「九条の会・わかやま」 444発行(2022年01月27日付)

 444号が1月27日付で発行されました。1面は、私たちの町の未来は私たちの参加で決めたい 和歌山県民医連・事務局長・藤沢 衛、自衛目的の武力行使の放棄が本当の「戦争の放棄」(金子 勝 氏 ③)、九条噺、2面は、総がかり実行委「19日行動」、言葉 スタンド・オフ・ミサイル  です。
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[本文から]

私たちの町の未来は私たちの参加で決めたい
和歌山県民医連・事務局長・藤沢 衛


 1月7日、「カジノ誘致の是非を問う和歌山市民の会」は、和歌山市長にカジノ誘致の是非を問う住民投票条例制定の直接請求を行いました。11月から1カ月で集めた署名は、多くの市民の共感を得て必要数6162筆の3倍以上の2万39筆に達しました。市長は20日以内に市議会を招集、条例案を提出し住民投票実施の賛否が採決されます。和歌山は今まで住民投票を実施したことはありません。住民投票条例案を直接請求したのも初めてです。「是非を問う会」は昨年3月、和歌山マリーナシティへのカジノ誘致の是非を問う住民投票運動に取り組むことを目的に設立しました。
 それは、行政がIR・カジノ誘致の情報公開を十分に行っていないこと、前回の市長・市会議員選挙ではカジノに触れる候補者は殆どなく、多くの住民がカジノへの思いを示せていないこと、住民の参画が不十分であることなどから住民投票で是非を問うしかないと考えたからです。和歌山の地域経済や中小企業、観光、子どもたちの教育への影響など様々な住民の不安の声が聞こえる中、設置されたら40年間契約を取り消せない一大事を、議会と行政だけで決められていいのでしょうか。
 住民投票の条例制定直接請求は、憲法に基づく地方自治法第74条による住民の権利です。市政の重要事項について、投票によって住民の意思を把握し、その総意を議会や長の意思決定に反映させる仕組みです。IR・カジノ誘致に賛成の人も反対の人も、住民が自分たちの意思表示をする手立てであり、住民の意思を法的に形にできるのが住民投票です。和歌山市の未来を決める重要施策に、地方自治の主権者である市民の意思は当然反映させるべきです。
 署名集めは、準備を含めて大変苦労しましたが、やりがいのある楽しい取り組みとなりました。署名を集める人は和歌山市の有権者で、署名をする人も同じ条件です。原則として代筆はできず、一人ひとり対面で記載してもらいます。この署名を集める「受任者」は1475名にも及び、力を合わせて2万39筆を集約したのです。署名期間は1カ月と短期間でしたが、受任者のみなさんの努力と、マスコミ報道やチラシ全戸配布などが影響し、事務局に「受任者になりたい」「署名はどこでやっているのか」など連日問い合わせが続きました。
 1月17日、市長の住民投票条例の制定についての意見が発表されました。IRに同意するのかどうかは市議会の議決であり、投票結果に法的拘束力がないなどを理由に住民投票を実施する意義は見い出し難いと、条例案に反対意見を表明しました。この市長の意見は地方自治の本旨とは何かについて考えることをせず、住民の条例制定権を認めないという態度であり住民の理解は得られないと考えます。
 この間、和歌山県による公聴会や住民説明会、パブリックコメントが延期され、住民への説明・意見集約がなされていない状況においては、住民投票の実施はますます重要になっています。2万筆は有権者の15人に1人です。住民投票実現を願う市民の思いを何としても実現したいと考えています。

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自衛目的の武力行使の放棄が本当の「戦争の放棄」

 自民党改憲4項目の「自衛隊明記」に関する立正大学名誉教授・金子勝氏の論考(『憲法運動』505号)から、その要旨を「緊急事態条項」に引き続き、2回に分けてご紹介します。

金子 勝 氏 ③



 自民党4項目改憲案は、「前条(9条1項・2項)の規定は、……必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する」(9条の2の1項)としているから、「自衛隊明記」とは『後法は前法を廃する』の法原理を利用して、9条1項「戦争の放棄」と2項「戦力の不保持・交戦権の否認」を転覆するための仕掛けである。
 4項目改憲案の言う「自衛の措置」の内容は、安倍内閣が14年7月に「閣議決定」した「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」で述べられている次の行為を行うことである。
 「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限の実力を行使することは、従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として、憲法上許容されると考えるべきであると判断するに至った」「我が国による『武力の行使』が国際法を遵守して行われることは当然であるが、国際法上の根拠と憲法解釈は区別して理解する必要がある。憲法上許容される上記の『武力の行使』は、国際法上は、集団的自衛権が根拠となる場合がある。この『武力の行使』には、他国に対する武力攻撃が発生した場合を契機とするものが含まれるが、憲法上は、あくまでも我が国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち、我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置として初めて許容されるものである」。
 従って、日本に武力攻撃が加えられた場合に、「個別的自衛権」を行使して「武力の行使」を行うことが、また、他国に対する武力攻撃が発生し、日本と国民の存立に危険が生じたとする場合に、「集団的自衛権」を行使して「武力の行使」を行うことが、「自衛の措置をとる」ということになる。
 「個別的自衛権」の国際法的定義は、「外国からの違法な侵害に対し、自国を防衛するため、緊急の必要がある場合、それを反撃するために武力を行使しうる権利であって、それが緊急やむをえないものであり、侵害の程度と均衡を失しないものである場合には、違法性を阻却され、国際法上合法的なものとされている」という権利である。
 「集団的自衛権」の国際法的定義は、「自国が直接攻撃を受けなくても、連帯関係にある他の国が攻撃を受けた場合、それを自国に対する攻撃とみなして反撃する権利」である。自国が武力攻撃を受けていなくても、自国が武力攻撃を受けたとみなして、他国を武力攻撃するのは侵略であるから、「集団的自衛権」の本質は、侵略する権利である。
 「自衛の措置をとる」の内容を既成事実化するために、安倍内閣は、15年9月、「平和安全法制整備法」と「国際平和支援法」という自衛戦争と侵略戦争と制裁戦争ができる侵略戦争法を強行採決で制定した。
 日本国憲法の9条1項と2項を歪めて解釈しなければ、その原理は、次のようになる。
 戦争という国家間・民族間等の紛争解決のための相互戦闘行為は、「対話」で解決できない紛争を、武力を用いて解決しようと始められる闘争であるから、1項の「国際紛争を解決する手段として」の戦争には、侵害を排撃するための自衛戦争も、侵害を実行するための侵略戦争も、侵害を懲らしめるための制裁戦争も含まれる。また、「国際紛争を解決する手段としての」武力による威嚇及び武力の行使には、自衛目的での武力による威嚇及び武力の行使も、侵略目的での武力による威嚇及び武力の行使も、制裁目的での武力による威嚇及び武力の行使も含まれる。それ故、1項のもとでは、いかなる形態の戦争も、いかなる形態の武力による威嚇及び武力の行使も、国権の発動行為として、永久に放棄されている。つまり、「非戦永久主義」が貫かれている。
 自衛戦争と自衛目的での武力による威嚇及び武力の行使を放棄することが、本当の「戦争の放棄」である。人類の英知は、このことに到達した。(つづく)

