「九条の会・わかやま」 305号を発行(2016年09月01日付)

 305号が9月1日付で発行されました。1面は、憲法九条はアメリカの押しつけではない 押し付け否定の新史料発見、何でも「閣議決定」で進める安倍首相(半田 滋 氏 ③)、九条噺、2面は、終ったのなら また始めよう SEALDs解散メッセージ、書籍紹介 『あたらしい憲法草案のはなし』   です。

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[本文から]

憲法九条はアメリカの押しつけではない
押し付け否定の新史料発見




 日本国憲法の戦争の放棄をうたった九条は、幣原喜重郎首相が連合国軍総司令部(GHQ)側に提案したという学説を補強する新たな史料を堀尾輝久・東大名誉教授が見つけた。改憲勢力が主張する「現憲法は戦勝国の押しつけ」との根拠は弱まる。
 九条は、1946年1月24日に幣原首相とマッカーサーGHQ最高司令官が会談した結果生まれたとされるが、どちらが提案したかは両説がある。マッカーサーは米上院などで幣原首相の発案と証言しているが、「信用できない」とする識者もいる。
 堀尾氏は57年に岸内閣の下で議論が始まった憲法調査会の高柳賢三会長が、憲法の成立過程を調査するため58年に渡米し、マッカーサーと書簡を交わした事実に着目。高柳は「『九条は、幣原首相の先見の明と英知とステーツマンシップ(政治家の資質)を表徴する不朽の記念塔』といったマ元帥の言葉は正しい」と論文に書き残しており、幣原の発案と結論づけたとみられている。だが、書簡に具体的に何が書かれているかは知られていなかった。
 堀尾氏は国会図書館収蔵の憲法調査会関係資料を探索。今年1月に見つけた英文の書簡と調査会による和訳によると、高柳は58年12月10日付で、マッカーサーに宛てて「幣原首相は、新憲法起草の際に戦争と武力の保持を禁止する条文をいれるように提案しましたか。それとも貴下が憲法に入れるよう勧告されたのか」と手紙を送った。
 マッカーサーから15日付で返信があり、「戦争を禁止する条項を憲法に入れるようにという提案は、幣原首相が行ったのです」と明記。「提案に驚きましたが、わたくしも心から賛成であると言うと、首相は、明らかに安どの表情を示され、わたくしを感動させました」と結んでいる。(東京新聞8月12日付より)

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何でも「閣議決定」で進める安倍首相

 7月30日、「2016戦争展わかやま」の講演会が開催され、東京新聞論説委員・半田滋氏が「安保法制後の安全保障・自衛隊はどうなる」と題して講演されました。その要旨を4回(予定)に分けてご紹介しています。今回は3回目。

