「九条の会・わかやま」 427発行(2021年06月01日付)

 427号が2021年6月1日付で発行されました。1面は、混迷の世界と日本国憲法(柳澤協二氏講演)②、無党派層が選挙に行けば政治は変えられる(上脇博之 氏 ③)、九条噺、2面は、コロナ口実に改憲手続法の採決を強行するな!総かがり行動実行委員会が緊急行動  です。
    ――――――――――――――――――――――――――――――
[本文から]

混迷の世界と日本国憲法(柳澤協二氏講演)②

 5月15日、プラザホープ(和歌山市)で「2021 We Love憲法~5月の風に~」が開催され、元内閣官房副長官補・柳澤協二さんが「混迷する世界の中で、改めて考える戦争と憲法-息長い護憲と平和のために-」と題してリモート講演されました。その概要を2回に分けご紹介しています。



(3)《抑止の問題点と日本の安全保障》
②ミサイル迎撃が難しいから敵基地攻撃を言うが、先制攻撃は戦争で、報復攻撃が来る。
③抑止力信仰の勘違いがある。米国は戦争に勝つ能力と意志を持つが、日本は「抑止力の存在で相手が引っ込み、戦争にならない」と安心し、有事にミサイル基地が標的になること、住民をどう守るかを真面目に考えていない。
④安全保障とは不安からの解放で、気候変動・人権・感染症など目前の危機と、絶対に起きてはいけない戦争の危機を除くことだ。日本は米中戦争の回避を目標に、戦略として「抑止一辺倒から米中対立緩和へ」「米中の二択を望まない諸国とのミドルパワー連携」が可能だ。日本はもはや大国ではなくミドルパワーだ。ミドルパワー国の防衛は「抵抗するが、力で強制しない専守防衛」と「非核・非戦・協調という道義の発信」だ。
(4)《ポスト安倍時代の憲法論の課題》
 「国防とは憲法の国家像を守ること」だ。日本国憲法は「国民主権・基本的人権・平和主義」を柱とし、「平和主義」は力に訴えない国家像だ。改憲派の「力を持てば平和」は幻想だが、護憲派の「憲法を守れば平和」も幻想。「9条改憲か否か、どう変えるか」を論じる前に、憲法前文の戦後日本の生き方を掲げるべき。「政府の行為によって再び戦争の惨禍を起こさない」と「諸国民の公正と信義に信頼して安全と生存を保持」だ。もし自衛隊を明記するなら、海外派兵・軍事協力を禁止すべき。いま日米一体化の現実の中で「作戦運用に踏み込む議論」「米軍の基地使用の規制」など具体的議論をすべきだ。

 講演後、柳澤さんから①野党が政権交代を呼びかけるが、安全保障を争点にすべきだ。②コロナ禍で若い人の意識の変化もあるので、若い人と考える好機だ。との指摘がありました。(柏原)(おわり)

    ----------------------------------------------------------------------

無党派層が選挙に行けば政治は変えられる

 4月17日、「守ろう9条 紀の川 市民の会」第17回総会で神戸学院大学法学部教授(憲法学)・上脇博之氏が「安倍-菅政権の憲法無視・破壊の政治と私たちの反撃」と題してオンライン講演をされました。その要旨を3回に分けてご紹介しています。今回は3回目で最終回。



