「九条の会・わかやま」 425発行(2021年05月09日付)

 425号が2021年5月9日付で発行されました。1面は、国会前で「5・3憲法大行動」、小選挙区制が自民党を変質させた(上脇博之 氏 ①)、九条噺、2面は、幣原先生から聴取した戦争放棄条項等の生まれた事情について②   です。
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[本文から]

国会前で「5・3憲法大行動」



 憲法記念日の5月3日、国会前で「5・3憲法大行動」が開かれました。各野党代表が挨拶。6日にも衆院で採決が狙われる改憲のための国民投票法改定案に反対し、コロナ禍で憲法を守り生かす政治への転換を呼びかけました。
 実行委員会を代表して「九条の会」事務局長・小森陽一さんが挨拶。「コロナ禍で国民の命や人権を守らない菅政権は憲法に反している。憲法13条で個人の尊厳が保障され、生命、自由、幸福追求の権利があることを改めて主張しよう」と強調しました。
 雨宮処凛さんは、「コロナ禍が1年経っても生活困窮者からの相談が相次ぎ、国の救済制度が整っていない。憲法25条の生存権が守られていない」と訴えました。
 田中優子・前法政大総長は、「自民党改憲草案では全く違う国になる。私たちには今の憲法を棄てるか守るかの二択しかない」と指摘しました。
 日本体育大の清水雅彦教授は、国民投票法改正案の成立を急ぐ与党に「いま集中して取り組むべきことはコロナ対策だ」と指摘し、「反憲法政治を終りにして立憲主義を取り戻そう」と呼びかけました。
 「市民連合」の山口二郎・法政大学教授は、野党統一候補が勝利した3つの国政選挙に触れ「総選挙で政権交代を実現し、憲法理念を実現出来るよう、声を上げていこう」と呼びかけました。

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小選挙区制が自民党を変質させた

 4月17日、「守ろう9条 紀の川 市民の会」第17回総会で神戸学院大学法学部教授(憲法学)・上脇博之氏が「安倍-菅政権の憲法無視・破壊の政治と私たちの反撃」と題してオンライン講演をされました。その要旨を3回に分けてご紹介します。今回は1回目。



