「九条の会・わかやま」 432発行(2021年08月20日付)

 432号が8月20日付で発行されました。1面は、第86回「ランチタイムデモ」実施、戦後の「国体」崩壊の兆しが見られる 「2021平和のための戦争展わかやま」講演(白井聡 氏 ②)、九条噺、2面は、NHK世論調査(8月10日)菅内閣支持率、書籍紹介『市民と野党の共闘で政権交代を』、幣原先生から聴取した戦争放棄条項等の生まれた事情について⑦  です。
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[本文から]

第86回「ランチタイムデモ」実施



 夏の日差しも雲に遮られ多少は凌ぎやすかった8月6日、この日は76年目の広島原爆の日でしたが、第86回ランチタイムデモ(呼びかけ:憲法9条を守る和歌山弁護士の会)が行われ、60人の市民が参加しました。新型コロナウイルス感染症の第5波襲来という状況の下、シュプレヒコールは行わないサイレントデモとして実施されました。
 金原徹雄弁護士の「広島への原爆投下から76年目の今日、平和への思いを胸に、京橋プロムナードまでご一緒に歩きましょう」との挨拶で出発しました。途中、コーラー役の金原弁護士が「私たちは、2014年6月、集団的自衛権行使を容認するという憲法違反の閣議決定を阻止しようと160人の市民が集まり、第1回目の『憲法の破壊を許さないランチタイムデモ』を実施しました。それから7年余り、毎月必ず実施し、今日が86回目となります」と通行の人たちに訴えました。
 参加者は和歌山市役所前から京橋プロムナードまで、「戦争反対」「9条を守れ」などと無言でアピールして行進しました。
 次回は9月14日(火)です。



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戦後の「国体」崩壊の兆しが見られる
「2021平和のための戦争展わかやま」講演


「平和のための戦争展わかやま」で京都精華大学専任講師の白井聡氏が「どこまで続くアメリカいいなり~このまま隷属を続けるのか~」と題したオンライン講演をされました。その要旨を2回に分けご紹介しています。今回は2回目で、最終回。

白井聡 氏 ②



 さらに「戦前戦後の国体の二重性」を指摘され、それぞれ「形成期・安定期・崩壊期」があることを解明されました。国体の二重性とは、「天皇は神聖にして侵すべからず」を掲げる明治憲法体制において、天皇に、神聖皇帝の側面(天皇主権/顕教)と立憲君主的な側面(天皇機関説/密教)とがあったことや、戦後の憲法体制でも憲法9条と日米安保体制の並立で、平和国家の側面(戦争放棄・非核三原則/顕教)とアメリカの同盟国の側面(世界最強軍隊に対する最大の貢献者/密教)があるという二重性を指し、表に現れた表面的・形式的な面を「顕教」、裏に隠れた実体的・本質的な面を「密教」と譬(たと)えられました。戦前(1868~1945年)の国体の歴史を、明治:国体形成期、大正:国体安定期、昭和:国体崩壊期、そして戦後(1945年~現在)の国体の歴史を、敗戦~1970年代前半:国体形成期、1970年代~90年前後:国体の相対的安定期、90年前後~現在:国体の崩壊期と区分されました。戦前と戦後の二度の崩壊期があることから、「国体は二度死ぬ」と表現され、現代はどんな時代なのか?と問われ、主要な2点を答えられました。
 ①平成天皇退位についての「おことば」(2016年)の意味は、「国民統合の象徴としての務め」の強調、「天皇は必要か?」の問いにより、近代天皇制批判と解明されました(天皇自身が「国体」を批判したことになります)。②「新型コロナ危機と統治の崩壊~国体の崩壊期」として安倍政権の統治崩壊(モリ・カケ・桜、河合夫妻事件、公文書隠蔽・改竄)と新型コロナ危機への責任を欠いたような政府の対策は、正に愚劣であり、①②を戦後国体の崩壊の兆しと見られています。
 講演は具体的で勉強になりました。国民が真の主権者になり、アメリカが国体の最上位から退いてこそ二度目の「国体が死ぬ」ことになるのでしょう。新型コロナ危機を克服し、国民主権を回復して、憲法9条を実現する政治が求められていると思いました。(柏原)(おわり)

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【九条噺】

 菅首相は8月6日の広島の平和記念式典で挨拶の一部を読み飛ばした。筆者はその場面をテレビで見ていた。菅首相の挨拶に同期して画面に文字が表示されていた▼それが突然停止し、筆者は「読み飛ばしたな」と気付いたが、内容までは分からない。文字表示が復活するまで数十秒かかった。NHKの放送関係者は焦っただろう。菅首相は、前後のつながりが不自然だったにも拘わらず、気付かなかった▼読み飛ばしたのは「わが国は、核兵器の非人道性をどの国よりもよく理解する唯一の戦争被爆国であり、『核兵器のない世界』の実現に向けた努力を着実に積み重ねていく」などの重要なくだりだ▼原爆死没者や被爆者には極めて失礼な話だ。要は、菅首相は原爆死没者や被爆者に心を致すどころか、心ここにあらずなのだ。もし心があるのなら、多くの死者に対するスピーチでは、自らの気持ちや心からのお悔やみの言葉が示されるはずだ▼糊がはみ出して紙同士がくっついていたとの言い訳は、その時まで一度も原稿に目を通していなかった証拠だ。被爆地に心を寄せているのなら、事前に一度や二度は原稿に目を通し、どのように語りかけるか考えるだろう。自分で意味を理解せずに読んでいただけだ▼安倍首相も広島と長崎がコピペ挨拶で大きく批判された。菅首相は国会答弁でも官僚の作文をただ読むだけで、言い間違いも多い。自分の言葉で語ることが出来ないのなら、せめて、きちんと読める訓練でもしたらどうだ。(南)