上脇博之 氏 ③

 安倍・菅政権に都合が悪いところでは改竄が平気で行われている。自民・公明の国会議員は多数決要員に成り下がり、議院内閣制は機能不全状態だ。憲法66条③では「内閣は行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う」となっている。官僚がやった行為であっても内閣は連帯して責任がある。総辞職に値する問題でも総辞職は行われていない。野党から憲法に基づき国会召集を要求されても平気で無視している。これはどう考えても議会制民主主義を否定するものだ。
 「桜を見る会」事件を見れば、安倍政権の強さと弱さが見えてくる。この会は誰でも参加出来る訳ではない。中央の議員とか地方の議長とか約1万人が招待される。安倍政権でも最初は約1万人だったものが、第2次安倍政権で2倍、3倍もの参加者と増えた。予算も2倍、3倍に膨れ上がった。招待者は1万人と決まっているのに、多くを招待したからだ。山口県の人が多いと言われているが、これもどう考えても財政法違反だ。財政法では予算の目的外の支出は禁止されている。「桜を見る会」は目的内だとしても、本来招待出来ない人を招待したら目的外支出になる。
 小泉構造改革内閣は新自由主義。新自由主義は福祉国家政策を否定する。そのような経済活動をすれば落ちこぼれる人が生まれることは明らかだ。福祉国家はそういう人をつくらないためあるのに、そういう政策を否定するのが新自由主義だ。その結果、自民党は変質してしまった。自民党員は90年代の初め547万人だったが、安倍政権成立の12年末には73万人になった。減った理由は、小泉構造改革内閣は全国民の党ではないことがバレて、党員だった人も離れ、どんどん減っていったからだ。
 05年9月の郵政民営化選挙では比例代表で2589万票を取り、自公で圧勝した。ところが構造改革は国民のためではないことが分り、09年には自民党離れが起こって自民党は敗北し、公明党とともに下野した。12年に第2次安倍政権が誕生し、12月に総選挙が行われ自公が勝利した。しかし、比例代表の得票数は09年が1881万票なのに、218万票を減らしている。小選挙区制だということに加えて、与党の民主党も比例代表で2057万票を減らした。自民党が勝った訳ではなく、民主党がコケただけだ。さらに13年の参院選挙の結果を見てみると、当選者数でも自民党が勝っているが、得票率は野党の方が選挙区でも比例代表でも多い。
 13年に参院選挙があることは分かっていたので、安倍首相はどうやって参院選挙に勝とうかと考え、「桜を見る会」を自民党員拡大の方向に持っていくために、招待することが簡単に出来る仕組みに変えたから、予算も3倍を超える「桜を見る会」が運営されたということだ。
 こうしたことを防止するために、内閣府の大臣官房が「原則として同一人が連続して招待を受けることがないように」という文書を各省庁に出している。ということは、過去の招待者名簿を保存していないとチェックは出来ないはずだ。だからどこかに招待者名簿はあるはずだが、いまだに出て来ない。「森友学園」「桜を見る会」もいまだに情報の隠蔽は続いている。要するにまだ事件は解決していないので、政権交代は必要だということになる。
 今まで安倍・菅政権によって憲法破壊が行われてきたが、これを断固阻止することでは、明文改憲は絶対に出来ないようにするとともに、戦争法とか共謀罪とか、憲法違反の法律を廃棄する必要がある。さらに、「戦争をする自衛隊」にしてはならない。最低でも専守防衛までにしなければならない。海兵隊機能を自衛隊に持たそうということも行っているが、敵基地攻撃は攻撃を受ける前に相手の攻撃を事前に察知して先に攻撃をすることで、国際法違反の先制攻撃をすることだ。これではどう考えても「攻める自衛隊」になる。米海兵隊は「攻める部隊」だ。「戦争する国家」作りとして自衛隊を「攻める自衛隊」に変える、海兵隊と同じような方向にもっていこうというのが、今の政権の思惑なので、これを断固阻止することだ。辺野古新基地は絶対に阻止することだ。
 新自由主義を否定して福祉国家を実現するためには、悪政を阻止するだけでなく、福祉政策を進めるために、菅政権の「自助」=国民を助けませんという考え方、「公助」=最後の最後という考え方への批判も必要だ。これでは国民は救われない。憲法の福祉国家とも相容れない。
 国民に如何に魅力ある政治を実現していくかを考えると、おそらく野党共闘で政策合意が出来て、一つでも二つでも国民が納得する政策を実現していくことが必要だ。16年の参議院選挙の時の市民連合と野党共闘との政策合意も、おそらくバージョンアップが必要だ。16年に強行採決によって法案が通った直後から、共産党が野党共闘を呼びかけ、16年、17年、19年の選挙で実現している。一定の成果があったことは間違いないが、まだまだ、本当に政権を変えようという政策づくりと野党共闘で国民が納得する勝つ力が必要になる。東京にだけ任せるのではなく、選挙区毎に運動が必要になると思う。
 その時に重要なのが投票率のアップだ。実は、09年の選挙の棄権者数は3000万人を超えている。有権者数は1億人を超える程度だから、大雑把に言うと、投票率が下がると与党自公が選挙で勝つ。17年になると棄権者数は5000万人近くなっている。ということは、無党派層と言われる人の中に、実は関心はあるけれど、特定の支持政党がない人がいる。その人たちが投票に行けば、政治は確実に変えられる。最低でも民主党政権を実現した時ぐらいの投票率で、棄権者を少なくし多くの人に投票所に足を運んでもらえば、憲法改悪を阻止して、本当に国民のための福祉国家を実現出来る社会になれると思う。(おわり)

