「九条の会・わかやま」 431発行(2021年08月08日付)

 431号が8月8日付で発行されました。1面は、本当の天皇はアメリカだ!「2021平和のための戦争展わかやま」講演(白井聡 氏 ①)、西村大臣の暴言は菅政権の特色そのもの 非科学的・無法・傲慢な人治政治 小林節・慶応大学名誉教授、九条噺、2面は、朝日新聞世論調査結果(7月20日)菅内閣の支持率の推移、2021年版「防衛白書」を閣議で了承、幣原先生から聴取した戦争放棄条項等の生まれた事情について⑥  です。
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本当の天皇はアメリカだ!
「2021平和のための戦争展わかやま」講演


「平和のための戦争展わかやま」で京都精華大学専任講師の白井聡氏が「どこまで続くアメリカいいなり~このまま隷属を続けるのか~」と題したオンライン講演をされました。その要旨を2回に分けご紹介します。今回は1回目。

白井聡 氏 ①



 白井氏の講演は「国体論」の視点から日本の対米従属を考えるという新鮮な内容でした。
 始めに「いま、私たちはどういう歴史的位置にいるのか?」と問われ、著書『国体論・菊と星条旗』(2018年)での議論として、「①なぜ『失われた30年』から日本は脱却できないのか? ②『戦前の国体』と『戦後の国体』の歴史反復説(戦前の国体が戦後にも続いている)」の2点を示されました。(「失われた30年」とは、1990年代初頭のバブル経済崩壊以降、日本の経済成長が停滞し、現在も続く30年間を指す言葉で、ほぼ「平成」30年間に合致し、天皇の役割「国民統合の象徴」も次々と壊れていった)。講演は②の考察がほとんどでしたが、①への回答にもなっており、「本当の天皇はアメリカだ!」に行きつきます。
 次に「国体」という言葉の意味を確認し、それは、幕末の水戸学に由来し明治政府の公式イデオロギーとなったが、一般的には「天皇制国家」の体制を指し、天皇制ファシズムの温床となった概念として戦後に廃絶された。主要な観念として「天壌無窮(天地とともに永遠に続く)」「八紘一宇(全世界を一軒の家のように解釈し、日本の大陸進出正当化に利用された)」などを含むが、核心は家族国家観「日本臣民は天皇陛下の赤子」であると押さえられました。
 次に本論に入り、敗戦によって「国体」はどうなったのか?については、ポツダム宣言受諾に当って「国体存続」が最後まで問題になったこと、戦後の吉田茂首相の国会答弁「国体は毫も変更せられない」は本当か疑問として、戦前戦後の歴史については、断絶説と連続説があることを紹介されてから、戦後の国体を解明されました。戦後の国体はひと言で言うと、「菊と星条旗の結合」(アメリカを中心とする国体)であり、世界に例を見ない卑屈な対米従属だと定義されました。
 次に「敗戦の否認を支えたアメリカの天皇化」という話になりました。アメリカの二面性、「暴力としてのアメリカ(核実験の写真で象徴)」と「文化としてのアメリカ(ディズニーランドの写真で象徴)」が示されました。強いアメリカが、敗戦日本の菊(天皇)を象徴として存続させ、旧国体の天皇の位置に取って代わった。つまり敗戦の否認を支えつつアメリカが天皇化したという意味と理解できます。(柏原)(つづく)

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西村大臣の暴言は菅政権の特色そのもの
非科学的・無法・傲慢な人治政治
小林節・慶応大学名誉教授




