「九条の会・わかやま」 376号を発行(2019年06月24日付)

 376号が6月24日付で発行されました。1面は、第60回「ランチタイムデモ」実施、2大迷信が今日本を支配している(長峯信彦 氏 ①)、辺野古の問題は全てそこには民主主義と地方自治の問題がある(稲嶺 進 氏 ②)、九条噺、2面は、日本は米国に言われるままに戦える国に変えられようとしている(望月衣塑子氏 ④)、3面は1面と2面からの続き   です。

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[本文から]

第60回「ランチタイムデモ」実施



 好天に恵まれた6月12日、60回目の「憲法の破壊を許さないランチタイムデモ」(呼びかけ・憲法9条を守る和歌山弁護士の会)が行われ、60人の市民が参加しました。
 このデモは安倍政権の集団的自衛権行使容認の閣議決定が迫った14年6月23日に始まり、60回目を迎えたものです。
 和歌山市役所前での出発前の挨拶で、共同代表である藤井幹雄弁護士(参院選和歌山選挙区野党統一候補)は、「5年前、集団的自衛権を容認する閣議決定を機に、この運動が始まり、現在まで憲法違反の状態は続いている。安倍政権による憲法改悪の企みを阻止することを目指してがんばろう」と訴えました。

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2大迷信が今日本を支配している

 6月2日、「守ろう9条 紀の川 市民の会」第15回総会で愛知大学教授(憲法学)・長峯信彦氏が「安倍改憲のトリックを斬る~憲法制定過程の真実と平和憲法を守る歴史的責任~」と題して講演をされました。その要旨を3回に分けてご紹介します。今回は1回目。

長峯信彦 氏 ①



 ノンポリ市民や学生と話していると、「憲法はアメリカが作った」と普通に言う。どうしてそう思うのかと問うと、父や高校の先生が言っていたと、誰かから聞いてそう信じ込んでいる。また、北朝鮮のような国がいたら憲法9条で大丈夫なのかと言う。この2つが迷信のようにノンポリ市民の頭にこびり付いている印象がある。「アメリカが作った」「9条では日本は守れない」という2大迷信が今日本を支配している。政府権力者たちはこの2大迷信が憲法改定に非常に大きな影響力を持ってくると思っている。だからこれにどう立ち向かうかが私たちの課題だと思う。
 「ニーメラー牧師の警句」は、「ナチスは最初、ユダヤ人を攻撃した。私はユダヤ人ではなかったから黙っていた。そして彼らは共産党を攻撃した。私は共産主義者ではなかったから黙っていた。更にナチスは、社会民主党や自由主義者を攻撃し始めた。この時は少し怖いと思ったが、自分は聖職者だから大丈夫だろうと思っていた。最後にナチスは、キリスト教の教会を攻撃した。私は牧師だったので、この時はさすがに声を上げたが、もうその時、一緒に声を上げてくれる者は残っていなかった」と言う。これは大変有名な警句だ。  私たちは、「憲法が変わっても自分のバイト代は明日上がるのですか。関係ないでしょう」「憲法を変えても、変えなくても、私の子どもが保育園にいけないと困る」と言っている人たちに「憲法が変わればどれほど大変なことになるのか」を伝えていく必要がある。
