「九条の会・わかやま」 337号を発行(2017年12月6日付)

 337号が12月6日付で発行されました。1面は、「障害者権利条約学習会」開催 和歌山障害者・患者九条の会など3団体、改憲派が目指す「強い国家」とは正真正銘の海外派兵を行うこと(愛敬浩二氏②)、九条噺、2面は、戦争の悲惨さ伝える群読 みなべ「九条の会」総会で、民主主義の土台を壊す選挙制度(本 秀紀 氏 ②)、自民党改憲4項目を検証 弁護士9条の会がリレートーク、3面は1・2面の2項目からの続き  です。

    ――――――――――――――――――――――――――――――
[本文から]

「障害者権利条約学習会」開催
和歌山障害者・患者九条の会など3団体




 11月25日、和歌山市ふれ愛センターに28名が集いました。今回は、和歌山障害者の生活と権利を守る連絡協議会、障害者自立支援法基本合意の完全実現をめざす和歌山の会、障害者・患者九条の会の3団体による合同企画です。障害者(児)を守る全大阪連絡協議会代表幹事の井上泰司氏をお迎えして、「障害者権利条約にふさわしい障害者施策の実現を!~本当に日本の施策は条約批准国として追いついているのか?」というテーマで講演をいただきました。
 来年度の障害福祉予算は要求に対して1300億円の減額を求められているようです。一方で防衛予算は約3000億円増の5兆2500億円とか。さらに、先日のトランプ米大統領来日時に安倍首相は、弾道ミサイル防衛強化の手段として「イージス・アショア」2基(1600億円)の購入を約束したそうです。文字通り福祉を削って軍備を増やす!  「日本は色々な権利条約を批准しているが、法治国家らしからぬ振舞をしている。我々国民がしっかり声を上げて監視していくことが重要。そして目先の現象に流されず、憲法とは何か、社会福祉とは何か、といった根本の意味を問い直すことで国民の共同を広げていくことが大切」と話されました。そして参加者からの質問に丁寧かつ明確に答えてくださり、学習を深めることができました。
 今回は和歌山大学の学生さんなどいつもと違った顔ぶれもみられ、共催の意義がとても感じられる取り組みとなりました。暮らしを豊かにする一人一人の要求が社会福祉の後退を許さず、それが平和憲法を守ることにつながるものと、確信をもちたいと思います。(会の野尻誠さんより)

    ----------------------------------------------------------------------------------

改憲派が目指す「強い国家」とは正真正銘の海外派兵を行うこと

11月4日、「9条の会共同講演会」が和歌山県JAビルで開催され、名古屋大学大学院教授(憲法学)・愛敬浩二さんが「自衛隊を憲法に明記させてはならない」と題して講演されました。要旨を4回に分けてご紹介します。今回は2回目。

