「九条の会・わかやま」 324号を発行(2017年5月29日付)

 324号が5月29日付で発行されました。1面は、立憲主義を無視することは絶対君主制に戻ること(中野晃一さん ②)、憲法が危機に陥った時はたたかう責任がある (伊藤千尋さん ②)、九条噺、2面は、青年らがサウンドデモ実施(和歌山市)  です。

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[本文から]

立憲主義を無視することは絶対君主制に戻ること

 4月28日、青年法律家協会和歌山支部の「憲法を考える夕べ」が開催され、中野晃一・上智大学教授が「市民の力で立憲民主主義を創る~他者性を踏まえた連帯の可能性~」と題して講演されました。その要旨を4回に分けて紹介します。今回は2回目。

中野晃一さん ②



 13年に96条を変えようということが始まり、立憲主義という言葉が多くの人に言われるようになってきた。立憲という言葉は戦前の日本人の方が親しみをもって知っていたという現実がある。戦前は立憲対非立憲ということをよく言っていた。わざわざ政党名に立憲をつけている政党があり、自分たちは立憲主義の立場を取っており、そうでないところは非立憲だと争っていた。立憲主義の精神に則り国家の権力を抑制して、憲政の常道に従って政権交代が起きるような政治をやらないといけないと考えていた。それに対して藩閥政治とか軍部独裁は憲法をないがしろにして好き放題をする。明治憲法でさえ一定程度の縛りはあった。それをどんどん天皇の大権の名の下に軍部が勢力を拡張していった。敗戦を迎え岸信介ですら憲法に従って政治をすることを受け入れざるを得なかった。戦後の日本人は立憲主義とわざわざ言わなくても済む状態で、護憲対改憲が対決軸になった。いまさら立憲主義という言葉が出てくるのは大きな後退だ。安倍首相とトランプは立憲主義を無視しているという共通点がある。立憲主義を無視することは、絶対君主が好き勝手をやっていた中世の時代に戻ることになる。もうひとつは、啓蒙思想の時代に戻る政治になっていることだ。啓蒙時代から人類は神や迷信に支配されるのではなく、科学や客観性をもって真実を探求していくことで文明が開けていった。それが、嘘を繰り返すというポスト真実の時代になった。安倍首相はポスト真実を前からやっている。憲法9条に反しない範囲での集団的自衛権の行使はあり得ない。9条が集団的自衛権の行使を禁止していなければ9条の意味がない。個別的自衛権は違憲と合憲の立場があるが、合憲の立場に立っても9条は完全に空洞化はされない。9条の縛りは残る。個別的自衛権行使の3要件と言われるように、日本が侵害を受けて、外交努力によってそれを除去出来ない時、必要最小限の実力行使が出来るという大変厳しい縛りがある。武器輸出3原則により武器輸出にも大変厳しい縛りがあった。これらが9条の力として残っていた。自衛隊が合憲だとしても、自衛隊はあくまで自衛隊であって、軍隊ではない。軍隊のように好き勝手は出来ないし、ましてや集団的自衛権を行使出来る訳がない。平和憲法と言えるのは9条があるからだ。最近では、憲法や教育基本法に反しない範囲なら教育勅語を使ってよいと、あり得ない話をしている。教育勅語は、基本的人権を根本に置く日本国憲法とは相容れるところは全くない。南スーダンでは戦闘はなく、あるのは武力衝突だと言ったり、完全にポスト真実の世界に入っている。今、日本は報道の自由のランキングが72位まで下がってしまっているが、メディアに対する抑圧、あるいは学問の自由など、真実を知ることについて、これを出来ないようにしようという動きが、立憲主義を壊す政治には一緒に起きてしまう。歴史修正主義では、トランプは進化論や地球温暖化まで否定する。憲法を壊すなと言わなければならないのが日本の現実だ。政党政治が守るような歯止めはほとんどなくなってしまっているという政治状況からスタートしているという現実がある。
 12年12月の段階は極めて絶望的な状況で、まず96条を変えようとしたが、立憲主義をないがしろにしてはいけないと「96条の会」を作り、この流れを止めなければと立ち上がった。安倍首相は維新と一緒になって3分の2を過半数に変え、簡単に改憲出来るようにしようとした。発議は簡単になるが、国民投票があるではないかという理屈だったが、日本の国民投票法は最低投票率がないという重大な欠陥があり、また、運動にお金の制限がなく、権力側がどんどんキャンペーンを打つとメディアジャックが出来る。公務員や教員に脅しをかけ、多くの人が関心を持たなくなるような進め方をすれば、投票率は下がり、改憲派はハードコアの人たちの動員だけでどんどん憲法を変えていくことが出来る。だから、まず96条を変えようとしたのだが、これは止めることが出来た。13年の参院選の前で、安倍首相はここでたくさん議席を取らないとやりたいことが出来ないとおとなしくなった。その結果、参院選に勝ってしまった。そして特定秘密保護法を通した。14年に入ったら今度は国会での議論をしないで、7月1日に解釈改憲を行ない、これまで黒だったものを白になったと言い出した。野党は分断されて、どうにもならない状況の中で14年12月に解散が行われた。(つづく)

