「九条の会・わかやま」 375号を発行(2019年06月13日付)

 375号が6月13日付で発行されました。1面は、沖縄の今の状況は全て憲法を逸脱する解釈でやられてきた(稲嶺 進 氏 ①)、「守ろう9条 紀の川 市民の会」第15回総会開催、九条噺、2面は、第9回「呼びかけ人懇談会」開催 九条の会・わかやま、安倍政権下で進む米国製兵器購入と米軍との一体化(望月衣塑子氏 ③)、3面に1・2面からの続き   です。

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沖縄の今の状況は全て憲法を逸脱する解釈でやられてきた

 5月18日、和歌山市民会館で「We Love 憲法~5月の風に」が開催され、前名護市長・オール沖縄共同代表・稲嶺進氏が「沖縄はあきらめない!~沖縄県民はなぜ辺野古新基地建設に抗うのか~」と題して講演をされました。その要旨を3回に分けてご紹介します。今回は1回目

稲嶺 進 氏 ①



 昨年2月まで8年間、辺野古には新基地は作らせないとやってきたが、国は名護市長が持つ地方自治法上の権限をひとつもクリアすることなく作業を進めてきた。憲法もそうだが、法律も自分の都合のよいように解釈し、それを法治国家のように言っているが、今の沖縄の状況は全く法治国家の名に値しない。今、沖縄が置かれている状況は、全て憲法を逸脱あるいは憲法をすり抜けるような解釈をすることでやられてきている。
 沖縄は太平洋戦争が終って73年を迎えるが、本土防衛の時間稼ぎ、捨て石作戦で、唯一地上戦が行われ、20万以上の人命が失われた。日本は、52年のサンフランシスコ講和条約の発効で主権を回復し独立したことになり、2013年、終戦61年に当り「主権回復の日」の祝いをした。しかし、沖縄は52年4月28日から米軍の占領下、統治下に27年間置かれることになった。沖縄は日本国憲法や全ての法律の適用を受けることなく、アメリカ人でもない、日本人でもない27年間が続いた。パスポートを持って沖縄と本土を行き来した時期もあった。パスポートを発行するということは同じ日本国ではないということだ。その時沖縄を統治していたキャラウェイ高等弁務官が布告を出せば全てが決まってしまうということがあった。高等弁務官の言葉に「沖縄の自治は神話だ」がある。「ネズミは猫が許す範囲しか遊べない」とも言っている。沖縄をそのように見て、占領地として統治をしていた。キャラウェイは陸軍・海軍・空軍・海兵隊のトップを兼任する軍人だ。27年間に5回のお金の変遷があった。戦前は日本と同じ円を使っていたが、敗戦後はアメリカの統治下でドルではなく、軍票(B円)という沖縄だけで通用するものが作られ、その後ドルが使われ、72年に本土復帰をすると、日本円に戻った。このように通貨まで自由に変えられた。交通も日本では左側通行だが沖縄は右側通行だった。復帰したら左側通行に変わった。生活も制度も全てが一変してしまうという状況で、沖縄は27年間の苦い屈辱を味わってきた。
 どうして27年間が始まったのか。52年4月28日にサンフランシスコ講和条約が発効したが、それが締結される前に「天皇メッセージ」があり、当時天皇の戦争責任を問うか問わないかが議論されていたが、沖縄の長期占領を天皇がマッカーサーに親書で伝えた。それもあってサンフランシスコ条約第3条で奄美以南を米軍の統治下に置くことになった。同時に日米安保条約、地位協定が発効した。51年9月8日、サンフランシスコ条約はオペラハウスで調印されたが、安保条約は基地の中の陸軍の下士官クラブで調印された。これは負けた国に思い知らせてやるという意味があるのだそうだ。その時にアメリカは日本に、「我々が望むだけの軍隊を、望む場所に、望む期間だけ駐留させる権利を確保すること」を要求した。これで日本はアメリカに軍事基地を提供する責任を負うことになった。当時は全国どこにでも基地があり、7割以上は本土にあった。今は逆に7割以上が沖縄にあるが、安保条約を結ぶことで軍事基地提供の義務が発生することになり、52年に駐留軍用地特措法が作られた。土地収用法があったが取り扱いが難しいので、簡単に米軍に提供出来るように作られた。本土にある基地はほとんどが国有地だったが、沖縄は7割が民有地なので、特別措置法を作らないと収用に時間がかかるので、新しい法律まで作って、基地を提供していくということになった。憲法には財産権や基本的人権が明記されているが、安保条約が憲法より上にあるので、憲法でも許されないような法律を作り、アメリカの言うなりに全てやらなければいけないという状況が安保条約を結ぶことによって、国民に押し付けられた。本土では国有地のため、そのまま通ってしまった。沖縄は72年に本土復帰が決まると、市町村や個人の土地であったりするので、接収して軍用地として提供するのが難しくなる。そこで前年の71年12月に公用地暫定使用法が作られた。この時期は日本復帰の5カ月前で、沖縄にだけ適用する法律が作られた。憲法95条では、一地域に適用する法律はその地域の住民の承認を得なければならないとなっている。ところが本土復帰は72年5月なので、この時点では沖縄は日本ではない。その時に沖縄にだけ適用する法律を作った。これは日本国憲法違反ではないのかと、沖縄では裁判になり、最高裁まで争ったが沖縄は負けてしまった。まだ憲法が適用されていないからだ。2月の県民投票や知事選や国政選挙などで示された県民の意思を全く無視をする、本当に地方自治や民主主義はあるのかということで、怒りを込めてやっているが、構造的差別がこれまでも続いている。
 これに対して、何の心も痛まない、思いを馳せることも全くない冷たい仕打ちが沖縄に次々とやってきた。これは5年間の期限付きの法律だった。5年間では今まで軍用地として収用したものの契約が出来なかった分が、5年間で何とか出来るだろうということで、5年間の期限付きの法律を作ったのだが、5年間でほとんど前に進まなかった。今度はすぐには改正が難しいので、また新しい法律を作った。何故、土地収用がうまくいかないかは、「地上戦で全て焼け野原になって、境が分からない」「公簿が全部消失した」からだと理由を付け、境界を明確にするための法律を作って、また5年間引き延ばした。それでもなかなかうまく進まない。沖縄の土地は基本的に銃剣とブルドーザーで取り上げられたという現実がある訳だから、自分の土地を守りたい、取り上げたものは返せという土地闘争が高まり、うまくいかない。(つづく)

