「九条の会・わかやま」 398号を発行(2020年04月26日付)

 398号が4月26日付で発行されました。1面は、「緊急事態宣言」と「緊急事態条項」は無関係 「緊急」の魔力 法を破ってきた歴史 憲法学者・石川健治氏の警鐘、「忖度検事を乱造する恐れ」 検察庁法改正案 法律家6団体が警鐘乱打、九条噺、2面は、言葉「検察庁法の改定」、朝日新聞世論調査(4月21日付)  です。
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[本文から]

「緊急事態宣言」と「緊急事態条項」は無関係
「緊急」の魔力、法を破ってきた歴史
憲法学者・石川健治氏の警鐘




 「緊急事態宣言」が全国に拡大する。新型コロナウイルスの感染の広がりを防ぐのが目的だが、一方、私たちの自由は制約されることになった。「緊急事態条項」を作るための憲法改正を主張する声も上がる。憲法学者の東京大学教授・石川健治さんは「『緊急』に名を借りて権威主義的な政治へと踏みだす、アリの一穴にしてはならない」と警告する。

◆「緊急事態宣言」を憲法学の視点からどう見ていますか

 「まず、はっきりと仕分けしておかなければならないのは、今回の事態は、憲法に『緊急事態条項』を加えるかどうかという議論とは関係がないということです。この機に乗じて改憲機運を盛り上げようとする動きには、釘をさしておかなければなりません」
 「緊急事態の議論には2種類あります。何が緊急事態かを問題にし、独裁権力を想定しない『客観的緊急事態』論と、独裁権力を想定し、誰がそれを握るかを論ずる『主観的緊急事態』論です。前者が立憲主義にとっての正道、後者は邪道です」
 「『緊急』を理由に行われた国家の行為に対しても、市民社会の法理をあてはめて、法律で免責したり、違法と判断したりするのが、18世紀の英国で始まったとされる『客観的緊急事態』論です。平時なら違法な国家行為を、どういう条件なら免責し得るのかが問題となりました」
 「これに対して、憲法上の『緊急事態条項』論議は、緊急事態を理由に議会から立法権を奪って、『誰か』に委ねる条文を新設する議論です。ナポレオンの失脚後、フランスの王政復古の流れのなかで出てきたものです。『緊急事態』を口実として、国王が、法律の効力をもつ命令を、議会の関与なしで主観的に出せるようにしたのです。そうしたフランスの反立憲主義的な思想が、ドイツの君主制憲法に伝わり、日本の明治憲法に輸入されました。これがいわゆる『主観的緊急事態』論です」

◆明治憲法には、議会の閉会中に、天皇が法律に代わるものとして命令を発する「緊急勅令」がありました

 「最高刑を死刑に引き上げる治安維持法の改正案が1928年、帝国議会では廃案になったにもかかわらず、当時の田中義一内閣はこの緊急勅令を使って成立させています。『主観的緊急事態』論が何をもたらすかをよく物語っています。ほかに、緊急事態を理由に軍隊を出動させ、行政権や司法権を軍部に委ねて私権制限をさせる『戒厳』の大権や、戦時または国家事変の折に臣民の憲法上の権利を制限する大権も、天皇には認められていました。これらを、天皇自身というより、実際には天皇を輔弼(ほひつ)する勢力が動かそうとしたわけです。日本国憲法は、これを排除しました」

◆憲法に「緊急事態条項」がない理由を、憲法担当だった金森徳次郎国務大臣が、憲法制定時の国会で述べています

 「民主政治を徹底させて国民の権利を十分擁護するためには、政府が一存で行い得る措置は極力防止しなければならない。言葉を非常ということに借りて、それを口実に(権利や自由が)破壊されるおそれが絶無とは断言しがたい」
 「こうした過去の反省を踏まえ、日本国憲法が用意した『緊急事態条項』が、参議院の緊急集会の制度を定める54条2項ただし書きです。措置は臨時のもので、衆議院の同意を得られないと効力を失い、事後的に必ずチェックを受ける仕組みになっています」