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憲法が危機に陥った時はたたかう責任がある

 5月13日、プラザホープ(和歌山市)で「5月の風に We Love 憲法 2017」が開催され、伊藤千尋氏(「九条の会」世話人)が「憲法を生かす世界の人々~15%の市民が目に見える行動をすれば社会は動く~」と題して講演されました。その要旨を3回に分けてご紹介します。今回は2回目。

伊藤千尋さん ②



 コスタリカでは小学生が憲法違反の訴訟を起こす。憲法に書かれていることは実現されなければならないという発想だ。訴えられたら司法はきちんと受け止めて速やかに判断を下し、行政はそれに従う。社会が憲法を守っていないところがあれば、みんなの力で即座に直していこうということだ。憲法違反の訴えのハードルが非常に低い。
 今、世界はトランプを始めとして排除の思想になっている。コスタリカは難民・移民は、希望する人は全て受け入れるという姿勢を憲法に明記している。10年前のコスタリカは人口400万人だったが、今は500万人になっている。10年間に100万人の経済難民を受け入れた。半分は子どもだが、外国人でも税金で教育を受けさせる。世界の全ては排除ではない。平和憲法を持ち人権を大切にする国は誰でも受け入れる。教育も医療も無料だ。
 かつて大統領を憲法違反で訴えたロベルト・サモラという大学生がいた。2003年アメリカのブッシュ大統領がイクラ戦争を始め、コスタリカの大統領も賛成した。これに対して平和憲法を持つ国の大統領がよその国の戦争を支持するのは憲法違反だと訴えた。2004年の判決は全面勝訴でコスタリカは有志連合から外れることになった。彼の考えは、憲法が危機に陥った時は国民にはたたかう責任があるというものだ。コスタリカの教科書には「平和とは戦争がないだけの状態を言うのではない。戦争がなくても戦争につながる要素はいっぱいあり、それをひとつずつなくしていくのが積極的平和と言う」と書かれている。平和学は積極的平和を「Positive Peace」と言うが、安倍首相の積極的平和主義は「Proactive contribution to Peace」。「Proactive」とは先制攻撃のことで、全く違う。
 今ほど憲法の3原則が壊されようとしている時はない。教育勅語を評価する声も出ているが、戦争が起きたら天皇のために死ねというもので、「国民主権」とは真っ向から対立するものだ。「基本的人権の保障」に対しては共謀罪の攻撃がかかっている。怪しいと思ったら警察はすぐに調べる。盗聴などは当り前。日本は律儀な社会で政府が言うと国民がすぐにそれに従う。そんな社会で共謀罪が始まったら一挙に広がる。共謀罪はかつての治安維持法と全く同じで、大正デモクラシーを一挙に潰したのが治安維持法で言論が封じられてしまった。懲役刑は数年後には死刑になり、共産主義者から、社会主義者、自由主義者、宗教家へとどんどん広がり、日本は戦争に突入していった。今、それが再現されようとしている。「九条の会」を立ち上げた加藤周一さんは生前、「あの戦争を防げなかった5つの理由がある。議会に反対政党がなくなった。司法がチェック機能を失った。労働組合が解散を命じられた。マスコミが批判力を失った。市民の抵抗運動が弾圧された」と言っている。今も同じような状況だが、まだ今、市民の抵抗運動はある。これがなくなれば日本は戦前と同じになる。頼みの綱は市民の抵抗運動で、どう動けばよいのかが鍵になる。
 中国や北朝鮮にどう対処すればよいのか。中国は700年以上日本を攻めていない。中国人にとっては、日本が攻めてくるという考えの方が強い。軍隊をなくしたと言いながら世界4~5位の戦力を持っており、無理からぬところだ。それを「中国は軍拡しているから」と言い出したら、互いに軍拡になる。軍拡になれば軍事予算が膨らみ、教育費、福祉、医療費が削られ、年金もなくなる。教育や医療は100%有償になってしまう。「中国は軍拡しているから日本もやれ」という人には、こんな日本でよいのかと言うことだ。北朝鮮がミサイルを日本に飛ばしてくるようになれば、もう韓国との戦闘は始まっており、北朝鮮が日本に20発も飛ばせる余裕などない。問題は弾頭の部分に核兵器を積んだら大変だから、核兵器の開発を止めさせればよい。どうするか。6者協議を再開させる方向に持っていくべきだ。そうすれば、ミサイルの脅威は我々の頭から取り去ることができる。(つづく)