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「守ろう9条 紀の川 市民の会」第15回総会開催

 「守ろう9条 紀の川 市民の会」は6月2日、和歌山市・河北コミュニティセンターで第15回総会を開催しました。総会では、愛知大学教授(憲法学)・長峯信彦さんが「安倍改憲のトリックを斬る~憲法制定過程の真実と平和憲法を守る歴史的責任~」と題して記念講演をされました。



(原代表)

 開会に当り、代表の原通範さんは、「これから私たちの憲法を守るたたかいは本格的な段階になるので、是非、今日の講演をしっかり聞いて、人々に訴えよう。安倍政権は1機180億円ものF35ステルス戦闘機を147機も爆買いするという。軍事費を増やして教育や福祉の予算が大きく削減されている。軍備拡大ではなく、憲法9条を守り、私たちの平和な生活を守っていこう」と挨拶しました。



(長峯信彦さん)

 続いて、記念講演に移り、宇田ともえさんが講師プロフィールを紹介しました。長峯信彦さんは、「日本国憲法はアメリカが作った」というトリックについて、「天皇を守る避雷針として日本の権力者がGHQ草案を選択した」と指摘し、「統治権は日本国民」「国政の一切の最高責任者は内閣」「天皇は国民の委任により国家的儀礼を司る」などを規定する鈴木安蔵らの「憲法研究会」の憲法草案が現行憲法に結実し、日本人自身の手による審議によって、「国民主権」や「社会権」の明記など重大な修正も行われて日本国憲法が完成したと強調しました。また、「9条は現実に合わせて変えろ」というトリックについては、「現実に合わせて法を変えるなら、路上駐車だらけの道路の駐車禁止措置は解禁しなければならないのですか?」と指摘。日本の軍事費は世界で7~8位。その現実とは私たちが望んでいるのではなく、戦争や軍事行動で利益を得る勢力が望んでいるだけではないのか。日本国憲法は「完全装備の豪華客船」だ。アメリカ憲法にもなかった「社会権」「性別による差別禁止」「女性参政権」も完備済み。「戦争放棄・戦力不保持・平和的生存権」まである世界で最も先駆的な憲法を守ろうと訴えられました。



(講演要旨は次号から3回に分けて掲載予定)




