「九条の会・わかやま」 442発行(2022年01月01日付)

 442号が1月1日付で発行されました。1面は、本当に怖いこと 「九条の会・わかやま」呼びかけ人・副島昭一、年賀状、現行法の緊急事態対処措置制度は(金子 勝 氏 ①)、九条噺、2面は、「自衛隊」明記案の嘘と危険性 「海外派兵合法化」の意図を隠している 小林節・慶応大学名誉教授、「太平洋戦争が始まった日」の街宣活動実施  です。
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[本文から]

本当に怖いこと
「九条の会・わかやま」呼びかけ人・副島昭一


 マスク生活をするようになってもう2年近くになります。路上で会うほとんどの人々がマスクで顔を隠している姿は、2年以上前でしたら異常であり恐怖感さえ感じたでしょう。知人でも素顔を久しく見ていない、ましてこの間に初めて知り合った人は素顔を知らないままいつも話しています。でも今はすっかりこんな光景に慣れてしまいました。
 「敵基地攻撃」という言葉にいつの間にか慣らされようとしています。しかしこれはマスクの慣れとは異なりとても怖いことです。
 空母に乗船し真珠湾攻撃に参加した経験を持つ吉岡政光さんは、東京新聞記者のインタビューに答えて「人を殺せって言われた命令はひとつもないです。軍艦をやるか軍施設をやるか2つしかない……戦艦か航空母艦を沈めろって命令ですね。人を殺す命令を受けたこともない」と証言しています。
 「敵基地攻撃」命令では「敵基地の人間を殺せ」とは決して言わないでしょう。今「敵基地」として想定されているのは北朝鮮あるいは中国のミサイル基地でしょう。しかし基地にはミサイルだけ置いてあるのではなく、周辺も含めて必ず人がいます。「敵基地攻撃」命令は「敵の人間も殺せ」を必然的に含んでいます。
 数多くの基地(最近は列車に積んだ移動発射台も準備されています)を一挙に破壊するのは不可能です、当然相手方の残存した基地からの反撃は必至で、最初に攻撃した側にも死者が出ます。相手方の攻撃目標は不特定多数になるでしょう。相互に殺し合う──これはすでに戦争です。「敵基地攻撃」とは殺し合いを始めるということです。そして命令を出す人は安全な場所にいるでしょう。「敵基地攻撃」とはそういうことだということを多くの人々に気づいて欲しいと思います。
 「敵基地攻撃」の準備をすることは常に相手側の軍備に勝る軍備が必要になり、際限のない軍備拡張に踏み込んでいくでしょう。「防衛費」は軍事費であり、「防衛装備品」は武器・兵器に他なりません。このための「防衛費」=軍事費のGDP1%枠を取り払えば、後は際限のない軍事費拡大に踏み込んでいき、国民生活の圧迫、窮乏化を招きます。これは80数年前に日本がたどった道を再び歩んでいくことになります。多くの人々が気づかないまま、すでにその道に踏み込み始めているといえるでしょう。かつて気づいた人が声を上げても多くの人々に届かず、やがては声を上げること自体ができなくなりました。今もメディアはその声を伝えなくなり、政府の宣伝媒体の役割をますます強めています。
 殺し合いを避けるには、9条に基づく平和外交を進めて話し合いによって解決する道しかないと思います。今年はより多くの人々が、今進み始めている道の危険性に気づいてこのコースを変えさせる年になって欲しいと願っています。

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現行法の緊急事態対処措置制度は

 自民党改憲4項目の「緊急事態条項」創設に関する金子勝氏(立正大学名誉教授)の論考(『憲法運動』506号)から、その要旨を2回に分けてご紹介します。
金子 勝 氏 ①



 今日、緊急事態に対処する目的で制定されている法律には、次のようなものがある。
 「災害対策基本法」では、内閣総理大臣が「災害緊急事態の布告」を発することができる。「非常災害が発生し、かつ、当該災害が国の経済及び公共の福祉に重大な影響を及ぼすべき異常かつ激甚なものである場合において、当該災害に係る災害応急対策を推進し、国の経済の秩序を維持し、その他当該災害に係る重要な課題に対応するため特別の必要があると認めるときは、内閣総理大臣は、閣議にかけて、関係地域の全部又は一部について災害緊急事態の布告を発することができる」(第105条1項)。
 「大規模地震対策特別措置法」では、内閣総理大臣が「警戒宣言」を発することが認められている。「内閣総理大臣は、気象庁長官から地震予知情報の報告を受けた場合において、地震防災応急対策を実施する緊急の必要があると認めるときは、閣議にかけて、地震災害に関する警戒宣言を発する」(第9条1項)。
 「原子力災害対策特別措置法」では、内閣総理大臣が「原子力緊急事態宣言」を発することが認められている。「内閣総理大臣は、前項の規定による報告及び原子力規制委員会による原子力緊急事態発生の報告と公示及び緊急事態応急対策に関する事項の指示の案の提出があったときは、直ちに、原子力緊急事態が発生した旨及び緊急事態応急対策を実施すべき区域、原子力緊急事態の概要、緊急事態応急対策を実施すべき区域内の住者、滞在者その他の者及び公私の団体に対し周知させるべき事項の公示(「原子力緊急事態宣言」と言う)をするものとする」(第15条2項)。
 「新型インフルエンザ等対策特別措置法」では、新型インフルエンザ等(新型コロナ含む)政府対策本部長=内閣総理大臣が「新型インフルエンザ等(新型コロナ)緊急事態宣言」を発することが認められている。「政府対策本部長は、新型インフルエンザ等が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態が発生したと認めるときは、新型インフルエンザ等緊急事態が発生した旨及び緊急事態措置を実施すべき期間、緊急事態措置を実施すべき区域、緊急事態概要の公示をし、その旨及び当該事項を国会に報告するものとする」(第32条1項)。
 2011年3月の「東日本大震災」で被害を受けた岩手県・宮城県・福島県の42市町村に実施した「緊急事態条項についてのアンケート」に回答を寄せた37市町村で「憲法に緊急事態条項が必要だと感じた」と答えたのは1町にとどまり、被災自治体の多くは現行の法律や制度で対応できると考えている。
 法律の中に「緊急事態」の条項が取り入れられる場合、法律は憲法を超越できない(憲法98条1項)ので、その「緊急事態」は、日本国憲法に違反しない対処措置しか取ることができない緊急事態となる。憲法を超越する対処措置を認める憲法上の緊急事態と、それを認めない法律上の緊急事態を同一視するのは危険である。(つづく)

