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憲法9条を掲げた平和政策が最も現実的な選択肢
4月2日に「守ろう9条 紀の川 市民の会」が「第12回総会」を開催し、龍谷大学法科大学院教授(憲法学)・石埼学(いしざき・まなぶ)さんが、「戦争法は廃止、憲法9条が輝く日本を取り戻そう ~今、私たちにできること~」と題して講演をされました。その要旨を3回(予定)に分けてご紹介します。今回は1回目。
石埼学さん ①
本日は憲法9条と安保関連法と緊急事態条項を話そうと思う。今、何故憲法9条かだが、9条は憲法前文にある「平和のうちに生存する権利」と結び合わせて考えなければならない。単に軍備を放棄した、二度と戦争しないと誓ったことだけでなく、日本国憲法の平和主義の特徴は平和のうちに生存することを一人ひとりの権利だとはっきり書いているところにある。権利だから、良いか悪いかの判断ではない。それを侵害する国の政策は憲法違反になる。それを前提にして憲法9条で戦争を放棄し、そのために戦力の不保持を決めている。
安倍内閣はいろんな場面で日本国憲法が保障する権利を後退させる政策を行っているが、とりわけ昨年の安保関連法の制定前後からの違憲の性格は目に余り、日頃は社会的発言を余りしない憲法学者も声を上げ始めた。安保関連法は制定されたが、参院特別委員会の強行採決は明らかに無効だし、野党の53条に基づく要求を無視して臨時国会を開催しない。これは憲法もさることながら、議会の軽視ということで深刻な事態だ。さらに、露骨に憲法改正への意欲を示して、今に至っている。
憲法9条に関する憲法学の多数説は、第1項で放棄したのは侵略戦争だけだと解釈する。根拠は「国際紛争を解決する手段としては」とあり、これは国際法上、侵略戦争を意味してきた経緯がある。その上で、第2項では侵略戦争を二度としないために戦力を保持しないことにした。その放棄した戦力には自衛のための戦力も含まれると解釈する。政府見解の論理構造は多数説と非常に似ている。政府は、自衛隊は自衛のための戦力ではなく実力だと言う。自衛のための最小限度の実力だから戦力には該当しないという解釈を続けてきた。そこに今回集団的自衛権行使の解釈が加わるので、現行の自衛隊は憲法違反だと評価せざるを得ない。駐留米軍は、第2項の「保持しない」という文言の問題で、確かに日本がアメリカと条約を結び駐留している訳だが、日本が駐留米軍を保持していると言えるかが問題で、憲法には違反しないという説が多くある。駐留米軍は日本国憲法制定時には想定していなかったということだ。
ともあれ、今日の国際社会ではそもそも武力行使は原則的に禁止されている。国連憲章2条4項に武力行使の禁止原則がある。日本も加盟国だからこれを遵守しなければならない。だから侵略戦争は日本国憲法がなくても禁止されているということだ。国連憲章には「戦争」という言葉は使われておらず、「武力による威嚇または武力の行使」は禁止となっている。その例外として自衛権の行使が国連憲章で認められている。国連憲章は極めて例外的に武力行使が認められるケースを定めているだけであって、国際社会の基本原理は武力行使禁止原則だ。安保関連法の議論は、国際社会が武力行使禁止原則を前提にしていることを軽視している。
国際法上、自衛権を行使するには要件がある。それは武力攻撃が発生した場合で、安保理が必要な措置を取るまでの間のみで、取った措置は安保理に報告しなければならない。集団的自衛権行使は、武力行使の犠牲国によるその旨の宣言があり、犠牲国の要請が必要だ。これらの条件が整わない場合は、国際法上自衛権は行使できない。自衛権は極めて例外的に認められているということが分かる。自衛権を行使する場合、どこかの国から攻撃があったというだけでは足りない。武力攻撃があった場合に初めて行使できるので、例えば、目的不明のミサイルが日本の領海に飛んできた程度では国際法上の自衛権行使発動の要件を満たさない。武力攻撃は最も重大な形態の武力の行使とされるので、北朝鮮のミサイル問題を引き合いに出し、自衛権の行使が必要だとの主張は間違いだ。自衛権の行使は国際法上極めて抑制的、限定的に用いられている。ましてや、他国が日本に集団的自衛権行使を要請するというのは非常にハードルが高い。個別的にせよ集団的にせよ自衛権を発動するということはよほど深刻な事態だ。
第1次世界大戦以降、戦争は性質を全く変えた。それ以前は正規軍と正規軍が前線で衝突する戦争だったが、第1次世界大戦は全く様相を異にして総力戦になった。その国が持っている経済的・人的エネルギーを全て投入して戦争をしなければならなくなった。戦争に勝利するためには前線の正規軍を壊滅してもダメで、その後方にいる国民そのものを攻撃しなければならなくなった。国民の戦意を挫かなければならない。戦争に勝ち抜くために国民が総力を投じなければならないので、民間人も攻撃の対象にしなければならなくなった。さらに圧倒的な力の違いがある正規軍に抵抗する側は、戦闘員と非戦闘員の区別を消去しパルチザン戦に持ち込む。ベトナムもアフガニスタンもイラクもそうだ。アメリカは泥沼戦争になり、さらに今は自爆テロの時代になっている。どこから爆弾が飛んでくるか分からない中では、どんなに強い軍隊でも勝ち目のない戦いを延々と繰り返さなければならず、終りのない戦争になる。日本の南京大虐殺も正にこれだった。パルチザン戦で勝とうとすれば皆殺しにするしかない。国境を越えて行われる対テロ戦争は前線と後方の区別もないし、平時の生活が突如戦場化する。これを9・11以降目の当りにしている。テロ集団はひとつを壊滅させても次々と生まれ、ここに軍事力で介入しても果して国際平和が実現できるのかは極めて疑問だ。少なくとも現在の戦争の実相を念頭におけば、憲法9条の目指す方向を安全保障政策としても取っていくことが一番現実的な政策であろうと考えられる。アフガニスタンやイラクで自衛隊が米軍を支援したが、何もよくなっていない。テロや多国籍軍の空爆で犠牲者が増える一方だ。そういう後方支援が国際平和に寄与するのかどうかは、この10年ぐらいを見れば明らかだ。ますます憲法9条を正面に掲げて、平和政策をやっていくことが現実的な選択肢だ。(つづく)