(白井春樹さん)

 続いて、白井春樹さんを議長に選出し、総会議事に移り、金原徹雄さん(運営委員)から、「私たちを取りまく情勢」が、萩田信吾さん(事務局長)から、2018年度の活動内容と決算、2019年度の活動計画と予算が報告・提案され、承認されました。



(萩田信吾さん)

そして、原代表から2019年度の運営委員候補が提案され、承認されました。最後に金原徹雄さんから閉会挨拶があり、総会は無事終了しました。



(金原徹雄さん)

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【九条噺】

 安保法制は憲法違反と、全国で訴訟が起こされているが、札幌地裁は全国で初めて訴えを退ける判決を言い渡した▼この裁判は、北海道の400人余の市民が「集団的自衛権の行使を可能にした安保法制は憲法9条に違反し、平和的に生存する権利を侵害された」として国に自衛隊の派遣差し止めなどを求めたものだ▼4月22日の判決で、札幌地裁・岡山裁判長は「自衛隊の派遣は行政上の権限に基づいて行われているもので、民事裁判で差し止めを求めるのは適切ではない。平和的に生存する権利は法律上保護された具体的な権利であるとはいえない」などとして訴えを退け、安保法制が憲法違反かどうかは判断を示さなかった▼びっくりするのは「『平和のうちに生存する権利』が具体的な権利として保障されているものと解することはできない」という平和的生存権を否定する内容だ▼08年4月、名古屋高裁は、自衛隊がイラクで多国籍軍を空輸することはイラク特措法と憲法に違反すると結論づけ、「平和的生存権は、憲法上の法的権利」と認める画期的な判決を出し、この判決は確定している▼弁護団が「平和的生存権は具体的権利性を有し裁判上救済されるべき権利として理論的発展を遂げている。札幌地裁が迫り来る戦争の危機に一切目を背けて憲法判断を避けたことに、強い怒りを表明し、このような司法と裁判官の責任を糾弾し、徹底的に追及していく」と言う通り、この判決は司法の戦争加担に他ならないと思う。(南)

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第9回「呼びかけ人懇談会」開催
九条の会・わかやま







 5月25日、和歌山県JA会館で第9回九条の会・わかやま「呼びかけ人懇談会」が開かれ、呼びかけ人の江川治邦さん、中西重裕さんと事務局員4名が出席しました。まず柏原事務局長から、安倍首相が改憲発議に執念を燃やし、自民党各支部ごとに改憲推進本部をおいて改憲を目指しているが、情勢を見据えた運動が必要だと挨拶しました。次に南本事務局員から配布資料に基づき、最近1年を中心に会務報告を行いました。
 続いて、参加者が自由に話し合い、「呼びかけ人のそれぞれの興味深い日頃の活動を、平和を守る活動とうまくマッチングできないか」「催しのマスコミへ告知はしているが反応が乏しい」「会紙は読者も多く、転載などよく利用されている」「和歌山県の9条の会が一緒になって新聞に意見広告を出すことを考えてはどうか」等々が話し合われました。
 最後に、次のことを申し合わせました。①引き続き、県下の9条を守る運動の情報を会紙とホームページで広報し、記録していく。②前回の懇談会で提起された「現状の呼びかけ人以外に、9条を守る運動を呼びかける人の補充」の件は、一人でも二人でも適切な方を見つけるべく心がけていく。

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安倍政権下で進む米国製兵器購入と米軍との一体化

 4月26日、青年法律家協会和歌山支部の「憲法を考える夕べ」が開催され、東京新聞・望月衣塑子氏が「民主主義とは何か・安倍政権とメディア」と題して講演されました。その要旨を4回に分けてご紹介しています。今回は3回目。