 日本の軍事費が今後うなぎ登りに上がることは明らかで、憲法に自衛隊を書いていない状態でも軍事費が増大している。日本の軍事費は5兆3000億円で、文教科学予算とほぼ同額だが、内、科学予算が1兆3000億円ぐらいで、教育予算は4兆円しかない。日本は軍事費が年間の教育予算を遥かに上回っているという国だ。日本の軍事費は世界で7~8位ぐらい、かつては第3位だったが、今も世界で1桁に入っている。憲法9条に自衛隊を書かない現状でこれだけの軍事費が使われて、私たちの生活を圧迫していることを認識する必要がある。軍事費がもし削られれば、保育園は一体いくつ出来るのか、F35Bは1機180億円もする。軍事費は経済循環しないお金だ。生産・消費の循環で、軍事費の消費は戦争以外にない。米軍は10年に一度ぐらい大きな戦争を繰り広げ、武器・兵器の在庫一掃をしている。イラク戦争のように敵を見つけたらやっつけていく、若いノンポリ市民はこんな話を聞くとびっくりする。これは高校で政治的なことに触れさせない教育の影響が非常に大きい。一方大学では、戦争法制の時に憲法学者が街頭に出て一同に会してやったことは大きな事件だったが、自慢話と曲解する学生もいる。私たちはノンポリ市民を相手にどう話していくかが非常に大事だ。
 「憲法」とは、空気や水のような存在で、平常は意識しないが非常に大事なもので、なくなって初めてそれが分かる、そんな存在だと思う。国や社会のあるべき姿を定める基本的な法規範で、安倍首相を筆頭に憲法によって国が作られているという感覚が希薄だという気がする。一方、憲法は「固くて難しくて近寄り難い」と言われる。渡辺洋三氏は「憲法学や法律学ほど、人の心を必要とする『血の通った学問』はない」「法律の論理は堅苦しくて難しく見えるが、それは人の心を守るための鎧であって、鎧だから固く見えるが、それは中にある人の心を守るためのものだ。何を守るかの原点は勉強しなければいけない」と言われている。私たちは如何にしてノンポリ市民を開拓していくか、この一点に知恵を絞っていきたいと思う。
 私は国民投票が今日行われるなら負けない、例え1年後でも負けないと思っているが、だからといって発議していいとは絶対に思っていない。私が安倍首相なら、ある国に水面下で「ミサイルを一本打ち上げて」と頼む。これが国民投票の2~3週間前に行われたら世論は一挙に右寄りになり、改憲成立ということが起きるだろう。これには一定の根拠があり、99年周辺事態法が審議されていた時、その直前に海上保安庁の船が北朝鮮の船と銃撃をするという不審船事件が起り、一気に周辺事態法が必要と世論が傾いて、自民党が強引に可決に持ち込んだ。北朝鮮の権力指導部からすれば日本がアメリカの悪の帝国の手先でいてくれないと、自分たちの権力基盤の存在意義がなくなってしまう。本当に危険だと困るが、適度に危険な感じが望ましい。そのためなら手を貸してやろうかという権力力学が働かないとも限らない。05年の憲法記念日の直前に北朝鮮のミサイルが発射され、その年の憲法記念日は改憲派の集会が大賑わいになった。こういうことを考えると絶対に発議に持ち込ませてはならないと思う。
 「憲法はアメリカが作った」のトリックは、日本が天皇を護る避雷針として、日本の権力者がGHQ草案を選択したというのが事実だ。45年7月下旬にポツダム宣言が出たが、日本はこれを事実上無視するという形で原爆の投下に至ったという経緯があった。広島・長崎への原爆投下の正当化は絶対に出来ないが、もし、日本政府が上手に対応しておれば原爆の投下はなかったかもしれない。日本政府の判断の誤りが原爆投下につながったことは否めない。8月14日にポツダム宣言を正式に受諾したが、それから日本は大きなドラマに巻き込まれていく。(つづく)