半田 滋 氏 ③



 自民党議員に自分の意思はなく、採決要員でしかない。採決以外は全て閣議決定で決めている。13年は国家安全保障戦略を作り、その中に「積極的平和主義」を入れた。「自衛隊を『積極的』に活用しよう」というのが国家安全保障戦略の根幹だ。閣議決定した「防衛計画の大綱」では離島防衛強化のために陸上自衛隊に海兵隊と同じような組織を作ることを決めた。水陸機能団という名で佐世保に3千人規模で配備されることになり、水陸両用車52両、オスプレイ17機を買うことを閣議決定した。閣議決定で国是の「武器輸出3原則」を「防衛装備移転3原則」に替え、武器輸出を解禁した。さらにODA大綱を変えて軍隊でも非軍事活動ならよいとした。一番大きな閣議決定は14年7月1日、憲法解釈を変えて日本の存立が脅かされる場合は集団的自衛権行使を認めた。武力行使と一体化するので認められないとしていた外国軍隊の後方支援も出来ると変えた。全部閣議決定だ。内閣法制局長官、NHK経営委員、JICA理事長、日銀総裁の「首の挿げ替え」人事も全て閣議決定で行った。閣議はわずか20人。満場一致原則があり、反対と言えば、その場で首を切られ、その人の代わりに安倍晋三と書けば満場一致となる。国会議員も採決要員だから、安倍首相の独裁政権が続いている。
 安倍首相は昨年4~5月アメリカで丁重にもてなされた。ひとつはTPP推進の意思を表明し米議会民主党が賛成する原動力になった。もうひとつは4月27日にガイドラインを変えた。従来は米軍が朝鮮半島など日本近辺で行う戦争を周辺事態と名づけ、憲法の枠内で米軍のお手伝いをするというものだったが、この周辺事態の概念を取り外し、世界中で自衛隊が米軍のお手伝いをし、その戦争が日本の存立に影響する場合は日本も武器を持って戦う集団的自衛権を行使、アメリカに自衛隊を差し出すという約束をした。TPPは農業や私たちの健康を差し出し、主要5品目はガタガタだ。そこまでしたから、丁重にもてなされたのは当り前だ。
 13年12月の安倍首相の靖国参拝をアメリカは失望したと言った。この意味は韓国との関係が悪くなり、日米韓で北朝鮮に対応しなければならないのに、どうするのかということだったが、安倍政権はそれに気付かず、アメリカは日本に懲罰を繰り返してきた。高知での日米共同防災訓練に沖縄のオスプレイなどが当日になって来なかった。群馬や新潟での日米共同演習にも来なかった。都内での在日米軍司令官の講演会も司令官が来なかった。これらが14年4月に集中した。これで安倍首相はアメリカには勝てないと思い、訪米につながったのだろう。
 安保法制ではどんな場面になれば集団的自衛権の行使は出来るのか。安倍首相は閣議決定時、日本人母子を乗せた米艦を自衛隊が護ることが出来ないという絵を示したが、米艦は日本人を乗せないのですぐやめた。ホルムズ海峡の機雷除去については、ホルムズ海峡を通らなくてもパイプラインで石油を積み出すことが出来る。日本のエネルギーに占める石油の比率は13.7%しかない。日本は今200日を超える石油を国内に備蓄している。だから、ホルムズ海峡が封鎖されても直ちに日本の存立危機事態にはならない。(つづく)

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【九条噺】

 ジャーナリスト・むのたけじ(武野武治)さんが101歳で亡くなった▼8月22日の天声人語は「終戦を迎えた日、自身の戦争責任をとりたいと朝日新聞社を退社した。反骨のジャーナリストと慕われたが、『反骨はジャーナリズムの基本性質だ』と後輩たちを戒めた。戦中の新聞社であからさまな検閲や弾圧など見なかった、危ういのは報道側の自主規制だと指摘した。『権力と問題を起こすまいと自分たちの原稿に自分たちで検閲を加える。検閲よりはるかに有害だった』。お前は萎縮していないかと筆者も胸に手を当てる」と書いている▼2011年4月の当紙160号の「九条噺」で(佐)氏は、むのさんについて、「新聞社を退社したことは『あの時は辞めることが良心の証だと思ったが、やっぱり、新聞記者は常にペンとの闘いを貫かなければ』と思い直したのだという。きっかけは、琉球新報が04年から14回にわたり『沖縄戦』を特集し、戦後わかった史実や証言に基づいて、戦時に検閲がなかったらどんな報道ができたかを詳細に再現したのを読んだことだった。朝日新聞記者は『むのさんから抵抗精神を受け継ぎ、憲法に結実した【非戦】【人権】を守りぬく〝ペンとの闘い〟が私たちジャーナリストの課題だ』と言う。全く異存はない。が、果たして、当の朝日新聞は、その精神で日々、今伝えるべきことを、今伝えているだろうか?」と書いている▼ジャーナリズムは今こそむのさんの思いに真面目に真剣に向き合ってほしいものだ。(南)

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終ったのなら、また始めよう
SEALDs解散メッセージ


(写真:朝日新聞デジタル8月16日)