    ----------------------------------------------------------------------

【九条噺】

 5月3日の朝日新聞世論調査で、9条は、「変える方がよい」30%、「変えない方がよい」61%。今の憲法は、「よい憲法」57%「そうは思わない」30%だった▼「緊急事態条項」の創設は、「憲法を変えずに対応」54%、「必要ない」6%だが、「憲法を改正して対応」は19年調査の28%が、今回は33%と増えたのが気になる▼各国でロックダウンが行われ、国民に不自由な生活を強いたが、コロナ感染防止に一定の効果があったと考えたのだろう。今ひとつは、現在出されている「緊急事態宣言」と「条項」を混同しているのではないかと想像する▼「緊急事態条項」は自民党改憲草案では「外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、大規模な自然災害などの緊急事態においては緊急事態の宣言を発することが出来、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することが出来る。緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、…発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない」とある▼これでは、内閣が緊急事態と思えば、恣意的に緊急事態条項を発動出来る。国民の代表である国会の議論を経ず、国民の権利を制限したり、義務を設定したりすることが可能となる、いわば「内閣独裁権条項」とでも言うべき危険な条項だ▼戦争や自然災害が「いつ起こるか」は予測困難だが、「起きた時に何をすべきか」は想定可能だ。「何をすべきか」を明確にして準備をすればよく、それを実施する意志があればよいだけの話だ。(南)

    ----------------------------------------------------------------------

コロナ口実に改憲手続法の採決を強行するな!
総かがり行動実行委員会が緊急行動




 総がかり行動実行委員会は5月26日昼、参議院憲法審査会の開催に抗議し、「改憲手続法(国民投票法)改正案の強行採決反対!法案の徹底審議を!自民党4項目改憲案反対!5・26参議院議員会館前緊急行動」を行い、200人が参加しました。社会民主党・服部良一幹事長、立憲民主党・石川大我参議院議員、日本共産党・山下芳生参議院議員があいさつをしました。
 憲法共同センターとして主催者あいさつを行った全労連の川村副議長は、緊急事態宣言の再延長が検討されるもとで、「国民のいのちを犠牲にするオリンピックは中止し、コロナ対策に全力を集中せよ、の声を上げよう」と呼びかけました。国民投票法改定案強行の先には自民党改憲4項目が待ち受けているとし、「国会最終盤での悪法阻止とともに、改憲反対の大きな国民世論つくっていこう」と訴えました。
 改憲問題対策法律家6団体連絡会の田中隆弁護士は、「改憲手続法改正案が衆議院で採決が強行されたが、明文改憲に拍車をかけるものだ。コロナを口実に改憲を進めるなど許せない。憲法改正と公職選挙法を同じにしてよいわけがない。5月10日に改憲問題対策法律家6団体連絡会が、5月19日に日弁連が反対声明を出した。改憲反対、採決反対で最後までがんばる」と決意を述べました。
 憲法9条を壊すな!実行委員会の山口菊子さんが行動提起を行いました。(憲法共同センターNEWSより)
---------------------------------------------------------------

「幣原先生から聴取した戦争放棄条項等の生まれた事情について③」は次号以降に掲載予定

    ―――――――――――――――――――――――――――――
(2021年06月01日入力)
[トップページ]