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NHK世論調査(8月10日)
菅内閣支持率




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書籍紹介『市民と野党の共闘で政権交代を』



「安保法制廃止、立憲主義回復」から始まった「市民と野党の共闘」で政権交代を求める声は、「政治の私物化」への怒りを集め、コロナ禍で人々の命と生活を軽視する現政権の退陣を求める現実的な力となっている。2021年総選挙とその後の新しい政権を展望する。
【著者】
五十嵐 仁  法政大学名誉教授
小林 節   慶應義塾大 学名誉教授
高田 健   戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会共同代表
竹信 三恵子 和光大学名誉教授
前川 喜平  現代教育行政研究会代表
孫崎 享   評論家・元外務省国際情報局長
西郷 南海子 安保関連法に反対するママの会発起人
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判型:A5判、96ページ 定価:1,000円+税
発行年月日:2021年8月20日
あけび書房 東京都足立区足立1-10-9-703
電話:03-5888-4142 FAX:03-5888-4448
メール :info@akebishobo.com

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幣原先生から聴取した戦争放棄条項等の生まれた事情について⑦

 憲法9条は、マッカーサーから押し付けられたとの議論があります。そうではないことを裏付ける文書があります。当時の首相・幣原喜重郎から聞き取ったもので、聞き手は幣原の秘書官の平野三郎氏です。幣原の意見に全て賛同するものではありませんが、何回かのシリーズでご紹介します。今回は最終回。(前回は431号)(『みんなの知識 ちょっと便利帳』より)

(幣原喜重郎)

【答】(続き)また日本の戦争放棄が共産主義者に有利な口実を与えるという危険は実際あり得る。しかしより大きな危険から遠ざかる方が大切であろう。世界はここ当分資本主義と共産主義の宿敵の対決を続けるだろうが、イデオロギーは絶対的に不動のものではない。それを不動のものと考えることが世界を混乱させるのである。未来を約束するものは、絶えず新しい思想に向って創造発展して行く道だけである。共産主義者は今のところはまだマルクスとレーニンの主義を絶対的真理であるかの如く考えているが、そのような論理や予言はやがて歴史の彼方に埋没して終るだろう。現にアメリカの資本主義が共産主義者の理論的攻撃にもかかわらずいささかの動揺も示さないのは、資本主義がそうした理論に先行して自らを創造発展せしめたからである。それと同様に共産主義のイデオロギーも何れ全く変貌して終うだろう。何れにせよ、ほんとうの敵はロシアでも共産主義でもない。このことはやがてロシア人も気づくだろう。彼らの敵もアメリカでもなく資本主義でもないのである。世界の共通の敵は戦争それ自体である。
【問】天皇陛下は憲法についてどう考えておられるのですか。
【答】僕は天皇陛下は実に偉い人だと今もしみじみと思っている。マッカーサーの草案を持って天皇の御意見を伺いに行った時、実は陛下に反対されたらどうしようかと内心不安でならなかった。僕は元帥と会うときは何時も二人切りだったが、陛下のときは吉田君にも立ち会って貰った。しかし心配は無用だった。陛下は言下に、徹底した改革案を作れ、その結果天皇がどうなってもかまわぬ、と言われた。この英断で閣議も納まった。終戦の御前会議のときも陛下の御裁断で日本は救われたと言えるが、憲法も陛下の一言が決したと言ってもよいだろう。若しあのとき天皇が権力に固執されたらどうなっていたか。恐らく今日天皇はなかったであろう。日本人の常識として天皇が戦争犯罪人になるというようなことは考えられないであろうが、実際はそんな甘いものではなかった。当初の戦犯リストには冒頭に天皇の名があったのである。
それを外してくれたのは元帥であった。だが元帥の草案に天皇が反対されたなら、情勢は一変していたに違いない。天皇は己れを捨てて国民を救おうとされたのであったが、それに依て天皇制をも救われたのである。天皇は誠に英明であった。正直に言って憲法は天皇と元帥の聡明と勇断によって出来たと言ってよい。たとえ象徴とは言え、天皇と元帥が一致しなかったら天皇制は存続しなかったろう。危機一髪であったと言えるが、結果に僕は満足し喜んでいる。
 なお念のためだが、君も知っている通り、去年金森君からきかれた時も僕が断ったように、このいきさつは僕の胸の中だけに留めておかねばならないことだから、その積りでいてくれ給え。       (おわり)
平野文書→https://www.benricho.org/kenpou/shidehara-9jyou-text.html

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(2021年08月20日入力)
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