 2016年8月15日、戦後71年の節目をもって、SEALDsは解散します。
 私たちは、日本の自由と民主主義の伝統を守るために、立憲主義・生活保障・安全保障の3分野で、明確な立場を表明し、デモや街宣などの行動を起こしてきました。とくに昨年の安保法制の強行採決に反対する国会前でのデモや、今年7月10日に行われた参議院選挙に向けた野党共闘の実現、市民参加型の選挙に向けた行動などを行ってきました。
 結果として、ほとんど不可能だと言われていたにもかかわらず、野党共闘のもと、参議院選挙では32の1人区全てで野党統一候補が決まりました。また、選挙の風景にも変化が起こりました。昨年の夏、自発的にデモや勉強会などを自主的に行った市民たちを含め、選対には多くの人々が積極的にボランティアとして参加しました。これまで選挙に関わることの無かった人々が自ら応援演説に立ち、電話がけをし、ポスターやフライヤーをデザインしてポスティングしたのです。候補者自身も、市民との関わりの中で、よりいっそう候補者としての自覚と責任を持つようになっていきました。
 しかし、当然ながら、私たちは選挙結果を含め、これで十分だったとは思っていません。改善すべき問題点は山のようにあります。市民が立ち上げる政治は、ようやく始まったばかりです。個人として路上に立つのと同じように、「わたし」の声で、日常の目線から政治を語ること。隣近所・家族・友人・恋人と政治について語り合うこと。自分の選挙区の候補者に会いに行き、自ら選挙の景色を変えること。こうした営みは日々行われるもので、一朝一夕に政治を変えるものではありません。この動きを末永く、ねばりづよく続けていく必要があります。その積み重ねは、長い時間をかけて社会に根をおろし、じっくりと育ち、いずれは日本の自由と民主主義を守る盾となるはずです。
 あの戦争が終わってから、71年が経ちます。私たちは、立憲主義を尊重する政治を求めます。私たちは、持続可能で健全な成長と公正な分配によって、人々の生活の保障を実現する政治を求めます。私たちは、対話と協調に基づく平和的な外交・安全保障政策を求めます。そして私たちは、戦後71年でつくりあげられてきた、この国の自由と民主主義の伝統を尊重します。
 SEALDsは解散します。しかし終わったというのなら、また始めましょう。始めるのは私であり、あなたです。何度でも反復しましょう。人類の多年にわたる自由獲得の努力から学びながら。孤独に思考し、判断し、共に行動し、そして戦後100年を迎え、祝いの鐘を鳴らしましょう。
  2016年8月15日
                   SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)

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書籍紹介 『あたらしい憲法草案のはなし』
(当会紙303号「九条噺」でも紹介)



長谷部 恭男 氏
憲法学者/早稲田大学法学学術院教授
自民党が何をしようとしているか、とくに憲法に何をしようとしているのか。このブックレットを読んでまず知って下さい。いまの自民党は、「行き過ぎだ」と思えば逆方向のバネが内部で働いていた、かつての自民党ではありません。「道理の通らないことでも一丸となってやり通す」ことが、何より大切だと思い込んでいる人たちです。この人たちに日本の将来を委ねてよいのか、このブックレットを読んで考えて下さい。

南野 森 氏 憲法学者/九州大学法学部教授
壮大なパロディか、痛烈な皮肉か。それとも恐るべき洗脳の書か。この本を読んで、どこまで笑え、どこまで怒り、そして怯えられるかで、あなたの立憲主義の理解度がはかれます。万人には薦められない、取扱い注意のユニークな1冊。
(太郎次郎社エディタスのHP http://www.tarojiro.co.jp/constitution_draft/ より)
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発行所:太郎次郎社エディタス(03-3815-0605)
著 者:自民党の憲法改正草案を爆発的にひろめる有志連合(自爆連)
発行日:2016年6月22日(初版)
    2016年8月 5日(6刷)
価 格:741円+税

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(2016年09月01日入力)
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