「九条の会・わかやま」 286号を発行(2015年12月6日付)

 286号が6日付で発行されました。1面は、「一体化論」の見直しで歯止めがなくなる(高作正博さん②)、第11回好きなんよ9条まつり 開催 「九条を守ろう」那賀郡の会、九条噺、2面は、障害者・患者九条の会 秋の学習会を開催   です。

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「一体化論」の見直しで歯止めがなくなる

 11月3日に「守ろう9条 紀の川 市民の会」が「第12回憲法フェスタ」を開催し、関西大学教授(憲法学)・高作正博(たかさく・まさひろ)さんが「『戦争法制』で日本はどんな国になるのか~私たちはどう対抗するべきか~」と題して講演をされました。その要旨を4回(予定)に分けてご紹介します。今回は2回目。

高作正博さん ②



 安保法制の問題の出発点は憲法9条の「戦争の放棄」と「武力の威嚇と武力の行使の放棄」だ。戦争は国際法で認められておらず、正面から戦争を肯定する議論はない。だから「武力の行使」に該当すると憲法違反になる。自衛隊を海外に派遣すると内容次第では「武力の行使」に該当する可能性がある。従来はそうならない仕組みを法律で作ってきた。それが今回大きく変えられてしまった。従来、個別的自衛権は「武力の行使」に該当しても例外的に認められるとしてきた。この政府見解を変更して集団的自衛権まで容認してしまったのが2つ目の問題点だ。武力の行使にならないようにするための理屈が大きく変えられたという問題と、武力の行使に該当するが合憲となる場合を拡張したという問題の2つがある。
 1つ目の問題だが、従来の政府見解には2つの重要な考え方がある。「一体化論」と「武力の行使と武器の使用の区別」だ。「一体化論」とは、わが国に対する武力攻撃がない状況で自らは直接武力行使をしていない場合でも、他国が行っている武力行使への関与の密接性などから日本も武力行使をしたと評価を受ける場合は憲法違反になるという考え方だ。例えば、武器や燃料、弾薬を運ぶと自衛隊と他国軍とは一体化とみなされる可能性があり、戦闘していなくても憲法違反とする見解だ。一体化したかの判断基準が重要で、自衛隊はどこまで行けるのかと、自衛隊は何をするのかの2つで一体化したかを考えようというのが従来の政府見解だった。周辺事態法には前線と後方があり、前線に行けば他国軍と密な連絡が必要なので一体化だと考え、自衛隊はあくまで後方地域だけだという発想だ。イラク特措法では戦闘地域と非戦闘地域という区別が行われた。自衛隊は非戦闘地域までしか行けないと考えて、他国軍と一体化しないために地域的な限定を置いていた。というようにどこまで行けるかという議論が歯止めになっていた。これが大きく変えられた。もうひとつ、何をするかという問題でも、武器、弾薬の提供はしないというのが周辺事態法の内容だった。これも変えられてしまった。
 「武力の行使」と「武器の使用」を分けようというのが政府見解だ。自衛隊が海外で武器を使用しても武力行使ではないので憲法違反ではないというものだが、「武器の使用」と「武力の行使」はどこが違うのか。相手が国家か、国家に準ずる組織であることが必要で、自衛隊は国家としての組織的で計画的な戦闘行動をすると武力行使になるというのが従来の政府見解だ。海外に行けば相手が強盗団やテロ集団である可能性があるが、相手は国家ではないから武器を使っても、これは「武器の使用」で合憲だと言ってきた。