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自民党の「草の根改憲運動」に対抗する我々の世論形成を
11月3日、「守ろう9条 紀の川 市民の会」の「第16回憲法フェスタ」が開催され、関西学院大学教授(憲法学)・長岡徹さんが「戦場へ行く自衛隊~改めて安保法制の違憲性を考える~」と題して講演されました。講演要旨を3回に分けてご紹介します。今回は1回目。
長岡 徹 氏 ①
参院選の結果をどう見るか。与党と改憲勢力は3分の2に4議席足りないことになったが、憲法を守る勢力は勝ったのかがよく分からない状況だ。「N国」の2人と埼玉の補選で当選した上田氏を加えると差はたったの1人で、「勝った」とは言っておれない状況だ。
選挙のポイントは「安倍改憲策動を勢いづかせるのか」それとも「安倍改憲の息の根を止めるか」ということだったが、改憲策動の加速化は防いだが、断念させる程の結果でもなかった。安倍首相は改憲を参院選の争点に設定した。16年7月の参院選では、改憲勢力は衆参両院で3分の2を獲得した。ところが、国会での審議が進まないので、17年5月3日にビデオレターで「9条1項、2項をそのままにして、自衛隊を書き入れる」と言い出した。「自衛隊の合憲化が我々の使命だ」とし、「20年を新しい憲法で迎えよう」と言った。17年の臨時国会に改憲案を提出して、18年の通常国会で発議をすれば、9月前後に国民投票があって改憲が成立するということだったが、なかなか進まない。10月に「国難突破解散」が行われ、初めて公約の重点項目に改憲を入れ、3分の2を確保したが、臨時国会では「モリ・カケ問題」で動かない。自民党内も「9条2項削除」でないので意見がまとまらない。3月にようやく「改憲4項目」を提示したが、議論は進まない。10月に総裁3選になったが、国会議論が進まないのは憲法審査会の自民党メンバーが生温いと、従来の憲法族を外して安倍側近を憲法改正推進本部に入れた。下村博文氏は「議論すらしないのは職場放棄だ」と言い、ますます議論が進まなくなった。萩生田幹事長代行は「少しワイルドな憲法審を見せないといけない」と言って、さらに進まなくなった。安倍首相は憲法審査会でどんどん議論させ、改憲を進めようとしたが動かない。それは国民世論の支持がないからだ。安倍首相は国民世論を大きく変えるために、改憲を参院選の論戦の主要課題にして3分の2を確保しようとしたが、NHKの調査でも論戦は殆ど行われず、大きなテーマにはならなかった。共同通信の出口調査では安倍改憲に無党派の63.6%が反対していた。今の選挙は無党派の動向が鍵だから、憲法改正の国民投票は危ないということになる。
こういう状況で、世論調査を見ると性急な安倍改憲には慎重な方がいいという世論が増えている。ところが安倍首相は、まず、自民党全党挙げて改憲を進める体制を作らなければならないと、二階・岸田両氏を幹事長と政調会長に据え、全党で改憲に取り組むよう指示している。
2つ目に野党を分断して改憲論議に持ち込もうとしている。国民民主・玉木代表はネット番組で「我々も改憲論議は進める」と発言した。新聞でも「自民党案には反対だが、我々の案を提示して国会での議論を進める」と言っている。こうした野党を分断しようと狙っている。まずは、国民投票法の投票年齢を18歳に引き下げることをやろうと言っている。萩生田幹事長代行は衆院議長の交代に言及し、「改憲シフトを国会が行うことが極めて大事」と脅し、議長は参院選に「国民投票法の改正について結論を出してほしい」と発言した。野党の分断には国民民主党が乗りそうなので、それをテコにすればこの議論が進むような感じになっている。