◆しかし、そのことに不満な政治家がいます

 「新型コロナウイルスの蔓延を理由とする今回の緊急事態は、『客観的緊急事態』論で理解され、運用されなくてはなりません。例外的措置を正当化する『客観的緊急事態』の存否については、何よりも事実に基づく医学的判断が尊重されるべきです。医学的に決着がつかないため、政治判断に委ねられる局面はありえますが、『諮問』という位置づけの専門家会議が客観的な判断を示すことが重要です」
 「無論、法の例外としての緊急事態は起こり得るし、それに対処する法理は古くから存在します。問題は、『主観的緊急事態条項』を憲法に書き込むことを通じて、例外状況が常態化される危険性です。今回の特措法が原則2年間という時限を切っているのは、緊急事態を理由とする例外的な措置が、常態化するのを恐れているからです」
 「コロナウイルスという共通の『敵』に対する『戦争』の中で、『人類』が結集して闘おうとするとき、仕方のない側面もあります。しかし、そのようにして先の戦争中『全体』に奉仕した日本人が、戦後、それぞれかけがえのない『個』としての存在を取り戻したのが、『すべて国民は、個人として尊重される』と定める日本国憲法13条です」

◆「緊急」という言葉には魔法のような力があります

 「『必要』や『緊急』が法を破ってきた歴史がある。日本国憲法のいう『公共の福祉』は、それらと親戚関係にある言葉です。居住、移転の自由は、職業選択の自由とともに、憲法22条において『公共の福祉に反しない限り』で保障されているわけですが、今回はどちらの自由も命と経済を天秤にかけ、『緊急事態』を理由に大幅に制限された状況にあります。『公共の福祉』のために宙づりになっているわけです」
 「今回の『緊急事態宣言』に強制力はないが、平時なら違法な行為を正当化する根拠として、公式に『緊急事態』が表明されたこと自体は、極めて大きい」
 「権威主義の下で政府を支配するのは、もっぱら指導者に対して責任を負うという論理です。国民に対してではありません。『緊急』がアリの一穴になり得ることを自覚し、政府に国民への説明責任を求め続けることが、権威主義へ舵を切るのを防ぎ、自由を守る手立てになると思います」
(朝日新聞4月17日付より抜粋)

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「忖度検事を乱造する恐れ」 検察庁法改正案
法律家6団体が警鐘乱打



  (海渡雄一共同代表)

 新型コロナウイルス対応の陰で怪しい法案が国会に提出されている。検察庁法改正案。独立・公正であるべき検察庁の幹部人事に内閣が介入することを合法化するものだとして、法律家団体が警鐘を鳴らしている。社会文化法律センターの海渡雄一共同代表は「これでは検察官は政権の違法行為に踏み込めなくなる」と指摘。検察庁全体に政権への忖度(そんたく)をまん延させる恐れがあると強調している。
 改正案は、国家公務員の定年を60歳から65歳に延長する国家公務員法改正案とセットで3月13日、提出された。検察官の定年を現行の63歳から65歳に延長し、幹部の役職は63歳で終了して一般の検事に移行(役職定年制)することを定めている。問題は、63歳に達した役職者について、政権の意向で引き続き同じ役職にいることを可能としたことだ。
 社会文化法律センターや自由法曹団などでつくる改憲問題対策法律家6団体連絡会は3月24日、国会内で会見した。海渡代表は「検察の役職者は63歳時点で平の検事になるか、役職者にとどまれるかが分けられる。その判断は内閣が行うという中身だ」。政権の違法行為を暴くような検事は63歳以降も平のまま。一方、政権を忖度する検事は役職を維持できる仕組みだと解説した。
 自由法曹団の吉田健一団長も改正案について、「独立・公正であるべき検察庁を政権への忖度で動く組織にして、支配しようということだ」と批判。安倍政権が東京高検の黒川弘務検事長の定年延長を法の解釈変更で可能とし、閣議決定したことに触れ「こうした違法人事の合法化でもある」と強調した。
(機関紙連合通信社ニュースより)

