「九条の会・わかやま」 451発行(2022年05月10日付)

 451号が5月10日付で発行されました。1面は、敵基地攻撃は海外派兵で 専守防衛に反するもの(清水雅彦氏 ②)、「5・3憲法記念日宣伝行動inわかやま」実施、九条噺、2面は、姑息にも「敵基地攻撃能力」の名称を「反撃能力」に 相手国司令部も攻撃対象 自民党提言案、朝日新聞世論調査(5月3日)  です。
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敵基地攻撃は海外派兵で、専守防衛に反するもの

 4月9日、「守ろう9条 紀の川 市民の会」の「第18回総会」が開催され、日本体育大学教授(憲法学)・清水雅彦氏が「岸田政権が狙う改憲をめぐる情勢と私たちの課題」と題して講演をされました。その要旨を4回に分けてご紹介します。今回は2回目。

清水雅彦氏 ②



 憲法9条1項の解釈は(A)侵略戦争を放棄したもので自衛戦争まで放棄していないという説、(B)自衛戦争も放棄したという説がある。2項は(甲)自衛のための戦力は持てるという説、(乙)自衛のための戦力も持てないという説がある。学会の多数説は(A+乙)で武力なき自衛権論だ。改憲を考える憲法研究者は(A+甲)説だ。学会少数説として(B)説に立つものがある。私は(B+乙)説に立っている。
 第1次世界大戦の結果、国際連盟は侵略戦争を制限し、1928年の不戦条約で侵略戦争を放棄する。それ以降、法的に戦争は出来ないが、自衛権行使は認めているので、事実上の自衛戦争はやってもいいというのが国際社会の考え方だ。しかし、日本のように自衛の名の下に侵略戦争をする国が出てきたので、45年の国連憲章は自衛戦争も制限する。9条1項は政府も学会多数派も不戦条約と同じと解釈するから事実上の自衛戦争まで否定していないと考えるが、私は事実上の自衛戦争も放棄したと考えるので、憲法9条は戦争違法化の最先端と位置づけることが出来る。国連憲章は「慎まなければならない」と表現するので、正義の戦争は残っているという発想がある。憲法9条は侵略戦争を反省し、「永久に放棄する」とあり、国連憲章とは違うと考えるべきだ。国連憲章と日本国憲法が出来る間に起ったのは広島、長崎への原爆投下だ。人類はこの2つの経験から、自衛戦争でも核を使用すると敵・味方に関係なく人類は死滅する。自衛の戦争でも厳しく規制していくべきだ。その意味で安倍・菅・岸田政権が目指しているのは、欧米のように憲法で軍隊を持ち、戦争をすることを認める普通の国になろうとしているが、日本国憲法は戦争違法化の最先端をいくので、レベルダウンして普通の国になることはない。世界には26の軍隊のない国が存在するから、憲法通り軍隊のない国家を目指すのかが問われている。
 自衛隊は違憲だから当然敵基地攻撃も違憲となる。政府の9条2項解釈は、自衛のための必要最小限度を超えれば戦力だが、超えなければ戦力でないから憲法上持てるというものだ。素直に9条を解釈すると憲法と自衛隊は矛盾する。憲法で戦力は持てないが、実力は持てると考えるのが政府解釈だ。警察以上・軍隊未満の組織なら持てるという考え方になる。安倍政権は集団的自衛権行使容認に踏み切ったが、安倍政権でも自衛隊は実力に過ぎず、軍隊ではないと考える。平和を求める世論をバックに野党が国会で政府を追及することにより、9条に基づく制約を作ってきた。自衛隊の海外派兵禁止、専守防衛、武器輸出3原則、非核3原則、集団的自衛権行使否認、防衛費GNP1%枠などだ。自衛隊が誕生する時に自衛権行使の3要件を作った。我国に対する急迫不正の侵害は誰が見ても客観的事実で一定の歯止めになってきた。これが形骸化してきた。実態では世界の防衛費ランキングで日本は8~9位だ。実力とは言えない存在になっている。9条による制約も形骸化が進んだ。GNP1%は中曽根政権の時に撤廃したが、実際には1%ぐらいに収まっていた。自民党はこれをGDP2%にしようとしている。2%になると日本は世界第3位の軍事大国になり、従来の実力という解釈はとても無理になる。14年に安倍政権が武力行使新3要件を作った。これは限定的に集団的自衛権を行使するためのものだ。やはり従来の考え方と集団的自衛権行使とは質が違う。54年の自衛権行使の3要件も専守防衛も日本に対する攻撃が発生した後に自衛権を行使するもので、誰が見ても明らかな客観的要件だから、一定の歯止めがかかる。しかし、武力行使の新3要件は結局どの国が我国と密接な関係にある国なのか、どういう事態が存立危機事態なのかは、主観的要素が入り込んでいる。敵基地攻撃もミサイルへの燃料注入、ミサイルの屹立も国民が直接確認することは出来ない。国家安全保障会議で判断し、判断の情報は秘密保護法で国民にも国会にも出さずに決めていく可能性がある。昔から戦争は秘密から始まると言われてきたように、国家安全保障会議、秘密保護法、武力行使新3要件がセットになると国民がよく分からないところで、日本が集団的自衛権行使をするということになってしまう。従来一定の歯止めをかけていたものが、大きく崩されてしまうという問題がある。
 さらに、国連憲章は加盟国に自衛権行使を認めている。但し、加盟国に武力攻撃が発生した場合で、安保理が安全の維持に必要な措置を取るまでの間で、自衛権行使は相手の攻撃に見合った形でなければならない。ここから、先制攻撃や報復戦争はやれないという考え方が出てくる。敵基地攻撃論は2000年代以降は先制攻撃論になっている。敵基地攻撃を批判する人の中に敵基地攻撃=先制攻撃という批判をする人がいるが、先制攻撃でない敵基地攻撃もあった。50年代の議論は先制攻撃ではない。先制攻撃ではない敵基地攻撃にしても、例えば、相手の基地に対する攻撃以外に相手領域内での攻撃を可能にすべきという議論をしたり、安倍元首相のように中枢に対して攻撃すべきという議論をしているが、これは暫定性の要件に反するから、先制攻撃論でない敵基地攻撃も中身によって国連憲章違反が問われることになる。例えば北朝鮮のミサイル発射機は約200機あると言われるので、全部の把握は無理だ。中国は核保有国だから、中国に対抗するには日本は核を持たねばならないという議論になり、本当に日本も核を持つのかという議論になる。敵基地攻撃をやろうとしてもかなり防衛費を増やさなければ無理だ。それより外交などで解決すべきだ。この間の予算で実際には敵基地攻撃可能な装備を着々と整えてきているという問題がある。自衛隊は実力という解釈をすることで憲法違反ではないとしてきたが、こういう観点からすると敵基地攻撃は海外派兵だし、専守防衛にも反するので、許されないはずだ。(つづく)