愛敬浩二氏②



 総選挙前でも自公で3分の2を獲得していた。改憲派は発議すればよいはずなのに、船田元氏は枝野氏ときちんと話をして民進党を抱き込む形で改憲発議をしたいと思っていた。これはまともな考え方だ。自民党はバカ勝ちしているが、選挙制度の歪みで議席を獲得しているだけで、50%を取ったことはない。国民の過半数が9条改正に賛成ということもない。そういう状況で国民投票に突入し、負けると、もう一度という訳にはいかない。改憲派はやる以上は勝たなければならない。選挙の前なら民進党への抱き込みを図り、民進党を割って、少なくとも半分程度を引き込めれば、反対するのは共産党、社民党となり、政党レベルでは一致して提案していると言える状況になる。民進党を抱き込むことは決定的に重要だ。16年8月、橋本五郎氏(読売新聞特別編集委員)は安倍首相に「左ウイングを広げよ」と書いている。これは憲法改正をしたいのなら野党第一党を巻き込めということだ。
 安倍首相は選挙になると争点を消す。例えば消費税はもう上げない訳にはいかないので、争点を消すために民進党が言っていた子育て支援に増税分を使うと言い出した。憲法改正は端の方に置いて、選挙後半に言い始める。要は争点を消し続けている。ところが、憲法改正国民投票では争点を消す訳にはいかない。争点が消せないなら、争点にさせないしか方法はない。これは野党第一党を巻き込むということだ。だから、野党第一党を巻き込むのは本気だと思う。希望の党への安倍首相の対応は非常に微妙だった。菅官房長官は、希望の党との連携も模索したいと言っていた。憲法改正で希望の党は役に立つと思っていた可能性が高い。最終的には希望の党が伸びないことが分かってから小池氏は敵対し始めた。後半から希望の党そのものが揺れ始めた。改憲派にとっては、自公で3分の2を獲得し、希望の党もそれなりの議席を獲得するというのが最もよいシナリオだった。ところが立憲民主党が出てくることによって、このプランは崩れた。今回の衆院選は、民進党が希望の党に割れず、そのままであれば安倍首相は取り敢えず20年までの憲法改正は諦めて、安定政権を作ろうと思ったと思う。ところが希望の党が出てきたので希望を持った。しかし安倍首相は思った通りには出来ていない。我々は押し返せていないが、100%負けてもいないので、あまりがっかりしないのも重要だ。
 安倍改憲は個性的ではあるが、例外ではない。21世紀の改憲派の主張は「強い国家と小さな政府」。「強い国家」とは9条改憲、正真正銘の海外派兵を行なうこと、つまり、戦場で戦える自衛隊を派遣することで、もうひとつは「小国主義」の克服ということ。「小国主義」とは、普通、経済大国化すると政治大国化し軍事大国化する。ところが、戦後日本は経済大国化したが、軍事大国化しなかった。当然憲法9条との関係だが、日本では独特な小国主義的な政策があった。例えば、憲法9条の下で政府が自衛隊を何とか正当化する専守防衛論だが、日本国民の多くが自衛隊は安全な組織だと思っているのは、「極端な専守防衛論」のおかげだ。今や自衛隊にはこんな歯止めはなくなっているが、自衛隊を正当化するためには必ずこのイメージに訴えるはずだ。専守防衛論について斎藤隆氏(元統合幕僚長)は、「航空機の航続距離を長くするのは専守防衛に反するとの的外れの批判があった」と攻撃しているが、これは的外れではなく、政府が元々こういう政策を採っていた。自国の防衛に必要最小限度だから敵基地まで届くことは想定していない。空中給油装置はどう考えても自国防衛用ではないから外しているし、空母型の大型輸送船も持てなかった。理由は簡単で外国に行く必要がなかったからだ。かつてはいろんな限定が加えられていたが、今はそうではない。専守防衛の自衛隊ならよいではないかという人は、現在の自衛隊の実態をよく調べて、法制度さえ変えれば海外で戦闘が出来る状態にあることに注意する必要がある。自衛隊が平和的な軍事組織に見えるとすれば、これは小国主義的な政策の下でのものだった。また、かつては非核三原則、武器輸出三原則などの小国主義的な政策があったのだが、今はこれをなくしてしまった。9条2項で自衛隊の正当化は難しかった。自衛のための必要最小限度の実力組織は憲法も禁止していないという解釈でやってきたから、必要最小限度とは何かが厳しく問われた。結果として小国主義的政策が出てきた。もし、9条3項を足したら、かつてのこういう議論は全く不要になり、専守防衛のための様々な憲法的、法的、政策的制約は全てバカらしい話だったということになる。自衛隊がもし専守防衛のための特別な軍隊に見えるとすれば、それは憲法9条との関係で、それを少しでも実現する運動があって、それを支える野党もあって、その結果として政府がやむなく取ってきた政策があったから、専守防衛のための組織に見えるだけだ。韓国軍はアメリカとの同盟に基づきベトナム戦争に出撃し5千人が死んでいる。あの時、日本が正真正銘の軍隊を持っていて、今と同じ法制度だったら自衛隊員も死んでいる。(つづく)



    ----------------------------------------------------------------------------------

【九条噺】

 時々文楽を観に行く。といっても、浄瑠璃は字幕を追い、人間以上に人間らしい人形の所作に感嘆し、三味線の音に心を解放させるだけの観客だが。元NHKアナウンサー・山川静夫さんの「文楽思い出ばなし」をおもしろく読んだ。名人といわれる人たちが芸と向き合う姿から、垣間見せる素顔を綴ったエッセイ集だ▼厳しい修行を経た人々の一言は重みを持つ。それが大阪弁と相まってユーモラスな味わいをかもし出す。浄瑠璃の竹本住太夫さん。「人間、最後の勝負は人間性でんなあ」とつぶやいた。養父である師匠に鍛えられ、薬師寺管主だった高田好胤さんら友人との交流の中でつかんだ言葉だろうと、山川さんは言う▼安倍昭恵さんが講演で、笑いを取ろうと森友問題をネタに語ったという。野党の質問時間の削減問題を聞かれ、「国会が決めることだ」うそぶく安倍首相らの面々。その任から離れたとたん、前川喜平氏の証言を攻撃する当事者の一人であった文科省副大臣。まだまだある▼立憲主義の破壊、国政の私物化と批判するのは当然だが、これらの言動は、私たち、普通の人々は世間で決してしないだろうと思う。安倍首相やそれに連なる人たちは、世間の生活感覚とズレているのではないだろうかと、しきりに思う▼こういう人たちに「改憲」云々を言われたくない。住太夫さんの言葉は深い。(真)

