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小選挙区制は民主主義ではない
4月28日、青年法律家協会和歌山支部の「憲法を考える夕べ」が開催され、中野晃一・上智大学教授が「市民の力で立憲民主主義を創る~他者性を踏まえた連帯の可能性~」と題して講演されました。その要旨を4回に分けて紹介します。今回は3回目。
中野晃一さん ③
14年4月に「立憲デモクラシーの会」を立ち上げた。今度は立憲という言葉を使って歯止めにならなければと思ったが、その時にデモクラシーという言葉を持ってきた。民主主義はギリシア語のデモス(民衆)とクラトス(力)から出来ており、敢えてカタカナでデモクラシーとしたのは立憲主義を救うのは民衆の力しかないということだ。この原点を確認して訴えていこうとなった。立憲主義は、民主的に選ばれていても政権を抑制しなければいけないということだから、民主主義とは緊張関係にある。まだまだ私たちの闘いは続いていて立憲民主主義の危機は遠のいていない。
共謀罪はテロ対策でも何でもなく、しかも、公職選挙法、政治資金規正法、政党助成法など政治家や公務員や警察が犯しそうな犯罪は全部共謀罪から排除されている。277の法律も恣意的に選定しているものだ。状況は極めて厳しく、立憲民主主義を壊し、国家を私物化するような人たちが権力をほしいままにしていて、中世に戻っている状態だ。憲法の下で、国会をここまで軽視して何とも思わず、公私の区別もついていないというのは、中世の絶対君主のような気分になっていると思う。安倍氏は岸信介の孫でなかったら総理大臣にはなっていなかっただろう。総理大臣は世襲財産になっている。だから、どこから出てきたかも分からない民主党の連中が俺たちの権力を持って行ったと怒っているし、国家権力に楯突けば共謀しているから捕まえてよいという話だから、これだけは止めなければならないということになる。
その時の課題は選挙制度だ。選挙制度が非民主的になっているから、ここまで政治が歪んでいる。小選挙区制は極めて非民主的な制度で民主主義ではない。民主主義はみんなで考え、議論して決めるというやり方で、コンセンサスで決めるのが理想の姿だが、それが難しいなら、取り敢えず多数決で決めるという便宜を考えた時には条件がある。常にマイノリティの人たちが排除されてはいけない。多数派の暴走にならないようにという条件がついた上で、多数決で意思決定をしないと前に進めないのならそれでやろういうものだ。ただ、多数決は民主主義とイコールではない。政治学でも、小選挙区制は多数派支配の民主主義、比例代表制はコンセンサス型民主主義と言ったりするが、これは誤りで、小選挙区制は多数派支配ではなく少数派支配だ。イギリスを例にとれば、戦後40回ぐらい選挙をやって、実際に得票が過半数で政権を作ったのは70年間で1回しかない。この1回はキャメロン政権の連立内閣だ。この時は保守党、労働党のどちらも過半数を取れず、第3政党の自由民主党と保守党が連立政権を作ったが、この時、保守党と自由民主党が得た票を合わせると、初めて得票が過半数となった。サッチャーもブレアも得票レベルでは過半数になっていないのに、議席になると多数派になる。これが小選挙区制の本質だ。
投票に行った人の40%ぐらいの得票で議席数は過半数を優に超える。場合によっては30%台でも過半数を取れる。日本でも同じようなことになっている。2大政党がゲタを履かされる。特に一番大きい政党が実際の得票からかけ離れた議席を手にする。ここに安倍政権がこれだけ民意を無視しても勝ち続ける理由がある。12年に生まれたような状況が続く限り立憲民主主義を創ることは出来ない状態になる。
野党が分断されていて投票率が低ければ自民党は何回選挙をやっても議席で圧勝することが出来る。野党が分断されていて受け皿がない、つまり小選挙区でライバルがいないと、多くの人が、選挙結果が見えているので投票に行かない。そこで、利権の旨味を吸っている人、日本会議的な狂信的な人、創価学会などの固定客だけを動員すれば自民党は小選挙区で圧勝出来る状態が続いている。
今の自民党は投票率が上がると負ける可能性が高くなっている。実際、12年、14年の2回の総選挙で自民党は圧勝しているのに、自民党の得票数は、09年に民主党に負けて下野した時よりも下回っている。何故そんなことが可能になったのかは、非常に多くの人が棄権し、かつては民主党に投票した人が棄権して、投票しても死票がたくさん出て、その結果自民党が大負けした時の得票数に戻っていないのに圧勝し、私が最高責任者だと言って、この道しかないと思わされている。ここを変えなければいけない。(つづく)
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どうすれば日本を変えられるか
5月13日、プラザホープ(和歌山市)で「5月の風に We Love 憲法 2017」が開催され、伊藤千尋氏(「九条の会」世話人)が「憲法を生かす世界の人々~15%の市民が目に見える行動をすれば社会は動く~」と題して講演されました。その要旨を3回に分けてご紹介します。今回は最終回。
伊藤千尋さん ③
どのように日本の政府を変えていけばよいのか。韓国の例では、朴大統領弾劾のきっかけとなった民衆総決起は、10月29日には3万人、翌週は30万人、3、4回目は100万人、5回目は150万人、12月の6回目は232万人となり、このうねりの中で国会は弾劾を可決せざるを得なくなった。何故こんなになったのか。きっかけは2015年の日本の国会前の12万人の集会だという。それがこの総決起に表れた。数が多い理由のひとつは歌で、集会の中で歌われた。昨年のは「下野、下野、下野~」と歌う「下野ソング」で盛り上がった。盛り上が るから行ってみようという気持になる。もうひとつの理由は、集会参加者がスマホで集会を自撮りし、それをネットで拡散し、それで膨らんでいった。マスコミに頼らないで、自分たちで発信する。だから人が集まってくる。これだけ人が集まるとマスコミも報道せざるを得なくなる。さらに司法もそれに従わざるを得なくなる。世の中を変えていくのは国民の力だ。
