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「改憲は国民投票で否決」という考え方は危ない
11月11日、「守ろう9条 紀の川 市民の会」の「第15回憲法フェスタ」が開催され、名古屋学院大学教授(憲法学)・飯島滋明さんが「自民党改憲案にどう向き合うか~私たちの具体的な対抗策は~」と題して講演されました。要旨を3回に分けてご紹介します。今回は1回目。
飯島 滋明 さん ①
自衛隊を憲法に書き込むことは、安保法制を、そして自衛隊が世界中で戦ってもよいということを憲法的に認めるということだ。そうなると、一般の国民には「自衛隊が海外で戦っている時に、お前たちは歌を歌っていていいのか」ということになる。戦争を批判すると、「自衛隊は命を懸けて戦っているのに、批判するのか」と必ず圧力がかかる。自衛隊が海外で戦うことは、こうしたところにも色々な影響がある。今、大学では軍事研究はしないと言えるが、自衛隊が憲法に書き込まれたら、憲法上の存在である自衛隊のために研究せよと言われたらイヤとは言えない。よい例が医学の軍事利用だ。自衛隊が海外で戦う時、そのための医療を提供せよと言われ、自衛隊の被害を少なくし、敵を多く殺すために医学を使えと言われるかもしれない。このように9条は、今は学問の軍事研究の歯止めになっているが、自衛隊が書き込まれると、現状を認めるだけでは済まないということを認識する必要がある。
自民党は憲法を改正してどうしたいのかを動画で見てみたい。「憲法草案というものが発表された。国民主権、基本的人権、平和主義、これは堅持すると言っている。この3つを無くさなければ、本当の自主憲法にはならない。人権が、平和がどうだとか言われたりすると、おじ気づく。これは我々が小学校からずっと教え込まれてきたからだ」(元法務大臣・長勢甚遠氏)。「日本にとって一番大事なのは、皇室であり、国体であると常々思っている」(外務副大臣・城内実氏)。「今奪われている領土を取り戻そう。北方領土、竹島。主張するだけでなく行動しなければいけない。さらに尖閣は使っていこう。軍事利用しよう」(総理大臣補佐官・衛藤晟一氏)。これが12年に自民党が憲法改正草案を作ったその直後に行われた「憲法改正誓いの儀式」で述べられたものだ。
04年6月、自民党は「婚姻・家族における両性平等の規定は、家族や共同体の価値を重視する観点から見直すべきである」と言っている。憲法14条は「性別により差別されない」と言うが、戦前の女性の立場は法的に無能力者だった。大切なのは個人よりも家で、子どもを産めない女性は蔑まれ、男性は家のために外に女性をつくるのは当り前だった。GHQは、これは酷いと、憲法24条で男女平等、家族はあくまで個人の尊厳に基づいてつくられなければならないとした。自民党はこれを元に戻し、家族や共同体の価値の方が大切だとしている。
このような改憲は国民投票で否決すればよいという考え方がある。憲法改正は国民投票が必要だが、憲法学的にいうとそんなに簡単ではない。本来国民投票は主権者である国民の意見を聞くことであるはずだが、特にドイツとフランスの歴史を見ると国民投票はそういう使われ方をしてこなかった。権力者の地位や政策を国民投票で強化するために、国民投票が悪用される危険性がある。権力者に悪用される国民投票を「プレビシット」と言う。具体的にはフランスではナポレオン1世、3世は国民投票で皇帝になった。ドイツではヒトラーが国民投票を悪用した。1919年のワイマール憲法には男女平等が書かれており、大統領は直接国民が選んでいた。最も民主的・進歩的と言われたワイマール憲法だが、たった14年で終ってしまい、ヒトラー独裁に至った。その理由のひとつは国民投票と言われている。だから、今ドイツでは一切国民投票はやられていない。独裁者ほど国民投票で国民の信頼を得たとやりたがる。ナポレオン1世、3世、ヒトラー、サダム・フセインなどが国民投票で自分の地位を強化している。国民投票はそんなにいいものではない。安倍自公政権は今国民投票をやれば勝てると思った時に国民投票にかける危険性が高い。また、投票の仕方によっては国民の意志が歪められる。昨年の衆院選では自民党は284議席、公明党は29議席で、自公で3分の2の議席を占めているが、国民はそんなに支持していない。選挙制度次第で3分の2以上の議席を占めてしまうことになる。国民投票が悪用される危険性があるのに加え、投票制度次第で国民の意志はいくらでも歪めることができる。国民投票で決着をつけるというのは危ないことも認識する必要がある。そこを踏まえてどうすれば憲法改正をさせずに済むのかを考える必要がある。国民投票法は「金で買われた憲法改正」の可能性がある。「憲法改正に賛成/反対してください」という国民投票運動のテレビCMは、投票14日前まではやってもよいことになっている。そして、「私は憲法改正に賛成/反対です」という意見表明は当日までやられる可能性がある。人気がある人物を使って当日までやられたら、その影響力は大きいという怖さがある。「デマで欺かれた憲法改正」の危険性もある。例えば、6月の新潟知事選挙では「池田千賀子候補が拉致はなかったという論文を書いている。当選したとしても辞めることになり、また選挙になる」というデマが自民党から流された。このようにデマを鵜呑みにして国民投票が行われる危険性がある。(つづく)
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【予告】「危ないぞ!みんなで止めよう安倍改憲
1・19和歌山県民のつどい」