    ----------------------------------------------------------------------------------

戦争の悲惨さ伝える群読
みなべ「九条の会」総会で




 みなべ「九条の会」(柳田孝二世話人代表)の総会は26日に南部公民館で開かれた。会員約40人が日本国憲法9条を守る運動の取り組み計画などを協議したほか冒頭では群読も行われた。
 群読の題材は「少年の死」(澤地久枝著『蒼海よ眠れ』より)。5人の朗読で、航空母艦「赤城」の乗組員の15歳の少年が太平洋戦争のミッドウェー海戦で戦死した悲しい事件を読み上げた。
 総会では柳田世話人代表があいさつで9条改憲の動きについて説明し、「住民との対話で学ばせてもらいながら我々の考えも訴え、理解者を広げていこう」と呼びかけた。7期(11月26日から2年間)の活動計画では、会員を増やすこと、学習会やイベントの開催、3000万人署名の達成などに力を入れることを確認した。(日高新報11月27日付)

    ----------------------------------------------------------------------------------

民主主義の土台を壊す選挙制度

11月3日、「守ろう9条 紀の川 市民の会」の「第14回憲法フェスタ」が開催され、名古屋大学大学院教授(憲法学)・本秀紀(もと・ひでのり)さんが「安倍政権の9条破壊を許さない」と題して講演されました。要旨を3回に分けてご紹介しています。今回は2回目。

本 秀紀 氏 ②



 選挙の結果だが、自民は比例区で33.3%の得票を得て、37.5%の議席だが、全体では61.1%の284議席を得ている。選挙制度とはその時々の国民の民意を議会の構成へ変換する装置だ。選挙制度がどうなっているかによって、選挙時に表れた民意と、それが国会の中に反映しているかの両方を見なければならない。どういう形で各政党が支持を得たかは、選挙時の得票率がインプットで、アウトプットは議席数になる。日本では議席の数しか見ようとしていない。だから新聞報道などで「自公大勝」となる。それでは民意は掴めない。選挙制度によって改造された形で議席が決まっている。衆議院の選挙制度の現実的機能は小選挙区制で、一番しか当選しないので、各政党の得票率と議席の率に全く関係がない。全国的にどこでも大体同じような支持率の場合、どこでも相対的に第一党が議席を取る可能性が高い。第一党である自民党が全議席を取っても不思議はない。実際はそうならないので、目減りするが、自民党は小選挙区で48.2%の得票をしたが、議席は75.4%だった。これで今回の大勝が決まった。少数派は排除されるが、典型的には共産党がそうだ。比例代表はお情け程度のもので、全体としては小選挙区中心の制度になっているので、自民党は3分の1程度の得票で、6割以上の議席を取っている。自公では45.8%の得票で67.3%、3分の2以上の議席を獲得している。3分の2だけを見れば、ものすごく支持されていように見えるが、実際はそんなことはない。出口調査や世論調査では、安倍首相を信頼しない人は51%になっている。信頼しない人が過半数いるのに与党が3分の2の議席を取るということだけでも、この選挙制度はおかしいし、今の日本でうまく機能する制度でないことは明らかだ。また、共同通信調査では安倍三選を望まない人は51.2%だった。国民の半数以上の人は安倍政権はやめてほしいと思っている。大体、安倍政権支持は3割だ。さらに投票率は5割ぐらいしかない。有権者全体から見る絶対得票率は17.9%にしかなっていない。2割弱の安定的な支持さえあれば、公明党のバックアップを受ければ、そして投票率さえ上がらなければ、与党で3分の2は常に取れる。こういう選挙制度はまだ国民の中で大きな問題になっていない。9条改憲とか消費税とかとは違うレベルの問題だ。そもそも、政治的な意見の違いに関係がなく、民主主義の土台がこんな無茶苦茶なルールで、その上で政治をやっていること自体がおかしいし、これが解決されていかないと、国を動かしていくことにはなり難い。
 11月2日、衆議院の憲法審査会が始動した。安倍首相は「自分の任期中に」「憲法施行70年に当り」「2020年に」などと言っているが、これは憲法改正には何の関係もないことだ。意味のないことがまかり通っていくことを何とかしなければならない。安倍首相は都議選で大敗したが、強気な姿勢は崩していなかった。おそらくは起死回生の一発として解散総選挙を考えたのではないかと思う。「国難突破の求心力を高めたいから、国民の信を問う」と言うが、これは北朝鮮問題のためにではなく、総裁三選のために必要だからだ。自民党総裁は次の選挙で勝てそうな人を総裁に立てるということで、良いことを言っているかなどは関係がない。残念だがそれが成功した。
 改憲の内容の4本柱は、①9条1項、2項を残した上で自衛隊の存在を明記、②高等教育を含む教育の無償化、③参院選の合区解消、④緊急事態条項の導入、だ。5月3日に現在の9条をそのままにして自衛隊を加えるという9条加憲論と教育の無償化の2つを言った。改憲のためには3分の2の多数で具体的な改憲案を通さなければならないから、①は加憲論の公明党に対して、②は維新に対しての働きかけで、中身は何でもよいから憲法を変えるために出来ることを提案するというものだ。安倍首相の改憲主張の変遷を見ると、その時々で、これを言えば各党の合意が得られるのではないか、国民投票で賛成されるのではないかというものを打ち出し、その都度反対を受け、次はこれ、次はこれと打ち出し、今は9条加憲になっている。要は何でもよいから改憲して名を残したいと思っているように見える。元々安倍首相の発想は「戦後レジームからの脱却」で、戦後レジームはまさに日本国憲法だ。これを否定するところから出発して、「みっともない憲法」と言っている。安倍首相は、日本国憲法の基本的な考え方、個人を尊重し、一人一人の権利を尊重し、多様性を重んじ、自由にものが言えて、平和なうちにみんなが自分の幸せを追求していくことを引っくり返して、「美しい日本とは確たるもので、そのために国民はかくあらねばならぬ。この色に染まらない者は非国民である」というようなものに変えたいのが本音だろう。自分に反対する人がいたら、「こんな人たちに負ける訳にはいきません」と言う。自分の考え方と違う人は認められないということで、戦前の非国民と同じだ。本当は日本国憲法の価値そのものをまるごと捨てたいのだろうが、それはなかなか合理化出来ないので、まずは出来るところからやるという発想なのだろう。9条加憲論は政党同士の枠組みの中でも合意が得やすく、かつ国民に対してもアピール力があるというふうに踏んだのだろうと思う。(つづく)