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「くしもと9条の会」講演会&総会開催
「くしもと9条の会」は3月20日串本町文化センターで、元自衛官の泥憲和氏を講師に「戦争のつくり方平和の築き方」の記念講演・第2回総会を開催しました。
記念講演は、元自衛官ならではの話を聞くことができました。平和憲法をもつ日本が世界各地で大変信頼されて紛争のない社会づくりに役立っていることが事実を持って示されました。このようなことはもっとテレビや新聞などで国民に知らされるべきですが、今の政府はアメリカに追随して、それと反対のことに国民を誘導しているため、私たちが広めていくことが大切です。泥さんは多くの講演を経験されて話し方が大変うまく、参加した36名の聴衆は感動しました。
総会では、樫谷共同代表は2000万人署名活動による住民の一人ひとりと話し合うことの大切さを強調し、今年の夏の参議員選挙で野党統一候補をつくり当選をめざすためには、会員が働き手として活動することが重要だと訴えました。その後、事業報告・方針及び会計関係、役員などが提案通り承認されました。
閉会の挨拶では、末永共同代表が田辺の「9条ママnetキュッと」のような若いママ、パパの会を串本でもつくっていこうと呼びかけました。(「会」の上柳博さんより)
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【九条噺】
入学の季節。式まで桜はもつのだろうかと、毎年気をもむ。新しい門出に立つ子どもたちが自分らしく輝く生活が送れることを願わずにはいられない▼長期休業あけの子どもたちの中に、やせた子どもが目につき調べると、給食がない休業中は三食が充分確保できず、やせるのだという養護の先生の報告を読んで強い衝撃を受けたのは、いつの頃だったろうか。気がつけば、子どもの貧困が社会問題になっているという悲しい現実がある▼「子どもの貧困対策法」という法律があるらしい。「らしい」というのは、内容をよく知らないこともあるが、高い教育費、生活保護基準の切り下げや非正規労働者の増大などで国民全体の貧困化や格差の拡大を放置していて、「子どもの貧困」だけの対策はないだろうという思いがあるから。親がダブルワークやトリプルワークをしなければならない状況や落ち着いて勉強に取り組む住まいが確保できない状況で子どもの貧困が克服されるとは思えない▼「保育園に落ちたのは私」という国会前のスタンディングで注目を集めている保育所問題も、安定的な養育環境という点で子どもの貧困にとって大事なことだろう▼戦争法の廃止を求める若者たちの集会に「税金の使い方を変えろ」というのがあった。平和を切り口にして憲法の値打ちが国民の中に浸透しているのを感じる。(真)
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第22回「ランチタイムデモ」実施
「憲法9条を守る和歌山弁護士の会」は4月11日、第22回「憲法の破壊を許さないランチタイムデモ」を和歌山市で実施し、約100人が参加しました。参加者らは3月29日に施行された安保関連法(戦争法)の廃止を訴えて、「戦争する国絶対反対」「憲法壊す議員はいらない」「選挙に行こう」などとコールし、和歌山市役所から京橋プロムナードまで行進しました。
次回は5月11日(水)、次々回は6月13日(月)です。
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2000万人署名、みなべ町、日高町で目標突破
みなべ町では、「九条の会」など7団体で署名活動を展開していましたが、4月15日に、目標の2000筆を超え、2710筆に到達したと発表しました。また、日高町では、「日高町平和を願う9条の会」が4月18日に、目標の2000筆を超え、2158筆に到達したと発表しました。
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書籍紹介
『漫談で斬る! 自民党改憲案=これが彼らの本音だ』
全国に励ましの笑いを届けている笑工房代表の著者・小林康二さん。これまでの50回超を数える公演で完成させた「これがアベさんの本音だ」に、一層の磨きをかけて上梓。非常に分かりやすい解説で、自民党の憲法改正草案を、面白く、厳しく批判します。同時に、現日本国憲法に刻まれている、一人ひとりの人間を大切にする理念を浮き立たせました。
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発行所:㈱新日本出版社
著 者:小林康二
発行日:2016年4月20日(初版)
価 格:1200円+税
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