「九条の会・わかやま」 454号 発行(2022年06月20日付)

 454号が6月20日付で発行されました。1面は、岸田政権下の9条の危機はウクライナで始まったものではない(渡辺 治 氏 ①)、第96回「ランチタイムデモ」実施、九条噺、2面は、無料バスでめぐる「春の交流ハイキング」 「和歌山障害者・患者九条の会」が実施、言葉「拡大抑止」  です。
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岸田政権下の9条の危機はウクライナで始まったものではない

 5月21日「We Love 憲法~5月の風に~」が開催され、一橋大学名誉教授・渡辺治氏が「岸田政権下の改憲問題の新局面と市民」と題して講演をされました。要旨を4回に分けてご紹介します。今回は1回目。

渡辺 治 氏 ①



 日本ではロシアのウクライナ侵略に便乗して改憲勢力が改憲と9条破壊の策動を活発化している。ウクライナは力を持っていないからやられた。日本も防衛力を強化し、日米軍事同盟を強化するために9条を改め、自衛隊の合憲化と防衛力強化という改憲と敵基地攻撃能力保有の大合唱が行われることになった。その頂点が4月26日の自民党のGDP2%枠の提言だ。GDP2%は11兆円、世界3位の軍事費になる。防衛力増強の意見は世論調査で50%を超えている。岸田政権で改憲と9条の危機が何故こんなに強まっているのか。これはウクライナで始まったものではない。安倍・菅政権の政治を継承・加速化するもので、ウクライナは絶好の口実をもたらした。岸田政権の改憲と9条破壊の策動は何を狙っているのか。これは岸田首相が始めたものではない。安倍政権と後の菅政権が実現しようとしたが、安倍・菅政権の9年間で出来ないことがあった。これを最終的に実現しようと登場したのが岸田政権だ。12年末に登場した第2次安倍政権は以前の自民党政権では出来なかった戦争をする国づくりを目指す政権だと言える。
 自民党政権は憲法9条のもとで自衛隊をつくり、増強を図ってきた。憲法で「戦力を持たない」と規定しているのに、日本は世界有数の軍隊である自衛隊を持ってきた。憲法9条は理想を書いているが、実現しないではないかという市民の声もある。
 憲法9条は書かれているから実現するという訳ではない。実現しようとする運動とタイアップした時、憲法は大きな力を発揮する。憲法9条の下で自衛隊は作られてしまったが、自衛隊を9条の下で存続させるために、9条に基づく様々な制約を課さざるを得なかった。54年に自衛隊を作った時に政府は、自衛隊は憲法9条に違反する軍隊ではなく、9条は戦争を放棄し戦力を持たないと言ったからといって、日本が攻められて国民が命を失うような時に黙って死ねと命じている訳ではない。侵略者に素手では対抗できないので、最低限度の実力は必要だと説明した。自衛隊は軍隊ではなく、警察に毛が生えた程度の必要最小限度の実力だと説明し、逃れようとした。実際の自衛隊は侵略された時に撃退する最小限度の実力といったものではなく、当時から米軍の極東戦略を補完するれっきとした軍隊だという声に押されて政府は様々な制約をかけて、9条が禁止する軍隊ではないことを国民に示すことが求められた。一番大きな制約は日本が侵略されていないのにアメリカの戦争に加担して朝鮮半島や中国に出かけていくことはしない、集団的自衛権は行使しない。自衛隊は侵略されたら撃退する実力だが、軍隊ではないので海外派兵はしない。こういう主張を繰り返さざるをえなかった。これは非常に大きな影響を与えた。韓国、フィリピン、タイなどがベトナムに軍隊を送った時も日本は送れなかった。イラクの時も派兵ではなく派遣だと言った。米・英軍と違い、自衛隊は現地の住民に発砲することはなかった。9条が重大な制約を課したと言える。9条を守るという国民によって普通の軍隊にはなれなかった。この制約を打破しようとしたのが安倍政権だ。自民党自身が守ってきた集団的自衛権は行使しない、自衛隊の海外派兵はしない、後方支援でも戦場には兵を送らないという政府解釈を変更した。自衛隊は制約によって災害復旧などに活躍し、国民の理解を得る活動を維持してきた。これをひっくり返すものだ。これを法律にしたのが15年の安保法制だ。日本の存立を脅かす事態の時には侵略されていなくても、アメリカに加担してもよいということで集団的自衛権を認めるというものだ。しかし、9条の下で集団的自衛権は行使出来ないということを政府は何十年も言い続けてきたことを安倍が変えたから、市民は大きな反撃をした。市民と野党の共闘が出来、全国25の地域で戦争法は危険だという裁判が起こった。常に9条に違反するという声が大きく安保法制を十分に実行することが出来ないということで、安倍は、9条自身を変えてしまえばいろいろ言われることはないと改憲に乗り出した。17年5月3日、改憲提案を行い、自民党は4項目改憲案にまとめた。しかし、安倍の勢いはここまでで、安保法制を強行採決しようとした時に、民主党、社民党、共産党が初めて手を組んで市民と野党の共闘を作り、国会内で大きな反対運動を盛り上げた。通ってしまった法律を廃止するためには衆参で安保法制に反対する勢力が過半数を握らないと出来ない。安保法制反対の共闘は市民連合を作り、市民連合のイニシアティブで16年の参院選で初めて32の1人区で野党統一候補が擁立され、11の選挙区で勝利をした。安倍の安保法制、改憲問題に対して市民と野党の共闘が大きな反対運動を行い、これが9条改憲反対の全国市民アクションを作り、3000万署名を提起し、この運動の中で立憲野党は憲法審査会を開かせず、改憲勢力は衆参で3分の2以上の議席を持っているのに、審査会で議論が出来なくなり、結局安倍は任期中に改憲するという公約を果たせないまま退陣を余儀なくされた。替わって登場した菅は安倍と違い改憲には熱心ではないと右翼は考え、菅には思想がないと非難したが、そんな心配はなかった。(つづく)