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【九条噺】

 ネットで「小泉純一郎元首相が安倍首相に最後通告『憲法改正なんてできない』」という『週刊朝日』4月10日号の刺激的な見出しに興味を惹かれた▼インタビュー前編は新型コロナ、都知事選、森友問題だ。公文書を改ざんさせられ自殺した近畿財務局職員赤木俊夫さんの「遺書」をめぐり小泉氏は「財務省、ひどいじゃないか。あんなことをやっていたんだね」「安倍さんが『自分や妻が関わっていたら総理も国会議員も辞める』と国会で言ったことから始まっている」等と答えた▼隠して嘘を言って進める安倍政治のひどさを、安倍氏を抜擢した小泉元首相さえ公然と語ったわけだ▼後編では、原発ゼロの持論、新型コロナ対策に続いて、安倍改憲について答えている。「原発問題というできることもやらずに、憲法改正なんてできないよ。憲法改正をするなら、野党を敵にしてはダメだ。野党第一党の立憲民主党と協力した方がいい。海外で武力行使はしない、戦争は二度としない、という形で自衛力を持つことは必要だ。選挙で争点にはせず時期を待てば実現可能だろう。そのためにはまず原発問題で野党と協力しなきゃ」と▼「野党を巻き込み時期を待つ。海外で武力行使せず戦争しない形の自衛力は必要」という自民党内にある考えだ▼しかし安倍首相は、感染拡大と「緊急事態宣言」に便乗して、改憲「緊急事態条項」創設を火事場泥棒式に持ち出し、新型コロナ非常時の国会でも改憲論議の加速を狙っている。要警戒だ。(柏)

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言葉「検察庁法の改定」

 戦後、日本国憲法の制定に伴い、司法と行政の分離がより徹底され、司法大臣の監督下にあった裁判所が三権の一翼として独立し、検察と裁判が分離されました。裁判所構成法に代えて裁判所法と検察庁法が1947年制定され、検察庁法が検察制度の基本法となりました。検察庁法によると、検察官は、検事総長、次長検事、検事長、検事および副検事の総称とされています。
 政府は、検察官の定年を63歳から65歳に引き上げる検察庁法改正案を閣議決定し、国家公務員の定年を段階的に65歳に引き上げる国家公務員法改正案と合わせ、今国会で成立を目指すとしています。
 問題は、次長検事と検事長は63歳で役職を解かれるとしながら、内閣が必要と判断すれば延長できる特例を盛り込んだ点です。この特例があれば時の政権の一存で検察幹部を職にとどめることが可能になります。
 検察は犯罪の容疑者を起訴する権限を独占し、自ら捜査して権力中枢の政治家の不正にも切り込むことができます。その人事に政治が介入する余地を認めれば、検察の独立性が揺らぎ、国民の信頼を失います。
 問題の発端は、今年2月に63歳になった黒川弘務東京高検検事長の定年を延長する閣議決定でした。検察庁法に定年延長の規定はないのに、森雅子法相は、国家公務員法の規定を適用できると説明しました。ところが「国家公務員法の規定は検察官には適用しない」とした81年の人事院見解との矛盾を突かれると、安倍首相は突如、法解釈を変更したと表明しました。立法時の説明や定着した法解釈を内閣だけの判断で覆す行為は、法の支配の否定です。法案は、その暴挙を覆い隠し、さらに介入の余地を広げることになります。
 戦後、三権分立を定めた憲法の下で制定された検察庁法は、検察官の独立性・公平性の担保に腐心し、戦前あった定年延長規定は削除され、歴代内閣は検察人事に努めて抑制的な姿勢をとってきました。しかし、安倍政権は公然とその逆をいき、延長の必要性について森雅子法相は、「東日本大震災時に検察官が最初に逃げた」などと支離滅裂な答弁を行い、「他の公務員は可能なのに検察官ができないのはおかしい」などと、検察官の職務の特殊性や歴史を踏まえぬ答弁を繰り返しています。
 集団的自衛権行使を認めるため、内閣法制局長官に憲法解釈の変更をいとわぬ人物を起用したのと同様に、検察庁法の改正は、歴史の教訓を無視し、法治国家の礎である三権分立を揺るがすものと言わねばなりません。

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朝日新聞世論調査(4月21日付)



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(2020年04月25日入力)
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