「九条の会・わかやま」 455号 発行(2022年06月30日付)

 455号が6月30日付で発行されました。1面は、アメリカの戦略は中国を包囲する軍事対決路線に変わった(渡辺 治 氏 ②)、現行憲法に対する各党の主張(NHKニュースWeb 2022年7月)、九条噺、2面は、総がかり行動「19日行動」に800人 参議院選で改憲派を3分の2割れに  です。
    ――――――――――――――――――――――――――――――
[本文から]
アメリカの戦略は中国を包囲する軍事対決路線に変わった

 5月21日「We Love 憲法~5月の風に~」が開催され、一橋大学名誉教授・渡辺治氏が「岸田政権下の改憲問題の新局面と市民」と題して講演をされました。要旨を4回に分けてご紹介しています。今回は2回目。

渡辺 治 氏 ②



 冷戦終了でソ連・東欧は崩壊し、中国は市場経済に突入、世界60億人の市場が作られた。アメリカの戦略は自由な市場を破壊する者を潰すことで、イラン、アフガン、シリア、北朝鮮などに対して、自由市場の警察官としての戦略をとったが、戦争を続けている間に大きな変化が起こった。中国は十数年で驚異的に発展し、アメリカに対抗する軍事大国として登場した。それにアメリカの市場の成果をよしとしないロシア、イランなどが中国と同盟関係を結びアメリカと対抗するようになった。アメリカの戦略はアメリカの多国籍企業が世界で大儲けするためのものだったが、中国は有り余ったお金を途上国に投資、援助、借款を行った。中国はその代わり、途上国が台湾を否認する、香港には口を出さないという取引をし、中国を中心とした政治的な覇権グルーブを作った。中国は金を返せなくなったら、途上国の鉱山や港湾を手に入れ配下に収めようとしている。アメリカはイラク、シリア、アフガンなどで戦争をしている暇はない。自由な世界に中国を中心とした覇権同盟を作られてしまうと、アメリカの世界戦略は大きく転換し、トランプ政権は、中国を包囲する軍事対決路線に変わっていった。そうなると日米軍事同盟の役割りは決定的に異なってくる。15年の戦争法の時に安倍政権が念頭に置いていたのはアフガンやシリアで自衛隊が加担するという話だったが、米中の軍事対決で中国を包囲し軍事的優位を獲得する政策になると、アメリカの戦争は中国に対する戦争ということになり、集団的自衛権の意味が全く変わり、危険なものになってきた。トランプ政権での転換がバイデン政権で更に加速した。アメリカ全体が中国と対決して中国を制覇しようという形になった。バイデンは欧州や日本と一緒にやらないと中国に勝てないと、軍事同盟を強化する。それで日本への圧力が非常に強くなった。対中国軍事対決に日本の位置は決定的な最前線になる。中国と戦争したら日本の基地がなければ軍事対決は出来ないので、日本をがっちり押さえる必要がある。菅政権への圧力は非常に強くなり、日米軍事同盟を対中軍事同盟の要として強化するという形に圧力が変わった。その現れが21年4月16日の日米首脳会談の共同声明だ。バイデンが対面で初めて会談したのは菅首相だ。それは日本を日米軍事同盟により対中軍事戦力の要に据えない限り米中軍事対決で勝利出来ないと考えたからだ。共同声明は日米軍事同盟を画期的に強化するというものだったが、当時のマスコミは中身を報じなかった。この日米共同声明の要は台湾条項だ。「日米両国は台湾海峡の平和と安定の重要性を強調する」という一文を入れたかった。台湾海峡の平和は日本の問題でもあることを認めたので、台湾海峡で紛争が起こり、米軍が台湾海峡に侵攻したら日本は台湾海峡の安定は日本の安全にも重要だと約束したから、集団的自衛権を発動し、日本も加担する約束を意味している。菅政権はこの約束を果たすために改憲、9条の破壊に乗り出さざるを得なくなった。何をやったかと言えば集団的自衛権を行使する時の攻撃力、防衛力、軍事力を強化することで、敵基地攻撃能力保有ということだ。
 元々敵基地攻撃能力保有論は60年以上前に国会で問題にされていた。その頃は北朝鮮の脅威とかいう時代ではなく、中国は革命が起こってすぐの時代だから中国の脅威ということもなかった。そういう時代に何故問題になったのかというと、国会で憲法は侵略されたら撃退するが、9条の下で、攻撃をされる前に相手を攻撃出来ないのかという質問に対して、政府は「座して自滅を待つ訳ではない」と答えた。他に手段がない時は敵基地を先制的に攻撃出来ると言った。それを認めたら今のロシアと同じだ。ウクライナは侵略するかもしれないから先制的に攻撃するというのがプーチンだ。どの国でも今から侵略戦争をしますという国はない。相手が来るから防衛するとしか絶対に言わない。戦前の日本軍でさえ、国民の命を守るためと言って中国を侵略した。日本は、他に手段がない時は敵基地を攻撃してもよいが、そのために弾道ミサイルや核兵器は持てないと60年を過ごしてきた。日本が攻撃的な兵器を持ったら9条を持たない国と同じになってしまうと言ってきた。安倍がそれを変えようとした。20年6月、北朝鮮がこれだけミサイルを飛ばしている時に、日本に落ちてから反撃するのは遅い。敵基地攻撃能力を持つ方がよいと言い、解釈を変えようとした。ところが1カ月足らずで安倍は退陣を余儀なくされた。それを受け継いだのは菅で、バイデンとの約束なので、日本は集団的自衛権を台湾問題で行使しようとする。そのために防衛力を増強する。防衛力の要は中国に対する攻撃的なミサイルを日本に配備することだ。日本がそれを持つ理屈は敵から攻撃されてしまったら間に合わないから、その前に敵基地攻撃能力を持つ必要があるというものだ。この時に菅政権が考えた敵は中国に変わった。中国は日本の米軍基地に向けたミサイルを1900発持っていると言われる。アメリカはそれを上回るミサイル網を建設しなければならないが、その最大のネックは日本だ。日本は9条の下でそんなものは持てない。何とかしろというのが日米共同声明の約束に基づき菅がにわかに敵基地攻撃能力を持つ必要があると言い出したポイントだ。ところが菅はこれをやろうとしたが、結局できなかった。(つづく)