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第96回「ランチタイムデモ」実施



 和歌山も梅雨入りをした6月17日、96回目の「憲法の破壊を許さないランチタイムデモ」(呼びかけ:憲法9条を守る和歌山弁護士の会)が、50人の市民が参加して実施されました。
 今回のコーラー役は重藤雅之弁護士でした。出発前に「熱中症に気を付けつつ、今日も憲法を守るためにコールしよう」というスピーチがありました。今回はサイレントではなく、通常のコール有のデモで、和歌山市役所から京橋プロムナートまでを行進しました。途中珍しく沿道から反応する人がいると思ったら、「9条は廃止しろ。武器は必要だ。この馬鹿ども」という罵声でしたが、プーチンのウクライナ侵略が日本の運動にも否定的な影響を与えていることを実感しました。
 次回は7月12日(火)です。



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【九条噺】

 「堪え難きを堪え、忍び難きを忍び」という終戦の詔書、徹底抗戦を唱える軍人向けだったとの見立てがあることを知ったのは、私にとって驚きだった。その書籍は、加藤陽子(著)『この国のかたちを見つめ直す』だ▼同書で、著者は憲法9条について、「国内的存在意義を忘れるべきでない」として、「9条の存在によって、戦後日本の国家と社会は、戦前のような軍部という組織を抱え込まずに来た」と述べられている▼「戦前の軍部が力を持てたのは、国の安全と国民の生命を守ることを大義名分とした組織だったから」で、この大義名分の名のもとに、国家が国民を存亡の機に陥れる事態にまで立ち至った、情報の統制、金融・資源データの秘匿、国民の監視などを行った、「このような組織の出現を許さない、との痛切な反省の上に、現在の9条がある」と▼この箇所を読み、思い出したのは、「九条の会・わかやま」呼びかけ人の故・月山桂弁護士の講演だった▼月山先生は、ご自身の体験をふまえ、戦争や軍隊がいかに非人間的であるかを説き、憲法9条の意義、「戦争のない社会、軍隊のない社会」実現を訴えられていた▼いま遺族会役員の方が「戦争準備の話ばかりするのには我慢がならない」と語っている。ロシアによるウクライナ侵略に乗じて、軍備増強など勇ましいことが声高に語られる状況を見てのことと思うが、今こそ、「戦争準備」でなく、「平和の準備」「外交努力」の大切さの声を広げたい。(田)

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無料バスでめぐる「春の交流ハイキング」
「和歌山障害者・患者九条の会」が実施


(福田茂子さん)

 「和歌山障害者・患者九条の会」は5月22日、18名が参加して、田辺市方面へのバス旅行を行いました。
 昨年から今年にかけて、コロナの影響により、企画した行事が相次いで中止を余儀なくされる中での今回の取り組みということもあって、参加者からは一様に楽しい雰囲気が伝わってきました。
 現地では、「田辺9条の会」共同代表の田所顕平先生にお世話いただき、貴重なお話を伺いました。田辺海兵団の設立から、引揚援護局として使用された状況、そして先生が出版された『満洲開拓団棄民の私』の主人公である福田茂子さんの生涯について、とても判りやすくお話いただきました。福田さんは子供の頃に家族とともに満洲に渡り、敗戦後の逃避行の中で、中国人に預けられ、数十年後に永住帰国されています。「日本は私の祖国、中国は私の命の恩人」とおっしゃっているそうです。
 ロシアとウクライナの戦争が続いています。戦争を起こすのは国家の勝手な判断です。しかし、そこにかり出される兵隊や、巻き込まれて人生を翻弄される国民がいます。どんな戦争であれ、それは間違いありません。我が国の防衛力強化がもっと必要との声が国民の間にも高まっているようですが、今を生きる私たちは、自分のこととしてもう一度しっかりと考える必要がありそうです。
 扇ヶ浜公園でみんなで弁当を囲みました。コロナ禍であまり会話はできませんが、とても平和なひとときです。その後、「海鮮せんべい南紀」でたくさんの買い物をして、帰路につきました。楽しい思い出と貴重な学びの、充実した一日となりました。(事務局長の野尻誠さんより)

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言葉「拡大抑止」

 ここで言う「抑止」とは「自国が攻撃される危機の場合、いざとなれば、核兵器を使用する」ということです。「拡大」が付くと、「自国(米国)が攻撃されていないのに、同盟国(日本)が攻撃される危機の場合、いざとなれば、自国(米国)の核兵器を使用をする」という、いわゆる「核の傘」の論理です。それは、「核兵器のない世界を目指す」という岸田首相の表明にも矛盾するものです。
 相手国が核攻撃してきたいざという時には、核の報復で応えるということは、核兵器の使用を前提とし、広島・長崎のような非人道的な惨禍が再び起こることも辞さないということにほかなりません。しかも、ウクライナ侵略をめぐり、自国民に犠牲が出ても核の使用をためらわない姿勢をあらわにするプーチン大統領の登場によって、「核抑止」論はますます無力になっています。
 なお、安倍元首相らが主張する「核共有」とは、米国の核兵器を日本領土内に配備し共同運用をしようというものですが、米国も認めていないし、核不拡散条約にも違反するものです。
 核兵器禁止条約は、6月に初の締約国会議が開かれます。核の危機が深まる今だからこそ、岸田政権は「拡大抑止」ではなく、核廃絶を導くルールづくりに参画するべきです。

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(2022年6月19日入力)
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