3つ目に自民党は草の根の改憲運動をする必要があると言い出した。今までは日本会議を中心とした運動があったが、これは自民党ではない。これからは党を挙げてやろうということで、10月18日、早速和歌山でやった。自民党和歌山県連主催で異例の規模だった。今後、日本全国でこのような集会が行われていくだろう。これを受けて10月28日、岸田政調会長が埼玉で憲法をテーマにした初めての地方政調会を開いた。これらはうまく行くか。二階氏は「あせってはダメだ」と、岸田氏は「憲法は国民のもので、丁寧な議論が必要だ」と言っている。古賀誠氏は『憲法9条は世界遺産』という本を出している。改憲には日程がまとまるのか。11月は大嘗祭だから、それまでは余り大きなことは出来ない。12月9日に臨時国会が終るが、衆議院の解散はない。来年の通常国会で議論が進むか分からない。五輪とパラリンピックがある。都知事選も夏だ。安倍首相の任期は21年9月なので、それまでにもう一度衆院を解散する。チャンスは20年の秋か21年の春ということになる。この日程を見ながら改憲発議をしようとすると、国会で議論を煮詰めて、衆院を解散して3分の2を確保し、次の国会で発議するということを多分考えているのだろう。衆院選と国民投票の同日実施は運動のやり方が全く違うので想定されていない。このような日程で考えてみたら、「20年に新しい憲法」というのは日程的に難しくなる。
そこで我々はどうするか。相手が草の根でやってくるので、まず、草の根の世論形成が必要だ。かつて「九条の会」が頑張ったから自民党は参院選で大敗し、第一次安倍政権は潰れた。これをもっと頑張らねばならない。2つ目は安倍改憲の危険性があまり知られていない。自衛隊を書くだけならいいのではという人が結構いるので、危険性をもっと伝えなければならない。3つ目に実質的改憲を阻止する。つまり、戦争法を廃止する、自衛隊の中東派遣に反対することなどが重要だ。(つづく)
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「憲法はアメリカが作った」のトリックを打ち破ろう
長峯 信彦 氏
11月9日和歌山市勤労者総合センターで、憲法9条を守る和歌山市共同センターの「憲法学習会」が開催され、長峯信彦氏(愛知大学法学部教授)が「安倍政権のトリックを斬る~憲法制定過程の真実と平和憲法を守る歴史的責任~」と題して講演されました。
長峯氏は、もし改憲発議されても、世論の多くが9条改憲を望んでいない現状では国民投票で否決されるだろうとは言えるが、発議から国民投票までは3カ月空けられるので、その間に、政権側は「日本の未来、新しい憲法YES」といったソフトなスポット広告を繰り返すであろうし、官房機密費による工作、北朝鮮ミサイルでの危機煽り等をすれば、世論がなびく恐れは十分ある。だから発議させないことが大切だと指摘されました。運動課題として2点、①「英語民間試験をはじめ、年金・災害・貿易など非現実的な甘い見通しの下、議論置き去りの政権。『資料出さない・説明しない・強権突破』の『不誠実三点セット』ですり抜ける手法に批判を」②「『憲法はアメリカが勝手に作った』『9条は非現実的で危険だ』という二大迷信を打破する効果的で分かりやすい反論と説明」を提起されました。
次いで、「第1部『憲法はアメリカが作った』のトリック」「第2部『9条は現実に合わせて変えろ』のトリック」への反論を詳しく述べられました。
第1部では、「現憲法に結実した日本人の憲法草案─輝きを失わない鈴木安蔵らの『憲法研究会』草案」を説明、45年11月5日に憲法研究会の初会合があり、既にこの頃GHQでは鈴木安蔵の論文を英訳して注目していたこと、12月26日に憲法研究会の憲法草案公表、46年1月11日憲法研究会案を分析し高く評価した「ラウエル文書」が書かれたことを紹介されました。GHQ民生局ラウエル中佐は、憲法研究会案の「国民主権、差別禁止、労働者の権利」など自由主義的規定を評価しつつ、欠如している重要規定「最高法規性、違憲立法審査権、刑事被告人の権利、地方自治」等を列挙しており、GHQ草案の下敷きになったことがうかがえると説かれました。(柏)(次号につづく)