 西村コロナ担当相が、酒類提供を続ける飲食店に、銀行や酒の卸売業者を使って圧力をかける方針を表明して、舌禍事件になってしまった。
 これは、安倍・菅長期政権の悪しき特徴を端的に示す事例である。
1.まず、飲食店での酒の提供とコロナ蔓延の因果関係はいまだ科学的に証明されていない。通勤電車、スポーツ観戦、大学体育会の合宿所、観劇などと比較して、なぜ酒席だけが殊更に一律に、忌避されなければいけないのか? 人権制約の根拠になる「公共の福祉」のための必要性(憲法12条、13条等)が実は立証されていないのではないか?
2.飲食店による酒類提供は憲法22条(職業選択・遂行の自由)と29条(財産権の活用)で保障された人権の行使であるが、それを規制するには、①前述のように、「公共の福祉」に基づくことが立証された上で、かつ、②手続き的には法律上の根拠が必要である(憲法31条)。しかし、西村発言のやり方には法律上の根拠が存在しない。
3.にもかかわらず、政府機関(金融庁と国税庁)の管轄下にある業界を通して飲食店に圧力をかけようとは、安倍・菅政権の得意技である、忖度・恫喝政治そのものである。
 これは、緊急事態宣言下での五輪強行開催と同じで、まさに、知性も法も道徳もない政治権力の暴走である。これでは、法治国家ではなく、人治国家である。
 西村大臣が、当初、何の躊躇もなくこんなことを口に出せたのは、それが自公政権の普通の感覚だからであり、それはモリ・カケ・桜・東北新社に通底するものである。
 知性や科学者を尊重しない権力者が、思い付きか個人的利害で決めた方向性を、法律上の根拠などはお構いなしに「やる!」と宣言し、それを忖度官僚たちが執行し、抵抗する国民には恫喝して従わせる。
 こんな、江戸時代劇の「殿様と代官と御用商人」のような権力行使ができるのも、知性と倫理性に欠ける世襲貴族と側用人のような政治家集団に、長期にわたり独裁的な権限を委ねてきたからである。次の総選挙で政権交代を実現しなければ、この国にもはや未来はない。(日刊ゲンダイDIGITALより)

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【九条噺】

 最近の文書には何故これをひらがなで書くのかと思うことがある。例えば何故「立場のちがいをこえ」と書くのか。「違い」も「超え」も中学では習うだろう。ひらがなで書くと、頭の中で表意文字の漢字に置き換え、それから意味を理解しているように思える▼英語も多いと感じる。「パンデミック」「クラスター」「ロックダウン」などにはやっと慣れたが、「感染爆発」「感染者集団」「都市封鎖」といった日本語の方が誰にでも分かりやすいと思うが、何故一般の人にも専門用語を使うのか▼科学的場面でもないのに「エビデンス」も意味が分からない。「証拠」「論拠」の方がよほど分かりやすい▼五輪会場での酒類販売に関わる丸川五輪相の「ステークホルダー」(利害関係者)も国民を誤魔化すためだと思える。正直に「スポンサー企業」と言えばいい▼だが、これは文書や言葉が分りやすいかどうかという話だ。もっと分からないのは、菅首相の答弁だ。「感染爆発状態でも五輪を開催するのか」と問われ、「安全安心な大会が実現できるようにし、国民の命を守る」と言うだけで、「開催するのか、しないのか」「どのように命を守るのか」を全く答えない。この噛み合わない答弁を「やぎさん答弁」と言うらしい。「♪しろやぎさんからおてがみついた くろやぎさんたらよまずにたべた」と菅首相が質問を読まずに食べたと皮肉っている▼これは文書の分かりやすさの話ではない。国民に答える義務を放棄する菅首相の糾弾されるべき行為の話だ。(南)

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朝日新聞世論調査結果(7月20日)
菅内閣の支持率の推移




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2021年版「防衛白書」を閣議で了承



 政府は閣議で、2021年版「防衛白書」を了承しました。
 「中国は東シナ海、南シナ海で、一方的な現状変更の試みを続けている」と批判し、米中対立の深まりを踏まえ、米中関係に関する項目を新たに設け、台湾問題や香港問題、新疆ウイグルの人権問題など、政治、経済、軍事分野で「米中の相互牽制が一層表面化している」と分析しています。そして「日米同盟を確固たるものとするべく、抑止力・対処力の一層の強化に努める」と表明しました。中国の覇権主義的行動は容認できませんが、日米軍事同盟の強化で対抗することは、軍事対軍事の危険な悪循環をもたらします。
 尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返す中国公船は、「侵入の常態化により警戒感を低減させることを企図している」とし、中国公船の活動は「国際法違反」「力を背景とした一方的な現状変更の試みの執拗な継続は、わが国として全く容認できるものではない」と非難しています。2月に施行された海警法により関係国の正当な権益を損なうことがあってはならないとし、「東シナ海などで緊張を高めることになることは全く受け入れられない」と抗議しています。
 また、イージス・アショアの構成品を搭載するイージス・システム搭載艦2隻を整備することも明記しました。
 中国の台湾に対する軍事的圧力・威嚇の強化は厳しく批判されなければなりません。しかし、日米が台湾問題に軍事的に関与することも決して許されません。今、何より重要なのは、中国の覇権主義を国際法に基づき冷静に批判し、外交的に包囲することで、いたずらに軍事的緊張を煽り、軍事的対応の強化に突き進むことではありません。