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【九条噺】

 寅年の年頭に虎を含む成句の話題を紹介しよう。「魏志倭人伝」に「其の地に牛馬虎豹羊鵲(かささぎ)無し」と記すように古来日本に虎はいなかった。よって虎の成句は中国起源が多い▼「虎の威を借る狐(狐仮虎威)」「虎穴に入らずんば虎子を得ず(虎穴虎子)」などだ。多数あるが、その中から「苛政猛虎」「虎視眈々」「談虎色変」「大賢虎変」を取り上げる▼「苛政(かせい)は虎より猛し」は、悪政は人を食べる虎より人々を苦しめる意味で、今の日本にもずばり当てはまる。一部の富裕層を除く貧困の深刻化、政権の自己保身や予算出し渋りに起因するコロナ対応遅れで、命と暮らしが削られている。一方で防衛費はGDP2%まで容認するとして軍拡が進められる▼21年総選挙の結果、改憲勢力が3分の2を超えた。維新は「首相公選、一院制」等で自民改憲案とは差を見せつつ、来る参院選と同時の国民投票をめざし憲法審査会と国会での論議促進を唱え、「とにかく改憲」の流れを狙う。種々の改憲勢力全体で世論をにらみながら「虎視眈々」と機を窺っている▼狙いは自衛隊を普通の軍隊として海外に出せる「自衛隊合憲化」、すなわち9条明文改憲に違いない。しかし、国民の多数は第2次世界大戦の惨禍を直接間接に知っており、9条改憲を望んではいない。まさに、虎の怖さを体験した人は虎の話題が出ただけで顔色が変る「談虎色変」だ▼虎の毛が美しく変わるように賢者が自己変革する「大賢虎変」が日本政治にも必要だ。(柏)

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「自衛隊」明記案の嘘と危険性
「海外派兵合法化」の意図を隠している
小林節・慶応大学名誉教授




 この改憲案の提唱者・安倍元首相は、これは、自衛隊違憲論の根を断つだけで「9条の意味は何も変わらない」と語っていた。しかし、それは事実ではない。  まず、前提問題として現行9条の意味を確認しないと、それが変わるのか「変わらない」のか? 判断しようがないのでそれを行う。
 9条1項は「国際紛争を解決する手段としての戦争」を放棄している。つまり、パリ不戦条約(1929年)以来の国際法の用語としての「侵略戦争」のみを放棄している。だから、日本は国家の自然権としての自衛権は放棄していない。
 しかし2項で、日本は、国際法上の自衛「戦争」を行う条件としての「戦力」(軍隊)の保持と「交戦権」の行使を自らに禁じているので、当然に海外派兵を伴う自衛「戦争」はできないことになっている。
 とはいえ、現実に他国軍が攻め込んできた場合には、憲法65条(行政権)の一環である第2「警察」である自衛隊が対処する。自衛隊は警察である以上、国内とその周辺にしか管轄権がなく、9条2項の制約もあり、当然、「海外派兵」はできない。これが「専守防衛」の意味でそれは「必要・最小限の自衛」と説明されてきた。
 今回の自民党の提案は、9条の2として「必要な自衛のための実力組織として、自衛隊を保持する」と明記している。
 現9条2項と新9条の2が矛盾した場合には、「新法が旧法を改廃する」の原則どおりに新法が優先する。だからこの提案は、現行憲法下で政府が一貫して「必要・『最小限』の自衛」だと説明してきたものを、「何も変わらない」と言いながら、「必要」な自衛に拡大するものである。つまり、これまでは「必要でも『最小限』を超えるからできない」としてきた海外派兵を、「必要だからできる」と合憲化する改憲案である。
 これを「これまでと何も変わらない」と言うことは、明白な嘘である。国の存立にかかわる問題について公然と嘘をつく政治家など信用できない。まずは、「専守防衛」の政策としての是非から堂々と論じ合うことから始めるべきである。(日刊ゲンダイDIGITALより)

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「太平洋戦争が始まった日」の街宣活動実施



 みなべ「九条の会」は、80年前に真珠湾攻撃で太平洋戦争が始まった12月8日、地元紙へのチラシ折り込みと街宣活動を実施しました。
 「12月8日は80年前、日本軍がハワイ真珠湾を攻撃し、太平洋戦争へ突入した日です。この戦争によって、日本国民やアジアの多くの人々に地獄の苦しみと犠牲を与えました。みなべ町でも814人もの戦死者を出しています。日本は、『二度と戦争はしない。戦力は持たない』と世界に誓いました。その誓いが憲法9条です。その後日本は、70年以上、海外に侵略したこともなければ、他国民を殺傷していません。しかし、自民党政権は集団的自衛権行使を容認し、憲法9条を変えようとしています。みんなの力で戦争はしないと決めた憲法9条を守りぬきましょう」と訴えました。



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(2021年12月30日入力)
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