「九条の会・わかやま」 436発行(2021年10月10日付)

 436号が10月10日付で発行されました。1面は、「表現の自由・精神の自由2021」①(志田陽子氏)、介護保険 補足給付の見直しは中止 凍結を 「九条の会・わかやま」事務局・田畑 安敏、九条噺、2面は、第88回「ランチタイムデモ」実施  です。
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「表現の自由・精神の自由2021」①

 4月28日和歌山県民文化会館で青年法律家協会和歌山支部の「憲法を考える夕べ」が開催される予定でしたが、コロナ禍の中、中止となりました。講師の武蔵野美術大学教授・志田陽子氏の講演内容がYouTubeに公開されましたので、その要旨を4回でご紹介します。今回は1回目。

志田陽子氏


 表現の自由だけでなく精神の自由に関心を広げて話す必要が出てきた。20年後半に学問の自由の大問題が起きた。表現の自由も学問の自由も人類の多年にわたる自由獲得の成果と言える。起きた問題の余波が一般市民の表現にも民主主義にも及んできた。これを委縮の波にするのではなく自由への気付きにするために憲法の一番基本的なところを学んでいきたい。
 条文に沿って精神的自由を整理すると、まず、19条思想良心の自由、20条信教の自由、21条表現の自由、23条学問の自由だ。学者は精神的な独立性を保っていなくてはならない。学問の自由とは政府から精神的独立性を保障されるという意味だ。そのことが市民に専門家としての知識を提供する役割につながるので民主主義に大いに関係のある権利ということになる。
 この2年ぐらいの憲法を巡る状況を整理してみたい。コロナに揺れ続けている憲法状況ということができるが、コロナの関心に覆い隠されてはならない憲法問題も多くある。「あいちトリエンナーレ」で社会的なバッシングが起きて、大きな社会問題になった。芸術家の活動の自由度や芸術祭の企画の自由度、懐の深さ広さが狭まってきている。特に「広島トリエンナーレ」が中止になり、芸術の自由という問題について社会の眼が向いたのが19年で、安保法国会から5年後の20年に日本の平和主義・民主主義・立憲主義のすべてにまたがる問題が、検証をする議論が抜けたまま放任状態になり始めているように見える。コロナ問題が重なり議論が抜け落ちているのではないかという問題がある。その延長で敵基地攻撃能力を獲得することがキチンとした議論もなく引き継がれている。必要な議論がコロナの関心の背後に追いやられたままになっている。それ以外にも議論不能状況が続いている。20年10月には日本学術会議任命拒否問題が発覚した。日本の民主主義の危機は財政にも及んでいる。国の予算は議会で決めるという財政民主主義をスルーして内輪で怪しい金の使い方をしている。さらに日本は2つの核について選択を迫られている。核兵器禁止条約が発効したが、日本はそれに参加していない。原発についても平和利用だからという訳にはいかない。事故もあり、維持にリスクもある。人が平和で安全に暮らす権利が損なわれている。リスクが大き過ぎて憲法上許容できないという議論もある。文化的行事・オリンピックについても、運営を巡る議論に疑問が出ている。トップがジェンダー平等の課題に無理解だったことも露呈した。「わきまえる」は精神の自由と衝突する関係にある言葉だ。精神の自由は自分の頭で考えるということだ。身分や立場をわきまえるというのはそういう議論をふさいでしまうことになる。
 このところ立て続けに重要な憲法に関わる判決が出ている。孔子廟違憲判決、同性婚否定判決などは精神の自由に関わる判決で、そして重要な裁判は憲法53条に基づき国会が召集されなければならないのに黙殺されているのは憲法違反だという裁判が続いている。東京、岡山でも内閣に国会召集の義務はあると言いながら、具体的な憲法判断はしない状態が続いており、53条が空文化、死文化することになる。5月3日の憲法記念日はコロナ禍で多くの行事が中止になり、市民が憲法についての意見を持ち寄る場が狭まっており、国の憲法上の宿題は山積みになっている。そうした中で宿題をすっぽかしたままで、憲法を変えようという議論が進んでしまっている。市民が憲法を議論出来ない状態で変えてしまおうとすることは大きな問題がある。
 これらに通底する問題として、プロセスの不透明性が共通している。これは民主主義的な公共性に反する決め方ではないか、内容自体に公共に反する事柄があると疑わざるを得ない。その払拭のためには議会での議論が必要だが、それが出来ない状態が続いているのが大きな問題だ。全体に共通する問題として「知」を語る資格、判定する資格を持つのは誰かは、民主主義社会では「民」が「知」の主体であり、選択の主体だ。自分にとってどんな社会であってほしいかを発信して、問題解決を求め、よりよい問題解決をしてくれる人を選ぶ、これが一般人に託された判断だ。重要な判断は国政担当者の人選、選挙の結果は、いろんな人が「知」の主体として様々に異なる考えやニーズを持ち寄った結果、最後に何かの結論が出てくるもので、最初から上からその結果を固定することがあってはいけないはずだ。
 「表現の自由」を代表とする「精神的自由」の基礎には「知」の主体は一般人みんなで、それを持ち寄って集約していくのが民主主義という考え方が理解されているのか疑問に思えることがこの2年間に多く起きている。専門家や市民社会がそうした「知」に到達するのは、最初から正しい答えがある訳でなく、試行錯誤をして何らかの正しい答えに近づいていくものだ。だから間違いがあるとか、不快に思う人もいるからと、試行錯誤のプロセスをふさいでしまうと、我々は進歩できなくなる。「知の循環」つまり批判したりする中で迎えた答えに次のステップへの回転がある。この循環が機能不全になっていないだろうかという問題、議論ができない状態が起きていないか。特に日本では議論が起きるということを何かまずいものと思う風潮があり、表現の委縮と思われる場面が多々ある。多様な意見があることを認めることから始まらなければならない。こうした問題を理解するためにも基本を確認したい。(つづく)