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【九条噺】
 過日、立命館大学・多田一路教授の講演を聴いた。自民党は憲法9条を変えると言うが、変える理由が前と今とで違っていいのかと指摘された▼岸田首相は、改憲4項目は必要な改正だ」と言う。自民党には12年策定の「改憲草案」があって、9条改憲を主張していた。「改憲草案Q&A」では「主権国家の自然権としての『自衛権』には、国連憲章が認めている個別的自衛権や集団的自衛権が含まれている」「9条2項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではなく、自衛権の行使には何らの制約もないように規定した」と言う。つまり、改憲目的は集団的自衛権を行使出来るようにすることだった▼安倍政権は、安保法制(戦争法)制定の過程で集団的自衛権の行使可能を強行した。つまり、9条改憲理由は達成したということだ。これで終りのはずなのに、何故「改憲4項目」が出てくるのか▼「自衛隊の活動は多くの国民の支持を得ている」と言うが、災害の時に助けてくれるからに過ぎない。自衛隊を憲法に位置づけ、自衛隊違憲論を解消する自民党の真の狙いは、自衛隊をアメリカと一緒に戦争をする部隊にしたいからだ▼自衛隊を明記した瞬間に自衛隊は憲法のコントロールが出来ない憲法に許された部隊になる。憲法に自衛隊はこういう組織と書かないと権限範囲も分からなくなり、「自衛隊は憲法違反だ」というのは最早や説得力を持たなくなる▼9条1項・2項を残しても、9条はなくなるに等しいことになる。(南)

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総がかり実行委「19日行動」



 総がかり行動実行委員会は1月19日夜、「改憲発議反対!辺野古新基地建設中止!敵基地攻撃能力保有反対!防衛予算拡大するな!いのちと暮らしと営業を守れ!1・19国会議員会館前行動」を行い、寒い中600人が参加しました。岸田首相は敵基地攻撃能力保有の検討や改憲議論を進めると表明しました。たたかいは正念場です。
 憲法共同センター・小田川義和共同代表が主催者あいさつを行い、「米軍基地が原因でコロナ感染が広がった。日米地位協定のもとで原因を野放しにした岸田首相の責任は重大だ。敵基地攻撃能力の保有は、9条改憲を進めるものだ。これを阻止するには市民運動の力以外にない。署名を軸に学習・宣伝を強めよう」と訴えました。
 市民連合の長尾詩子弁護士は、「生活を心配しないですむ社会、コロナにかかっても治療ができる社会、明日に希望が持てる社会にするため、政治を変えなければならない」と訴えました。
 女性による女性のための相談会の吉祥眞佐緒さんは、女性の人権がおろそかにされている実態を報告し、藤沢九条の会の島田啓子さんは、成人式会場前で宣伝活動などを報告しました。
 戦争をさせない1000人委員会の北村智之さんが行動提起を行いました。(憲法共同センターNEWS406号より)

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言葉 スタンド・オフ・ミサイル


(図は読売新聞より)

 岸田首相は、「国家安全保障戦略」や「防衛計画の大綱」の22年末の改定に向け、憲法違反の「敵基地攻撃能力」の保有について検討すると表明しています。
 22年度予算案の軍事費に「スタンド・オフ防衛能力の強化」を盛り込んでいます。「スタンド・オフ防衛能力」とは敵軍の射程圏外の位置から攻撃ができる能力のことを言います。
 その中心の「スタンド・オフ・ミサイル」とは、敵の対空ミサイルの射程圏外から攻撃できる射程の長い(約1000㎞)ミサイルです。そして、それを相手に発見され難い海上自衛隊の潜水艦に搭載することを検討しています。
 ミサイルは海中から発射し、敵のミサイル発射基地などを破壊することを狙っています。これは「敵基地攻撃能力」に簡単に転用できます。「防衛能力」と言っても「敵基地攻撃能力」を前もって保有するものと言わなければなりません。

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(2022年1月26日入力)
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