「九条の会・わかやま」 309号を発行(2016年10月22日付)

 309号が10月22日付で発行されました。1面は、戦争は相手の憲法の基本原理を変更させるもの(長谷部恭男氏 ②)、「九条の会全国交流討論集会」での小森事務局長の問題提起、九条噺、2面は、第28回「ランチタイムデモ」実施  です。

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[本文から]

戦争は相手の憲法の基本原理を変更させるもの

 9月30日、和歌山弁護士会主催の憲法講演会が和歌山市で開催され、長谷部恭男・早稲田大学教授が「立憲主義と民主主義を回復するために」と題して講演されました。その要旨を3回に分けてご紹介します。今回は2回目。

長谷部恭男氏 ②



 今の日本は民主主義、国民主権の世の中だ。多数決で決めればよいと言われるが、問題は何故多数決でものごとを決めると正解にたどり着けるかということだ。これにはいろいろ理屈がある。「ある集団のメンバーの能力を調べると、2択で正解を選ぶ能力は平均すると2分の1を超えている。投票に参加する人数が多ければ多いほど多数決で正解に到達する確率が高まる」という定理が今のところ最も見込みがありそうな理屈だ。ただ、そもそも、政治的な問題で決めなければいけないものに、2択で決められるものがあるのかということが問題だ。また、集団に偏見が行き渡っている場合、例えば少数民族とか黒人とかに偏見がある場合、多数決で決めようとすると、むしろ正解に到達する確率は低下する。この場合は多数決で決めないで、裁判官に決めてもらうというのが日本で採られているやり方だ。これにも前提があり、裁判官は偏見に囚われていないということだ。見込みがありそうな理論だが、実際の場で本当にこの通り、多数決でやればよいのかは難しいということになる。何が正しいのか分からないが、「公」のことを決めようとすると、社会全体として統一した決定をしないといけない。そうなると自分の意見に反する決定だと考える人をなるべく少なくする必要がある。全員一致の決定の方がよいという意見も出るが、全員一致でないとものごとが決まらないとなると、1人の反対で決まらないことになる。この議論は何が正しいか分からないところから出発しているが、そもそも、何が正しいかよく分からないことはそんなにあるのかという問題があるし、いろんな議論をなるべく正確に国会に反映して、政治家に交渉を任せて、妥協になるかも知れないが、それを受け入れるしかないということになる。多数決で決めることには大前提があり、個人が大事にしている根源的なものには触れてはいけないし、どんな人も社会生活をしていくためには最低限必要だという問題について、適正な手続きを踏んで決定することが最低限必要だ。
 平和主義の問題の大前提は、「戦争とは国家と国家が戦うもの」ということだ。国家とは結局「約束事」で実質的な意味の憲法で成り立っている。「約束事」に過ぎない国家は何のために戦争をするのか。この問題についてフランスの思想家・ルソーは「戦争の攻撃対象は相手国の社会契約」と言っている。言い換えると、これは憲法の基本原理を攻撃するために戦争をするということで、戦争を完全に終らせるためには相手の憲法の変更が必要だということになる。具体的には第2次世界大戦で連合国が戦争を終らせる条件として出したポツダム宣言は、日本の憲法に基本的人権を尊重する民主国家を求めている。また、東西冷戦も東側が議会制民主主義国家を採ったために終った。
 憲法9条は「戦力は保持しない」としており、これについてはいろいろな解釈がある。「戦力は保持しない」を固く厳密に考え、自衛隊も憲法違反だという立場がある。私はこの立場は近代立憲主義と両立しないと考えている。自衛のための実力の保持の全面禁止ということで、本当に国民の生命や財産の安全は保持できるのか、現実問題としては無理だろうと思う。実力の保持を全面禁止する選択を正当化しようと思うと、他国が攻めて来て殺され放題だということが人間として正しい生き方だという考え方を前提にしないと正当化は難しいだろうと思う。それは果たして多様な世界観、価値観、公平な共存を図ろうとしようとしている近代立憲主義と両立は可能だろうか。私は難しいと思う。日本に対する直接の武力攻撃に対して最小限度の対処をすることは、9条の下でも許されるという考え方は、自衛隊を作る時に解釈を変えたという意見もあるが、これは誤解だと思う。(つづく)

