「九条の会・わかやま」 333号を発行(2017年10月08日付)

 333号が10月8日付で発行されました。1面は、九条の会 自衛隊明記は「9条の理念と真っ向から矛盾」、自衛隊を書き込むと 後に大きな改憲が(青井 美帆 氏 ①)、九条噺、2面は、【声明】戦後日本の歴史と憲法の岐路にたって(2017年10月5日 九条の会)   です。

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九条の会、自衛隊明記は「9条の理念と真っ向から矛盾」

 護憲派の文化人らでつくる「九条の会」が5日、東京・永田町で記者会見し、「戦後日本の歴史と憲法の岐路に立って」と題したアピール文を発表した。安倍晋三首相が憲法への自衛隊明記を打ち出し、自民党も衆院選の公約に盛り込んだことについて「9条の『武力によらない平和』の理念と真っ向から矛盾する『武力による平和』が明示され、根本的改変が起こる」として改憲阻止を訴えた。
 アピール文は「9条への自衛隊明示は、戦後日本が築いてきた『戦争しない国』の転換をもたらす」と指摘。公約で9条を含めた憲法改正論議を進めるとする希望の党も念頭に、「総選挙は改憲諸党の前進を許し安倍9条改憲に道を開くのか、阻むのかを決める重要な機会だ」と強調した。
 会の世話人で翻訳家の池田香代子さんは、安倍政権が安全保障法制を成立させたことにふれ、「憲法を軽んじる政権が憲法を変えるという話には乗れない。信用できない」と話した。
(朝日新聞デジタル10月5日付)(声明の全文は2面に掲載)

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自衛隊を書き込むと、後に大きな改憲が

9月20日、和歌山弁護士会主催の憲法学習会が開催され、学習院大学大学院教授・青井美帆さんが「安倍首相の新たな改憲提言について」と題して講演されました。その要旨を3回に分けてご紹介します。今回は1回目。