次は「自己保存型」という考え方だ。PKOなどに出かけた時、自衛隊員が自分の身や自分の管理下に入った民間人を守るために武器を使うことを「自己保存型」と言い、これも憲法違反ではないと考えてきた。これは自然権的な正当防衛であり、組織的・計画的行動ではないので「武力の行使」には当らないとしてきた。次は「武器等防護」と呼ばれる海外に持って出た武器を守るために武器を使用することを認めている。これは受動的で限定的な必要最小限度で、武器を奪われると自衛隊員が危なくなるので「自己保存型」の延長で合憲だとしてきた。他方で「駆け付け警護」と「任務遂行型」の武器使用は組織的・計画的行動になる。「駆け付け警護」とは他国軍隊が襲われた時に自衛隊が駆け付けて防護することだ。「任務遂行型」とは、治安維持など特定の任務のために武器を使用することだ。これは相手が国家なら「武力の行使」になるので違憲として認めてこなかった。
 これらの大きな2つの考え方が今回の法律で変えられてしまった。「どこまで行くのか」は前線と後方、戦闘地域と非戦闘地域という区別を撤廃してしまった。自衛隊は「他国が現に戦闘行為を行っている現場」でなければ、つまり、今の瞬間に戦闘が行われていなければ行ってもいいとなった。従来、前線、戦闘地域と考えてきた地域にも自衛隊は行くことになり、そこで突然戦闘が始まったらどうするのかという問題になる。これは「一体化論」の大きな変質だ。戦闘が始まったら支援活動を休止・中断し、場合によっては撤退するとしているが、可能なのかという問題がある。次に「何が出来、何が出来ないのか」にも大きな変更がなされた。周辺事態法では歯止めがあり、「物品提供には武器(弾薬を含む)は含まない」としていたが、「(弾薬を含む)」が削除され、弾薬は提供するとなった。戦闘機は武器だがミサイルは消耗品だから提供できると法律上はなった。また、「物品・役務の提供には戦闘作戦行動に発進準備中の航空機への給油・整備を含まない」と重要な限定となっていたが、これを削除し出来るようになった。従来は典型的な一体化だと内閣法制局が止めてきたものだ。次に「武器使用権限の拡大」という問題だ。「武器等防護」では自衛隊の武器だけでなく、米軍やオーストラリア軍の武器も守ることになった。従来「駆け付け警護」と「任務遂行型」の武器使用はやらないとしてきたものを解禁した。PKOは主権国の了解を得て行くので、武器を使用しても相手は国家でないので「駆け付け警護」と「任務遂行型」の武器使用をしてもいいというのが政府の説明だ。突然戦闘になった時、相手が国家ではないとどのように判断するのか。中東などでは政府よりテロ集団の方が強いのではないかというぐらい混乱しており、誰が判断するのか、現場で判断できるのかという問題がある。このように「武器使用権限」が拡大されたということが大きな変更のもうひとつだ。
 「一体化論」の見直しにより歯止めがなくなった。従来は憲法違反としてきたことを解釈だけで変えてしまったことが問題点だ。前線や戦闘地域まで行けるようになったし、憲法違反だからやらないと言ってきたこともやれるようになった。大きな解釈改憲が指摘出来る。「武器使用権限」を拡大したので、「武力の行使」に該当する可能性が指摘される。武器使用を拡大するから危険性も考えなければならない。戦闘が始まると帰るというのは非現実的想定で、戦闘に巻き込まれて被害が拡大するのが現実的想定だ。最終的には現場にしわ寄せが行く。(つづく)