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「九条の会全国交流討論集会」での小森事務局長の問題提起

 9月25日に開催された「九条の会全国交流討論集会」で、小森陽一事務局長が事務局からの問題提起を行いました。「九条の会ニュース251号」からご紹介します。



 昨年の9月19日に強行採決され、本年3月29日に施行された戦争法を、第3次安倍晋三政権は稲田朋美を防衛大臣に据えるなどの体制を作って、いよいよ発動させようとしています。これに対し、この1年、私たちは主権者として憲法に違反する戦争法の発動は許されないということで、緊張関係をずっと作り続けてきた。この後、一体どうなるのかという大きな正念場を迎えている中での交流・討論集会です。
 まず、今の局面を私たちがどう認識して、運動を進めていくのか、です。私は2015年の安保闘争と呼んでいますが、戦後の日本の政治史の中で非常に大きな意味を持つ運動だったと思います。この運動を推進した戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会が、なかなか統一されなかった草の根からの市民運動をしっかりと統一している。戦争させない1000人委員会、解釈で9条壊すな!実行委員会、憲法共同センターという、政治的な主張を異にする3つの団体が、2014年の年末に1つになって、集団的自衛権の行使を容認した安倍政権が進める戦争法に、統一の反対運動をしていくことになった。5月14日の閣議決定以降、国会前で毎週木曜日、この実行委員会を中心に運動が繰り広げられてきた。
 そして、9月19日に強行採決されたとき、国会を取り巻いていた多くの人たちから野党は共闘を、という声が自然発生的に上がりました。そして、この9条壊すな!総がかり行動実行委員会を中心に、野党に共闘を要求する学者の会やSEALDs、あるいは立憲デモクラシーの会、ママの会と、この2015年安保闘争を担う運動体が1つになって、2015年の年末に市民連合を結成し、そのことが2016年の参議院選挙で野党の共闘を実現することにつながった。その参議院選挙では野党共闘が32の一人区すべてで統一候補を実現し、11の一人区で勝利した。
 一方、安倍政権の沖縄における辺野古基地建設路線に対して、沖縄県民の絶対にこれを許さないとの声が高まり、参議院選挙で野党統一候補となった伊波洋一さんが、圧倒的な勝利を収めた。しかしその翌日から、高江で基地の建設の強行が再開された。機動隊を動員した暴力的な工事の再開が強行されてきている。
 数日前、私のところに沖縄県民の民意尊重と基地の押し付け撤回を求める署名の呼びかけ人になってもらいたいという依頼書が届きました。基地の県内移設に反対する県民の会、止めよう辺野古埋立て国会包囲実行委員会、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会3者が呼びかけです。私はこの呼びかけ人になることを決意したことをご報告したいと思います。
 今、まさに戦争法に基づいて、南スーダンに自衛隊を派遣して、そして駆け付け警護など新しい任務につくことや沖縄の基地建設の強行を許すか許さないか、これが第3次安倍政権との大きな対決の軸になっています。そして、そのことがすべて、憲法9条を生かしていくのか、それとも、この9条を明文改憲する方向に行くのか、国会の衆参両院で3分の2議席を改憲勢力が取ったという中で、このことが大きな焦点になっている。あらためて、九条の会の役割、重要な意味を持ってきています。
 日本の各界を代表する9氏が、2004年の6月10日にアピールを発表し、九条の会を発足させてから12年以上たちました。この間、私たちはこのアピールに従って、地域、職場、学園で、それぞれの運動を展開してきました。そして、2015年安保闘争を通して、主権者である一人一人が、9条を持つ日本国憲法を自分のものとして選び直している。そして今、戦争法を第3次安倍政権に使わせない、このギリギリのせめぎあいの中に私たちはある。そして、安倍政権が自らの任期中にと言っている明文改憲を絶対にさせない、そういう力関係をどのようにして作っていくのか、そのことをぜひ、今日のこの後の分散会で議論をしていただきたいと思います。
 9条の会のアピールを出してから12年、これまで、よびかけ人の体制を変えないでやってまいりました。しかし、新しい、まさに、国民総がかりの運動を展開していく上で、この九条の会の運動をより強化、発展させていくために、事務局としては、よびかけ人をささえ、九条の会の在り方などを論議するために新たに世話人会を発足させることとし、さきほど第1回の会議を開きました。現在、この九条の会世話人会議に名前を連ねていただいている12人の方をご紹介いたします(当会紙307号参照)。
 全国の草の根でどのような運動をこれから展開すべきか、この一日、しっかりと議論を進めていただきたいということを心からお願いして、私の冒頭の問題提起に代えたいと思います。

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【九条噺】

 今年のノーベル医学生理学賞が東京工業大学の大隅良典栄誉教授に贈られる。心から祝福したい。「オートファジー」はパーキンソン病やアルツハイマー病、癌など様々な病気の解明や治療法の開発にも貢献すると期待されているそうだ▼日本人の自然科学のノーベル賞受賞は3年連続だが、成果は70~90年代のもので、今は論文の国際的地位が質量ともに低下しているらしい。安倍政権は「役に立つものしか、予算をつけない」と、大学の予算をこの12年間で1580億円も削減する一方、競争的資金を増やして研究者間の過当競争を強要してきた。「『役に立つ』という言葉が、数年後の事業化と同義語になっていることが問題だ」と大隈教授は指摘する▼防衛省は、大学や公的研究機関、民間企業に研究資金を提供し、研究者を兵器の研究開発に動員するための「安全保障技術研究推進制度」に110億円を計上した。巨額の札束で大学や民間企業が持つ最先端の科学・技術を軍事利用に買い取ろうとしている。大西隆・現日本学術会議会長は、学術会議に「安全保障と学術に関する検討委員会」を設け、軍事研究を認めない従来の姿勢の見直しを検討している▼これらの動きに抗して、軍事研究を拒否した50年と67年の日本学術会議決議を受け継ぎ、軍事研究禁止を再確認する大学が相次ぎ、9月30日には、大学や研究機関の軍事研究に反対する「軍学共同反対連絡会」が東京で結成された。日本の科学の「冬の時代」を到来させてはならない。(南)

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第28回「ランチタイムデモ」実施



 未明からの雨も止み、強い日射しの中、第28回「憲法の破壊を許さないランチタイムデモ」が行われ、80名が参加しました。11月にも陸上自衛隊(東北方面隊)が「駆け付け警護」などの新任務を与えられて南スーダンに派遣されると言われており、安保法制の廃止だけではなく、個々の自衛隊の海外派遣を阻止する運動も必要です。ランチタイムデモにも、さらに多くの参加が期待されています。
 第28回は11月9日(水)です。

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(2016年10月22日入力)
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