上脇博之 氏 ①

 日本国憲法の明文改憲は全国の運動の成果もあって、一応阻止出来ている。今年の総選挙で明文改悪は絶対不可能という選挙結果を出さなければならない。しかし、よく見ると必ずしも憲法が守られている訳ではない。実質的には憲法改悪に近い憲法破壊の政治が簡単に行われている。安倍政権に特有だった政権の私物化問題は、憲法破壊の現実が背景にあったりする。安倍-菅政権の憲法私物化・破壊を確認していきたい。
 安倍政権は、自民党政権の中でも特に憲法破壊が激しかったが、この安倍政権を支えた重要な一人が菅首相であることは言うまでもない。第1次安倍政権では総務大臣、第2次以降の安倍政権では官房長官をやった。昨年8月末に安倍氏が病気を表向きの理由にして首相を辞任すると、菅氏は首相になろうと動き出し、各派閥に安倍路線を継承すると伝えた。安倍政権は憲法を中心に大きな問題があったにも拘らず、それを継承し、さらにこれまでの官僚支配の継続も表明し、方向を決めたことに官僚が反対したら辞めさせると発言している。政治文書破棄など、許されないことに刃向かうのが官僚だったのに、対応は安倍政権と変わらないと言っている。安倍政権を振り返ることで、菅政権の本質が見えてくる。政権交代が必要というのが本日の話だ。
 1994年の「政治改革」が非常に重要だ。自民党は中選挙区時代から小選挙区が中心となった時代になって大きく変質した。中選挙区時代がまっとうではないが、小選挙区になりずっと悪くなった。政治腐敗の温床である企業献金を温存した上で300億円を超える国民の税金を政党助成金として新たに導入した。少なくなっていた企業献金に代わり政党助成金が行くようになった。企業献金、政党助成金、小選挙区制はいずれも違憲だ。選挙はあるが議会制民主主義にはなっていない。民意を正確に反映する選挙制度や民意を歪めない政治資金のあり方がないと民主主義は成立しない。表向きの制度があるから民主主義の格好をしているが、実質的に今は民主主義ではない。だから憲法破壊も簡単に出来てしまう。例えば、二階幹事長が貰った10億円超の金が何に使われたかは全く分らない。使途不明金になっている訳ではないが、金に色はついていないので税金が実質的に使途不明金になっているのと変わらない。政治資金を抱えて、それを分配するのが自民党総裁や幹事長だ。自民党が政権をとると12億円の内閣官房報償費を自由に使える。その9割が領収証の要らない政策推進費で何に使われたのかは全く分らない。選挙の政治活動に使われているという疑惑がある。小選挙区制で民意が歪曲され、自民党は4割の得票で8割の議席が取れる。さらに選挙結果によって政党助成金が決まる。自民党は過剰に政党助成金を受け取っている。小選挙区制になり自民党総裁は政治資金を配分する権限、誰を公認するかの公認権という大きな権限を持つようになった。中選挙区時代は派閥力学によってハト派もタカ派も選ばれたが、小選挙区制では執行部がタカ派になるとタカ派の基準で候補者が選ばれ、執行部に逆らえなくなった。これを大きく印象づけたのが2005年の郵政民営化法案だ。衆議院では可決され、参議院では否決された。ところが、小泉首相は可決した衆議院を解散した。議院内閣制では全くあり得ないことが行なわれた。郵政民営化法案に賛成しなかった自民党議員は公認されず、刺客を送り込まれて落選する状態に陥った。それがトラウマになっている。昔のような派閥の力学は全く通用しない。総裁に逆らうと公認もされない、政治資金も貰えないという事態になった。そうなると、自民党執行部が有利な形で選挙が出来るので、選挙に勝ちさえすれば総裁の権限はどんどん強くなる。そういう事態になり自民党は経済界にますます擦り寄り、右翼的・軍国主義的な方向に行きやすい自民党に変わった。看板は同じだが、中身は全く違うものになった。自民党総裁の権限が強化される中で、安倍内閣が「戦後レジームからの脱却」ということで、憲法無視・憲法破壊の政治が簡単に出来て、軍事大国化、戦争が出来る国家づくりを進めてきた。明文改憲は実現していないが、改憲の目的は一定程度出来ている。小選挙区制で自民党総裁の権限強化の方向に進んで来たが、それが憲法違反にならないように企ててきたのも自民党だ。2012年の自民党改憲草案では、投票価値の平等は人口に比例して議員定数を決めるのが基本なのに、人口を基本としながら、行政区画、地勢などを総合的に勘案して制度を決めるという改正案を公表して、憲法違反にならない改正を考えていた。さらに小選挙区制で作られた強大な権力をさらに総理大臣に持たそうと構想されていた。「国防軍は内閣総理大臣を最高指揮官とする」と、戦前天皇が持っていた統帥権を内閣総理大臣が持てるようにするものだった。自衛隊を動かすには閣議決定が必要だが、これは閣議を経なくても総理大臣が一人で指揮監督出来る権限が憲法上生まれるということだ。それ以外にも衆議院を解散するのは内閣総理大臣が決定するとある。解散は閣議決定をして行なうもので、解散権は内閣総理大臣ではなく内閣にあるのだ。さらに、職務の遂行上特に必要がある場合は、国会に出席しなくてもよいということも考えている。要するに国会を最高機関と考えないで、あくまでも内閣総理大臣中心の国会と考えていた。(つづく)