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「5・3憲法記念日宣伝行動inわかやま」実施



 日本国憲法施行75年・憲法記念日の5月3日、JR和歌山駅前で、「憲法9条を守る和歌山弁護士の会」「戦争をさせない和歌山委員会」「憲法九条を守るわかやま県民の会」の3団体が呼びかける「5・3憲法記念日宣伝行動inわかやま」が行われました。
 プラカードや横断幕などによるスタンディングアピール、うたごえ9条の会メンバーによるバンド演奏でのウクライナの平和を願う歌の披露、呼びかけ団体メンバー5人によるリレートークがありました。
 金原徹雄さんは、「『私はこれまで9条は守らなければいけないと思ってきましたが、ウクライナで戦争が始まり、本当にこのままで良いのだろうかと心配で心配で夜も寝られない』という声があるのに対して、過日の講演会で半田滋さんが『戦争するための意思と能力がない限り、戦争は絶対に起りません。日本を取り巻く中国、北朝鮮、ロシアには日本を侵攻する理由がありませんから、安心しておやすみください』と答えられた」と話されました。
 琴浦龍彦さんは、「憲法を変えようという動きがかつてないほど大きくなっている中での憲法記念日。憲法9条に関わる敵基地攻撃能力などの議論は、憲法違反が明らかなのに、平気で言い始めている。ウクライナ侵攻に乗じて、自分たちの長年の思いを達成したいということなのではないか。社会保障も平和も、憲法の掲げる理想と、現実の政治の違いがひどくなっており、これを理想に近づけていかねばならない」と話されました。

