「九条の会・わかやま」 415発行(2020年12月12日付)

 415号が12月12日付で発行されました。1面は、第78回「ランチタイムデモ」実施、軍事研究はしないという枠の設定は極めて高貴な挑戦だ(君島東彦(きみじま・あきひこ)氏 ③)、九条噺、2面は、 山の作家『狸の腹鼓』出版 当会呼びかけ人・宇江敏勝さん、「イージス・アショア」代替策 艦艇2隻建造 運用できるのは年間120日程度 費用大幅増  です。
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第78回「ランチタイムデモ」実施



 すっかり冬の装いとなった寒い晴天の12月7日、第78回「憲法の破壊を許さないランチタイムデモ」(呼びかけ:「憲法9条を守る和歌山弁護士の会」)が行われ、50名の市民が参加しました。
 今回は森亮介弁護士がコーラーを務められました。森弁護士には15年9月に開催した「九条の会・わかやま」の連続講座で講師を務めていただきました。
 参加者は和歌山城西の丸広場から京橋プロムナードまで、森弁護士のコールに合わせて、「戦争する国ぜったい反対」「9条守れ」などを訴えて行進しました。
 今後の予定は、1月13日(水)、2月10日(水)で、いずれも正午、西の丸広場集合、12時20分出発です。



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軍事研究はしないという枠の設定は極めて高貴な挑戦だ

 11月3日、「守ろう9条 紀の川 市民の会」の「第17回憲法フェスタ」が開催され、立命館大学教授・君島東彦さんが「コロナと憲法」「日本学術会議問題とは何か~<戦後>が終り<戦前>となったのか~」の二本立てで講演をされました。講演要旨を3回に分けてご紹介しています。今回は3回目で最終回。