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【九条噺】

 4月22日、米国主導の「気象変動サミット」がオンラインで開催され、菅首相は30年の温室効果ガスの新たな削減目標について、13年度比で46%削減するとの方針を表明した▼国連は世界平均で45%の削減目標を示しており、EUは30年の目標を90年比55%削減という水準を掲げ、英国も35年までに78%削減という目標を公表、バイデン米政権は30年に05年比50~52%削減と打ち出した。世界第5位の排出国である日本は46%削減でよいのだろうか▼従来の日本の目標は26%削減で、19年度の実績は14%だから、46%削減でもあと10年で32%の削減が必要で、ペースを急激にアップする必要がある▼日本では温室効果ガス排出量の4割を電力部門が占め、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを大幅に導入する必要があると思うが、電気代に跳ね返る可能性があるという。何故そんな議論になるのか理解できない。「再エネは高く、電気料金が上がる」「雇用が失われる」と産業界からは早くも牽制の声が上がっている。梶山経産大臣は「産業界との調整もしていかなければならない」と述べている▼現在は総発電量に占める再エネの割合は2割だ。洋上風力発電も有力のように思うが簡単にはいかないようだ。乗用車を電気自動車やハイブリッド車にすることや断熱性能を高めた住宅建設を目指す案もあるという▼英知を搾って対応しなければならないが、原発再稼働と石炭火力の温存という声だけは断固反対を貫かねばならない。(南)

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幣原先生から聴取した戦争放棄条項等の生まれた事情について②

 憲法9条は、マッカーサーから押し付けられたとの議論があります。そうではないことを裏付ける文書があります。当時の首相・幣原喜重郎から聞き取ったもので、聞き手は幣原の秘書官の平野三郎氏です。幣原の意見に全て賛同するものではありませんが、何回かのシリーズでご紹介します。今回は2回目。(前回は424号)(『みんなの知識 ちょっと便利帳』より)

(幣原喜重郎)

【答】(続き)したがって勝利を得んがためには、武力を強化しなければならなくなり、かくて二個以上の武力間には無限の軍拡競争が展開され遂に武力衝突を引き起こす。すなわち戦争をなくするための基本的条件は武力の統一であって、例えば或る協定の下で軍縮が達成され、その協定を有効ならしむるために必要な国々が進んで且つ誠意をもってそれに参加している状態、この条件の下で各国の軍備が国内治安を保つに必要な警察力の程度にまで縮小され、国際的に管理された武力が存在し、それに反対して結束するかもしれない如何なる武力の組み合せよりも強力である、というような世界である。
 そういう世界は歴史上存在している。ローマ帝国などもそうであったが、何より記録的な世界政府を作った者は日本である。徳川家康が開いた三百年の単一政府がそれである。この例は平和を維持する唯一の手段が武力の統一であることを示している。
 要するに世界平和を可能にする姿は、何らかの国際的機関がやがて世界同盟とでも言うべきものに発展し、その同盟が国際的に統一された武力を所有して世界警察としての行為を行う外はない。このことは理論的には昔から分かっていたことであるが、今まではやれなかった。しかし原子爆弾というものが出現した以上、いよいよこの理論を現実に移す時がきたと僕は信じた訳だ。
【問】それは誠に結構な理想ですが、そのような大問題は大国同士が国際的に話し合って決めることで、日本のような敗戦国がそんな偉そうなことを言ってみたところでどうにもならぬのではないですか。
【答】そこだよ、君。負けた国が負けたからそういうことを言うと人は言うだろう。君の言う通り、正にそうだ。しかし負けた日本だからこそ出来ることなのだ。
 恐らく世界にはもう大戦争はあるまい。勿論、戦争の危険は今後むしろ増大すると思われるが、原子爆弾という異常に発達した武器が、戦争そのものを抑制するからである。第二次大戦が人類が全滅を避けて戦うことのできた最後の機会になると僕は思う。如何に各国がその権利の発展を理想として叫び合ったところで、第三次世界大戦が相互の破滅を意味するならば、いかなる理想主義も人類の生存には優先しないことを各国とも理解するからである。
 したがって各国はそれぞれ世界同盟の中へ溶け込む外はないが、そこで問題はどのような方法と時間を通じて世界がその最後の理想に到達するかということにある。人類は有史以来最大の危機を通過する訳だが、その間どんなことが起るか、それはほとんど予想できない難しい問題だが、唯一つ断言できることは、その成否は一に軍縮にかかっているということだ。若しも有効な軍縮協定ができなければ戦争は必然に起るだろう。既に言った通り、軍拡競争というものは際限のない悪循環を繰り返すからだ。常に相手より少しでも優越した状態に己れを位置しない限り安心できない。この心理は果てしなく拡がって行き何時かは破綻が起る。(つづく)

平野文書→ https://www.benricho.org/kenpou/shidehara-9jyou-text.html

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