下記の通り「県民のつどい」が開催されます。多数のみなさまのご参加をお願いします
開催日時:2019年1月19日(土)開場12時30分 開会13時30分
開催場所:県民文化会館大ホール(和歌山市小松原通1丁目1)
プログラム:
◎桂文福さん口演(芸人9条の会、紀の川市桃山町出身)
相撲甚句、河内音頭、9条新作落語
◎小林節さん講演 慶應義塾大学名誉教授・弁護士)
「安倍壊憲をなぜ阻止しなければならないのか」
◎和歌山ピースミュージックバンド(仮称)
【実行委員会構成団体】
安全保障関連法制の廃止を求める和歌山大学有志の会/安保関連法に反対するママの会@わかやま/安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合わかやま/9条ネットわかやま/九条の会・わかやま/憲法九条を守るわかやま県民の会/憲法9条を守る和歌山弁護士の会/戦争をさせない和歌山委員会/和歌山県地方労働組合評議会/和歌山県平和フォーラム
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【九条噺】
下村博文・自民党憲法改正推進本部長が、改憲論議に応じない野党議員に対して「国会議員として職場放棄してもいいのか」と発言した。それが批判され、憲法審査会の幹事就任を辞退。臨時国会での審査会開催を困難にしている▼臨時国会で憲法審査会を開き自民党改憲案を提示するつもりがそれが出来ない。楽観は許されないが、これで7月の参院選前に国会が改憲発議をすることは非常に難しくなったのではないだろうか▼そうすると参院選で改憲勢力の議席を3分の2以下に出来れば、安倍改憲は当面回避できる。そのためには、立憲野党の共闘しかない。11月16日、約半年ぶりに「立憲野党と市民連合の意見交換会」が開催された。立憲民主党、国民民主党、日本共産党、自由党、社会民主党、無所属の会が参加した。国民民主党の参加は初めて▼市民連合のホームページによれば、市民連合の広渡清吾さんは「前回の参院選では、野党と市民の努力により32全ての1人区で候補者の一本化が実現し、大きな成果をあげました。来年の参院選に向けて、この水準を後戻りしてはならないと強く思っています」と発言し、山口二郎さんは「安保法制の廃止、改憲阻止、さらに今の日本政治が直面するいくつかの重要な課題について、前回と同様に政策合意を何らかの形で結び、共通の旗印としていきたい」と提起した▼共闘しなければ選挙に勝てないのだから、早急に選挙共闘をまとめて、安倍改憲阻止に進みたいものだ。(南)
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リーフレット紹介 『憲法9条、明日をつむぐ』
「九条の会」紹介の新リーフレットです。タイトルは、前回と同じ「憲法9条、明日をつむぐ」です。新リーフレットには、「九条の会」アピール、憲法第9条の条文、「九条の会とは」の解説、9人の呼びかけ人の顔写真のほか、新たに12人の世話人の顔写真とメッセージを収録しました。
全国の地域、職場、学園の「九条の会」で、このリーフレットを積極的に活用し、「九条の会」の活動を、文字通り全ての人々に伝え、「3000万人署名」の目標を達成すると共に、新たな「九条の会」を結成するなど地域に根ざした大きな運動と世論を作り上げていきましょう。
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値 段:1部30円/100部以上25円/1000部以上20円
サイズ:B6(B4を4つ折りしたもの)
申込み:「九条の会」へ メール:mail@9jounokai.jp
電話:03-3221-5075 FAX:03-3221-5076
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言葉・「憲法審査会」(2)
日本国憲法の改正に関する審議を行う国会の常設機関です。憲法改正の手続を定めた国民投票法が07年5月に成立したのを受けて、衆参両院に設けられました。憲法改正原案の審議と、憲法や関連法制の調査の2つの機能を持っています。憲法審査会の委員は衆議院が50人、参議院が45人で、国会内会派の議員数に応じてそれぞれ委員を割り当てています。現在の会派別の委員数は、衆議院が、自民28、立憲6、国民4、公明3、共産2、無会2、社民1、自由1、維新1、希望1、未来1で、参議院が、自民24、立憲5、公明5、民主4、共産3、維新2、希会1、希党1です。
憲法改正手続は、衆議院では国会議員100人以上、参議院では50人以上の賛同で憲法改正原案が提案され、衆参両院の憲法審査会で改正原案をそれぞれ審議します。衆参各院の憲法審査会が過半数で可決し、国会本会議で総議員の3分の2以上が賛成すれば、改正案を国民に発議します。
今国会に自民党の改憲案を提示しようと策動している安倍首相は、憲法審査会の開催を狙っていました。衆院審査会は29日、幹事選任を強行しましたが、審議は一度も行われていません。自民党改憲推進本部長に起用された下村博文氏は、「野党は職場放棄」との暴言を批判され、幹事就任を辞退せざるを得なくなりました。そもそも安倍改憲強行には道理がありません。直近のNHK世論調査でも、改憲論議を「早く進めるべき」17%、「急ぐ必要はない」50%です。憲法を守らない安倍首相に憲法審査会の開催など言う資格はありません。憲法審査会を早期に開く必要は全くないのです。
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