君島東彦(きみじま・あきひこ)氏 ③



 学術会議会員も含めた「平和問題研究連絡委員会」という委員会があり、私は03年から04年にその委員をしていた。今は連携会員という制度になり、学術会議は210人の正会員の他に千人ぐらいの連携会員がいて、正会員をサポートしている。学術会議を内部から経験した者から言うと、攻撃する人たちは全く見当違いの攻撃をしている。学術会議会員は基本的にボランティアで、経済的なメリットや利権が付くようなものは全くない。年度末にはお金がないから自腹で交通費を出しているくらいだ。会員推薦の話がきた時、多くの人はこれも研究者の責任の一環だと思って参加する。もちろん学術会議にも改善の余地はある。会員は年齢が高いから、もっと若手を使った方が良いという意見はあるだろうが、学術会議の改革議論と6人の任命拒否は全く別問題だ。
 今回の問題の核心は、学術会議法7条、17条に基づいて推薦したのに首相が任命しないことで、これは単純に違法行為だ。「首相は違法行為をやめろ」というのが核心だ。83年に中曽根首相が任命は形式的で拒否は想定していないと言っており、その解釈で現在までやってきた。ところが18年に、学術会議と内閣法制局とのやり取りを記録した内部文書が出て来て、それには「首相に義務づけるものではない」となっていた。それなら、内部でコソコソする話ではなく、内閣法制局の解釈変更をオープンにし、国会で議論しなければならない。それを内閣法制局は解釈を変えていないと言っている。菅首相が理由を説明しないから、みんな外形的事実から推し量って、安保法制、共謀罪、沖縄基地問題などで批判をした学者だから外したとみんな想像している。つまりこれは9条問題だ。日本の平和主義の体制を変えて、戦争準備の方向に行きたいから、9条の本来の趣旨を主張した人たちは外したということだ。これは戦争準備体制ではないのか。戦争準備に反対する者は外しますと多くの人は読み取ってしまう。学術会議問題の背景には9条がある。
 これからどうなるか。論点すり替えで、自民党はあっという間に「政策決定におけるアカデミアの役割に関する検討プロジェクトチーム」を立ち上げて、学術会議改革の議論をしている。これは論点ずらしだが、同時にもう少し幅広い思想統制ではないかと疑ってしまう。だから、滝川事件、天皇機関説事件をどうしても連想する。これらの事件の2年後に日中戦争が始ったが、学術会議問題は、日本は戦前のように戦争に行くのかという話になる。もうひとつは、民衆の中に知識人嫌い、インテリ嫌いというところもあり、知識人やインテリをあげつらって、コケにして溜飲を下げるという心理を利用している面もあると思う。SNSの世界はそれが強い。
 今、国会は厳しい対決状況だが行方はまだ分からない。自民党対野党の構図に見えるが、自民党でも船田元議員などは明確に批判している。今回の事件は学者の世界では大きな危機感をもって受け止められている。滝川事件、天皇機関説事件に匹敵する思想統制なので、今、500以上の学会が声明を出し、6人の大学の学長も、所属している大学院の研究科長とか学部長も声明を出している。当事者でない学長も声明を出している。みんなものすごい危機感で受け止めている。
 昨日(11月2日)の国会で川内博史議員の質問に菅首相は「論理的には正しい。学術会議が6人をもう一度推薦してきたら考えます」と言った。本気か適当かは分からないが、首相の答弁はちょっと違いを感じた。全くの違法行為で、菅首相に根拠はないから、事態を収拾するには任命するしかない。学術会議が6人を推薦してきたら認める可能性が何%かはあるように思う。学者の側は10年かかっても絶対に追及をやめない。菅首相は今打開策が見出せない状況だから、認めるとその時は恥ずかしくても、その方が菅首相にはいいはずだ。あさのあつこさんは「首相が違法行為をして説明しない。これでは教育は出来ない。これは小学校で先生が気に食わない生徒を廊下に立たせるようなものだ」と言っている。予想は出来ないが、任命する可能性もあるのではないか。これとは別に、学術会議改革の話は進む。弱体化させたいのだろうが、それは日本の国益には叶わない。そういうことをすると日本の国力は下がり、日本社会の活力には明らかにマイナスだ。
 我々はどうすべきか。安倍・菅政治の特徴は、内閣法制局や検察などの確立した専門家集団の人事に介入して変えてしまったことだ。自分たちのやりたい国家構想に反対する人はどこまでも排除したいというように見える。だから、人によっては、これは全体主義ではないかと言う。注意が必要なのは、今の全体主義は戦前とは異なり、民主主義の形をした全体主義だということだ。民主主義の中に全体主義が入っていると思っている人は多い。我々は、安倍・菅政治の論理と倫理の欠如、自由と民主主義と法治主義の衰退も放置出来ない。日本社会の活力を明らかに衰退させている。この政治をどう変えていくかが我々の大きな課題になる。
 戦後の日本のあり方は特殊だ。9条の下にある日本は特殊で、ここまで軍事的なものを規制している国家はめずらしい。世界の標準では軍事研究をするのは当り前だ。日本は9条で違う基準を設定した。世界の各国に伍していくためには軍事研究をしなければと言う人も多い。しかし、我々は9条という基準を設定した。これは表面的に見ると、マイナスに見えるが、我々は研究・学問にある種の倫理的な枠を設定した中で全力を尽くすというやり方を採らざるを得ないと思う。日本国憲法の下にある科学者は9条の制約の下で、軍事研究はしないという枠を設定した。他国に対して不利になる条件かもしれないが、それを敢えてやらなければならない。これは人類史的な挑戦だ。これは相当大変なことだけれど、極めて高貴な挑戦で、戦後の日本の誇りだ。その範囲で研究に制約が出るが、それは倫理のための制約で仕方がない。それが9条だということに行き着く。みなさんには、是非こういう立場を応援してほしい。(おわり)