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辺野古の問題は全てそこには民主主義と地方自治の問題がある

 5月18日、和歌山市民会館で「We Love 憲法~5月の風に」が開催され、前名護市長・オール沖縄共同代表・稲嶺進氏が「沖縄はあきらめない!~沖縄県民はなぜ辺野古新基地建設に抗うのか~」と題して講演をされました。その要旨を3回に分けてご紹介します。今回は2回目

稲 嶺 進 氏 ②



 今度は特措法を改正し、期限なく使えるようにした。地主が多数だったり、不明だったりするので、県知事の代理署名で対応しようとしたが、太田知事が代理署名を拒否したので、4日間の幻の空白が出来た。そこで、アメリカに安定して提供できる環境を作るべきだと特措法を改正した。3分の2以上の国会議員が賛成にまわったが、特別委員会の野中広務委員長は「沖縄の置かれているこんな状況の中でさらに軍靴で踏み潰すようなことがあってはならない。今の状況は昔の大政翼賛会そのものだ」と発言し、賛成議員から発言削除の動議が出て、議事録には載らなかったが、野中氏は「この法律がこれから沖縄県民を軍靴で踏みにじるような、そんな結果にならないことを、そして私たちのような古い苦しい時代を生きてきた人間は再び国会の審議が、大政翼賛会のような形にならないように、若い皆さんにお願いをして、私の委員会への報告を終ります」と付け加えた。戦争を体験してきた政治家は戦争の酷さ、悲惨さをよく知っている。本土も空襲や広島・長崎に原爆が落されたので、このような発言になった。
 ところが、今の国会議員の9割以上は戦争を知らない人たちだ。だから、維新の会の丸山穂高氏のように「戦争しかないのではないか」のような馬鹿な発言をするようになる。痛みを分かるどころか、戦争をゲーム感覚でしか捉えない。菅官房長官に、沖縄に基地が集中し、どのような経緯を経て、今のような状況になっているのか、沖縄の歴史を勉強したことはありますか、と聞くと知りませんと答えた。こういう人たちがこれからの50年先の日本を決めていこうとしている。憲法改正はその延長線上にあると考えないといけない。
 沖縄は憲法の問題で6回裁判闘争をやった。2回は和解で、4回は沖縄県が負けた。負けたが、ひとつも要求した事実の審理は行われず、全て門前払いで裁判は終った。触れてしまうと大変なことになると思っている。それは安保条約にも関わるからだ。だから、そこに行く前に追い返さないといけない。三権分立などこの国にはないのではないかと思う。多見谷裁判長という人は裁判直前に沖縄に発令されて来た人だが、判決文で国が言ったことを全て引用して、それは審理に馴染まない、法律に反していないとして裁判を終らせてしまった。
 一番最近の裁判でも岩礁破砕の手続きをして県知事の許可を得てやるべきかやるべきでないかでは、政府の言い分では手続きをする必要はないとして作業を強行している。政府は名護漁協が漁業権を放棄したから岩礁を破砕しても何の問題も起らない、手続きも必要ないとしている。本土復帰して47年間、漁業権の有無に拘らず岩礁破砕の手続きはしなければならないというのが全国の自治体に対する水産庁の指導だ。それを根拠に沖縄県が追及をしたが、国はこれをもっと早く解決すべきだったが、出来なかった。しかし、このことを一度も口にしたことはない。辺野古でこんな問題が出て初めて問題になったのだが、これまでの指導を変えて手続きは必要ないという解釈をした。土砂投入はほとんど赤土という状況で行われている。環境アセスメントで指摘されたことも何にもしない。その中のひとつにジュゴンの餌場、藻場、海亀の産卵場所、貴重な珊瑚礁などは自然保護の観点から工事をする前に然るべきところに移植をして、自然保護が出来ることが確認された上で、工事を進めるということが、仲井真知事の許可書に書かれている。これが何ひとつクリアされていないのに、工事が終ってからやると言っている。工事が終ればみんな死んでしまう。どうしてこんな言い分が通用するのか。全部はぐらかして、国の思う壺になってしまう。辺野古の問題は全て、そこには民主主義の問題があり、地方自治の問題がある。名護市長、沖縄県知事が持っている権限がひとつもクリアされないままに、工事が進められている。そのことを裁判所に訴えても裁判所はそのことは別の問題だと、早々と国に軍配をあげてしまう。昔、この計画は頓挫する、完成しないのだということがあった。ひとつは90mのマヨネーズのような軟弱地盤を改善するのに何年かかるのか、どれだけの金がかかるのか、これについて国は一言も答えない。然るべき時にするという話だ。然るべき時とは何時だ。県の試算では2兆5500億円、13年だ。その時は軟弱地盤はまだ70m以内の話で、その後90mというのがはっきり分かってきたので、県が試算した2兆5500億円と13年はそれ以上のものがかかることになる。何時までかかるか分からない、いくらかかるか分からない、そんな公共工事があるのか。県や市町村の工事なら申請しても直ちに却下される。(つづく)

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【九条噺】

>  「兵は凶器なり」(『国語・越語』他)という中国古典の言葉がある。この「兵」は武器の意味で、武器は人を殺傷する危険で不吉な道具であり、国家間の争いごとを戦争で解決しようとするのは愚策で、外交交渉によって解決を図るのが上策だという、伝統的な考え方を表している▼今の日本は、安保法制によって海外にも参戦できるようになり、兵器の面では、専守防衛の枠を超える自衛艦の空母化、ステルス戦闘機や、さらにイージス・アショア設置などの「爆買い」によって兵器大国への道を進んでいる▼かつては憲法9条の戦力不保持と整合させるため、専守防衛に限る最低限の防衛力という縛りがあったが、タガが外れた状態だ。大量の武器を保有すれば使われる恐れが無くはない▼先日「北方領土を戦争で取り返すべきではないか」と妄言を吐いた衆議院議員に対して、衆議院で糾弾決議が可決された。外交交渉を台無しにする妄言で、憲法擁護義務にも反するから、決議は当然だ。ただ、領土をめぐるナショナリズムが高じた戦争発言で、武器を使い人が死ぬことまで思わなかったかも知れない▼政党除名、衆院糾弾決議など社会的な厳しい批判が起きたことは安心できる。しかし今後、「戦争すべし、武器を使え」という世論が作られる恐れも皆無ではない▼兵器大国であっても、使わないという世論が広く定着していれば、ひとまずは安心できる。「兵は凶器なり」「戦争はいけない」と後世にまで伝えたい。(柏)

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日本は米国に言われるままに戦える国に変えられようとしている

 4月26日、青年法律家協会和歌山支部のが開催され、東京新聞・望月衣塑子氏が「民主主義とは何か・安倍政権とメディア」と題して講演をされました。その要旨を4回に分けてご紹介しています。今回は4回目で最終回。