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「第11回好きなんよ9条まつり」開催
「九条を守ろう」那賀郡の会




 11月21日、桃山スポレクセンターで、「第11回好きなんよ9条まつり」を開催しました。当日は天気にも恵まれ、250名以上の参加者で成功することができました。「九条を守ろう」那賀郡の会の呼びかけ人・増田博さんが、「今年の9条まつりは、例年になく緊迫した中で迎えた。安倍首相の暴走で、戦争法が強行採決された。これからはアメリカの戦争に日本も参加していくと言っている。大変危険な方向に向かっている」と、怒りの挨拶を行いました。しかし、強行採決されても挫折感や敗北感どころか、廃止への運動が全国で始まっているのも確かだと発言がありました。平和のリレートークに出演された和歌山弁護士9条の会の戸村弁護士も、初めて運動をしたような若者や若いお母さん方も廃止までがんばろうと全国で運動が進んでいると報告され、これらの発言に参加者たちもこれからの運動に確信を持ってくれたと思います。まつりの舞台では、6つの団体に楽器の演奏や歌・ダンスなどを披露していただき、リレートークやクイズ・抽選会などで楽しむことができました。また、18の団体が模擬店やバザー、展示を出店して、まつりを盛り上げてくれました。おいしい食べ物にお腹も満腹になりました。カンパも例年になく多く集まりました。
 那賀郡の会では、昨年の6月から戦争法案反対のパネル行動を16回行ない、延べ300人以上が参加しました。一人一人の力は小さいけれど、みんなの力を結集し、廃止に向けて粘り強く運動を続けていくことが大事だと痛感しました。当面は、戦争法の廃止を求める2000万人署名の活動をすすめていかなければいけません。(事務局・部家司好さんより)

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【九条噺】

 「県文名作シネマシアター」を観に行く。平日の昼間とあって高齢者の姿が目立つ。「戦争と平和」、山本薩夫・亀井文夫監督、1947年制作▼戦死公報を受けた妻が、前線で精神的障害を受け帰還していた夫の親友と再婚。終戦になって、死んだはずの夫が帰還。再婚相手は度重なる空襲で病状が悪化していた。3人の目を通して社会や人間関係が描かれている▼胡弓と中国人女性の歌を背景に、中国人の男女の顔の大写し。荒野を、列をなして歩く人々(画像が不鮮明で兵士か中国の民衆なのか私には見分け難かった)が延々と続く。「もう避難生活をしたくない」と空襲の中、燃える家中に座り続ける老夫婦。英霊の妻の再婚は祝えないと言う町内会長。圧倒的な迫力で胸に染み入る▼昼食休憩になってロビーでおにぎりをほおばっていると、見知らぬ人から「よかったですね」と声をかけられる。「戦争は知らないけれど、映画のような話は近所にもあったと祖母から聞いた。…」と彼女は話し、「こんな映画を若い人に見てもらいたい。絶対見てもらいたい」と。すっかり彼女と意気投合▼帰宅し、パンフレットを読む。新憲法発布を記念し、憲法普及会が映画各社に提案した企画のうち「戦争放棄」の題材を東宝で制作とある。『キネマ旬報』で第2位ともある。戦後日本の出発を憲法に託した当時の社会や人々の心意気を感じるのは私だけではないだろう。(真)

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障害者・患者九条の会、秋の学習会を開催



 11月15日、和歌山ビッグ愛で、5団体共催の学習会を開催し、38名が参加しました。テーマは「障害者権利条約を生活に生かそう」です。障害者権利条約の批准に伴い、障害を理由とした不当な差別的取扱いを禁止し、合理的配慮の提供義務を定めた障害者差別解消法が16年4月から施行されます。障害の有無によって分け隔てられない共生社会を実現させるために、何が差別で合理的配慮とは何か、差別が起きた場合にどのように解決すべきか、等について学びあうことが今回の狙いです。「障害者権利条約を学ぼう ~障害者の実態から合理的配慮と差別禁止法を考えよう~」と題して和歌山大学准教授・金川めぐみさんの講演が行われました。権利条約の目的は障害者が他の人との平等性を持つこと。その達成の方策として合理的配慮という考え方が取り入れられ、対等に振舞うために障害のある方に個別的支援をきちんとしようというものです。何が差別であるかの共通の物差しを持つために作られたのが差別解消法です。建物にエレベーターがない(車椅子の人は使えない)、飲食店で盲導犬お断り(視覚障害者は入れない)等も差別に当たります。和歌山市でも差別禁止に関わる条例作りが必要、そして地域の変革が必要と締め括られました。
 「道は自らが切り開くもの」。障害当事者が積極的に社会に関わっていくことが大切と改めて感じた一日でした。(事務局・野尻誠さんより)

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(2015年12月6日入力)
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