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【九条噺】

 ノーベル物理学賞の小柴昌俊さんが亡くなった。小柴さんは飛騨神岡鉱山地下1千mにある巨大タンク観測装置「カミオカンデ」で、定年直前の87年2月23日にニュートリノの観測に成功した▼それは大マゼラン星雲で1世紀に一度ほどしか起きない超新星爆発が起き、放出されたものだった。ニュートリノをその方向、時刻、エネルギー分布まで明確に検出したのは世界初で、超新星爆発の仕組みやニュートリノの謎の解明に大きく貢献。02年のノーベル賞受賞につながった▼「カミオカンデ」はその後、数十倍の観測能力を備えた「スーパーカミオカンデ」に引き継がれ、98年には小柴さんの教え子の梶田隆章さん(学術会議現会長)が、ニュートリノに質量があることを、「スーパーカミオカンデ」で発見し、15年にノーベル物理学賞を受賞した▼今「スーパーカミオカンデ」はさらにレベルアップが図られている。純水にガドリニウムというレアアースを加えることで感度が大幅に向上、今年8月から観測が再スタートしたとのこと▼小柴さんは、「ニュートリノの研究をしても何の儲けにもならない。基礎科学は得たものが人類共通の知的な財産になる。それを喜びとする」と話されている▼また「運がいいですね」という話に「運は準備が出来た者にしか来ない」と言われていたそうだ。将来を予測してそれに備えて準備することが確かな結果を把握出来る。これは科学だけでなく、我々の運動にも言えることではないかと思う。(南)

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山の作家『狸の腹鼓』出版
当会呼びかけ人・宇江敏勝さん




 熊野の自然や歴史、人々の暮らしをテーマに文筆活動を続けている田辺市中辺路町の作家、宇江敏勝さんが、11年から取り組む民俗伝奇小説集シリーズの完結作『狸の腹鼓』を出版した。
 宇江さんは県立熊野高を卒業後、炭焼きや林業に従事。「山の作家」として経験を生かしたノンフィクションやエッセーなどを執筆してきた。同シリーズは若い頃に古老から聞いた話や自身の山暮らし体験を基に、年1冊出版。10冊目の今作は中短編4作を収めた。
 コロナ禍に触発されて書いた「牛車とスペイン風邪」は、スペイン風邪が世界的に大流行し始めた18(大正7)年の田辺の様子を描いた。宇江さんは「現在の状況とよく似ている」と言い、当時「呼吸保護器」と呼ばれたマスクの着用やうがいの励行、小学校の休校、薬の品切れなどの場面が登場する。
 表題作「狸の腹鼓」は、60年前に炭焼き小屋で一夜を過ごした文通相手の女性を回想する自伝的恋愛小説。他に「乞食」と「山神の夜太鼓」を収録した。
 同シリーズは当初から出版社との間で10冊と決めていたという。宇江さんは「書かなければ忘れられてしまう明治から昭和初期の森や山村の生活を伝えることができた。次は長編小説に挑戦したい」と話している。四六判260ページ。(毎日新聞和歌山版12月1日付)

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「イージス・アショア」代替策、艦艇2隻建造
運用できるのは年間120日程度、費用大幅増


 政府は、「イージス・アショア」の代替策について「イージス・アショア」用のシステムを改修し、新型イージス艦2隻に搭載する方針を決めました。
 この方針では、艦艇の整備や隊員の訓練を行う必要があるため、1隻の艦艇が実際にミサイル防衛の任務に当たれるのは年間の3分の1程度の日数に止まります。残りは既存のイージス艦が対応する必要があり、常時継続的な監視や海上自衛隊の負担軽減は出来ません。
 陸上用の「イージス・アショア」のために製造しているシステムを改修し、新たに建造するイージス艦に搭載するためには、最新のイージス艦「まや」をベースにしても、艦艇の大型化が必要で、導入費用も1隻当たり2500億円以上かかり、「まや」の1700億円より800億円の大幅な増額になります。さらに、イージス艦新造で1隻当たり約300人、計600人の隊員が必要で、隊員不足の海上自衛隊の目処は立ちません。

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(2020年12月12日入力)
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