    ----------------------------------------------------------------------------------

自民党改憲4項目を検証
弁護士9条の会がリレートーク




 11月21日、憲法9条を守る和歌山弁護士の会は、あいあいセンター(和歌山市)でリレートーク「自民党・改憲4項目の検証」を開催しました。
 「憲法への自衛隊明記」について芝野友樹弁護士は、「災害救助など国民が考える自衛隊と憲法に書き加えようとしている自衛隊は同じものではない」と指摘。「今は自衛隊法と憲法では憲法が上位で、自衛隊法を考える時は、憲法9条1項2項による必要がある。しかし、加憲すると、『自衛隊』が憲法上認められ、同位置となる。『自衛隊』規定が、憲法9条1項2項の解釈に影響を与えうることになり、自衛隊の行動範囲が拡大する。今後さらに拡大して、9条1項2項は空文化し、歯止めがなくなる危険ある」と指摘しました。
 「緊急事態条項」について浅野喜彦弁護士は、緊急事態条項の中身は「立憲主義の一時停止、人権の制限、権力の集中」であり、ワイマール憲法下のナチスの例を紹介。そして日本国憲法に緊急事態条項がないのは、「過去の反省からあえて外した。徹底的な平和主義を採ることとの調和」と指摘。災害などに必要との自民党の主張は、「すでにある法律で対応可能」と断じました。
 「教育無償化・参議院の合区解消」について重藤雅之弁護士は、民主党政権は法律で高校授業料無償化などを実現した。当時の自民党は「理念なきバラマキ」と批判していた。憲法26条の「法律の定めるところにより」で教育制度の整備は可能、憲法改正は不要だと指摘するとともに「国民の理解が得やすいために改憲項目にあげている」と批判しました。
 「国民投票を見すえたこれからの運動」について藤井幹雄弁護士は、「国会発議までは、『市民と幅広い連帯。一括しての国民投票にさせない。国会議員への働きかけ』が必要。国民投票までは、公職選挙法のような制限も、テレビ・新聞広告にも規制がない。財力の差をどう埋めるかが問題。金がなくても、我々には『人』がいる」と指摘しました。

    ―――――――――――――――――――――――――――――
(2017年12月06日入力)
[トップページ]