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【九条噺】

 75年目の憲法記念日を五月晴れで迎えたが、コロナ禍、物価上昇、ロシアのウクライナ侵略などで気持ちがすっきりしない。折から弁護士と平和団体が呼びかけた「5・3憲法記念日宣伝行動」に参加した▼参加者70人ほどがプラカードを掲げて駅前を通る人に訴え、各団体代表が「ロシアのウクライナ侵略は国連憲章違反」「敵基地攻撃能力と軍事費のGDP2%超え目標は、平和に逆行し生活を圧迫する」「自衛隊加憲は戦争できる国への道、改憲発議を許すな」と訴えた▼運動を進める上で核心に触れる発言もあった。先日の講演会で「9条を守れと言うだけで良いのか?」と問われた半田滋氏は「戦争は意志と能力を持つ国が始める。日本に対して戦争を始めようとする国が現にあるだろうか」と答えられたが、日本政府が9条に基づく平和構築を進めることこそ攻撃を防ぐと説得することが大切という趣旨だ▼ロシア、中国などの強引な現状変更・拡張の動きを日本国民は心配し、侵略されたら押し返すにはウクライナのように武器使用が必要だと思う人が出ているらしい。憲法記念日の世論調査でも9条改憲賛成が少し増えている。自民・維新は不安に便乗して「9条無力論」を振りまき、国民にも一定の影響が出ているようだ▼国会の憲法審査会を動かし、「憲法改正実現本部」の草の根運動も推進、参院選後の選挙がない3年間で改憲を目論んでいる▼参院選で改憲ストップ、9条の価値を訴え、さわやかな青空を。(柏)

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姑息にも「敵基地攻撃能力」の名称を「反撃能力」に
相手国司令部も攻撃対象 自民党提言案


 自民党安全保障調査会は4月21日の全体会合で、「敵基地攻撃能力」の名称を「反撃能力」に変更し、対象に司令部など「指揮統制機能等」を追加した上で、政府に保有を求める提言案を了承しました。防衛費は、GDP比2%以上を念頭に、5年以内に増額するとしています。これに対して、野党や識者からは、武力によって抑止力を高める内容に「かえって戦争への危険性を高める」などと批判が出ています。自民党は月内に岸田首相に提言案を提出。政府が年内に予定している外交・防衛の長期指針「国家安全保障戦略」など政府3文書の改定への反映を目指す方針です。
 政府は専守防衛のもと、相手領域への攻撃能力は米国に委ねてきました。提言案では、攻撃能力を日本が持つ理由に関し、中国と北朝鮮、ロシアの軍事動向で安全保障環境が「加速度的に厳しさを増している」と指摘。敵基地攻撃能力を「反撃能力」と言い換えたことについて、同調査会幹部は「先制攻撃のニュアンスに取られないように気を使った」と説明しています。
 防衛費は、NATO加盟国がGDP比2%以上を目標としているのを念頭に置いた上で「5年以内に防衛力の抜本的な強化を目指す」としています。
 他国への武器供与に関する「防衛装備移転3原則」見直しも主張し、「侵略を受けている国に幅広い分野の装備移転を可能とする制度を検討」と、対象の拡大に踏み込んでいます。「専守防衛の考え方」に立つとしつつ、「必要最小限度の自衛力」は「時々の国際情勢や科学技術等の諸条件を考慮し決せられる」と幅を持たせました。

名称変更しても憲法・国際法違反の先制攻撃

 「反撃能力に変更を求めたのは、国際法に反する先制攻撃と明確に区別する必要があると判断したため」と、マスコミも報じています。学識者でつくる平和構想研究会は「先制攻撃に限りなく近づく危険な政策。地域の軍事的緊張を高め、日本が攻撃される可能性をむしろ高めるものだ」と緊急声明で抗議しました。
(憲法しんぶん速報版4月25日号)

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朝日新聞世論調査(5月3日)
◎憲法9条を変えることは
  変えない方がよい   : 59%
  変える方がよい    : 33%
◎非核3原則は
  維持すべきだ     : 77%
  見直すべきだ     : 19%
◎「専守防衛」の方針は
  今後も維持するべきだ : 68%
  見直すべきだ     : 28%

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(2022年5月9日入力)
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