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幣原先生から聴取した戦争放棄条項等の生まれた事情について⑥

 憲法9条は、マッカーサーから押し付けられたとの議論があります。そうではないことを裏付ける文書があります。当時の首相・幣原喜重郎から聞き取ったもので、聞き手は幣原の秘書官の平野三郎氏です。幣原の意見に全て賛同するものではありませんが、何回かのシリーズでご紹介します。今回は6回目。(前回は430号)(『みんなの知識 ちょっと便利帳』より)

(幣原喜重郎)

【答】(続き)当時の実情としてそういう形でなかったら実際に出来ることではなかった。
 そこで僕はマッカーサーに進言し、命令として出して貰うように決心したのだが、これは実に重大なことであって、一歩誤れば首相自らが国体と祖国の命運を売り渡す国賊行為の汚名を覚悟しなければならぬ。松本君にさえも打明けることの出来ないことである。したがって誰にも気づかれないようにマッカーサーに会わねばならぬ。幸い僕の風邪は肺炎ということで元帥からペニシリンというアメリカの新薬を貰いそれによって全快した。そのお礼ということで僕が元帥を訪問したのである。それは昭和二十一年の一月二十四日である。その日、僕は元帥と二人切りで長い時間話し込んだ。すべてはそこで決まった訳だ。
【問】元帥は簡単に承知されたのですか。
【答】マッカーサーは非常に困った立場にいたが、僕の案は元帥の立場を打開するものだから、渡りに舟というか、話はうまく行った訳だ。しかし第九条の永久的な規定ということには彼も驚いていたようであった。僕としても軍人である彼が直ぐには賛成しまいと思ったので、その意味のことを初めに言ったが、賢明な元帥は最後には非常に理解して感激した面持ちで僕に握手した程であった。
 元帥が躊躇した大きな理由は、アメリカの戦略に対する将来の考慮と、共産主義者に対する影響の二点であった。それについて僕は言った。
 日米親善は必ずしも軍事一体化ではない。日本がアメリカの尖兵となることが果たしてアメリカのためであろうか。原子爆弾はやがて他国にも波及するだろう。次の戦争は想像に絶する。世界は亡びるかも知れない。世界が亡びればアメリカも亡びる。問題は今やアメリカでもロシアでも日本でもない。問題は世界である。いかにして世界の運命を切り拓くかである。日本がアメリカと全く同じものになったら誰が世界の運命を切り拓くか。
 好むと好まざるにかかわらず、世界は一つの世界に向って進む外はない。来るべき戦争の終着駅は破滅的悲劇でしかないからである。その悲劇を救う唯一の手段は軍縮であるが、ほとんど不可能とも言うべき軍縮を可能にする突破口は自発的戦争放棄国の出現を期待する以外ないであろう。同時にそのような戦争放棄国の出現も亦ほとんど空想に近いが、幸か不幸か、日本は今その役割を果たし得る位置にある。歴史の偶然はたまたま日本に世界史的任務を受け持つ機会を与えたのである。貴下さえ賛成するなら、現段階に於ける日本の戦争放棄は、対外的にも対内的にも承認される可能性がある。歴史のこの偶然を今こそ利用する時である。そして日本をして自主的に行動させることが世界を救い、したがってアメリカをも救う唯一つの道ではないか。(つづく)
平野文書→https://www.benricho.org/kenpou/shidehara-9jyou-text.html

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