豊かだった。08年に「鶴見俊輔書評集成 全3巻」で毎日書評賞を受賞した際は、つえをつきながら登壇し「(米国留学したために)いまだに日本語はうまくない」「知識人とは異なる『悪い本』を読み続けて80年。一本貫いてきたものがある」と語って会場を沸かせた。また同年、京都市内であった講演会では「自分の葬式を『ご近所葬』にしたい。無信仰者として死にたい」などと話していた。
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【九条噺】
読売、日経、産経、NHKなどは、「戦争法案」は「今国会での成立が確実となった」などと報じているが、果たしてそうか。「天声人語」が黒澤いつきさん(「明日の自由を守る若手弁護士の会」)の『安保関連法案 まだまだ阻止できます☆』が大きな反響を呼んでいることを伝えている▼それによれば、法案成立を阻止できるチャンスは、まだまだ残されているという。法案成立の道のりは2つあり、1つは、同一の会期内に衆議院と参議院の両方を過半数の賛成で通過する道のり。もう1つは、参議院が衆議院から法律案を受け取り60日以内に議決しないときに、衆議院の3分の2以上の賛成で再議決する道のりだ。だから、衆議院本会議で強行採決されても、参議院で可決されなければ法案は成立しない。参議院で可決しないまま60日経ったとしても、衆議院で再議決しない限り成立はありえない▼また、衆議院で可決して、参議院に送られたものの会期末となり「継続審議」になった場合、次の国会では、参議院は審議の続きから始まるが、衆議院はもう一度最初から審議のやり直しになる。この場合には、臨時国会で行われた衆院の強行採決は意味がなくなるという▼法案の内容がもっと国民に広く知られ、反対されると、ますます支持率は下がり、可決は難しくなる。対抗手段は、とにかく「戦争法案」の問題点を広く知らせ、国民の反対の意思をあらゆる方法で広げることだ。これからだ。諦める必要はまったくない。(南)
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自由と平和のための京大有志の会の声明書
戦争法案の採決が衆院特別委員会で強行された15日の前夜、京都大学吉田キャンパスの教室で声明書が読み上げられました。インターネットなどを通じ賛同が広がっています。全文をご紹介します。
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戦争は、防衛を名目に始まる。
戦争は、兵器産業に富をもたらす。
戦争は、すぐに制御が効かなくなる。
戦争は、始めるよりも終えるほうが難しい。
戦争は、兵士だけでなく、老人や子どもにも災いをもたらす。
戦争は、人々の四肢だけでなく、心の中にも深い傷を負わせる。
精神は、操作の対象物ではない。
生命は、誰かの持ち駒ではない。
海は、基地に押しつぶされてはならない。
空は、戦闘機の爆音に消されてはならない。
血を流すことを貢献と考える普通の国よりは、
知を生み出すことを誇る特殊な国に生きたい。
学問は、戦争の武器ではない。
学問は、商売の道具ではない。
学問は、権力の下僕ではない。
生きる場所と考える自由を守り、創るために、
私たちはまず、思い上がった権力にくさびを打ちこまなくてはならない。
自由と平和のための京大有志の会
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