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「存立危機事態」で「先制的自衛」が可能になった
11月3日、「守ろう9条 紀の川 市民の会」の「第16回憲法フェスタ」が開催され、関西学院大学教授(憲法学)・長岡徹さんが「戦場へ行く自衛隊~改めて安保法制の違憲性を考える~」と題して講演されました。講演要旨を3回に分けてご紹介します。今回は2回目。
長岡 徹 氏 ②
自民党改憲案4項目について、「教育」は改憲案の26条3項に「各個人の経済的理由にかかわらず教育を受ける機会を確保することを含め、教育環境の整備に努めなければならない」、89条には「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の監督が及ばない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」と書いているが、別にこれを憲法に書かなくても法律で十分対応出来る。維新の会は「高等教育を無償にする」と言っているが、本気なら法案を提出すればよい。
「合区解消」は、これは参議院をどうするかということを含めて考えなければならない。都道府県から代表を選ぶのなら参院議員は地方の代表になり、参議院の権限を衆議院に比べてもっと縮小する必要がある。参議院の権限見直しを伴わないとそういう改革は出来ない。例えば、衆議院の11の比例代表選挙区を使ってやれば、投票価値の平等に繋がる。これだと法律で出来る。
「緊急事態条項」は、自然災害対策が名目だ。大規模災害の時は「内閣は政令を出すことが出来る。国会議員の任期を延ばす」とあるが、既に「災害対策基本法」で柔軟に対応をしている。この項目は危険な上に必要がない。「法律の定めるところ」となっており、法律を定めれば何でも出来てしまうことになる。
9条については、自民党改憲案は「前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する」と書いている。日本国憲法は、国民主権の憲法で、国民が国家の統治機構を定め、それぞれにどんな権限を与えるかを決め、国の諸機関は私たちの人権を侵害することは出来ず、私たちの生存権を保障せよと書いている。だから、国家機関と国民を含めて「我が国」とは言わない。9条を改正しても1項、2項は残っているので平和主義は変わらないと言っているが、フェイクだ。安保法制後の集団的自衛権行使が認められた自衛隊を書き込む。これは国民が思っている自衛隊ではない。安保法制にはいろんなことが書かれているが、重要なのは「存立危機事態」と「重要影響事態」と「国際平和共同対処事態」だ。この3つの事態が新しく作られた。「存立危機事態」は、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があるような事態」のことだと言う。その時は武力を行使することが出来る。14年以前の政府見解は、「我が国に対する武力攻撃が発生すると、自衛のための実力の行使が出来る」というものだった。日本政府が、自衛隊は合憲だと言うのは、日本が武力攻撃された時、警察だけでは対処出来ないので、反撃出来る実力は備えようというものだった。だから自衛隊は行政組織で、武力攻撃されそうな時は自衛隊は出動するが、相手が武力行使するまでは自衛隊は攻撃が出来ない。だから合憲だと言ってきたが、「存立危機事態」は我が国に対して武力攻撃が発生していないが、明白な危険がある時は武力攻撃をする。集団的自衛権行使で国際法上は正当だとするが、日本に対する攻撃はされていないから、憲法上は全く正当化出来ない。これが安保法で、先制的自衛が出来るとなった。安倍首相はホルムズ海峡が機雷で封鎖されると存立が脅かされると言った。石油が来なくなったら存立が根底から脅かされるのか。日本が武力攻撃されたら、それは客観的事実だが、これは政府のかなりの恣意的な判断基準になっている。これが「先制的自衛」だ。日本が攻撃されていない段階で日本が武力行使をするのだから、相手国は日本が先制攻撃をしたとなる。従来考えていたこととは違うが、安倍首相は先制攻撃すると言っている。今、憲法に自衛隊を書き込むと、これを認める自衛隊を書き込むことになる。国連憲章も従来の政府見解も自衛権を発動出来るのは自分の国が武力攻撃を受けた時だけだと言っている。これは非常に重要な意味がある。岸元首相は、「憲法上、日本の防衛の義務、即ちあらゆる侵略を自衛力でもって排除するということは日本の領土内に限られる。それを出てやるのは憲法違反である」と言っている。「重要影響事態」は「そのまま放置すると我が国に対する直接の武力攻撃に至る恐れがある事態等」で全く恣意的に使われる。何をするかというと後方支援(兵站)をする。戦闘と兵站は不可分なもので、要は参戦するということだ。兵站活動の内容は、現に戦闘が行われていない場所で武器の提供以外の一切の兵站を行うとなっている。弾薬や発進準備中の戦闘機への給油も行うとなっている。「周辺事態法」を修正したものだが、周辺という言葉もなくなったので、「日本防衛」「極東」などの制約を取り払い、世界中どこでも戦争を支えるというものになっている。朝鮮半島有事は「存立危機事態」か「重要影響事態」かが分からない。今度は後方地域ではなく前線まで行って支援をするので、敵に狙われるということだ。軍隊が部隊として武器を使用するのは、国際的には武力行使だ。(つづく)
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自衛隊を明記すれば「自衛」の名のもとに軍事行動が野放図に拡大する
長峯 信彦 氏