望月衣塑子氏 ③



 14年4月に第二次安倍内閣で武器輸出解禁があった。1967年、佐藤栄作首相が武器輸出3原則を提唱し、日本は武器を海外に売らない、共同開発はしない、あくまで自衛隊が使う武器に限定するということを掲げ、日本の防衛装備政策の根幹に位置付けてきたが、これを撤廃した。防衛装備移転3原則で武器を海外にどんどん売り、共同開発をどんどんすることになった。14年6月、最大の武器見本市に初めて日本の装備庁や大手13企業が参加し、各国の軍人や研究者にアピールし、売ることを始めた。愛知県の三菱重工傘下の社長に取材した時は、「望月さんには答えないように言われている」と言われ、防衛官僚からは「あんな記事を書きやがって」「あんたは国防が分かっていない」とかの妨害やプレッシャーに曝された。しかし、防衛企業は、「本当はやりたくない」「軍事に関わる企業評価は低い」「日本の防衛機密が垂れ流されていいのか」などの懸念を教えてくれた。
 菅官房長官は「平和安全法制と秘密保護法施行で機微情報が入るようになった」と言っているが、北朝鮮の情報は入ってこない。今、北朝鮮との情報チャンネルは殆ど途絶えてしまっている。蓮池透氏は「安倍政権で、拉致問題は完全に政治利用されてしまった。1ミリも進んでいない」と発言している。河野洋平氏が北朝鮮への米の支援2万トンを発表した時、蓮池氏は「自分は抗議をしてしまったが、北朝鮮との間に小さなパイプが出来た」と言っている。外交官・田中均氏は北朝鮮や中国に水面下で年間25回も粘り強く交渉を繰り返していた。安倍首相は圧力ばかりで、外交対話による対応を模索しなければいけないはずだ。
 安保法制が通ってから米軍との一体化・共同運用が始まっている。米軍防護は17年の2件が昨年は16件と増え、今、アメリカは南シナ海で「航行の自由作戦」を掲げ、中国軍艦を想定した共同訓練をやり始めているのではないかと言われている。トランプ大統領が17年11月、日米首脳会談で「アメリカの高度な武器をもっと買え。そうすればアメリカの雇用と日本の安保にプラスになる」と発言し、安倍首相はF35戦闘機、無人偵察機など質的・量的に拡大すると答えた。昨年9月、トランプ大統領は、「貿易格差はいやだと言ったら日本はすごい量の防衛装備品を買うようになった」と言っている。これは昨年5月日本の自動車の関税を2.5%から25%にするということが水面下で検討されていた。これをやめさせるため、武器をもっと買うということになりF35を100機以上買うことが決まった。防衛企業は日本で稼げないので、武器輸出を解禁したのだから、中東・アジア諸国に武器ビジネスをもっとやれと言われている。
 しかし、武器輸出は全然うまくいっていない。日本の武器は大量生産してこなかったので単価が高い。かつ戦争をしていないので実戦的な証明が出来ていないなどで、買手が付かない状況だ。例えば、C2輸送機をイエメンに大量空爆をしているサウジ連合軍幹部に売ろうとしたが、サウジはイエメン紛争に介入して800万人の飢餓難民を続出させ、さらに350万人の飢餓難民が出ると言われる。その連合軍幹部に対して川崎重工や装備庁職員が売り込みをやっている状況が起きている。防衛予算は過去最高の5兆1900億円を突破した。昨年より650億円増加した。イージス・アショア2基の購入に1600億円と言われていたものが、4600億円にもなっている。月4万円×4年間の給付型奨学金なら4000億円で20万人に支給出来る。オスプレイ3機分で2万6千人の待機児童は解決出来る。SM3ブロック2Aは一発で30億円だ。他方、西日本豪雨で活躍した災害対応車レッドサラマンダーは1億円なのに全国でたった1台しか保有していない。災害に備えることこそ課題ではないのか。
 今、南北対話、米朝首脳会談が始まっている。米朝では朝鮮半島の完全非核化が確認され、南北では核施設の永久廃棄やミサイル基地の破壊を確認している。2度目の米朝では合意には至らなかったが、2年前の今頃、日本ではミサイル防災訓練をやっていた。この時と比べれば格段に北朝鮮と韓国、中国、アメリカ、ロシアとの対話が進んでいる。唯一はじかれているのが日本だ。米韓軍事演習も縮小ということになっている。トランプ大統領は、「我々は対話がある限り絶対に先制攻撃は仕掛けない」と明言している。対話の道が続く限りは少なくとも2年前の緊迫関係にあった時より改善していると思う。北朝鮮にはかつて300人の日本語学生がいたが、日本語を学んでも将来活かせないと、多くが中国語や英語になってしまった。今、日本語学生は、日朝正常化の後が我々の活躍の場になると言っている。金委員長は今まで軍拡に突き進んできたが、結果として地方の都市は疲弊してしまった。このままではいけないと、軍事よりも経済でいこうと言っている。兵30万人を建設業に移管すると言っている。(つづく)

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(2019年06月13日入力)
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