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【九条噺】
庭にツワブキが咲き始めた。我家のものは園芸品種ではなく、裏山に生えていたものを庭に植えたので野生種だ。キク科の植物だが、菊のような華やかさはなく、野趣豊かな風情で好ましい感じがする▼漢字では「石蕗」と書くそうだが、「蕗(フキ)」とは別種で、フキノトウが出ることもない。フキは秋になると葉が落ちるが、ツワブキは冬にも葉が茂り、その名の語源は「艶葉蕗(つやはぶき)」つまり「艶のある葉を持つフキ」からきているという説がある▼以前、筆者はツワブキが食材として利用されていることを知らなかった。若い葉の下の茎をアク抜きして食用にするという▼数年前、知人の料理人がツワブキの「きゃらぶき」を作ってくれた。フキの「きゃらぶき」は何度も食べたことがあるが、ツワブキのものは、また別の味で非常に美味しいと思った▼ところで、島根県の津和野は「ツワブキの生い茂る野」をその名のルーツに持つといわれている。遠い昔、山紫水明のこの地に住みついた人々は、群生するツワブキの可憐な花に目をとどめ、その清楚で高雅な風情に魅せられ、自分たちの住む里を「つわぶきの野」…「つわの」と呼ぶようになったという▼安倍首相は任期中に改憲を目指すと言っており、目が離せない。ツワブキの花や「きゃらぶき」を愛でる心の余裕を持ちたいものだが、安倍首相がいる限りはちょっと無理か。(南)
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第65回「ランチタイムデモ」実施
11月11日、回を重ねて第65回目の「憲法9条を守る和歌山弁護士の会」が呼びかける「憲法の破壊を許さないランチタイムデモ」が、50人の市民が参加して行われました。
和歌山市役所から京橋プロムナードまでの行進の途中、9日から始まっている「ねんりんピック」の参加者とすれちがい、参加者と思える何人かの人たちと手を振って交歓することが出来ました。ゴール地点では「F35よりも首里城再建を!」というアピールに賛同の拍手が参加者から送られていました。
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山の作家 『牛鬼の滝』出版
当会呼びかけ人・宇江敏勝さん
「山の作家」として知られる宇江敏勝さんが、9冊目の民俗伝奇小説集『牛鬼(うしおに)の滝』(新宿書房)を出版した。熊野の山奥に暮らす人々と動物を巡る中編5作品を収めた。
宇江さんは炭焼きや林業を生業としたかたわら、文芸同人誌「VIKING」に小説や詩を寄稿。1980年に発表した自伝『山びとの記』(中公新書)が評判になり、文筆生活に入った。
『牛鬼の滝』は、まだ大塔川流域に原生林が残っていた第2次世界大戦中の話。「黒木」と呼ばれたモミやツガを伐採していた山びとに、子どもの頃聞いた話を元に、今では失われた木こりの技術や習俗、渓谷にすむ妖怪「牛鬼」のたたりと言われた事故などを描いている。
「狼のおぼる夜に」は、戦後間もない時期に政府が進めた開拓事業で、広見川に入植した農家に取材した。絶滅したと言われるニホンオオカミが「おぼる」(吼える)声を聞いたエピソードを下敷きにしている。
宇江さんは「学者が知らない、教養の無い世界を書くことを目標にしてきた。山仕事をしている作家って世界でも僕ぐらいじゃないでしょうか」と。
若いころには広葉樹の自然林がほとんどだった熊野の山々は、針葉樹の植林が進み、大きくその様相を変えた。炭焼きや木挽きなど山の民の営みも失われていく。「今自分が書いておかないと、消えてしまう」という思いで年に1度の作品集刊行を続けていくという。290ページ。2200円(税別)。(朝日新聞和歌山版11月8日付より)
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