望月衣塑子氏 ④



 安倍首相は沖縄本島にミサイル部隊を置く、南西諸島にも新部隊を創設し、宮古島を始めミサイル要塞化が進んでいる。何故こんなに進んでいるかというと、12年12月に米国防大学のハメス教授が「オフショア・コントロール戦略」を発表した。これは中国とアメリカが全面対決をしたらどちらも核戦争で壊滅するで、全面対決を避けるために、中国と海域を接する同盟国がその海域上で限定的な戦争を行う。結果的に中国が勝つが、国際的な批判、経済封鎖が行われ、中国は全くメリットがないと現状に復帰するという理論が打ち出された。この後南西諸島への陸自部隊の配備が決まっていった。南西諸島戦略はアメリカの戦略の中に組み込まれたものだ。宮古島には来年は800人が配備され、保管庫だということで弾薬庫が作られた。
 安倍首相になって、11年度の兵器ローン2兆9000億円が、19年度は5兆3000億円となり、年間の国防費を凌ぐ費用を子どもたちの世代に付け回している。私たちは国民の生活を豊かにするためにどちらを選ぶかということだ。国民の声に耳を傾け、第三者を交えて調査し、しっかり国民に報告し、批判にも耳を傾けねば、安倍政権はいずれ崩壊に向うだろう。モリ・カケ問題、データ改竄、スーダン日報隠しなど、現場で取材をしていると、官僚たちが持っているデータが意図的にマスコミに伝えられている。今政権を支える官僚の側にも、さすがに安倍政権は酷すぎるという不満や不信感が高まっている。いろいろと匿名で話してくれる人も増えてきた。昨年3月末、経産省幹部は「打ち合わせの記録など発言の詳細は必要ない」「官邸、政治家、省庁間の発言、一切記録に残すな。全部口頭でやれ」と言っている。公文書管理法の趣旨から全く逆行する流れになっている。メディアトップと安倍首相の会食も増えている。トップがそんなことをやっていると現場は萎縮してしまう。メディアの役割りは権力の監視だ。日本の報道の自由度ランキングは最下位の67位だ。「ジャーナリズムとは報じられたくないことを報じることだ。それ以外のものは広報に過ぎない」(ジョージ・オーウェル)。
 ジャーナリストとしては、自分の五感をフルに活用し、権力と対峙する位置にいるか、そして疑問や疑念が自分の中で解消出来るか、世界や日本の人々にとってベストなのか、自分やお友だちのためだけでなく、力の弱い多くの人々が幸せになれる方向かを考えなければならないと思っている。
 9条加憲は自衛隊を書くだけだと一見もっともらしい主張だが、2項の戦力の不保持、交戦権の否認を3項加憲によって無力化するものに他ならない。9条は今まで人類が築いてきた理想・英知を最も吸収したものでその精神は2項に宿っていると言われている。これを3項加憲によって無力化しようとしているのではないか。安保法、武器輸出とセットになり日本はアメリカに言われるままに戦える国に変えられようとしているのではないか。シナイ半島の多国籍軍へ派遣が決まった。アメリカは中東やアフリカに置いている米軍の代わりに自衛隊を置きたいという方向を考えていると言われている。安倍首相は「今こそ新たな国づくりを共に進めよう」と言っているが、時の権力者が個人の自由や尊厳を奪うことに抵抗するために憲法がある。
 9条についての幣原喜重郎は「正気沙汰とは何か。武装している相手に武装宣言をすることが正気の沙汰か。それこそ狂気の沙汰だという結論は考え抜いた結果出ている。武装する相手に裸で立ち向かうのは狂人だと言われるだろう。世界は今一人の狂人を必要としている。自ら買って出て狂人とならない限り世界は軍拡競争の蟻地獄から抜け出すことは出来ない。世界史の扉を開く、これは素晴らしい狂人である。その歴史的使命を今こそ日本が果すのだ」と言っている。この74年前に幣原の思いによって憲法9条が作られ、74年間も「狂気」によって一人の日本人も戦争に手を染めることもなく、今の平和国家日本があり続けたと思う。もう一度幣原の思いを受け止めて、次の子どもや孫にバトンタッチしていくことが必要だ。
 沖縄の翁長前知事は願いとして「アジアの様々な国の人が行き来出来る沖縄になれば良い。どこかの国が戦争をしようとしても、自国民がいるから戦争できない、平和の緩衝地帯、そんな場所に出来たら」と語っていた。今後は一人一人の思いを一票につなげることによって、政治を一部の権力者のものでなく、私たち市民の手に取り返すことが出来ると思う。
 ガンジーは「あなたのすることの殆どは無意味であるが、それでもしなくてはならない。そうしたことをするのは、世界を変えるためではなく、世界によって自分自身が変えられないようにするためである」と言っている。(おわり)

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(2019年07月01日入力)
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