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介護保険、補足給付の見直しは中止・凍結を
「九条の会・わかやま」事務局・田畑 安敏


 補足給付(介護施設・ショートステイ利用者で、所得の低い方が負担する食費・居住費を軽減する制度)の見直しが8月1日実施され、該当する利用者の負担が増加することになりました。その内容は、①収入要件、②預貯金等資産要件の見直しです。収入要件では、これまで第三段階は年金収入等80万円超だったのを、年金収入等120万円までの区切りを新たに設け、第三段階①は年金収入等80万円を超え120万円以下、②は年金収入等120万円超としました。資産要件の見直しでは、第二段階は単身650万円以下、第三段階①では単身550万円以下、第三段階②では単身500万円以下としました(夫婦の場合+1千万円はこれまでと同じ)。
(下図を参照)



 私が勤務する「特養わかば」では、入居者28名中、第三段階の方が12名おられ、今回の見直しで、うち2名は第三段階①(負担は現行と同じ)、9名が第三段階②、1名が補足給付対象外となり、計10名が月2万円を超える負担増となります。
 「ショートステイわかば」では、利用者35名中、第二段階の方が6名、第三段階の方が10名、今回の見直しで、第二段階の方6名は人数は変わらず、第三段階10名の方は、第三段階①が2名、第三段階②が8名となり、これらの方は月数千円から、ロングでの利用は約2万円の負担増になります。
 このように特に第三段階②の方には、補足給付の意味がなくなるに等しい負担増です。あまりの負担増に行政に異議申し立てを行った方もいます。理不尽な負担増にあきらめていてはダメだと教えられます。見直しの中止・凍結を求めつつ、負担が困難な場合は、まず利用している介護事業所に相談しましょう。

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【九条噺】

 去る9月27日の自民党総裁選挙で岸田文雄氏が新総裁に決まった。4人が立候補し決選投票にもつれ込み、混戦の報道ぶりはマスコミジャックと評されるまでに加熱した。インターネットでは安倍元首相が推す特定候補を主題にしたコンテンツが次々に投稿され、広告費がかなり動いたと想像される▼10月1日には自民党の役員人事が発表された。幹事長に甘利明氏、副総裁に麻生太郎氏などの顔ぶれを見ると、安倍政治からの変化に疑問符が付く。そして4日の臨時国会で首相指名選挙が行われ、岸田氏が菅首相後任の新首相に選出された。閣僚も指名され岸田自公政権が発足した▼新政権の前途は予言できないが、平和と暮らしを守る立場から注文をしておきたい▼参考として岸田氏の政策が「岸田文雄総裁選特設サイト」に要約されている。自民党改革の部分は省略して、「国民との3つの約束」「3つの政策」を見てみよう▼「3つの約束」は「①国民の声を丁寧に聞く、②個性と多様性を尊重する、③助け合う社会を目指す」だが、③の内容が「家族・仲間・地域の絆」止まりで公助を避けている点は従来の菅政権の延長だ▼「3つの政策」は「コロナ対策」「新しい日本型資本主義(新自由主義からの転換)」「外交・安全保障政策」だ。新自由主義からの転換」は世論と同じ方向に見えるが中身が問題だ。貧富格差解消の本気度を見たい。コロナでは強い人流規制や新機構作り、外交安保では軍事強化重視を警戒したい。(柏)

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第88回「ランチタイムデモ」実施



 和歌山市六十谷(むそた)水管橋の崩落事故から4日が経過した秋晴れの10月7日、第88回「憲法の破壊を許さないランチタイムデモ」(呼びかけ:憲法9条を守る和歌山弁護士の会)が開催され、50人の市民が参加しました。
 この日のコーラー役の小野原聡史弁護士、先頭で横断幕を持った山﨑和友弁護士を始め、まさに今回の被災地域にぴったり該当する地域の「守ろう9条紀の川市民の会」の多くの会員も参加しました。
 出発前に小野原弁護士から断水お見舞いと、それでも元気に歩きましょうという呼びかけとともに出発しました。
 参加者は和歌山市役所から京橋プロムナードまで、小野原弁護士のコールに合わせて、「憲法9条をまもれ」「戦争反対」などを訴えて行進しました。
 なお、今後の予定は、第89回が11月9日(火)、第90回が12月7日(火)です。



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(2021年10月09日入力)
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