    -------------------------------------------------------------------------

現行憲法に対する各党の主張
(NHKニュースWeb 2022年7月)

【自民党】
◇みんなで憲法について議論し、必要な改正を行うことによって、国民自身の手で新しい“国のかたち”を創る。
◇改正の条文イメージとして、自衛隊の明記などの4項目を提示しており、国民の幅広い理解を得るため、改正の必要性を丁寧に説明していく。
◇衆参両院の憲法審査会で提案・発議を行い、国民が主体的に意思表示する国民投票を実施し、改正を早期に実現する。
【立憲民主党】
◇現行憲法の基本理念と立憲主義に基づき「論憲」を進める。
◆憲法9条に自衛隊を明記する自民党の案は、交戦権の否認などを定めた9条2項の法的拘束力が失われるので反対する。
◆内閣による衆議院解散の制約、臨時国会召集の期限明記、各議院の国政調査権の強化、政府の情報公開義務、地方自治の充実について議論を深める。
【公明党】
◇憲法施行時には想定されなかった新しい理念や、憲法改正でしか解決できない課題が明らかになれば、必要な規定を付け加えることは検討されるべき。
◇憲法9条は今後とも堅持する。自衛隊の憲法への明記は引き続き検討を進めていく憲法9条は今後とも堅持する。自衛隊の憲法への明記は引き続き検討を進めていく。
◇緊急事態の国会の機能維持のため、議員任期の延長についてはさらに論議を積み重ねる。
【日本維新の会】
◇16年に公表した憲法改正原案「教育の無償化」「統治機構改革」「憲法裁判所の設置」の3項目に加えて、平和主義・戦争放棄を堅持しつつ、自衛のための実力組織として自衛隊を憲法に位置づける「憲法9条」の改正。
◇他国による武力攻撃や大災害、テロ・内乱、感染症まん延などの緊急事態に対応するための「緊急事態条項」の制定に取り組む。
【日本共産党】
◆日本国憲法の前文を含む全条項をまもり、とくに平和的民主的諸条項の完全実施を目指す。
◆憲法9条改憲に反対をつらぬく。自衛隊については、憲法9条との矛盾を、9条の完全実施(自衛隊の解消)に向かって段階的に解決していく。
◆「自衛隊=違憲」論の立場を貫くが、党が参加する民主的政権の対応としては、自衛隊と共存する時期は、「自衛隊=合憲」の立場をとる。
【国民民主党】
◇緊急時における行政府の権限を統制するための緊急事態条項を創設し、いかなる場合であっても立法府の機能を維持できるよう、選挙ができなくなった場合に、議員任期の特例延長を認める規定を創設する。
◇憲法9条については、自衛権の範囲や戦力の不保持などを規定した9条2項との関係などの論点から具体的な議論を進める。
【社会民主党】
◆徹底した平和主義を貫くなど「世界でも先進的」と言われており、改悪には反対。
◆いま憲法を変える必要はなく、社会にさまざまな行き詰まりが目立つのは、憲法が原因ではなく、憲法の理念を活用しようとしない政府の責任だ。
◆憲法理念を暮らしや政治に活かして、国民の生活を再建することに全力をあげる。
【れいわ新選組】
◆いま、憲法を変える必要はない。自民党の改憲4項目はいずれも憲法改正を必要とするものではない。
◆憲法は、最高法規であり、権力者を縛る鎖であり、現行憲法の条文のうち25条など、まだ完全に実現できていると言えないものの実現をまずは行う。
◆緊急事態条項を加える憲法改正は有事に政府への権限集中を認めるという危険があり、行うべきではない。
(注)◇は会紙編集部が問題があると思える主張