1990年、チリでは軍事政権に対して民衆の抵抗運動を毎月やっていた。民主化の意識が盛り上がり、軍政もそのまま維持できなくなり、国民投票をやった。野党が17の党に分かれていたので、軍政は勝てると思っていたが、17党が民主主義の一点で団結し、国民投票では民主化賛成が50・5%で勝ち、民政に移行した。野党が共闘すれば勝てることを世界に示した。
過去3回の参院選の得票を比較すると、2010年は与党対野党は5対4、2013年は5対2、2016年は5対3まで盛り返した。自民党の議席は、2010年の39が、2013年は47になったが、2016年は37となり、6年前より減っている。つまり、自民党も負けている。知事選では自民党は今8連敗だ。新潟知事選で何故野党共闘がうまく行ったか。新潟水俣病の組織では最初から共闘をやっており、食い違いが出た時は必ず、被害者のために何が必要かという原点に返る。いがみ合いにならず、野党共闘があっという間に成立する。それを全国でやれば勝てることを参院選は証明している。
選挙まで待つ必要はない。過半数を取る必要もない。15%で十分だ。ベルリンの壁の崩壊は市民の平和なデモだった。ライプチヒで、最初は5千人だった。次の週は2万5千人になり、その次は7万人になり、次が12万人と膨らんだ。5千人の時と2万5千人の時は警官が出てきたが、7万人になった時は警官は手出しをやめた。当時の人口は60万人で、その10%強がデモをしたら、市民全員がデモをしているように見える。これで警官は手出しが出来なくなった。9・11では町を走っている車は全て星条旗を掲げているように見えた。本当かと思いロサンゼルスの中心部の交差点で1カ所で30分、場所を変えて30分、時間帯を変えて30分数えてみると、数字は完全に一致していた。星条旗を掲げているのは11~13%だった。つまり、1割ちょっとが目に見える行動をすればみんながやっているように見える。それが社会を変える。だったら15%の人が一斉に同じような目立つ行動をすればこの社会を変えることが出来る。今ここにいる人が最初の1%になって、安倍独裁政権を私たちの手で変えていこう。(おわり)
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【九条噺】
河野克俊統合幕僚長が5月23日の記者会見で、安倍首相が自衛隊を憲法9条3項に明記すると表明したことについて「自衛隊の明記は、非常にありがたい」と発言した▼統合幕僚長は陸海空自衛隊の制服組の最高責任者だ。自衛官は自衛隊法によって「政治的行為をしてはならない」とされ、それは、「政治の方向に影響を与える意図で特定の政策を主張し、官職、職権その他公私の影響力を利用すること」とある▼自衛官は、自衛官になった時に宣誓をしなければならない。宣誓書は「日本国憲法及び法令を遵守し、…政治的活動に関与せず、…国民の負託にこたえることを誓う」となっている。また、憲法99条の憲法尊重擁護義務が課せられている公務員に自衛官が含まれることは言をまたない。首相が改憲を主張することは重大な憲法違反だが、統合幕僚長が首相の発言に対して、「非常にありがたい」などと言うのは、これまた重大な憲法違反だ▼菅官房長官は「個人の見解であり、全く問題にならない」と言っているが、統合幕僚長という立場にある者が、個人で思うことと公の場で発言することは全く意味が異なる。明らかな政治的中立からの逸脱だ▼河野氏は14年12月に訪米して米軍の最高幹部らと会談、「来年夏までには集団的自衛権行使が可能になる法律ができる」などと言い大問題となった。文民統制、政治的中立、憲法尊重擁護義務を守れない自衛隊トップは、安倍首相ともども辞めてもらわなければならない。(南)
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憲法施行70年「九条の会」講演会開催
憲法改正に反対する「九条の会」は2日、東京都杉並区の杉並公会堂で憲法施行70年講演会を開き、約1100人が参加した。今年の憲法記念日(5月3日)に安倍晋三首相が9条改正を目指すと表明したことに対し、登壇した世話人らは「主権者である国民への大きな挑戦だ」などと訴えた。
世話人のリレートークで、早稲田大の浅倉むつ子教授は「女性の活躍や女性が輝く社会、それによって経済発展を願うなら、まず平和と平等を私たちに保障してほしい」と述べ、ドイツ文学翻訳家の池田香代子さんは「沖縄、原発問題、憲法9条のいずれもあきらめてはいけない」と呼びかけた。九条の会は2004年、評論家の故加藤周一さんや作家の澤地久枝さんらが呼びかけ人となって発足。昨年9月に有識者12人の「世話人会」ができ、各地の講演会などを通して草の根からの護憲運動に取り組んでいる。(毎日新聞6月2日)
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書籍紹介『日本国憲法はこうして生まれた』
今日の改憲の企てを許さないために、あらためて日本国憲法の制定経過を検証してみることにします。その際、先の戦争の戦勝国として日本占領の中心にすわったアメリカと日本政府とのやりとりに限定する平面的手法ではなく、日本国民や国際世論の動向も含めた立体的視点で検証し、そのことを通じ安倍首相と自民党の憲法改悪がどのような性格を持ったものであるかを明らかにしたいと考えます。(「はじめに」より)
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発行所:㈱本の泉社 TEL:03-5800-8494
著 者:川村俊夫(憲法会議代表幹事、「九条の会」事務局)
発行日:2017年03月17日
価 格:1,250円+税
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