11月9日和歌山市勤労者総合センターで、憲法9条を守る和歌山市共同センターの「秋の憲法学習会」が開催され、長峯信彦氏(愛知大学法学部教授)が「安倍政権のトリックを斬る~憲法制定過程の真実と平和憲法を守る歴史的責任~」と題して講演されました。前号のつづきです。
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憲法研究会草案は現在の象徴天皇制につながったとして4点を挙げられました。①「日本国の統治権は日本国民より発する」②「天皇は国政を親(みずから)せず、国政の一切の最高責任者は内閣とする」③「天皇は国民の委任により、専ら国家的儀礼を司る」④「天皇の即位は議会の承認を経るものとする」。
一方、日本政府は国体護持(天皇主権)にこだわり、46年2月1日毎日新聞がスクープした政府の憲法草案は、明治憲法と変わらない保守的なものだった。2月3日マッカーサー3原則発表。4日~13日GHQ草案起草。2月8日日本政府が憲法草案(松本案)をGHQに提出。13日GHQは松本案を否定してGHQ草案を提示。
3月6日に日本政府が新しい憲法原案を発表。先立って帝国憲法下で新選挙法(45年12月)の46年4月10日衆議院総選挙は男女平等の普通選挙。誕生した議員が政府原案を審議し、事実上の憲法制定議会に。日本人自身の審議で、「国民主権」「生存権」「普通教育(中学まで)」を盛り込む修正をし可決。貴族院、枢密院の手続きを経て「日本国憲法」を帝国憲法の改正として天皇の名で公布した。アメリカが勝手に作ったのではない。
第2部では、自衛隊が存在する現実に合わせて憲法を変える、自衛隊を憲法に書き込むという主張に反対して次のことを説かれました。
15年安保法制で、日本が攻撃されなくても、「公海上での米軍艦船防護」などの「集団的自衛権」を口実に自衛隊の海外での武力行使が正当化された。憲法に「自衛隊・自衛権」を明記すれば、「自衛」の名の下に軍事行動が野放図に拡大していく。また、自衛隊の直接の武力行使ではなくても、出撃準備中の米軍機への給油は、共同正犯の軍事行為であり、安倍首相が言う「燃料補給で、武力行使ではない。給油場所は攻撃行為の場所から遠く離れているので問題ない」はごまかしだ。
もし憲法に「自衛隊・自衛権」を明記すれば、「自衛」の名で軍事費が増大する。19年度の日本の軍事費は5兆3000億円で文教科学予算とほぼ同額。日本の軍事費は世界で7~8位だ。
憲法9条は非現実的だというが、第2次大戦で亡くなったり、苦労した兵士や国民の血と涙と汗から出来た宝だ。憲法9条こそ、戦争から遠ざかり、平和に幸福に生きるという大切な価値と、現実的な道筋を示すものだ。一緒に守っていこうと呼びかけられました。(柏)(おわり)
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【九条噺】
ラグビーワールドカップは試合内容以外にも大きな感動があった▼試合前にマスコットキッズが選手と一緒にその国の言葉で国歌を歌った。ウルグアイ主将は「少年がウルグアイ国歌を何も見ずに大きな声で一緒に歌ってくれたんだ。こんなサプライズは初めて。最後に思わず抱きしめてしまったよ。彼の歌声も今日の勝利に大きな後押しをしてくれた。本当にうれしかったよ」と言う。ナミビア主将も少年の肩を抱きチームメートのように扱い、列がほどける際には、握手も交わしていた。この光景は多くの試合で見られた▼外国サポーターの鉢巻も目立った。日の丸でなく大会ロゴならと思わぬでもないが、固いことは置いて、外国人には鉢巻の漢字が新鮮に映るのだろう。「万歳」「合格」もあり、上下反対に巻いた人もいた。これもご愛敬▼多くのチームが試合後にサポーターに深くお辞儀をする日本式の挨拶を行った。オールブラックスの選手は、「日本の皆さんに対するリスペクトと、サポートへのお礼」でやっていると語った▼釜石で泥かきをしたカナダ主将は帰国の成田空港で「多くの日本人が『昨日釜石で協力してくれてありがとう』と言ってくれた。どのくらいアメージングなことかと言うと、釜石はここから530㎞も離れているんだ」と語っている▼多くの感動とリスペクトを見た大会だったが、これは日本政府や安倍首相の貢献では全くない。選手やコーチ、日本国民、世界のサポーターが成し遂げたものだ。(南)
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「全国首長九条の会」を結成
憲法9条の改憲に反対する自治体の首長らが17日、「全国首長九条の会」を結成し、東京都内で集会を開いた。改憲発議に反対する取り組みや改憲反対の署名運動を進め、全国にある7千を超える九条の会とも連携するという。
会には現職や元職の首長131人が賛同しているといい、共同代表には松下玲子・東京都武蔵野市長や武村正義・元滋賀県知事、井原勝介・前山口県岩国市長ら8人が就任した。
集会には支援者も含め約250人が参加。千田謙蔵・元秋田県横手市長は「戦争を知らない若い人が増え、国会議員にもなっている。戦争を知っている私たちが声を上げよう」と話した。「自衛官募集業務の強要は、国と地方は対等・協力の関係にある地方分権の原則を踏み外した判断」「沖縄・辺野古の米軍基地建設も憲法と地方自治をないがしろにしている」といった指摘もあった。
安倍晋三首相は9条について、戦争放棄や戦力不保持を定めた項目はそのままにし、自衛隊の存在を明記する項目を追加することを提案している。こうした改憲をしても自衛隊の任務や権限に変更が生じることはなく、国民投票で否決されても自衛隊は合憲だと説明する。
(朝日新聞11月17日付)
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朝日新聞世論調査(11月19日) 「桜を見る会」
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