青井 美帆 氏 ①



 憲法をめぐる状況は、急に空気が変わった。北朝鮮のミサイルで危機感を煽り、我々を一定の方向に導こうという力が働いている。政府言論(政府が思っていることを表現する言説)が日本の言説の中で圧倒的多数を占めると、他の言論が負けてしまう。政府言論というと表現の自由のように聞こえるが、政府言論に対抗する言論を作っていけなくなる事態を憂慮しなければならない。米イージス艦への給油、米艦防護も我々が知らない間に行なわれた。いつの間にか日米一体化が進み、どのように行なわれているのかが分からない。武力行使に関わることは基本的に国会の事前承認を必要とするが、これらは見えないところで行なわれた。情報が提供されないままでは、憲法改正など日本の将来に関わることは考えることができないのに、情報を出さないで、決めてしまうのが政府のやり方だ。我々の対抗手段は、「おかしい」と言うことを諦めないことしかない。少ない情報を多くすることを求めながら、政府は何をしようとしているのかを細心の注意をもって見極めるのが我々の責務だ。
 憲法改正の中心は5月3日に安倍首相が打ち出した自衛隊を憲法に書き込むことになる。自衛隊を憲法に書き込むとはどういうことか。自衛隊は国民の支持も受けており、書き込むだけならよいのではと見えなくもない。政府は書くだけで何も変わらないと説明しているが、それなら何もしなければよい。変わるから書き込むのであり、重大な意味が含まれている。「書き込むだけ」のはずがなく、その後にかなり大規模な憲法改正をしなくてはならないという問題だ。次々と回る歯車のように、一度動き始めると止まらなくなる。止められない状態にすることを目指している。結局、始点と終点では憲法の姿がまるきり変わっている。動かし始めると後戻りできないような形で動かすのが、この加憲のひとつの意味だ。
 9条をそのままにして、9条の2に「前条の規定は、我が国を防衛するための必要最小限度の実力組織として自衛隊を設けることを妨げるものと解釈してはならない」というような条文を入れようしている。敢えて「自衛隊」という言葉が入っているのがポイントだ。自衛隊を入れない方が正当化しやすいが、自衛隊は国民から広く認められており、入れた方が国民から支持されやすいという思惑もあり、改憲をより簡単にするためだ。9条の2の2項は「内閣総理大臣は、内閣を代表して自衛隊の最高の指揮監督権を有し、自衛隊は、その行動について国会の承認その他の民主的統制に服する」とする。これは自衛隊法7条を憲法のレベルに引き上げることを目的にしている。法律で決めることと憲法で決めることとではかなり意味合いが異なる。憲法は法律の妥当性の根拠であり、法律は憲法の範囲内で作らなければならない。
 2014年を境に政府解釈が根本的に変わった。14年以前とでは、一貫性ということでは雲泥の差がある。7月1日に集団的自衛権行使容認の閣議決定がなされ、政府解釈が180度変わり、それまで積み上げられてきたものが根本から変更される事態を迎えた。それを実定法化したのが15年の安保法制=戦争法だ。反対の大きな声が上がり、政府はゴリ押しをしないと国会通過させられなかった。次が目の前にしている9条加憲だ。これは、もっと広い範囲での憲法改正に繋がるものだ。14年の解釈変更、15年の安保法制以降も防衛白書の説明は以前と何も変わっていない。言葉の意味が変わったからだ。「自衛」は14年までは個別的自衛権だけを意味していたが、14年からは集団的自衛権も入るようになった。だから「自衛のための措置」という言葉は変える必要がない。この「辻褄合わせ」は、9条加憲までは無理やり説明はできなくもない。政府は今までの9条解釈は変えないと説明するはずだが、これは破綻せざるを得ない。破綻すると、自衛隊が書き込まれているので、元に戻らず先に進むしかない。出発時点で9条が意味していたことと、後で出てくる憲法の姿は180度違う。14年7月1日の閣議決定までは、自衛隊、駐留米軍、自衛隊の海外活動等で、憲法適合性が争われるなど、問題だらけだったとはいえ、曲りなりにも筋道だった説明ができる政府解釈の下に防衛法制が組み立てられていた。9条は理想だけでなく、法と認めている。また、「戦争をしない」「国家のために殺さない、殺させない、殺されない」と考えてきた。9条が目指していたものが変わるとはこの部分が変わってしまうことだ。当然だと思っていたことが、当然ではなくなる、そういうところに我々はある。
 起点は14年の閣議決定で言葉の意味を変えたことだ。それを15年の安保法制で実定法化したが、でもまだグレーで、合憲性が明らかになっているとは言えない。ここに、9条加憲をし、その先の憲法改正をすると、「戦争をしない」「殺さない、殺されない」とは逆の価値観を持つことになる。戦争とか武力行使も国家の持つ選択肢の一つになる。「戦争が出来る」「それが外交のために必要だ」「国家のために死ぬのは尊いことだ」「国家のために他国の人を殺すのも仕方がない」となる。このような赤裸々な表現はしなくても、昨今の北朝鮮の状況から、「敵基地攻撃は当然だ」「やられる前にやってしまえ」などと言うようになっている。「核武装すればよい」という話まであり、国を守るためなら攻撃するのもやむを得ないと言っている訳で、9条が出発した時点での考え方と相当開きがある。(つづく)

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(事前告知)「9条の会共同講演会」開催



11月4日(土) 午後2時30分~
和歌山県JAビル 11階 (JR和歌山駅前)
講師:愛敬 浩二 先生(名古屋大学大学院教授)