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【九条噺】

 共謀罪が衆院で強行採決された夜、「報道ステーション」を見た。ケナタッチ氏という国連のプライバシー権に関する特別報告者が、共謀罪は人権を制約する恐れがあるとする手紙を安倍首相に送ったこと、政府が抗議文を送ったことを知った▼早速ネットで調べる。「組織的犯罪集団」の定義が漠然としており、「準備行為」の範囲も曖昧…云々と、ケナタッチ氏は指摘する。私たちが懸念し、野党が追及している論点と重なる。政府の抗議文は、「国連の立場の反映でなく…」と言うだけで、ケナタッチ氏の具体的な指摘に対する反論はない。氏は抗議文に対し「怒りの言葉が並べられているだけで中身はなかった」と反論した▼まるで国会を再現しているかのようだ。野党の具体的で理を尽くした質問に答弁できず、法案のもつ反民主主義的な本質を隠すためとしか思えない採決の強行。国連特別報告者という国際的視野をもつ人の指摘を冷静に省みる余裕が政府にはないのであろう▼森友学園問題然り。加計学園問題然り。野党が文書の提出を求めると、「廃棄した」と言い、野党が文書を示せば、「怪文書」と言う。今の政府には、物事の理非を明らかにしようとする姿勢が全くない。「数を力」に押し切ることしか頭にないようだ▼支持率が「高い」と得意満面な安倍首相を見ていると「裸の王様」を思い出す。子どもの純粋な目が王様の姿を見破ったように、国民の共同する多くの目は、いつまでも惑わされていない。(真)

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青年らがサウンドデモ実施(和歌山市)



 自・公・維の3党が「共謀罪」法案を衆院法務委員会で強行採決した翌日の5月20日、和歌山の青年らが呼びかけた2回目のサウンドデモが、和歌山市でおこなわれました。
 出発前集会で実行委員長の服部涼平さん(和歌山大学院生)は「戦争法、『共謀罪』など、ますますひどくなる安倍政権の暴走に和歌山からノーの声をあげよう」と訴えました。民進党、共産党から、「野党統一の力で安倍政権を倒そう」などの挨拶があり、自由党からもメッセージが寄せられました。大新公園→JR和歌山駅→堀詰橋の、約1時間15分のコースで、参加者は「『共謀罪』反対」「安倍はやめろ」とコールしながらサウンドデモを実施しました。

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(2017年05月29日入力)
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