    -------------------------------------------------------------------------

【九条噺】

 梅雨入りしてアジサイの季節。今年はロシアによるウクライナ侵攻、岸田首相初の参議院選挙など多事だ。平和の回復と、選挙で改憲ストップを願うことは切実だが、ひとまず花の話題から記したい▼アジサイ(紫陽花)の花言葉は「移り気」「高慢」だが、大輪の花が色を変えて行くところから、岸田首相がハト派イメージから、ウクライナ事態に便乗して敵基地攻撃能力保有と防衛費増大、9条改憲推進を唱えるタカ派へと急速に変貌した様子は、まさに花言葉「移り気」に重なる。紫陽花の楽しみを奪う芳しくない連想の一つだ▼楽しみと言えば、紫陽花の名所は各地にあり道路脇や民家の紫陽花も美しい。「目の保養」に打ってつけだ。散歩がてらカメラを携え、全景写真・一輪を強調・上下からなど工夫して撮るのも楽しい。一眼レフやスマホで写している人をよく見かける。小学生がスケッチする姿もあった▼紫陽花の美しさは、ガクアジサイも手毬咲きも大輪で、青、紫、赤、白など色々あること、一輪や一枚の中も色の変化に富んでいることだろう。写真撮影もその魅力を再現しようと工夫する▼広く好まれているから、学校の掲示板や新聞の紙面写真にも季節の花として取り上げられる。古来和歌や俳句の題材とされ、花びらに見える部分が4枚ずつなので「四葩(よひら)」の異名も詠み込まれてきた。歌謡曲のタイトルにも多いようだ▼岸田首相らの改憲策動を阻止し、参院選に勝利し美しい紫陽花を咲かせたい。(柏)

    -------------------------------------------------------------------------

総がかり行動「19日行動」に800人
参議院選で改憲派を3分の2割れに




 総がかり行動実行委員会は6月19日、「参院選勝利!ロシアのウクライナ侵略反対!即時撤退!改憲発議反対!軍拡やめろ!辺野古新基地建設中止!くらしといのちを守れ!6・19国会議員会館前行動」を行い、800人が参加しました。社民党の福島みずほ参院議員、日本共産党の宮本徹衆院議員、立憲民主党の大河原雅子衆院議員が挨拶。韓国の日本大使館前で9条はアジアの宝と行動している韓日和解と平和プラットフォームの共同代表のハン・チュンモクさんのメッセージが読み上げられました。
 総がかり行動実行委員会共同代表の小田川義和さんが主催者挨拶。17日に出された福島原発事故で国に損害賠償を求めた集団訴訟で、最高裁が国の責任を認めない判決を言い渡したことについて「最終責任を負う者がいない。無責任な原発推進にNOを突きつける運動を強めよう」と強調。「参議院選挙では、戦争する国づくり、軍事拡大を言う改憲派に3分の2の議席を許してはいけない。軍事費2倍化、敵基地攻撃能力保有のためには、医療費負担の倍加か、消費税を12%にするか、国債を増やすかだ。改憲派の議席を一つでも減らすため、毎日が投票日という構えで奮闘しあおう」と呼びかけました。
 ジャーナリストの志葉玲さんは、4月にウクライナに行った時の悲惨な状況を報告。「ロシアの戦争犯罪は許されない。プーチンはそれをなかったことにしようとしている。岸田首相ら改憲派は、この戦争を利用して火事場泥棒的に改憲や軍事費倍加をねらっている。国連憲章と9条のすばらしさをこれまで以上に市民に訴えて、日本から声をあげていこう」と呼びかけました。
 市民連合の福山真劫さんは、「今回の野党共闘での1人区の候補者一本化は不十分ではあるが、一本化できた12の選挙区でがんばろう。改憲派を3分の2割れにさせるため、4複数区や比例では、立憲野党の勝利をめざし、それぞれの立場で、地域でがんばりあおう」と訴えました。
 安保法制違憲訴訟の会の内田雅敏弁護士は、福岡地裁で出された小泉首相の靖国神社参拝違憲判決について話し、「立憲主義、良心に従って判決を出させる運動をしていくことが重要。安保法制が違憲、立憲主義に違反すると訴え続けていく」と強調しました。
(「憲法共同センターニュース」6月20日号より)

    ―――――――――――――――――――――――――――――
(2022年6月29日入力)
[トップページ]