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【九条噺】

 関西電力から「契約内容のお知らせ」なるハガキが届いた。高浜原発再稼働で料金の値下げを実施するという。読んでいて心がザラつく。「大飯原発の安全性が確認され次第、安全性を最優先に再稼働する」と、「安全性」列挙の文言が続く▼6年前、福島原発の事故を伝えるテレビを見て心が凍り付いた感覚を未だ鮮明に覚えている。故郷に帰れない人々が未だたくさんいることも知っている。廃炉作業も進んでいない。事故は今なお続いているのだ▼日本学術会議が原発のあり方提言を発表したことを新聞で知った。福島と同様の過酷事故が再発する可能性があると考えなければならないこと、使用済核燃料や高レベル放射性廃棄物の処分に目処が立っていないこと、今回の事故の処理費用が福島第1原発がもたらした総収入を遥かに上回ることなど、原発が未完の技術であると指摘している▼原発は、ある範囲の人々に犠牲を強いるシステムであり、特定地域や特定職務に集中し、将来世代に及ぶリスク、不利益などの倫理問題と向き合わねばならないともある。「3・11、福島を忘れない」「絆」と私たちが言うことの意味は、こういうことではないかと思う▼1円にも満たない値下げを仰々しく言い立て、破綻済みの安全神話を撒き散らし再稼働に邁進する関西電力などの電力会社。電力会社を後押しし、いや、率先して原発再稼働にひた走る国のあり方を変え、だれ一人原発の危機に脅えることがないような国にしたい。(真)

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【声明】戦後日本の歴史と憲法の岐路にたって
2017年10月5日 九条の会




 安倍首相は、臨時国会冒頭に解散し総選挙に打って出ました。野党による憲法に基づく再三にわたる臨時国会開催要求を無視しながら森友・加計問題をはじめとする疑惑隠しをはかる憲法破壊の暴挙です。重大なことは、首相が、この総選挙を、政権延命をはかるにとどまらず、安倍政権への批判の高まりのなかで強行のメドが危うくなった憲法「改正」実行のお墨付きを得る好機と位置づけたことです。
 自民党は、選挙の重点公約のひとつに、憲法9条に自衛隊を明記することを中心とする改憲を掲げました。過去に改憲の野望を抱いた首相は少なくありませんが、国民の批判を怖れ選挙戦ではそれを正面から争点にした例はありませんでした。自民党が改憲を旗印に選挙を戦うのは結党以来はじめてのことであり、容易ならぬ事態です。しかも解散直前になって、安倍政治を変えることを標榜して希望の党が旗揚げし、改憲勢力の一翼として登場しました。この結果、たとえ国民の批判を浴びて自公勢力が後退しても、希望の党や日本維新の会などと合わせ改憲勢力が3分の2を占める危険性が高まりました。そうした事態を許すならば、改憲派が2018年通常国会での改憲発議をねらってくることは間違いありません。
 9条への自衛隊明示は、安倍首相の「何も変わらない」という言明に反して、戦後日本が築いてきた「戦争しない国」の転換をもたらすことは明らかです。
 もし9条に自衛隊が明記されることになれば、9条の「武力によらない平和」の理念と真っ向から矛盾する「武力による平和」が明示され、9条の根本的改変が起こることは明らかです。
 また、自衛隊が憲法上認められることで、これまで「自衛隊は9条2項が保持を禁止している『戦力』ではない」というために政府が積み上げてきた自衛隊の活動を制約する解釈の撤回、さらなる空文化が起こります。しかも、この改憲で合憲とされる自衛隊は、違憲な戦争法によって海外での武力行使を認められた自衛隊なのです。
 安倍首相は、北朝鮮問題での国民の不安を煽って改憲へと誘導していますが、軍事的圧力や9条改憲では北朝鮮問題を解決することはできません。それどころか、逆にアメリカの軍事行動への加担により、朝鮮半島での軍事衝突の危険を増大させることになります。朝鮮半島とアジアの平和は、憲法9条の原則に基づく外交によってこそ、実現できるのです。
 総選挙は、改憲諸党の前進を許し安倍9条改憲に道を開くのか、それとも阻むのかを決める重要な機会です。すべての市民が、戦後日本の「戦争しない国」をつくってきた憲法の役割に改めて思いを致し、安倍改憲を許さないという声を挙げましょう。
 草の根からの対話と宣伝を広げ、「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」の提起する3000万署名の運動を大きく成功させましょう。

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(2017年10月07日入力)
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